『ラッシュ/プライドと友情』(Rush)
監督 ロン・ハワード


 人生に対してきちんと哲学を持ち、それを体現している連中というのは、やはりカッコイイ。地味でクレバーなニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)と華があってパッショネイトなジェームズ・ハント(クリス・ヘムズワース)という対照的に見えて相通じている二人を観ながら、そんなことを思った。二年余り前に観たアイルトン・セナ ~音速の彼方へ~['10]でのハント的なセナとラウダ的なプロストのライバル関係も観応えがあったが、ドキュメンタリー作品にはない娯楽性を豊かに湛えた本作におけるラウダとハントのライバル関係は、それ以上に面白く観ることが出来た。そして、二十年近い時を隔てて、大事故を起こしたドライバーがコンピューターの異名を取ったニキ・ラウダと天才肌のアイルトン・セナという対照をなしていることが、何よりもF1レーサーのリスクの高さを物語っているように感じた。

 また、遂にアカデミー賞もこういう作品をノミネートするようになったかとの隔世の感を催すような、パワフルで下品な快作だったアメリカン・ハッスルウルフ・オブ・ウォール・ストリート、それと同種の邦画とも言える感じの凶悪やらが高評価を得るの観て、日米とも世の中が荒んできたというか、身も蓋もない有り体を悪びれなくなった時代の風潮が反映されているように感じていたところだから、単純な美化とは断じて異なる形での昇華を遂げる人物造形を施してあった点に、古典的なハリウッド作品らしさを覚えて、何だかえらく心地が良かった。

 劇映画として人物像を鮮明にさせるエピソードや台詞の仕込みが抜群に巧くて、嫌な人物が誰一人出てこないのに滅法面白く運ばれていく物語に対して脚本力の確かさを感じるとともに、手練れた演出による効果のほどにひたすら感心した。瀕死の炎上事故から奇跡の生還を果たして、わずか6週間後に年間チャンピオンを競り合うレースに復帰してきたニキに無神経な質問を浴びせたマスコミ記者をトイレでぶちのめしていたハントの姿や、豪快そうに見せながら実は神経質な夫に対して「中身がこれほどの弱虫だとは思わなかった」との痛撃を浴びせつつも別離を本意とせずに臨みながら破綻させた離婚後もなお元夫の最終レースをじっとTV観戦していたスージー・ミラー(オリヴィア・ワイルド)の描き方、マルレーヌ(アレクサンドラ・マリア・ララ)とニキの家庭での夫婦の会話に窺える自己主張と節度の現れ方が印象深かった。クルト・ユルゲンスの若き元恋人だったとのマルレーヌと出会った日のヒッチハイクでのニキのドライビング・エピソードが実際の事だったのかどうかはともかく、クールな合理性とアグレッシヴな激しさを併せ持ったニキ・ラウダがマルレーヌを魅了しアピールしたことを伝える逸話としては、非常によく出来ていたように思う。

 思えば、アカデミー賞監督でありヒットメーカーでもあるロン・ハワード監督こそが、その実力にしても実績にしても、実に見事な足跡を残しながら、妙に地味で華のなさを感じさせるという点では、映画界のニキ・ラウダのようだ。さすれば、破格のモテ男で天才肌のレース展開を見せ、ニキ・ラウダに“生涯で唯一、嫉妬を覚えた相手”と言わせていたジェームズ・ハントに当たる“ロン・ハワード監督にとってのライバル”というのは、いったい誰になるのだろう?

by ヤマ

'14. 3.14. TOHOシネマズ5



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