vol 10 : 怖がりな人


歴史の授業は嫌いじゃないが好きでもない。
午後の授業は眠気に襲われる。

「ふぁ~・・・」

俺の隣の席は女子で、いかにも優等生の雰囲気。
つまらん。実につまらん。

「あの・・・戌尾くん?」

「あ?」

「ん、何?」

俺は頬杖つきながら、隣の女子を見ていたらしく問いかけられる。

「いや・・・別に。」

後ろからクスクスと違う女子の小さな笑い声。

「カン、溜まってんじゃないの~?」

最近の若い者は、下ネタを軽々しく口にする。
親が聞いたら泣くで。

授業終了のチャイムが鳴り、やっと終わったと机に寝そべる。
賑やかになる教室に俺の名前を呼ぶ声。

「戌尾~?誰か呼んでる~。」

女子に呼ばれて教室の入り口に顔を向ける。
名前を呼んだ女子が俺に近付き顔をしかめて話かけてきた。

「アンタ、女から呼び出しって何よ。」

「女?・・・知らんよ。」

ゆっくり立ち上がり睡魔からまだ覚めない感覚で教室の入り口に向かい、
呼び出した相手に視線を向ける。

「・・・お前、戌尾だな。ちょっとツラかせよ。」

つ、ツラですか。その女子とは校内で有名の不良。
名前は、なんやっけ?

「ちょっと!カンなにかやったの?あれ不良の五百崎じゃん!」

ヒソヒソと周りから俺を心配した声が飛び交う。
そうや、五百崎や。つか、その不良女が俺に何の用やろ。
校内の視線を浴びながら五百崎の後を歩く。
まだ、眠い。

体育館裏に到着。俺、ヤキいれられるんやろか。
霊以外でこういうの無いから、なんや笑える。

「何、笑ってんだよ・・・。」

「あ?いや・・・別になんも。」

どうやら顔がニヤけていたらしく、五百崎は俺を睨むように見つめる。
けど、なんやろか。なんかオドオドしてるっちゅーか・・・。

「あ、あのよ。話っていうのはだな・・・」

五百崎の話が始まった。内容は意外なものやった。
どうやら、五百崎は幼い頃から霊を感じるらしく、
見えたり見えなかったりで怖くて堪らない日々を送っているらしい。
寝ていて腹のあたりが重いと感じ目を開けると老婆が体の上に、
座っていたり、テレビを見ていると窓のガラスがガタガタと音をたてたり。
そんな日々で親がお好み焼き屋をしている為に一人が多く、
怖くて悩まされるという内容やった。

「なんでお前に話たかって言うと、お前に話せって言われてるようで。」

「俺に?」

俺が霊を見える事は、オカン・松吉・大樹しか知らん。
学校にはそれなりに話す奴らはおるけど、そんな話はした事ない。
せやから、何かあるなって思った時や。

「痛いっ!」

目の前で五百崎が右肩を押さえて痛がり始めた。

「おい、大丈夫か?」

俺は相手に問いかけると、五百崎は恐怖に怯えた顔で俺を見、

「戌尾、助けろ。怖い。なんか憑いてるのか?アタシに!」

その言葉に不安な気持ちが伝わる。
目を凝らして痛がっている肩を見つめるも何も見えない。
俺は相手に近付き、痛がる肩に手を翳してみた。
グワングワンと手のひらに何かが感じる。

(誰かおるん?)

