美術館夏の定期上映会“アニメーションの世界”

Aプログラム
『屋根裏のポムネンカ』(In The Attic) 監督 イジー・バルタ
『メアリー&マックス』(Mary And Max) 監督 アダム・エリオット
Bプログラム
『世界は本当にまるいの?』['77] 監督 プリート・パルン
『森のなかのマジシャン』['78] 監督 プリート・パルン
『トライアングル』['82] 監督 プリート・パルン
『おとぎ話』['84] 監督 プリート・パルン
『ホテルE』['92] 監督 プリート・パルン
『カール・アンド・マリリン』['03] 監督 プリート・パルン
『ガブリエラ・フェッリなしの人生』['08] 監督 プリート&オルガ・パルン
『雨のなかのダイバー』['10] 監督 プリート&オルガ・パルン
◎関連ドキュメンタリー作品
『パルノグラフィ』['05] 監督 Hardi Volmet
『法王のいない一夜』['06] 監督 ラファエル・ジアネッリ・メリアーノ

 県外の公共上映では当たり前のように複数回上映の行われる上映企画が、これまでの高知県立美術館の上映会では、基本的に1作品1回上映しかなく、見せることよりも上映実績を残すことに力を注いでいるようにしか見えなかったのだが、今回のアニメ特集では同一プログラムの複数日上映を行っており、おかげで土曜の午後に支障があったにもかかわらず、AB両プログラムとも観ることができた。画期的な方針転換だと大いに歓迎している。


 土曜日に観たAプログラムの2作品は、いずれも卓抜したアニメーション技術の見事さにおいて、非常に観応えがあったのだが、ストーリーの陳腐さで『屋根裏のポムネンカ』が少々観劣りするくらい、際立って『メアリー&マックス』が充実していたように思う。いきなりオープニングの1976年のオーストラリアの小都市の町並みを映し出した画像に圧倒されたが、それ以上に、実話に基づくとクレジットされた物語の数奇さに驚かされた。

 人間という存在の不完全さへの肯定と人生の不可思議への畏敬に満ちていて感銘を受けたが、とりわけ、ニューヨークで独り暮らすマックス(声:フィリップ・シーモア・ホフマン)が天井一面に貼り付けられていた数十年にわたる手紙を仰ぎ見ながら最期のときを迎えている姿にメアリー(声:トニー・コレット)が遭遇したラストの場面に、大いに心打たれた。

 8歳のときからの文通による交流のなかで、生き難い人生を歩む人の心の病について研究を重ねるようになり、高い世評を得るだけの論考を発表し上梓するに至ったメアリーが、そのことを最も喜んでもらえると思ったマックスの怒りを買ったことで心破れ、荒んでいったのを支えられなかった夫ダミアン(声:エリック・バナ)の顛末を観ながら、先ごろ観たばかりの『うまれる』で死産に心痛めた妻に寄り添い、夫婦で乗り越えるに到っていた夫の立派さを改めて思い出したりしていた。

 ダミアンが至らなかったというよりは、心痛めた妻に寄り添うことの難儀の重さが響いて来たのだが、それを思うと、ぐるりのこと。という作品があったことも思い出した。それらとの比較で言えば、ダミアンには、夫の心映らずへの落胆が外国に住む36歳差の“心の病”持ちの男ゆえに、という部分も多少はあったのかもしれない。だが、メアリの失意はマックスを怒らせたこと以上に、世間からは評価された自分の研究や知見が実はとんでもない無理解でしかなかったと知らされてのものだったことからは、言わば、死産にも等しい喪失感だと感じられたので、僕は『うまれる』のことを思い出したのだろう。

 また、もし妻のお腹に子どもができていることを知っていれば、ダミアンが文通相手の元に去って行ったかどうかは、これまた違った展開になったのかもしれないと思わされた点も『うまれる』を想起した一因だったように思うが、いずれにしても、そのような事々の是非よりは、人生のままならなさについて描いた作品だったような気がした。


 日曜日に観たプリート・パルン傑作選.1.2.3と題されたBプログラムは、アニメーション作品8本とドキュメンタリーフィルム2本によって、エストニアの世界的なアニメーション作家を特集したものだった。最初の端に観た『おとぎ話』のマフラー猫とも言うべき尻尾に観覚えがあって、帰宅後、調べてみたら、2000年の美術館の夏の定期上映会“甦るアニメ伝説で「プリート・ピャルン監督の『つくり話』」として上映されていた。

 イメージ展開の奔放さと少々グロテスクなまでの露悪性に特長のある作家のようだ。'70〜'80年代のシュール感に富んだ作品群と'90年代以降の風刺色の濃さには、ソビエト崩壊によるグラスノスチが影響を及ぼしているのかもしれない。年の離れた(と思しき)美人妻を得ての共作になってからは、明確に物語性が強くなってきていると共に、性的ニュアンスが濃くなってきているような感じを受けた。若い奥さんをもらうと、自ずと元気にならざるを得ないのだろう。

 作家特集を組むうえでは、その業績を概観するとともに、どのように評価されているのか、どういったところに作家性が認められているのか、といったことについて、他者の視点から提示されたものが添えられていることが望ましく、そういう意味でのレクチャーや資料テキストの提供が望まれるのだが、今回のプログラムには、2本のドキュメンタリーフィルムが組まれていて、プログラム自体に構成されていたところが気が利いていた。自分自身の感性とは余りそぐわない作風のプリート・パルン作品の特集プログラムをそれなりに興味深く観ることができた大きな要因だったような気がしている。

 『パルノグラフィ』は、そういった点での情報が網羅的に盛り込まれていて、なかなか有用度が高く、また、プリート還暦の誕生日に撮られたとの窓ガラスへの夫婦での戯れの描画を捉えた『法王のいない一夜』には、プリート・パルンの作風の変化におけるオルガの影響に関して、百の解説に勝る、非常に納得感を与えてくれる雄弁なものが宿っていたような気がした。



*『メアリー&マックス』(Mary And Max)

参照テクスト:再見日誌

推薦テクスト:「チネチッタ高知」より
http://cc-kochi.xii.jp/hotondo_ke/archives/251
推薦テクスト:「とめの気ままなお部屋」より
http://blog.goo.ne.jp/tome-pko/e/9dac2b9d4b2a43b7cfd85aec0bc7b28d
推薦テクスト:「TAOさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1715512175&owner_id=3700229
推薦テクスト:「シューテツさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1734446939&owner_id=425206
推薦テクスト: 「なんきんさんmixi」より
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1784593872&owner_id=4991935
推薦テクスト:「田舎者の映画的生活」より
http://blog.goo.ne.jp/rainbow2408/e/4c5231a10e8a24eb930a523c28c2c657
推薦テクスト:「おちゃのましねま」より
http://d.hatena.ne.jp/lady6ird/20120526
by ヤマ

'11. 8.13.〜14. 美術館ホール



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