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『マッチポイント』 | |||||
監督 ウッディ・アレン | |||||
ヤマのMixi日記 2006年09月09日08:23 巧い作品で、コワい作品だ。冒頭のコードボールの映像とナレーションが効いていて、巧く裏をかかれた(笑)。でも、凄いのは、『ゆれる』の稔と違って“オツトメ”を果たさなかったクリスのほうには、稔がラストシーンでバスの陰になる直前に見せたような“笑顔”が失われるというか、マッチポイントを握って勝利したように見えながら、コードボールがどっちに転ぶかで決まるなどという次元を超えて、既に大きな敗北を喫していることがきちんと伝わってくるラストになっているところだった。クリスのラストのあの陰鬱な表情からすれば、露見しなかったことで重荷が増したように感じられたわけだ。 No.6816 から(2006/09/14 21:09) (ケイケイさん) ヤマさん、こんばんは。『マッチポイント』今日観て来ました。 ヤマ(管理人) ようこそ、ケイケイさん。 (ケイケイさん) 最初はパスする予定だったんです。でも、あまりの評判の良さに『時をかける少女』と差し替えたんですが、あそこまで『陽のあたる場所』と似ているとは(呆然)。 ヤマ(管理人) ほぅ、僕はその『陽のあたる場所』は、その名は知れど、確か未見の作品だったような…(少々不安ですが)。まぁ、ありがちな設定の話ではありますからねー。 (ケイケイさん) クリスがモンゴメリー・クリフト、ノラがシェリー・ウィンタース、クロエがリズです。クロエ的役回りが、50年代初頭では世界一の美女のリズなんて、完全無敵でしょう? 中学生の時、伝説のモンゴメリー・クリフトに憧れて、やっとこテレビ放送で観た作品なので、割と覚えています。 ヤマ(管理人) 僕もひょっとしたらテレビ放送で観てるかもって気もしてきたのですが、確かにクロエがリズなれば、ノラへのクリスの想いは、自身の側の止まれぬ執着というよりも、相手に執着されて切れずにいた持て余しのみとして描かれてそうですね〜。 リズのクロエも、エミリーのクロエのごとく、子どもを欲しがってましたかね? まぁ、50年代の作品ですから、朝の出勤前に妻が子作り誘う場面はないでしょうが(笑)。しかし、ここでもまた“男女関係における受胎に関するTAOさん説”(註:『赤いアモーレ』についての談義で出てきた「女というものは、男の気持ちが離れたときを見計らったように妊娠するのだが、それは、たぶん女の身に備わっているリスクマネージメント能力の成果だと思われる。」という説)がビミョーに影を差して来ますなぁ(笑)。でも、半世紀以上も前の映画だから、ラストは違ってるんじゃないですか? (ケイケイさん) 違いますね。妊娠中のシェリーは、事故で亡くなるんですが、モンティは殺意があったとして(それは本当ですが、踏みとどまる)有罪。リズはいつまでも待っているわ…みたいな、王道のメロドラマっぽいラストでした。 ヤマ(管理人) それはもう、決定的に違いますねー。 (ケイケイさん) 『マッチポイント』みたいに、皮肉やサスペンス的要素はなく、ストレートに真面目で厳しく、甘美にも作っていたような。いや当時中学生ですから、外れているかも(笑)。 ヤマ(管理人) いやいや十代時分のケイケイさんのメモリー回路は、現代のITハダシですから、間違いないでしょう。50年代作品なんだから、そうしたもんだろうと思いますよ。 (ケイケイさん) でもまぁ『陽のあたる場所』の焼き直しとは言いながら、それでも前半は、スカーレットのエロさに私までクラクラ、ええぞええぞと思ってたんですが…、 ヤマ(管理人) 僕はもうちょっとサービスしてほしかったりして(あは)。ほら、拙日誌も綴ってる『真珠の耳飾りの少女』くらいに、ね(笑)。 (ケイケイさん) 『真珠の耳飾りの少女』は、残念ながら未見なんですよー。でも、スカーレットいいわー(ため息)。『痴人の愛』のナオミなんかもいいですよねー、ブロンドですが(笑)。アメリカでリメイクしてくれませんかねぇ、アレン監督で(笑)。 ヤマ(管理人) 確かに確かに! 似合ってるなぁ〜、どっちも(笑)。昨日、予告編を観た『ブラック・ダリア』なんか、ひょっとしてそれっぽい感じもあるのかもねー、スカーレット。 (ケイケイさん) 『マッチポイント』では、後半の「妊娠狂想曲」から、アレンの悪意を感じてしまって、ムッとしてしまいました(^^;)。 ヤマ(管理人) あら、そーでしたか。まぁ、悪意っちゃ悪意ですね。取り立ててってほどではなく、通俗的な程度の作り手の悪意ではありますが(笑)。 (ケイケイさん) 完成度とは見応えとかは、充分だったんですが、好きとは言えない感じです。 