『サラの鍵』(Elle S'appelait Sarah)
監督 ジル・パケ=ブレネール


ヤマのMixi日記 2012年06月02日15:20

 例によって地元紙から頼まれた次回市民映画会上映作の紹介稿のため、TCRカウンターが目障りでサイズがやたら小さい画面で鑑賞。それでも、いやはや何ともな顛末に気が重くなった。丁度このところ続けて観た灼熱の魂ファミリー・ツリーと合わせて、個人的には“知らぬが仏”三連作と呼びたくなるような話だ。

 ジャーナリストのジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)が言っていた「真実を得るには代償が伴う」との言葉通りに、大きな代償を払ってでも真実を得ることは絶対善なのだろうか? 映画では、ウィリアム(エイダン・クイン)は、母親サラの真実を知ったことを是と出来た二年後の姿を見せていたが、言わば、自分という存在が母親を精神的に追い詰め、鬱病に追いやり、遂には母親の弟が死んだのと同い年に自分がなったときに、母親を死なせてしまっていたのだということを知ることが、五十歳を過ぎた彼にとって本当によきことになったりするのだろうか。ふと十五年前に秘密と嘘を観て綴った日誌のことを思い出した。

 それから言えば、『秘密と嘘』よりもずっと卑近さから遠い話なので、「危ない映画である」とは言えず、ホロコーストの罪深さとか、それがナチスドイツだけの仕業ではなかったこととかを、世紀を超えて提起してる意義のほうが目立つ作品ではあるのだけどね。

 さぁて、どんなふうな紹介稿にしようかなぁ。



コメント

2012年06月02日 20:25
(TAKUMIさん)
 『秘密と嘘』も大好きな作品なのですが、「知らぬが仏」と言うのも、また確かにその通りでヤマさんの感想に思わず笑ってしまいました。でも、自分の身に置き換えると、すべてを知りたい気持ちが圧倒的に勝るので、やっぱりこの映画は私には納得できる流れだな、と思ったり。『ファミリーツリー』も近いうちに見に行きますわ。「知って無駄な事は一つもない」という私のポリシーが、揺らがないと良いけれど。

2012年06月02日 22:14
ヤマ(管理人)
 ◎ようこそ、TAKUMIさん。

 そうですか、思わず笑ってくださいましたか(笑)。あれが十五年前ですから、五十歳をすぎると尚更で、本作でもウィリアムがまさしくそう言ってました(あは)。でも、彼はきちんと向き合って、二年後に会ったジュリアに礼を言ってたんですけど、リアルでもそういくかな?ってね(笑)。

 それからすると、今なおポリシーの揺るがないTAKUMIさんは、精神がとってもお若いんだな〜(感心)。でも、なんとなく判ります、その感じ。一度しかお目にかかってませんが(あは)。羨ましくもあります。

 『サラの鍵』で揺るがなければ、『ファミリー・ツリー』なんかじゃ、絶対に揺らがないと思います。

2012年06月03日 06:32
(TAKUMIさん)
 旅先で酔っぱらってのアップで書き方が悪かったです。

 『サラの鍵』を見た私の感想でした。確かに幸せに暮らしていたウィリアムには、かなり残酷な事実を突然突き付けられた迷惑な話ではありましたよね。身内には、知る義務がある!的な展開は気の毒ではありました(笑)。

 それとは別に、サラが死を選んだ事には、何だか理不尽なやるせない想いにさせられました。弟の悲劇をああいう形でしかサラが終わらせられなかったのはとても残念でした。

 精神が若いとお褒めの言葉ありがとうございます。でもヤマさんとお会いしてから年月も経ち、いろんな事もあり私の精神もすっかり疲弊しましたよ(笑)。逃げられない事ばかりの難儀な自分の人生に、逃げる選択をしたサラが、少し羨ましく思える程にね。

 近い身内で死を選んだのがいるので、殊更サラの選択が許せないのかも(苦笑)。

 でもラストの展開で救われました。無意味な生がないのと同じように、無意味な死もないのかな。

 それと同じく、知る事で苦悩し、違う自分を作り上げていけるから、やっぱり私は何でも知りたいです(笑)。お互い、良い老け方をしたいですね。またそのうち、お会いしましょう。

2012年06月03日 08:56
ヤマ(管理人)
 ◎ようこそ、TAKUMIさん。

 僕こそ、書き方が悪かったですね。笑っていただけたのは、伝わればこそのもので、僕としては、むしろ喜んだんですよ。

 ただ『秘密と嘘』の日誌にも書いたように、実際に試みると、やはり只事では済まない試練ではあるわけで、誰も彼もがウィリアムのように消化できるわけがないですよね。僕的には、ジュリアの職業ってのが気に障ったのかもしれません(笑)。

 サラが死を選ぶことになった経緯は、夫リチャードにとっても、事情を知ることになった息子ウィリアムにとっても、そして他ならぬサラ自身にとって、本当に過酷なものだったと思います。日々成長する我が子の姿に、在りし日の弟の姿が重なってきていたはずで、それこそ映画の冒頭で延々と描かれていたベッドの中でじゃれ合う姉弟二人の無邪気で楽しそうな姿が効いてくるわけですよ。その弟を殺したのは、決してサラではなく、ユダヤ人一斉検挙だと言っても、直接、彼を夏の納戸に閉じ込め鍵を掛けたのが自分で、おまけに1ヶ月後にその腐乱死体の惨状まで目撃しているのだから、我が子が日々かつての弟に似てくることは、ほとんど拷問に近い苦痛を彼女に与えたことでしょう。だから、彼女が精神を病んでも是非もないことだと思います。年老いた父リチャードが事情を知った息子ウィリアムに語っていたように、息子をどこかよそにやることも検討したけれども、母サラが拒んだと言ってました。それもまた是も非もないことだと思います。

