『ボヘミアン・ラプソディ』(Bohemian Rhapsody)
監督 ブライアン・シンガー

 ほぼ三週間ぶりのTOHOシネマズだなどというのは、僕にしては、画期的なのだが、そんななか、これを観るなら、一番いいスクリーンでやっているうちにと、最優先した。取り立ててファンだったわけではないが、彼らが時代の寵児となったことを同時代で知っている者としては、記録映像を幾度か観たことのある'85年のライブエイドの21分間の再現部分のみならず、見事な演出に「ブライアン・シンガー、御見事!」と言いたくなった。

 パワフルでエキセントリックなのに、映画の造りそのものに冷静で知的な佇まいがあるのは、おそらく音楽担当に留まらないスーパーバイズをしていたに違いないブライアンの力なのだろう。フレディ(ラミ・マレック)が自身のことをミュージシャンともロッカーとも言わずに“パフォーマー”と称していたが、彼自身が本当にそのように自認していたかどうかはともかく、優れたミュージシャンのなかでも突出したパフォーマーだったことは間違いなく、本作はまさしくそのような視点から描かれていたように思うし、ラミ・マレックはその部分を鮮やかに演じ、フレディに成り切っていたような気がする。身のこなしが見覚えのある彼にそっくりで、生き出てきているようだった。

 それにしても、ライブエイドでの伝説のチャンピオンには、ここに至る道程を想うと、ちょっとグッとくるものがあった。そして、メアリー(ルーシー・ボーイントン)に対するリスペクトの籠っているところが気に入った。

 十三年前にRay/レイを観たときの談義で彼の真の才能を引き出したのがアーメット(カーティス・アームストロング)とデラ・ビー(ケリー・ワシントン)だったように思います。レイ・チャールズほどの才能と強さとしたたかさを備えていても、そういう人の存在を得なければ、その才能は開花していかないわけで、人にとって出会いと人の存在というものの大きさを改めて感じますね。と記したことと同じようなものを、本作のメアリーに対して感じた。フレディ自身もそのことをよく承知していたからこそ、終生、交友を保ち、少なからぬ遺産を残したのだろう。そのことが納得感の得られる形で描かれているように思った。

 そして、レイ・チャールズが得ていた成功と孤立と同じようなものを抱えているフレディの姿が印象深かった。実際の展開そのものは本作に描かれたものとは違うらしいのだが、事実とは多少異なっていても真実が描出されていたのではなかろうか。劇映画としての潤色という点では、ある意味、御手本のような造りだったのではないかという気がしている。

 俳優たちが演じている本作は、音楽ドキュメンタリーフィルムではないのだが、過日『THE BAND/THE LAST WALTZ』['78](マーティン・スコセッシ監督)を上映した音響重視の上映グループ Sound=Cinema に再映してもらいたいとも思った。でも、20世紀フォックスの配給だから無理かなぁ。




推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20181123
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/18120201/
推薦テクスト:「大倉さんmixi」より
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1970398326&owner_id=1471688
 
by ヤマ

'18.11.11. TOHOシネマズ7



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