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『731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~』 | |||||
NHKドキュメンタリー
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先ごろ四十年ぶりに三島由紀夫原作の映画化作品『午後の曳航』['76]を観たことに触発されて、この夏に録画してあったテレビドキュメンタリーを観てみたら、とんでもない秀作だった。 悪名高き石井細菌部隊において、いち早く特別列車を仕立てて引き上げた組とは別に、取り残されソ連軍に捕らえられた部隊員がハバロフスク裁判で残した生々しい証言を収めた記録文書に対しては、南京大虐殺問題と同様に、例によって気に沿わないことはなかったことにしたい勢力から、捏造文書だなどといった誹謗が注がれているらしいのだが、今回その文書の元となった音声記録がロシアで見つかったことを受けてNHKが取材したもののようだ。おそらく捏造派からは、文書のみならず音声記録も当時の捏造によって強制的に言わせたものに過ぎないといった主張がなされるのだろうが、当時、現地に残され、死体処分に従事した年少兵だという元石井部隊兵の現存者らが、本人ならではの所持品等を示して証言していた。 NHKのホームページに記されている番組内容に示された「731部隊はどのようにして生まれ、そして医学者たちは、どう関与していったのか」にまつわる「エリート医学者はどのようにして集められ、なぜ人間を実験材料にしたのか。」といったことについては、京大に残る公文書資料や元東大学長の遺した日記、後に北大教授となった“技師”と呼ばれる“軍医とも同格扱いだったという軍属医学者”が遺した講演記録などから解き明かしていたが、それらを見聞しつつ、かつて『炎628』を観たときの映画日誌['88]に「戦争という言葉への責任転嫁の余地をこれほどに徹底して剥ぎ取り、個人を通り越しての人間というものの救い難さと醜悪さをここまで容赦なく強烈に描いた戦争映画がかつてあったであろうか。」と記したことを想起せずにいられなかった。一方で、どんなに過酷な状況に見舞われても神々しいまでの徳性と善意を発揮する個人の輩出という奇蹟が途絶えることのないのが人間であると同時に、他方で、いかなる悪魔もたじろぐほどに凄惨な非道を無感覚に、時に愉悦を以て働く個人の輩出をも途絶えさせないのが人間だという気がする。 どうして人間に、そんな残忍なことができたのかではなく、そんな残忍なことのできるのが人間なのだから、どうすれば、そんなことをさせないようにできるのか、が問題なのだと思う。 本作には、その要点が明確に示されていて、やはり人事権力とカネであった。そして、産官学ならぬ軍学が共同体的に人脈とカネを恣にすることの危険性が指摘され、その極めて俗っぽい欲望に基づく悪行の後押しをするのが世論であり、人種や民族に対する差別意識を煽り立てるメディアにあることを示しつつ、今現在、まさにそういった軍事と学問が研究費を介在させての接近を始めたこととヘイトスピーチに顕著な民族差別的な言論が蔓延し始めていることへの気づきを促すドキュメンタリーに仕上げていて、実に見事な作品になっていたように思う。 改めて思うことだが、きちんとした取材によってエビデンスを調えた報道の迫力には、いかほどの見識を備えているのかも疑わしい政治家やTVコメンテーターが自分の思いや伝聞だけに基づいて発する言質と違って、実に説得力があるにもかかわらず、社会的影響力において、昨今は両者で逆転しているとさえ感じられるような世の中になっていることが、嘆かわしくて仕方がない。本作では、当人の記憶違いといったことも含めて、他資料との照合検討という裏取りや検証が欠かせないことへの留意を改めて促してくれていたように思う。それにしても、当事者の声というものの迫真性には、想像や捏造では及ばない細部が必ず宿るものだと再認識しつつ、十五年前に『日本鬼子』['01]を観たときのことを想起した。 また、731部隊を率いた石井四郎の名はつとに知っていたが、部隊最多となる京大医学者を送り込んだとの医学部長戸田正三の名は知らずに来ていた。だが、もしかすると遠藤周作が、『海と毒薬』['86]に登場する日記に「僕はもっと別なことにも無感覚のようだ。はっきり言えば、僕は他人の苦痛やその死に対しても平気なのだ。」と記した医学研究生の名前を戸田としたことには、このあたりの事情が影響していたのかもしれないなどとも思った。戸田正三その人に『海と毒薬』の研究生のような“自身や人間についての真摯なる内省”があったか否かは、窺い知りようもなかったけれども。 | |||||
by ヤマ '17.11.26. 地上波録画 | |||||
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