真実を知るための代償
 『サラの鍵』(Elle S'appelait Sarah) 監督 ジル・パケ=ブレネール

高知新聞「第167回市民映画会 見どころ解説」
('12. 6.18.)掲載[発行:高知新聞社]


 ホロコーストの罪深さとそれがナチスドイツだけのものではなかったことを、世紀を超えて「決して忘れるな」「決して繰り返すな」と訴えてくるパワフルな作品だ。

 2009年のパリ、フランス人の夫ベルトラン(フレデリック・ピエロ)との間にもうけた12歳の娘と暮らすアメリカ人ジャーナリストのジュリア(クリスティン・スコット・トーマス)。67年前の夏のパリでフランス人の手によって行われたユダヤ人一斉検挙で捕えられた少女の一人であるサラのその後を、彼女が身近なきっかけから追い始めることで、埋もれていた過去が立ち現れてくる。

 一斉検挙から1ヶ月後にサラ(メリュジーヌ・マヤンス)が目にしたものを、身もふたもなく画面にさらしたりはしない節度が好ましい。そのことによって、その体験がいかに彼女の心を傷つけていたかを痛烈に示す終盤が、効果的に作用してくるようになっていた。主題の持っている志においても、表現手法や演技・演出・人物造形にうかがえる品性においても、とても上質な作品だ。

 作中でジュリアが語る「真実を得るには代償が伴う」とのせりふの重みを鑑賞後に思い返してみてもらいたい。最後の場面で、わずか1年にて再度ニューヨークを離れ、パリに戻ることにしたと話していたジュリアは、14歳になった娘のパソコンに映っていた程度の夫の「真実」に対しても、彼女からサラの過去を知らされた縁の人物ウィリアム(エイダン・クイン)のように、果たして向かえるのだろうか。

by ヤマ

'12. 6.18. 高知新聞「第167回市民映画会 見どころ解説」



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