『アレキサンダー』をめぐる往復書簡編集採録
チネチッタ高知」:お茶屋さん
ヤマ(管理人)


  (お茶屋さん)
 そうそう、『アレキサンダー』は、まだ見ませんか?

(ヤマ)
 もう観たよ。日誌は綴ってないけど。
 プロダクション・ワークが素晴らしい作品やっただけに、ちょっと勿体ない仕上がりじゃったように思うねぇ。

(お茶屋さん)
 私は、『アレキサンダー』については、よくも悪くもオリバー・ストーンだなと(笑)。

(ヤマ)
 確かに(笑)。

(お茶屋さん)
 荒削りな力作ですよね。タイプは違うけど、マイケル・チミノなんかも、荒いけどいい作品を撮って いましたね。

(ヤマ)
 『天国の門』の二の舞にならざったらええけんどね(笑)。

(お茶屋さん)
 いろんなところで賛否両論を読んで、いずれも納得のいく感想ばかりでしたが、KUMONOSの掲示板でシューテツさんが書いていた「悪くはないけど古い」というのが妙に堪えたなー(笑)。私は古いとは思ってなかったので、心の準備ができていませんでした。そうか~、古いのか~。

(ヤマ)
 僕も古いとは思わざったけどなぁ。
 あのダヴィッドのナポレオンの絵のように、二本足で立った愛馬に跨り、同じく二本足で立った巨象と対峙した画面など、観惚れたけんどね~。

(お茶屋さん)
 わははは! あれはハイライトシーンとして複数の方が誉めていたけど、…

(ヤマ)
 あ、やっぱ誰しも思うんだ(笑)。

(お茶屋さん)
 私はあのシーンを見たとき、「やっちまったな、オリバー君」とつぶやいていましたよ(笑)。

(ヤマ)
 ひねた観客やなぁ。

(お茶屋さん)
 あれをやられちゃ、プラトーンで三角形状に突撃して行く兵士を俯瞰でとらえたシーンで、いっきに醒めた過去と重なりました。

(ヤマ)
 あ、そうだったの(笑)。いまだに覚えているんなら、よっぽど興醒めやったんやね。

(お茶屋さん)
 でも、今回は醒めるというより、「やっちまったな」と可笑しかったけど。

(ヤマ)
 いい画だったと思うんだけどなぁ、素直に(笑)。
 そうそう、かるかんにあった「指揮官の判断は、人生のすべてが反映される(byTK)」のTKっていうのは誰?

(お茶屋さん)
 いっしょに見た友人です。仕事が連日深夜に及んで、部下も関係者もみんな帰りたいときでも、指揮官が続けると判断したらそうしなければならない。それがアレキサンダーの東方遠征と重なったようです。

(ヤマ)
 おやおや、何だかえらく卑近な話だったのね(笑)。

(お茶屋さん)
 それで、そのときの(究極の)判断には、その指揮官のそれまでの人生が反映されると。そのことは良し悪しの対象じゃないと。そういう話でした。
 なかなか含蓄があるでしょ?

(ヤマ)
 うん。
 下された判断自体は、善し悪しの対象じゃないよね。けんど、“判断”いうもんは、結果や影響の出方で“当否”を問われるもんやいうことも否めんわねぇ。ただし、結果が出る前においては否応もない性質のもんやけど。
 「大王というより一人の人間としての痛みが伝わってきました」とゆうがは、そのとおりやったと思うけど、そやからこそ、大王としての偉大な部分を台詞だけやのうて、エピソードでも見せてほしかったね。彼なくしては生まれなかったヘレニズム文化というものが、確かに萌芽していきゆうことをしっかりと描きつつ、それが部下たちに理解されん姿や、理想を逃げ道なり口実として東征を続けんとにはおれんかった心情がバランスよう描かれちょったら、もっと面白うて、彼の引き裂かれ具合が哀しく迫ってきたと思うねぇ。
 そうなっちょったら、独善へと至りもする圧倒的権力者の孤独な宿命に若い身空で見舞われた過酷さが、彼ほどの人物においてもなお絶望とともに毒杯をあおらざるを得んようになる心境にまで導いちゅうという姿が、切のう伝わってきたように思うがよ。けんど、そこらへん、ちょっと今やりゆうオペラ座の怪人と同様にドラマとしてのバランスが悪かったように思うね。

 けど、お茶屋さんにとっては、充分以上に心情が汲み取れたようで、そうなると、なかなか面白い人間ドラマにはなっちゅうよね、骨格は。ちょうど『オペラ座の怪人』がそうであるように、ね(笑)。

(お茶屋さん)
 自分でも不思議ですが、どちらの映画も充分以上に心情が汲み取れてしまったよ(笑)。
 どうして、私は可哀相な主人公が好きなのでしょうか?