ヤマ(管理人) そうねぇ、僕も好きというほどの作品ではありませんでしたね。巧いし、感心もしたけど。 (ケイケイさん) そうそう。何にも知らないで観たら、アレンの作品だとはわからない感じでした。 ヤマ(管理人) 彼自身が出てきてませんでしたからね(笑)。でも、アレンは、自分が出ようと出まいと、前から巧いですよ。自分が出ると、ちょっとしつこく、くどくなる傾向がありますが(笑)。 ところで、『マッチポイント』は、たぶん拙日誌を綴ることにはならないと思うので、先ほどケイケイさんの映画日記を拝読しました。 (ケイケイさん) ありがとうございます。前半は手垢のついた題材なのに、傑作の匂いプンプンだったんですけどねー。上流階級の人の無神経さやアホっぽさをさりげなく描きながら、クロエのママだけは超現実的ですよね。一番嫌われる役回りを当て込みながら、ママがこの家庭では一番まともと感じさせるなんて、上手いなぁと思いました。 ヤマ(管理人) そうそう。ケイケイさんがお書きの「社会的階層に向けた前半と男女のほうに向けた後半」という作品の対照は、なるほどなぁと思いました。そこんとこで、前半傑作・後半むかつきってことになったわけですね(笑)。 「ノラに魅かれたのはその色香のせいだけではなく、同じ匂いのする彼女に、懐かしさや救われる孤独を見出したからでしょう。」との御指摘はいつもながら、流石ですね。 で、「どうして私は彼女たちに同情しないのか?」というのは、「この三角関係を意地悪く面白がってアレンが描いているから」というよりも、僕は、アレンがひたすら男の側(クリス)の視点で綴っていたからだと思いました。 (ケイケイさん) おぉ、なるほど!言われてみれば、『不信のとき』の主人公みたいでしたよね(笑)。 ヤマ(管理人) 『不信のとき』って、そうなんですか? なんか観たくないなぁ(笑)。 (ケイケイさん) 現在放送中のドラマは未見ですが、原作を読んでます。 ヤマ(管理人) どちらも僕は縁なしです。 ところでケイケイさんが映画日記に「この女二人がギャーギャーギャーギャー、鬱陶しいったらありゃしない」とお書きのところからの一段については、丸々この映画の描き方がそうだったんだから、当然と言えば当然のことですよね(笑)。 (ケイケイさん) 命の誕生は神聖なもんというほど、私も青くはないのですが、あの描き方ではやっぱり二人とも可哀想でした。 ヤマ(管理人) ここで生きてくる“TAOさん説”(笑)。 でも、アレンは意地悪く面白がっていたのではなく、率直な本音だったんじゃないでしょうかねぇ(あは)。 (ケイケイさん) よく反省すれども学習せずって言うでしょう? アレンの場合は、学習すれでも反省せずっていうことですか?(笑) ヤマ(管理人) 彼のキャラって“反省”なんちゅう殊勝なものとは無縁な気がしません? なんかすっごい幼児性強そうですし、ナルシスティックですし(笑)。 (ケイケイさん) 見応え充分なのに好きとは言えないというふうに感じたのは、昨日は同じガーデンで『トランスアメリカ』を見たせいもあります。テーマは刺激的なのに、爽やかだったんですよー。 『マッチポイント』は、もうちょっと突っ込んで描いていたら傑作でしたけど、充分秀作ではあったと思います。観る順番も大事ですねぇ(しみじみ)。ヤマさんが「クリスのラストのあの陰鬱な表情からすれば、露見しなかったことで重荷が増したように感じられた」と書いてはるとこも、確かにそうなんですけど、私はあの重荷くらいじゃ、物足りませんでした(笑)。片手落ちの感じがするんですよー。そんなクリスと暮らすんですから、妻や一族の生活にも影を落とすでしょうが、多分セレブ一家はこういうことには、鈍感と思われ…、ラストはエッジが利いてなかったなぁ。 ヤマ(管理人) そうですか、物足りませんか、確かにねぇ(笑)。 まぁ、アレンは手前を含めて、ひたすら男の側(クリス)の視点に立っているヤツですから、加えて、元々泣きが入りがちなキャラですから(苦笑)、自分側サイドに甘くなるんでしょうね(たは)。 エッジとまで言うと、そりゃ全然物足りなくなりますよね〜。大体が手すりに当たって落ちたコインのショットからして、コードボールとの対照を利かせた小技なんですもんね。クリスに陰りを仄めかしたくらいじゃ済まない話だと言えば、それはそのとおりだと僕も思いますよ。 まぁ、作り手の一番の思いはおそらくは、通常とは異なるエンディングを与える“趣向”のほうにあったような気がしますからねー。 | |||||
編集採録 by ヤマ '06. 9. 8. 梅田ガーデンシネマ | |||||
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