『ラ・チャナ』(La Chana)
監督 ルツィア・ストイェヴィッチ

 僕は斯界に明るいほうではないから、その本当の凄さは掴めていないのだろうが、それでも、ラ・チャナ自身が人生で最高の踊りだったと振り返るテレビ番組でのダンスの迫力には、ただものではないものを感じ、ただもう圧倒された。いま七十代にあるラ・チャナが、踊り始めて十三年のときだと言っていたから、二十代と思しき時期のものだ。とても、兄を亡くして半年間も踊っていないままのぶっつけ本番だとは思えなかった。

 その激しく強い高速サパテアードは、同じように細かく靴音の響きを立てるタップダンスの“軽やかさ”とは対照的で、ラ・チャナの娘さんが幼い時分に母親の踊りを観て、舞台で死んでしまうのではないかと思ったのも無理はないと思った。

 そう言えば、タップダンサーは、幼時にTVで観たサミー・デイヴィスJr.やホワイト・ナイツ/白夜['85]に出ていたグレゴリー・ハインズに限らず、水谷豊が監督した『TAP THE LAST SHOW』['17]でも専ら男性だったように思う。かなりの筋力と体力を要するからだと思うけれども、フラメンコでは男性ダンサー以上に、女性の踊り手が中心になっているように見受けられるのは何故なのだろう。しかも、より激しくハードな気がするのに、そうなっているのは、本作でも訴えられていた“女性に対して過酷なヒターノ(ジプシー)社会”ゆえのことだろうか。

 それにしても、ダンサーとして絶頂期を迎えていたと本人が言う三十歳過ぎに、DV夫から無理やり引退させられ、七年のブランクの後に三十八歳で復帰したという経歴が、もし仮に、現在の夫のような男との結婚によって途切れのないものになっていれば、驚くべきパフォーマンスを記録した映像が数多く残されていたのかもしれないと思うと、何とも惜しい。とはいえ、この波乱があったればこそ、2016年になっての、七十歳での椅子に腰かけたままでのサパテアードを見せるステージを可能にする、伝説的なダンサーになり得たような気がしなくもない。

 
by ヤマ

'18.12. 4. 美術館ホール



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