 育ての祖父ジュールが毎月送金してくるテザック家に送った手紙に、サラは本当に強い子だと書いていましたが、そのサラにして耐えられなかったのが、息子が弟の没年と同い年を迎えたときだったわけですよ。ウィリアムにすれば、自分が生まれなければ、叔父に似てなければ、母は鬱病になったり死を選んだりしなくて済んだのではないかと、ちょうどサラが、私が鍵をかけて閉じ込めたりしなければ、と思ったであろうことと同じような自責を抱えることになるかもしれない過酷な事実ですよね。

 だから、僕は依頼された紹介稿の最後をこう締め括りました。作中でジュリアが語る「真実を得るには代償が伴う」との台詞の重みを鑑賞後に思い返してみてもらいたい。最後の場面で、わずか1年にて再度ニューヨークを離れ、パリに戻ることにしたと話していたジュリアは、14歳になった娘のパソコンに映っていた夫の真実程度のことに対しても、ウィリアムのように果たして向かえるのだろうか。

 無意味な生がないのと同じように、無意味な死もないとTAKUMIさんがおっしゃることには、全くもって同感です。僕もいろいろ知ることで自分を作り上げてきたと思っているので、自分はやはり何でも知りたいと思うほうです。だから、知りたいと言う者には誠実に応えるべきだし、応えてもらいたいと思っています。でも、応えるのではない形での告知や教示については、かなり懐疑的(笑)。

 単純に比較できるものでもありませんが、先般観たばかりの『灼熱の魂』のナワルが衝撃の事実を知ったのは、プールでの偶然でしたし、子供たちに伝えたのも母親からの遺言というものであって、他人であるジャーナリストの口から、頼みもしていないのに、という形ではありませんでした。映画では結果オーライになっていて、そのことが少し気掛かりでもあったジュリアに、二年後に安心を与えていましたが、それはむしろレアケースのように思ったんですよね、僕。

2012年06月04日 07:04
(TAKUMIさん)
 ヤマさん、おはようございます。

 >知りたいと言う者には誠実に応えるべきだし、応えてもらいたいと思っています。でも、応えるのではない形での告知や教示については、かなり懐疑的(笑)。

 ヤマさんのひっかかっていた点、納得です。『サラの鍵』私は自分が知る立場の視点で語り、ヤマさんは知らせる側の立場で語っていたのですね。

 確かに、私も見ず知らずの他人にあれほど過酷な現実を知らせる勇気はないですね。何を知っていても黙っている。現実を知る側の受け入れる器が分からない状態で、それはあまりに危険な賭けですものね。

 その事よりも自分の中でこだわり続けてしまい納得できないのは、サラが選んだ死という選択だったのかもしれません。自分だったらこう考える。「もし弟を戸棚に隠さず家族一緒にいれば、あの家族は全員収容所で死んでいただろう。戸棚に閉じ込められた弟を助けたいという一心であの場から逃げ出す事で、自分の命だけは救われた。それは弟に与えられた命だから自分は生きなければならない。」ってね。そんな考えは、あまりにも安易で優しい嘘である事は明白ではあるのだけれど、そんな嘘に騙されても、人間は生きねばならない。

 弟は無意味に死んだのではないし、まして生き残っているサラは、それこそ自分の与えられた命を、何よりも大切にしなければならなかった。そこが私があの作品を見た一番の違和感なのでした。

2012年06月04日 07:12
ヤマ(管理人)
 ◎ようこそ、TAKUMIさん。

 僕には身近なところで自殺をした者がいませんから、そういう形で遺されることの真情についての体験がありません。だから、サラの死を是も非もないこととして見てしまいますが、死なれた経験があると、また違ってくるのでしょうね。TAKUMIさんのおっしゃることも、是非ないことだと思います。

 おっしゃるように、戸棚を開けに帰らなければの一心がサラに脱走を試みさせたわけで、そうでなければ、他の多くの収容者と同じ運命を辿った可能性のほうが高そうですね。

 おそらくサラは、おっしゃるように必死で生きようとし、渡米までして過去を断ち切ることで生きようとしたのでしょう。しかし、遂に病(心のですが)に倒れ、命途切れたと思います。

 意思と選択で対処できる状況にあったのか、なかったのか、そこんとこへの認識の違いによって見え方が違ってくるのでしょうね。





推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20120126
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1806968435&owner_id=3700229
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/12070202/
推薦テクスト:夫馬信一ネット映画館「DAY FOR NIGHT」より
http://dfn2011tyo.soragoto.net/dfn2005/Review/2012/kn2012_02.htm#03
推薦テクスト:「シネマ・サンライズ」より
http://www26.tok2.com/home/pootaro/impression/diary.cgi?no=45
推薦テクスト:「銀の人魚の海」より
http://blog.goo.ne.jp/mermaid117/e/fe46e809b73580eae67cf1eaae75742e
編集採録 by ヤマ

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