サイダーとモネとシスレー ためんこんだひかりを空に還す約束
ぎりぎりでライン破らぬボールへと「怒れぬ若者たち」の疾走
パーカーの肩にしずかに降る雪をしずかに殺してしまう手のひら
〈化学死んだ〉〈数学死んだ〉生きていてくれればいいが死にすぎだろう
〈理由なき宿題わすれ〉〈動機なき犯行〉そよぐ葉の影の子は
ざらついた舌にマンゴーのせるとき夕陽の通学路の味がする
永遠と聞きまちがえてあの夏を泳ぎつづける遠泳の子よ
落ちてくるさくらの花を打ちかえす野球部のあほの袖のかがやき
グラタンが好物だよねといつもいう母の記憶は更新されない
ポケットに誰もが銃を持つような整列指導の寒き体育館
シュガースティックふたりで分ける輝きをこの東京で離さないから
長雨を傘も差さずにやりすごす ひとりきり 夏 アフガン 自爆
交差点 まだ生きているホッカイロを左手へ投げ右手にかえす
悪政はとおくの国の話だと言いよどみつつヘビイチゴ踏む
嫌いでも好きでもないがコンビーフたしかに家族の味だったこと
祈りの形に翼をたたむ鳥を見て 死なないことが生きることだから
散るときは全力で散る花があり 破壊の 雨の バフムトの 大地
考えて書けない答え〈戦争は身近にあると思いましたか?〉
〈陰キャ〉だが好意を寄せる人がいた。それすら悪のように語られた。
英米文学専攻の学生として、英語教師として、異国の香りと青春性に満ちた一冊。高校生だった自分が高校教師となって学校にいる。歌集後半は、社会詠も多い。「かりん」に入会した2016年~2024年の約9年間を収めた第一歌集。1992年横浜生まれ。
※とにかく「カタカナ」と上記に引いていないが「詞書」が多い。