あの時のプレゼピオ

 

ペトロ 岩橋 淳一

宿屋はすでに満室だったため、許しを得て町の外にある家畜用洞窟の中に入ったヨセフと身重のマリア……。
住民登録のため二人の本籍地であるベツレヘムでのことである。
マリアの出産にそなえ、ヨセフはワラの上にマリアを休ませ、家畜用の飼い葉おけの中にワラを敷きつめ、生まれるこどものためにベッドを準備する。
真夜中、マリアは男の子を出産、かねてより決めていた名、イエスと名づける。空には月、星の大群、また大地は風がなで砂漠地帯特有の潅木(かんぼく)が揺れている。
洞窟の中は羊、山羊、ろばなど家畜たちが休んでいる。
時々ろばの発する鼻息が、周囲の静けさを極(きわ)だたせている。
だれも気にとめない、昨夜と変らない見慣れた情景。
まるで大自然の呼吸の一部のような幼児の誕生。
イエスが最初に吸った空気は、まさにここに流れる清らかな貧しさである。

金持ちの父親と決別し、貧しさを求めたアッシジ(イタリア)のフランシスコ(1181~1226)……。
同志たちと「小さき兄弟会」(後のフランシスコ会)という修道会を創立し、キリストの福音を人々に伝えて回る。太陽、月、星、風、空気、雲、空、天候、水、火、大地、人々、死などに対して「兄弟姉妹よ!」と呼びかけ、ともに神を賛美し、その恵みを感謝する生活を旨とした。
神との深い交わりからわき出るフランシスコのことばは人々の心を強くとらえ、無心の小鳥、魚、羊、狼さえもおとなしく聞き入ったと伝えられる。

まるで飼い葉おけの中に寝かされた幼な子イエスと同じ感性を身に受けたようなフランシスコ。
かれは特にその情景を愛した。
それゆえかれはクリスマスを迎える季節には、あり合わせの物でその情景を作り、その前で深く祈った。
この「プレゼピオ」(飼い葉おけの意、イタリア語)と呼ばれるクラフトは、その後全世界に拡まったのである。
飼い葉おけのワラの上に幼な子イエスを横たえる―ヨセフとマリアが傍らで愛しい眼を注ぐ―羊、山羊、ろばなどもイエスを凝視している……。
今日では日本の教会聖堂の中にでさえこの「プレゼピオ」がクリスマス・シーズンに設置されるほどである。
フランシスコの生地アッシジはもちろんのこと、イタリア中の建物の角、広場、聖堂、修道院で「プレゼピオ」が飾られ幼な子イエスの誕生を祝う。
人間社会が豊かになり、人々は着飾り、レストランで舌鼓を打っていても、「プレゼピオ」は、あの時のように質素さを保ち、あの時を再現しようとしている。
あの時の静寂さ、自然の呼吸を現代人は感じることができるのだろうか。
イルミネーション、ショッピングモール、クリスマスソング、プレゼント、車の往来、ケーキの甘い香り……それらがあの時を寄せつけないのかもしれない。
清貧生活を目指したフランシスコは、イエスの誕生の現場に釘付けになり、自ら「プレゼピオ」を作り、その前で清らかな貧しさに包まれたイエスを目にしたことであろう。
1979年、前教皇ヨハネ・パウロⅡ世は、フランシスコを「エコロジストの守護聖人」と認定し、未来へと向う人類社会、地球そのものにフランシスコの清貧を投影したのもうなずける。
クリスマスを迎え、プレゼピオの前に佇むとき、私たちをとりまく地球環境と消費生活そのものに眼を向けることは、大変有意義だと思う一人である。

クリスマスを飾る脇役たち

☆クリスマスに馬小屋(プレゼピオ)を飾るのは・・・

馬小屋(プレゼピオ)をはじめて作ったのは、イタリアの聖人アッシジのフランシスコだと言われています。
1223年イタリアのグレッチオで聖フランシスコは、イエスの降誕の馬小屋を飾って、村人と共にクリスマスを祝いました。
今ではクリスマスが近づくと、この馬小屋を飾り、私たちの救いのために貧しい馬小屋で小さな赤ちゃんとしてお生まれになったイエスさまのことを思い起こすのです。

☆世界中が一緒にお祝いするクリスマス

聖書の中のイエス誕生の物語では、それが何時なのかは書かれていません。
そう、イエスの誕生日は実は誰にもわからないのです。
古い暦では12月25日を「光の生まれる日」としていました。
そこでイエスさまがお生まれになった日は「光の生まれる日」が最もふさわしいとなったのです。
イエスさまはこの世に希望をもたらすためにうまれてきたのですから。
春の始まり、豊かな実りを祈る、光の生まれる日、そしてイエス・キリストの生まれた日。
クリスマスは私たちに人の力が及ばない世界があることを、そして目に見えなくても大切なものがあることわ教えてくれる、復活祭に続く大きなお祝いの日なのです。

☆クリスマスツリーの由来

クリスマスはツリーは国によってさまざまですが、もみの木、松、ヒイラギ、ヤドリギ、月桂樹、キヅタなど常録樹を使います。
冬になっても枯れない常録樹は、永遠のいのちのシンボルとして、キリスト教以前から、冬から春になるまで家の中に飾られてきました。
古くからヒイラギやヤドリギ、もみの小枝には健康や豊作を与えてくれる魔法の力があると信じられていたのです。

☆サンタクロースってどんな人?

子供達にプレゼントを運んでくるサンタクロースは、4世紀頃の小アジア(現在のトルコ)のミュラのカトリック教会の司教セント・ニコラス(聖ニコラス)と言われています。
困っている人や貧しい人を助ける、心優しい聖人でした。
ある夜、娘たちを売らなければならないほど貧し家族のもとに、その家の煙突から金貨を投げ入れて娘たちとその家族を救いました。
投げ入れられたその金貨はちょうど暖炉のそばに干してあった靴下の中に・・・・。
靴下を下げてプレゼントを待つのはそんなお話からきているのですね。

前の記事を見る うぐいす目次へ 次の記事を見る