冬になっていくにつれて、大堰川のほとりの(明石の上の)住まいはいよいよ心細さが勝り、(明石の上は)落ち着かない心地ばかりしながら毎日を送るのだが、(源氏の)君も、「やはりこのままでは(ここに)過ごすことはできまい。あの(邸に)近いところに移ろうと決心しなさい。」とおすすめになるけれども、(そちらに移っても、源氏の)冷淡なところをたくさんすっかりと見極めてしまうとしたら、(源氏に対して)未練の残らない心地がするに違いないが、その時は何と言って(泣こうか)などと言った風に心が乱れるのであった。源氏は、「それではこの若君をそこに移そう。このままでは不都合なことだ。(私にも)考えていることがあるからもったいない。紫の上に置かれては、(以前から噂を)聞いておいて いつも (姫君を)見たがっていらっしゃるから、しばらく世話をさせて、袴着(はかまぎ)のことなども世間に聞こえる程度にはしようと思うのだ。」と心を込めて お話になる。明石の上は源氏がそのようにお思いであろうと常々思っていたことであるから、一層 心が騒ぐのであった。明石の上は「あらためて(姫君が)尊い 身分として扱われなさっても、(姫君の)素性(すじょう)を世間が漏れ聞くならば、(源氏は)かえって取り繕い固くお思いになりましょう。」と言って、姫君を手放しがたく思っているのは、無理もないのだけれども、源氏は、「安心でないように(扱われるので)あろうかなどとはお疑いなさるな。あちらでは、何年にもなるが、このような子供もないのが寂しく思われるままに、前の斎宮(さいぐう)で大人らしくなっていらっしゃる方をさえ、無理にも自分の娘としてお扱い申している様子ですから、ましてこのように憎むにも憎めないような様子を、いい加減に見捨てようはずがない(紫の上の)気持ちなのだ。」などと女君(紫の上の)ご様子の理想的なことも 話になる。
本当に昔は、どのくらいの人ならご本妻になさるのかと、噂ながらも(明石でも)薄々聞かれた(源氏の)風流心が、すっかり落ち着きなされたのは、並一通りのご宿縁ではなく、紫の上のご様子も、大勢のご婦人の中で一番でいらっしゃるのだろうと想像されて、人の数でもない者がご一緒させていただける寵愛でもないのに、それでも(明石からここまで)出てきて、あの方も(私のことを)あきれたこととお思いのこともあろうか、自分はどうなっても同じこと、将来のあるこの人の 身の上も、いずれはあの方のみ心に従わなければならないであろう。そうであるなら、本当にこのように物心つかないうちに差し上げ申し上げようかと(明石の上は)思う。(しかし)また、手放しては心配であろうし、手持ち無沙汰も 紛らわす方法がなかったら、どのように日を送ったら良いだろう。何によって時たまの(源氏の)お立ち寄りもあるだろうなどと、(明石の上は)あれこれと心が騒ぐので、(わが)身のつらいことは限りがない 。【薄雲】
源氏物語「二葉の松 1/4」(薄雲) 解答用紙(プリントアウト用) へ
源氏物語「二葉の松 2/4」 さかしき人の〜十二月にもなりぬ。(薄雲) 問題 へ
源氏物語「二葉の松 3/4」 雪、霰がちに〜けはひあはれなり。(薄雲) 問題 へ
源氏物語「二葉の松 4/4」 姫君は、何心も〜きこえたまふ。(薄雲) 問題 へ
トップページ | 現代文のインデックス | 古文のインデックス | 古典文法のインデックス | 漢文のインデックス | 小論文のインデックス |
---|
「小説〜筋トレ国語勉強法」 | 「評論〜筋トレ国語勉強法」 |
---|
マイブログ もっと、深くへ ! | 日本語教師教養サプリ |
---|
gtag('config', 'UA-163384217-5');