子をなしてハンディー背負うは女ゆえ君が決めよと同業の夫
背広にしか着かぬ印章配られてオフィスのデスクの奥に押し込む
男なら軽々持てる磁力計に担当者われは他力を頼みぬ
子の一年僅かと知りつつ吾の一年長しと思えり育児休業
定年まで勤め続ける約束の住宅ローンに実印を捺す
終業のベルと同時に駆け出せるベルサッサ組とわれも呼ばれぬ
子を持ったマイナスばかり数えいるわが顔が澄んだ子の目に映る
吸収合併のニュースを見れば十年前女は要らぬと言われし会社か
研究と家庭は両立せぬものと妻子ある身の男言いおり
離婚増は女の自立が原因と自立できない男は言いおり
雨降れば死にたい人が減るという朝の電車が定刻に来る
電子レンジで卵が爆発するような予感抱えて地下鉄に乗る
なぜ旧姓を使いたがると責めらるるそれなら君が姓変えてみよ
母の肩を揉めば私の肩が凝る老々介護の前触れなりや
不惑とは迷わずではなく迷っても引き返せない 両目を閉じて
仕事削り子に向ききしが昇格の遅ればかりを指摘されいる
森尻さんは1963年生まれ。22歳の時、男女雇用機会均等法が制定され、いわゆる一期生と呼ばれる。均等法制定後、初の社会人として社会の期待と希望を持って働き始めた世代である。森尻さんは、国の研究機関で地質調査等をこなす研究員だ。私は、女性労働者の歌について、いろいろ調べているうちに、この歌集に行きついた。