『灼熱の魂』(Incendies)
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ


ヤマのMixi日記 2012年05月30日00:25

 さすがカナディアン・テイストというべきか、なんとも面妖な物語だった。
 あんなトンでもない事態に出くわして、「1+1が2でなくて、1+1=1なんてことがあるのか?」などという台詞を発することが出来るとは到底思えないのだが(笑)、それはそれとして、墓標に「1949~2009」と刻まれていたナワル(ルブナ・アバザル)が、愛する男との間に許されぬ子をもうけて里子に出したのが'70年5月で、その息子の行方を訪ねながらも、キリスト教系と思しき施設がイスラムの攻撃を受け破壊されたのが'74年なら、それへの凄惨な報復を行ったキリスト教右派の指導者を彼女が殺して15年の刑を受け、刑務所に収監されたのはいつだったのだろう。

 刑期のうち13年間も監視し続けたという男が証言したアブ・タレクによるレイプの果ての妊娠というのは、いつのことだったのだろう。'74年から程なくして収監されたとすれば、13年後のそのときアブ・タレクは17歳で、双子を産んだときのナワルは38歳、ナワルの遺言によって兄と父を探しに出ていたジャンヌ(メリッサ・デゾルモー=プーラン)とシモン(マキシム・ゴーデット)が21歳ということになるのだが、アブ・タレクは、刑務所でもカナダのプールでもその相応の歳には、どうにも見えなかったように思う。

 作品として備えているメッセージそのものには賛意を覚えるのだが、筋立てにかな~り面食らってしまった(苦笑)。



コメント

2012年05月30日 08:47
(ケイケイさん)
 私も観ながら年齢を逆算しました(笑)。
 でも私の中では、この作品から受けた衝撃からすると、些細な事でしたね。

 感想を拝読して回ると、秘密は母が墓場に持って行って欲しかったが多いです。でも私は、どんなに辛い事でも、親が聞いてと願う事に対して、子は聞く義務があると思うんです。
 この作品の場合は、同じ過ちを繰り返さないようにと、切なる母の願いがあったわけだし。
 プールで抱き合う双子のシーンや、「レイプは血筋だからな」の自嘲的な台詞も、意味があったと思います。
 今のところ、この作品が今年の一番です。


2012年05月30日 09:03
(アリエルさん)
 これは衝撃作でした。
 同じ時期公開だったので『サラの鍵』を押している方のほうが多かったような~。
 ケイケイさんと、『サラの鍵』はHPで語りあいました。
 『サラの鍵』より、こちらのほうが私はずっと好きです。

 年齢の事は考えませんでした。
 この映画、2つの大きな出逢いの偶然性は、ちょっととは感じましたが、
 謎ときのような面白さと政治、複雑な家族をうまく折り重ね構成されていました。

 その偶然が人生ということなのかな~。

 再見すると、もっとよくわかると思います。

 あの刺青をよくみたいです。(^_^)

 今年はまだ本数少ないですが、ベスト10には入る1作です。


2012年05月30日 20:16
ヤマ(管理人)
 ◎ようこそ、ケイケイさん、アリエルさん。

 父+兄=1なんて言われると、え?え?いつだっけ?って、思わず逆算しちゃいますよね~(笑)。観た感じ、とてもそう思えないもんだから。
 でも、インパクトは抜群でした。ただそうなるとナワルを双子ともどもカナダに送り出したイスラムの大物とか、彼女の面倒をカナダでみてきた公証人とかって、ナンだよって思ったりも。

 それにしても、ケイケイさん御指摘の知らぬが仏の是非って、実際のところ、どうなんでしょうね~。大難問ですね。
 知った以上は、伝えずに置くことはできないけれども、面と向かってや、自分の生きている内は嫌だと思ったんでしょうか。それって、ちょっとナワルらしくないんじゃない?って気もしますよね。

 でもって、プールのような素足の状態を見られる場所でなければ、ナワル自身も知らないままに過ぎていることなんですよね。また、踵だけしか見えなければ、拷問人と知ることもなかったし、全くもって、万事ハプニングという他ないものに決定的に左右されるのが人の生というものなんでしょうね、アリエルさんのおっしゃるように。

 だから、どんなに過酷な拷問にも決して歌わなかった“歌う女”が、最期に歌い遺した二篇の手紙については、その是非を問うよりもケイケイさんがおっしゃるように、そこに込められた切なる願いを読み取るほうがいいですよね。

 映画では、アブ・タレクが先に“72番の娼婦”からの手紙を読み、その後で、“踵に三ツ星の刺青のある息子の母”からの手紙を読みましたが、二つの手紙をもし逆の順で読んでしまうと、映画的には、ちと困ったものになったような気がしなくもありません。

 あの刺青は、生まれた時の場面とプールの場面の他に、冷酷にも少年達を殺戮する狙撃場面にもクローズアップされてました。三つの点を何をもってカウントするのかを考えると、これまた意味深長なところが出てくるように思います。

 ヘンな映画なのに、パワフルで見過ごせない力があることについて、鑑賞後にロビーで友人と話しながら、かのの監督だけのことはあるとの意見の一致を見ました(笑)。


2012年05月31日 09:12
(TAOさん)
 この名前は憶えがあると思ったら、『渦』の監督でしたか!
 なるほど~。
 私は『渦』のほうが好きですねえ。
 ヘンに徹していて(笑)


2012年05月31日 20:13
ヤマ(管理人)
 ◎ようこそ、TAOさん。

 やはりご覧になってたんですね~。ね、納得のフィルモグラフィでしょ(笑)。

 そちらに個人的には作為が過ぎてあまり好みではないとお書きの部分にニンマリしつつ、僕も母親の壮絶な人生に…最後には言葉もないほどに打ちのめされました。

 母の愛はかくも大きく、深く、我が子を救済するためならどんなことでもやってのける。その代わり、その愛が復讐に向かうときは迷いがなく急進的で、そのすべてを薙ぎ倒す盲目的な力が私は怖ろしい。とお書きの部分がまさしく圧巻で、男の僕は怯んでましたよ(笑)。

 思わず笑ったのが女という生き物はなんでも知りたがろうとするものってとこ。そのくせ自分のほうは隠したがる方、多いんですよね~。謎めかしてるつもりなのか、出し惜しみしているだけなのか、なんかよくわかんないんですが、本当にどうでもいいようなことでも取りあえず“秘密”とかって言いたがる向きの者が確実にいますよ。

 ナワルの根性、見せてみろー!って思ったりして(笑)。




推薦テクスト:「映画通信」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20120112
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1806293750&owner_id=3700229
推薦テクスト:「銀の人魚の海」より
http://blog.goo.ne.jp/mermaid117/e/9baeca63a1904bda5551b123213134c9
推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/12060301/
推薦テクスト:「Banana Fish's Room」より
http://blog.goo.ne.jp/franny0330/e/9a875f8fcfe8a7f113138f9370863270
編集採録 by ヤマ

'12. 5.29. 美術館ホール



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