ART HAPPEN in TOSAYAMADA 関連企画“自主製作映画野外上映会”

@『チリダンス』 監督 東崎曜子
A『祭り』 監督 小倉りさ
B『赤ぱっち』 監督 堀内佳子
 春に高知市内の映画館で一日上映をし、夏には東京での出張上映まで果たし、それぞれ好評を得ていたとの新聞報道を4月と7月に目にしながらも、観る機会を逃していた『赤ぱっち』を含む、地元製作のデジタルビデオ作品三本が、土佐山田町立美術館の展覧会の関連企画として美術館のすぐ傍にある八王子宮境内にて野外上映されるということで、出向くことにした。大きな鳥居をくぐって進めた車を駐車場にとめ、石段前で料金千円を払い、かなり高いところに位置する境内まで登ると、お堂へと続く石道で前後に分け、後ろ半分にはパイプ椅子、前半分にはビニールシートを敷いて並べた座布団で席を設えた上映会場が現れた。十月に入ると開始時刻の午後七時にはすっかり暗くなっている。そして、南国土佐とはいえ、半袖では少し肌寒いくらいの夜風が穏やかに渡り、境内に張られたスクリーンを時折かすかに揺らせたりする。作品が上映される前から、場の持つ雰囲気の良さが既にある種の満足感を与えてくれる。そんなこともあってか、高知市にシネコンができて以来、滅法客足の衰えが目立つようになった近頃の自主上映会の印象からは破格とも思える、会場一杯の観客動員を果たしていた。上映開始前に穏やかにざわつく百五十人の賑わいが場の持つ雰囲気を更に高めていて、何とも気分がいい。

 最初に上映された『チリダンス』を撮った東崎曜子の作品は、一年半ほど前に高知市のギャラリー「graffity」で『結ばれたいお姫さま番長』を観ていたのだが、そのときよりも随分と作品らしくなっていて予想以上に興味深く観た。前の作品でも思ったことだが、画面に空を取り込んだ風景の切り取りと色合いの冴えに好もしいものを感じるが、30分の短編なのに、作品的には、いくぶん冗長で漫然とした印象を残すところがあるような気がする。前に観た作品とは異なり、彼女が助監督に付いていたという大木裕之作品に頻出するオーバーラッピングが本作では多用されていたが、僕には東崎作品の映像の重なりのほうが好もしく映った。また、眼の大写しやら動物の死体が生々しく映し出されたり、雪山を駆け上がったりする映像があったりもしたからか、彼女はスタン・ブラッケージを意識しているのかもしれないとも思った。そう言えば、一時期イメージ・フォーラムの研究生だったこともあると聞いたことがあるような気がする。そして、浮き世から離れたような若さの特権としての自由と茫漠のなかで、緩やかな共同体的連帯で繋がっているように見える若者たちの浮遊感と倦怠が宿っているとも感じた。そういうところもあって、少々古風な感じを抱いたような気もする。

 小倉りさの8分の短編『祭り』は、高知県下各地の祭りをダイナミックに捉え編集した作品で、手慣れた巧さとまとまりの良さが目を惹いた。津野山神楽や仁淀村の秋葉祭り、伊野町の大黒様、赤岡町のどろめ祭りなどは、観ればそれと僕でも判るのだが、二十歳も年下の小倉りさが2004年から2005年のなかで行ける範囲で撮影してきたとの祭りの数々を観て、思えば、この地に四十余年も住んでいて、僕自身がナマで観たことのある祭りが、今年になって初めて検分した“どろめ祭り”唯一つであることに、もったいなさを促され誘われるような感じを覚えた。

 上映された三作品のなかで最も魅力があったのは、やはり最後に上映された『赤ぱっち』だった。幼い時分に母からの戒めの脅しに使われた“赤ぱっち”の話というのは、高知に生まれ育ったプロデューサー自身の幼少体験だそうだが、熾き火の赤い輝きから赤い毛糸玉に繋いで始まり、時計の赤い縁取り、赤いコート、赤いマフラー等々、画面に赤の配色を凝らしつつ、奇妙で不思議な存在感を備えたキャラクターを配し、幻想的なイメージを豊かに現出していた映像センスには、どこか寺山修司を彷彿とさせるものが潜んでいると思ったら、監督・脚本・撮影・編集を担った堀内佳子は、東北地方の生まれなのだそうだ。東北人にとっては青森と盛岡では大きな違いがあるのだろうが、四国に住む自分からすれば、東北で一括りにして格別違和感がない。
 竹林や木々、草々の緑が美しく、色彩感覚がいい。また、ドキュメンタルな肌触りのある画面のなかに、滅法幻想的であったり現実感を著しく欠いた不思議なイメージが次々と現れ、画面に切り取る“場”に対するセンスが良くて、物語というほどの物語もないのに、とても面白く観た。滝で唄っていた挿入歌は少々興醒めだったが、音楽も思いのほか効果的に配されていた。キツネの面を被った三人の“高知演劇ネットワーク”のメンバーの台詞廻しや双子の娘を演じた二人のユニゾンで喋る台詞の響きもいい効果をあげていたように思う。手作りの低予算作品であることがあからさまに伝わってくるのに、安っぽい印象を与えないのは大したものだ。
by ヤマ

'05.10. 9. 土佐山田町八王子宮境内



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