『花田少年史 幽霊と秘密のトンネル』
監督 水田伸生


 僕が常々思っているところでの、まさしく'00年代の映画ともいうべき作品だった。二年前のCASSHERN』『キューティハニー』『下妻物語』の日誌には「今回たまたまこの三作品を続けて観て思ったのは、'90年代が実写劇映画とドキュメンタリー映画の相互乗り入れが際立った時代だったとすれば、'00年代が実写映画とアニメーション映画の相互乗り入れの際立つ時代になるのかもということだった。実写映画に従来の映像展開にはなかったような形で漫画的なカットや編集が施され、それに相応しい映像加工のされた作品が頻出してくる一方で、…アニメーションの映像が戯画化とは異なるほうを熱っぽく志向しているような気がする。CG技術の飛躍的な進歩が両者のこの動きを支えていることを思うと、単発的なキワモノ作品に留まらない映像表現の一スタイルとしての定着を果たしそうな気がする。」と記したが、この作品では、それに加えて、近年の映画作品のもう一つの顕著な傾向である「従前的な映画ジャンルからの“逸脱”ではない“てんこ盛り”」が旺盛なサービス精神と貪欲さのもとに盛り込まれている。過去の映画作品のいずれのジャンルにも属さない“逸脱”ではなくて、いくつものジャンル映画の要素をむしろ典型的な形で混交させているわけだ。得てしてそれは散漫さに繋がりかねない過剰さとなり勝ちなのだが、『UDON』が、からくも散漫にまではなっていないのが大したものだと思われつつ、やはり少し欲張りすぎたとの印象を残したのに比べ、『花田少年史』は、PROMISE嫌われ松子の一生かというような漫画テイストの破天荒さで綴りながら、健気で切ない子どもの心根を描いて、しっかとハートに来る作品に仕上がっているところが素敵だ。子どもにとって一番必要なものが何であるのかが、沁みてくる映画だった。

 花田一路(須賀健太)の存在感は圧倒的なのだが、それ以上に僕は、村上壮太(松田昴大)のいじらしさに打たれた。少し愚図なんだけど、思いやりがあって優しく、とてもいい子だ。そして、彼に強さを与えているのが亡き父親(杉本哲太)であるところがまたいい。

 また、こういうALWAYS 三丁目の夕日のようなテイストの物語を、昭和レトロでは描かずに、現代で描いているところが立派だとも思った。一路の両親の馴れ初めにまで遡っても'90年代なのだから、平成の世に留まっているわけだ。そのわりに寿枝(篠原涼子)や大路郎(西村雅彦)の雰囲気が僕の目には'70年代風に見えてたのが可笑しくて、自分が若者としては知りえない時代だった'90年代の東京は、あんなふうに'70年代に回帰していたのかと、そちらのほうが興味深かったのだが、それと同時に、今世紀に入って日本社会での貧富の差が激しくなったことで、こういう昭和レトロ的な貧しさを同時代のものとして語ることができるようになっているのかと思うと、それもまた皮肉な話だという気がしなくもない。寿枝の決して“ママ”ではない“母ちゃん”ぶりには、昭和の母のノスタルジックな香りが立ち込めていて、とても魅力的だった。篠原涼子が『下妻物語』のときのようないい味を出していたように思う。
by ヤマ

'06. 9. 2. TOHOシネマズ3



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