命を守る最善の行動

 

ペトロ 晴佐久 昌英

今月12日、台風19号が東京都を直撃した夜、私たちは本当に怖い思いをしました。
何日も前から、メディア上に「50年に一度」とか「命を守る最善の行動を」といった言葉が溢れ、当日はコンビニの棚から食品が消え、そのコンビニも午後には続々閉店して、町が静まり返っていたのを忘れることが出来ません。
夕方には台東区でも一部に非難準備・高齢者等避難開始が発令され、区立忍岡小学校などが避難所となり、忍岡小学校には実際に30人ほどが避難しました。
そんな夕方、次第に雨風が強まってきたころ、教会を一人の方が訪ねてきました。
今晩行く当てがないので、助けてほしいというのです。
話を聞けば、刑務所を出所してからしばらくは職場の寮で暮らしていたけれど、問題を起こして追い出され、ネットカフェでしのいでいたけれど持ち金がなくなり、そんな日に、ちょうど強力な台風が来るということで、何とか今夜と明日の夜をしのぎたいとのこと。
彼の話では、ネットに「最近カトリック浅草教会で助けてもらった、そこの神父は上野教会と兼任だ」という報告が載っていたそうで、さっそく浅草に行ってみたけれど、誰もいなかったので上野まで来たということでした。
雨の中を歩いてきた彼を放っておくわけにはいきません。夜遅くには、暴風雨圏の中心部が通過します。
教会に泊まるか、ネットカフェ代を用立てるかを尋ねたところ、ネットカフェに戻りたいとのことでしたので、二日分の代金と夕食を差し上げました。
と、ここまでは翌日の主日ミサでも報告したところですが、その後になって驚愕のニュースが飛び込んできました。
その夜、忍岡小学校避難所に避難しようとした3人の路上生活者が、台東区民でないという理由で避難を断られたというのです。
3人は仕方がなくいつも寝泊まりしていた路上で雨風をしのいだのですが、うち1人は体調を崩して一週間ほど入院したということです。
しかも、受け入れを拒否した避難所では、当日、区外に住む人や他県から来た旅行者を受け入れていたというのですから、これは明らかな差別でしょう。
あんまりです。
あの夜の暴風雨を思い出してください。
避難を断るということは、「死ね」ということです。
ちなみに台風19号による東京都内の死者は1名のみですが、その方は、路上生活者でした。
幸い、上野教会は頑丈なコンクリート造りで、広いスペースもあり、災害用の備蓄も用意してあります。
様々な災害が激甚化している昨今、自分の命を守るのはもちろんですが、「最も弱い立場にある人の命を守る最善の行動」をとるのは、教会の義務であり、使命です。
公的な避難所にこそなりえませんが、避難所のように使っていただくための工夫と準備をしておくことはできるはず。
もしも今後、あの夜のようなことが起こりそうなときは、あらかじめ教会の門前に、「よろしかったら、どなたでも避難所としてご利用ください」と掲げ、路上生活者に避難所マップを配っている市民団体にも連絡しようと思うのですが、いかがでしょうか。

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