『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』(Buena Vista Social Club:Adios)
監督 ルーシー・ウォーカー

 たまたま僕は、本作にも登場する、2000年から2001年にかけてブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブが行ったワールドツァーでの来日公演を地元で観る機会を得ていたけれども、ヴェンダース監督による前作ドキュメンタリーのほうは観逃している。そんなこともあって、音響重視のSound=Cinemaによる上映会に赴いたわけだが、十八年前に399席の会場はチケット発売開始後わずか一時間で完売となったのに、今日は100席程の会場に空席も目立つ淋しい入りで、時の流れを感じないでいられない。あのやけに熱の入ったBVScブームは、何だったのだろう。

 公開後まもない頃に僕が観に行ったときは例によって空席のほうが目立っていたボヘミアン・ラプソディが、今とんでもないことになっているようなのだが、十三年余り前に観たオペラ座の怪人['04]のときのことを思わずにいられない。音楽や歌を巡っては、時にこういうことがよく起こるようだ。その核を担っているのは、常に女性だという気がするが、クィーンやBVSc、ジェラルド・バトラーの当時の大人気を支えていたのも女性たちだったように思う。

 ピアノのルベーン・ゴンザレスと同じく高知来演の3年後に亡くなったらしい、バンドリーダーとも言うべきコンパイ・セグンドが、御年95歳で亡くなる二週間前にもステージに出演していたことに驚いたが、それ以上に圧巻だったのが、二人の死の2年後に78歳で逝去したイブライム・フェレールが、死の四日前に、二曲歌うごとに酸素吸入をしていたというステージでの歌唱だった。そして、イブラヒム追悼公演でのオマーラ・ポルトゥオンドの歌にも心打たれた。まさに魂の歌声というものを感じた。BVScは、本作の撮られた2016年にアメリカとキューバの国交正常化を記念してホワイトハウスで演奏するとともに、“アディオス”ワールドツァーを行なったようだが、クレジットによれば、彼女自身は2017年もステージに立っているらしい。十八年前の公演時にも、高齢者バンドとは思えない生命感あふれるノリ重視のパワフルなステージに驚かされたが、主要メンバーの皆々が揃って今わの際までステージに立っている凄さに本当に畏れ入った。

 そして、大航海時代にスペイン人が先住民を「(本作での字幕によれば)絶滅」させ、アフリカから奴隷を輸入してきて作り上げたという歴史を持ち、独立後にも様々な経緯がありながらも、奇しくも上映会主催者が漏らしていた「いい国なんだなー」というような感慨を観客にしみじみ味わわせることのできる国づくりが、政治次第では果たすことのできるものであることをも示していたように思う。

 なんでもかんでも逆オバマでいくという唯一の一貫性の元に、現アメリカ大統領は正常化したはずの国交を再び冷え込ませているようだが、金稼ぎだけに血道を上げる強欲資本主義をグローバリズムと称して世界中に撒き散らしたアメリカやその尻馬に乗っている我が国での“近年とみに拡大している格差と分断による諍い”を思うにつけ、シッコ』['07]の映画日誌にも記したような感慨を抱かずにいられなかった。

 
by ヤマ

'18.12. 8. かるぽーと小ホール



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