(ヤマ)
 人間が優しいんやろねー、きっとお茶屋さんは。

(お茶屋さん)
 おありがとうございます~(^_^)。
 自分自身では、サドかと思っていました(爆)。

(ヤマ)
 けんど、『オペラ座の怪人』は否とする者もいる一方で熱烈な支持者もおるに、なんで『アレキサンダー』には支持者がこれほど少ないんじゃろうかね(笑)。オリバー・ストーンの不徳か、コリン・ファレルの不徳じゃろうか(笑)。

(お茶屋さん)
 はははは。と笑えるところではありますが、それが熱烈な支持者がいるんですよ。『アレキサンダー』にも。

(ヤマ)
 ってことは、ファレルのフェロモンが効いたのか?(笑)
 熱烈な支持者は、やっぱり女性に多いの?

(お茶屋さん)
 『トロイ』や『キング・オブ・アーサー』よりずっと歴史及び人物を掘り下げているとか、…

(ヤマ)
 うーむ、比較の対象がトロイと『キング・オブ・アーサー』じゃねぇ(苦笑)。

(お茶屋さん)
 アメリカで『アレキサンダー』が受けなかった理由の分析とか。

(ヤマ)
 イラク問題とかネオコン的覇権主義との関連でかね?
 なんか、そういうの、オリバー・ストーン自身も不本意なんじゃないかな。

(お茶屋さん)
 私は仲間ほしさに、めずらしく感想を検索したんですよ。

(ヤマ)
 面白いのがあったら、教えてよ。

(お茶屋さん)
 『アレキサンダー』の感想でおもしろかったのは、以下のサイトです。カッコ書き がサイト名。
 ●アレキサンダーのシネマレビュー(みんなのシネマレビュー)
 http://www.jtnews.jp/cgi-bin/review.cgi?TITLE_NO=10959
 今のところ、20人のレビューが載っています。10点満点で平均は、6.5点です。 ほとんど、もっともな感想だと思いました。
 ●アレキサンダー(シカゴ発 映画の精神医学)
 http://eisei.livedoor.biz/archives/10282537.html
 ストーン作品が好きという方の感想。ブログ形式なので、上記のページにトラッ クバックしている感想も読みに行けます。
 ●「アレキサンダー」の心理 母との関係性(シカゴ発 映画の精神医学)
 http://eisei.livedoor.biz/archives/14685697.html
 アメリカ人に受けなかった理由を分析しているページ。

 やおらーの方の感想も読みたかったけど、なかなかないんですよねー。と思ってい ましたが、本日、「アレキサンダー 腐女子」で検索したら、ぽつぽつヒットしま した。読み応えのあるのが少なかったですが、次の感想とヘファイスティオンを学ぶページは、ちょっとおもしろかったです。
 ●「アレキサンダー」レビュー(ARDA)
 http://slash.sakura.ne.jp/alexander/review.html
 ●ヘファイスティオンを学ぶ!(ARDA)
 http://slash.sakura.ne.jp/alexander/abouthephaestion.html

(ヤマ)
 ところで、かるかんで指摘しちゅうところに戻ると「登場人物の顔が傷だらけということに感心」には、なるほどとこっちが感心(笑)。

(お茶屋さん)
 えへへ、そうぉ(*^_^*)。
 でも、みわさんみたいに太ももにも注目すべきだったと後悔してます(笑)。

(ヤマ)
 それで言えば、それこそトロイのほうが大腿映画だったような気が(笑)。
 それはともかく「ベトナムで地獄を見たストーン監督ならでは」と繋げちゅうとこには更に感心したでぇ。
 「母親と離れていたいのに、選んだ結婚相手が母そっくり」という設定は、含蓄があってよかったでね~。呪縛でもあるし、やり直し的な補償行為でもあったがやろうね。
 「プトレマイオスがアレキサンダーについて述べる言葉は、ストーン監督の大王に対する論評と言ってよいでしょう。」というのは、まさにそのとおりやと僕も思う。だからこそ、これをプトレマイオスの言葉じゃのうて、ドラマで見せてほしかったわけよえ(笑)。
 権力に近いところにおる側近者には見えん姿として、王の理想は理解せずとも身を以て新世界を発見し喜びを得ゆう民の姿とか、それがあくまで侵略としか映らん民の姿とかの混在による“混沌とした新世界の生まれ出ゆう部分”を絵にしてもらいたかったし、オリンピアスがぼやくほどに自らの富への執着心をみせんかった大王の姿を、自身の部下への恨み言のような台詞じゃなしに、大王を讃え、喜ぶ兵士の姿とともに描いてもほしかったように思うけどなー。
 お茶屋さんが書いちゅうように、だいたいプトレマイオスこそが「大王が求めた理想郷を理解するに至った初めての人物、心の後継者」として登場しちょって、彼の口述筆記で語られゆう物語やのに、物語のなかでのプトレマイオスの存在感が乏しすぎるし、大王の夢見た理想が描かれなさ過ぎという気がしたんよね。

(お茶屋さん)
 あたたたた。痛いとこつくねー。って、全体的に誰が誰やら(笑)。名前長すぎ!

