『ペイルライダー』(Pale Rider)['85]
『アウトロー』(The Outlaw Josey Wales)['76]
監督 クリント・イーストウッド


 十年のスパンを置いてクリント・イーストウッドが主演・監督を担った二つの西部劇を、先輩から託されたDVDで観た。先に観た『ペイルライダー』は、映画が始まって早々に登場した少女メイガン(シドニー・ペニー)の姿にトゥルー・グリット['10]で同じく14歳だったマティ(ヘイリー・スタインフェルド)のことを思い出したが、マティの出で立ちは果たしてメイガンを意識したものだったのだろうか。

 物語は決断の3時10分['57]と『シェーン』['53]を足し合わせたようなもののように感じたが、少女の祈りに応えた神の使いのごとく登場し、牧師を標榜しながらも、当の少女に愛の告白をさせるばかりか、キスだけの一夜を名残惜しげに去りかけた母親サラ(キャリー・スノッドグレス)に対して、ドアを閉めろと留め置いて夜伽を施す色男ぶりは、『シェーン』でジョーの妻マリアンに手出しはしなかったシェーンや、『決断の3時10分』でダンの妻アリスに対して言葉だけに終わったベンとは異なって、早撃ちでは断然勝っていたということになるのかもしれない。

 『シェーン』でのジョーイの谺は「カムバック!」だったが、本作のメイガンの叫びは「アイ・ラブ・ユー、サンキュー、グッバイ」で、やはり女性は男の子のように未練がましくない。加えて、愛犬の死に祈りを捧げる純な少女ながらも、意を決して男に捧げた告白が期待どおりの展開に繋がらなければ矢庭に毒づくあたり、少年と違って少女は大人になるのが早いこともしっかり描き出していたような気がする。

 劇中では、ガンマン牧師(クリント・イーストウッド)から“勇者”との献辞を受けていたスパイダー(ダグ・マクグラス)の馬鹿さ加減が少々気になったが、謎めいたイーストウッドの渋いかっこよさと、悪徳保安官ストックバーンを演じたジョン・ラッセルの少々リー・ヴァン・クリーフを思わせる悪役としての決まり方がなかなか絵になっている作品だったように思う。

 それにしても、牧師とハル・バレット(マイケル・モリアーティ)の関係というのは、『決断の3時10分』をオリジナル作とする3時10分、決断のとき['07]のベンとダンの間以上に、三角関係的に微妙だったような気がする。『3時10分、決断のとき』のチャーリーはダンに目もくれなかったけれども、本作のサラは、『シェーン』のマリアン同様に牧師とハルの両者に心を寄せるばかりか、褥を共にするに至ったのだから、牧師的には借りがあるように感じたのかもしれない。駆けつけたハルに対して、牧師がわざと爆薬を落とす策を弄してハルの馬を逃がしたことには、前夜のことが多少なりとも影響を及ぼしていたような気がしてならない。ガンマン牧師のその行動と、それにもかかわらず歩いてラフート・タウンに乗り込んできたハルというところが、なかなか良かったように思う。


 後から観た『アウトロー』のほうは、少々眠いなかで観たせいかもしれないが、137分が少し長過ぎるように感じた。絵柄が大きく美しくてなかなか見映えがしたが、物語のほうはさほどには響いてこなかった。めっぽう面白くて145分をいささかも長いと感じさせなかったのぼうの城を観たばかりということが作用していた面もあるかもしれない。

 こちらのイーストウッドがちょうど十歳若いわけだが、最初に出てきた農夫のときにはそういう風情もあったけれど、名うての無法者として賞金首になったジョージー・ウェルズの風貌には『ペイルライダー』での名なしの牧師に負けない貫禄と渋味があったように思う。とりわけ二丁拳銃の回転撃ちの場面が格好良かった。

 嘘か信か元酋長との老インディアンのローン(チーフ・ダン・ジョージ)との旅道中のなかで起こる数々の出会いに対して見せるジョージーの姿が見せ場になっている作品で、そこにきちんとした美学と見識の窺われるところがイーストウッド作品らしいとは思った。

 ローラを演じたソンドラ・ロックは大きな目をしていて少しメラニー・ロラン風だったが、僕はメラニーのほうが好きだ。微乳と尻のチラ見せ場面もあったけれど、暴行シーンなので、サービス感というかお得感が湧かないのが大きな減点要素だったように思う。老いてなお盛んのローンを演じたチーフ・ダン・ジョージにはなかなか味があった。



推薦テクスト:「缶詰の映画」より
http://www.h7.dion.ne.jp/~eiga-kan/The_Outlaw_Josey_Wales.htm
by ヤマ

'12.10.31.&11.14. DVD観賞



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