『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語
監督 錦織良成

 『RAILWAYS』は興行的には『ALWAYS』のようにはいかなかったようだが、同様にファンタジックなまでに美しい物語で、いかにもROBOT制作らしい作品だったように思う。かつて男の子はみんな「ものづくり」と「操縦すること」が大好きで、後者はともかく前者については、僕も思い当たるところが多々ある。現代劇なのに、そんなことをノスタルジックに想起させてくれる映画だった。

 また、現に田舎に住んでいる僕にとっては、この作品がフラガールなどのように都会生活での挫折の癒しと再生の場に田舎が使われ都会に戻っていく物語になっていない点が快かったが、今現在、田舎に年老いた親を残して都会暮らしをしている一人息子にとっては、こういう奇麗事で描かれると、感動どころか腹立ちを誘ってしまうのではないかとも思った。

 そこがALWAYS 三丁目の夕日が多くの人の共感を呼び、大ヒットしたこととの大きな違いのような気がする。すなわち、昭和の昔のことなら我が身を脅かさないけれども、現在の物語として描かれると、筒井肇(中井貴一)のようには出来ないでいる自分が苛まれるところがあるのではなかろうか。いい気なもんだとか厭味な映画だとかいうふうに感じるような気がする。そこのところにさえ鈍感であることが出来れば、『ALWAYS』を好むような人には堪らない作品だったように思う。

 中井貴一がとてもいい。好きなことは仕事にしてはいけないというのが持論の僕とは、言わば対極にある考え方に基づく作品だったわけだが、それはそれとして楽しみ感じ入ることが出来たのは、彼の演技の充実によるところが一番で、その次は、この作品が『ALWAYS』同様に、実にファンタジックな作りを果たしていたからなのだろう。オープニングからして、車庫から出てくる電車の無人の室内に太陽の光が車窓から順次差し込んでくるという、べらぼうに美しくファンタジックなショットだった。
 仕事観を全く異にする僕がぐっと来て涙する場面が、幾箇所かあったくらい、映像も筋立ても美しく味わい深く撮り上げられていたように思うから、肇と似た境遇であって尚且つうまく嵌った人のなかには、それこそ“人生の一作”とも言えるほどの大感動を受けた人がいそうな気もした。しかし、かつてイギリス映画秘密と嘘['96]を観たときにも思ったように、うっかり真似した日にはとんでもないことになりかねないのに、つい人生のレールポイントの切り換えを求めたくなってしまうという危険な誘惑を織り交ぜた感動になりかねないところがあって、いささか罪作りのような気もする。

 「電車は運転手一人だけではなく会社の皆で動かしているのだから、運転手だけの責任ではない」と言って庇うバタ電の社長(橋爪功)が、実においしいところを持って行っている作品だった。島根に実在するらしい一畑電鉄が破格の全面協力振りだったことが偲ばれたのだが、きっと十二分の満足を得ていることだろう。日本各地の中古車両を集めたこのローカル線を訪ねてみたくなる人が少なからず出てきそうに思える作品だった。
by ヤマ

'10. 7. 2 TOHOシネマズ6



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