(ヤマ)
 名前のせいじゃないね、エピソードの描き方が乱暴なの(笑)。
 けんど、僕の例の9段階評価では「A下」としちゅうように、A級作品であることは間違いないと思うで。

(お茶屋さん)
 おお、うれしいですねー。

(ヤマ)
 ただ、これだけの好材をこれだけの大金を掛けて、ちょっと勿体ない出来じゃないかと惜しい気持ちが拭えんわけよ(笑)。

(お茶屋さん)
 そこがストーンならでは(笑)。

(ヤマ)
 そう言われちゃあ、確かに仕方ないかなって気になるねぇ(苦笑)。
 けんど、ストーンのよさは、それを補うて余りある「志」が宿っちゅうときに以てよしとするんじゃけど、今回はそこんとこが不足しちょったように僕の目には映ったがやけんどね。人物を描こうとしちょったでしょ。お得意の権力批判や社会問題的な告発みたいな描き方じゃなかった。題材がヨーロッパのアジア侵略とも言える“大王の東征”やったけんど、僕には、あくまで歴史物として稀代の人物の人間像を求めた作品やったように見えたきねー。
by ヤマ(編集採録)

'05. 3. 5. 松竹ピカデリー3
 

追記の往復書簡(2005年7月26日 0:20:17)

(お茶屋さん)
 ヤマちゃん、勝手口にも書いたんですが、おもしろいページを見つけました。ぜひ、ご一読を。
 『アレキサンダーの悲劇 アメリカの悲劇』
  立花隆 (http://moura.jp/scoop-e/mgendai/200503/)

(ヤマ)
 お茶屋さん、こんにちは。
 早速、拝見したで~。うん、確かに勝手口に書いちゅうように「3回半見て理解できたという知的興奮が伝わってくるのが面白かった」ねー。
 僕は、お茶屋さんとの対話で「彼なくしては生まれなかったヘレニズム文化というものが、確かに萌芽していきゆうことをしっかりと描きつつ、それが部下たちに理解されん姿や、理想を逃げ道なり口実として東征を続けんとにはおれんかった心情がバランスよう描かれちょったら、もっと面白うて、彼の引き裂かれ具合が哀しく迫ってきたと思う」と言うちゅうように、立花氏が言うところのプロメテウスの部分には大いに関心があって、たとえ字幕で訳されちゃあせんかっても「権力に近いところにおる側近者には見えん姿として、王の理想は理解せずとも身を以て新世界を発見し喜びを得ゆう民の姿とか、それがあくまで侵略としか映らん民の姿とかの混在による“混沌とした新世界の生まれ出ゆう部分”を絵にしてもらいたかった」わけやから、ここんとこがギリシャ神話の5人へのオーバーラップのうちの一つのような形での「澄ましたオシャレ」で片付けられてちゃ、やっぱ不満~(笑)。

 あと、ギリシャ時代の同性愛のこととか、プラトニック・ラブの元来の意味とかってのは、予備知識的に持っちゅうことやったき、改めてのものじゃなかったけんど、マケドニア軍が当時なんで強かったのかってことで、それが軍隊ながら民主的統率を果たしちょったからやというがは初めて知ったことで、そこんとこからクレイトスとの軋轢を解説した部分は、とっても面白かったよ。

 けど、やっぱり「現代アメリカとの比較」と来るのか~って部分は、お茶屋さんが勝手口で言及しちゅうように、ちょっとがっかり(苦笑)。むしろ「ギリシア神話“悲劇の五人”」として「基本構造で最も重要なものは、神話的構造(ギリシア悲劇的構造といってもよい)である」と喝破したがやったらこそ、その重ねた悲劇の五人がなにゆえ選ばれちゅうがかを以って作り手の意図がアレクサンダー大王の人間像の模索にあったことを明言してほしいように思うたねー。僕がお茶屋さんとの対話の結語として「題材がヨーロッパのアジア侵略とも言える“大王の東征”やったけんど、僕には、あくまで歴史物として稀代の人物の人間像を求めた作品やったように見えたきねー。」としちゃあるとおり、僕としては、この作品のもっとも肝要な部分やと思いゆうきねー。けんど、そういう意味でも、この「ギリシア神話“悲劇の五人”」の指摘は、僕にとって大いに役立つというか、自分の観て取ったものを補強してくれるものやと嬉しゅう思うたよ。ありがとう。

(お茶屋さん)
 返信が早いねー。
 メールを出した後で、ヤマちゃんもプロメテウスのこと言っていたような気がして、 釈迦に説法の立花評をおすすめしてしまったかなと思っておりましたが、ヤマ論の 補強材料になったようで、よかった、よかった(笑)。



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