【vol.239】木畑紀子『女郎花月』柊書房

しらじらと苞葉垂れてハンカチの木はハンカチを振りつかれしや

色界ゆ無色界へゆく日のあらむ銀の雨ふるけふの畑みち

紅芙蓉、酔芙蓉見たる眼を浄め白芙蓉ゆるる禅寺の庭

さくらばな咲ききれば白 みづの面(も)に散りつくせば無 ただ風の音

公園のふつきん台にあふむきて一〇回春の空にちかづく

木槿花あまたにまじり落ちてをり花のつもりの洗濯バサミ

てのひらにのせればはつか鳴りにけり張子ねずみの鈴の心音

時々刻々感染列島塗られゆく〈コロナ〉が〈愛〉であればいいのに

こころとは思ひのふくろ 種子秘めて風に遊べるふうせんかづら

さみしさも歌に実れよくりの木にあをいが太る女郎花月(おみなへしづき)

赤梨の実も青梨の実も剝けば無垢のましろき水の球なり

たんぽぽのあはひにさくらはなびらが散り込み春の点描画を描く


〈初期作品〉

ひと恋ふるよろこびにをりしはつ夏の花ざくろけふ熟れて実を裂く

トゲをもつ父母の言葉に背くごとひと恋ふる日を重ねつつあり

ゆきすぎて後に香りはくるものとゆかしきことをけふ一つ知る

揺り椅子に白き毛糸を編むごとき余裕にあらず身ごもるとふは

糊かたくつけてふたたび着ざりしが恋してをりし日の夏服よ

もの言はず線描く内職トレースは生活のためだけにはあらず


 

第七歌集。2018年~2024年の最新歌に加え、第一歌集に収められなかった10~30代の貴重な初期作品が納められている。最新歌では「白」に落ち着くような歌が多い。初期作品には、恋の激しさを秘めた歌があり、木畑作品を読む上で本当に大切な1冊だと思う。

2025年06月01日