心で問いかける。返事なし。
でも、確実になんかいる。

(五百崎になんの用やねん。答えろや。)

すると俺の体に何かが入って来た。

「痛みが・・・止まった。」

不思議そうに五百崎は俺を見る。
俺はイタコの様に中にいるモノに口を預けた。

『・・・私はお前の土地に住むモノ。』

「い、ぬお?」

『一人で何を悩む。お前に何ができる。それよりも、もっと自分に悩め。』

中にいるモノは蛇や。昔、五百崎のオカンと婆ちゃんが網に掛って、
死んでいる蛇を網から外して自分の庭に埋めている。
幼い五百崎が蹲って部屋にポツンと座っている。
人より感情が強く、世の中の乱れを人一倍感じてしまう。
テレビの内戦を見ている五百崎。
何も出来ない苛立ちや悲しみで小さく小さく蹲る。
その気持ちを当たるかのように徐々にツッパリ反抗する。
でも空回りばかりで・・・。
そんな光景が閉じた目に浮かび誰も知らない五百崎を俺は知ってしまった。

「・・・ふ、ぅ」

鳴き声に俺は目を開けると、目の前で五百崎が泣いていた。
誰にも話せなくて、話すにもどう話せばいいのか解らなかった五百崎に、
俺は自分とある意味似た性格だと思った。

「五百崎、どないしたん?」

わざと問いかける。

「アタシ・・・」

言いたいのはきっとこうやろ?
アタシは自分に悩んだことなんてなかった。
悩んだとしても、自分の力の無さ。

「そんなん、俺もいっしょやで?
俺かて、一人で苦しんでたんやもん。一緒や。」

泣き顔を必死で腕で拭う相手に伝えてやりたいと思った。

「俺な、お前といっしょで幽霊見えるねん。まぁ、俺の場合は、
元々と違うけど。お前に憑いてたんは・・・」

蛇がなぜ五百崎に憑いていたか理由を教えた。

「霊ってな、怪談とかは怖い幽霊話とかしかないけど、
実際はそんなんばっかりと違うねんで?お前も守られてるんやから、
毎晩一人のようで一人やないねん。怖いのは理由を知れば怖くなくなるよ。」

俺の話に涙も止まり、キョトンとした顔で俺の話を聞く。

「確かに、そんなん見えたら怖いけどな。でも、お前に見えるっていう事は、
霊にとってはもの凄い嬉しい事で、もの凄い希望やねん。せやから、
なるべく怖がらんといたってや。ほんで、肩とか痛くなったら、言うこと。
私には何も出来ません。せやから解る人のところに行って下さい。って。」

笑顔で話す俺に、五百崎はウンウンって聞いてた。
時間が過ぎて話す間に二人でコンクリートに座り込んでたんや。

「へー、そうなんだ。理由かぁ。アタシに聞けるかな。」

「できるできる。最初は大変やけどな。」

笑顔を見せだした五百崎に俺はホッとする。

「か、カンっ!」

名前を呼ばれて振り向くと、男女の同じクラスの奴らがホウキやら持って、
ビビったような腰付きで覗いてる。

「ぶ、無事か!」

「・・・無事やけど、どないしたん?ホウキ持って。」

「どないしたんじゃなくて、助けに来たの!」

どうやら、ヤンキーの五百崎に喧嘩でも吹っ掛けられてる思て、
助けに来てくれたらしい。俺そないに大事にされとったんや。
可愛い奴らやな~。ぷぷっと笑いながら立ち上がり、五百崎の腕を掴んで、
立たせると皆の前に連れて行き、

「こいつ、4組の五百崎 薫ちゃんや。俺の友達。」

「と、もだち・・・?」

五百崎は目を丸くして俺に問いかける。

「せやで?何言うてるん。友達やんカオルちゃん。」

笑顔で答える俺に、五百崎は徐々に表情を緩ませ、

「そうか。カン。」

こうして、校内に霊と関わる怖がりな友達が出来た。
まぁ、カオルちゃんの場合、霊は怖いけど人は怖くないみたいで、
あれからも先生相手に怒鳴ってるんやけどね。

その夜、カオルちゃんちの土地の主が来た。
生前は蛇やったけど、今は人の形をした女の人や。

(私の気持ちを伝えてくれて感謝している。)

「あぁ、あんなんしかできへんけどな。」

(根はとても優しい子。ただ、その気持ちすら抑えてしまう。)

「みたいやな。大体は解ったで。アイツの殻見えたから。」

(お前は神がいろいろと憑いているようだな。
お前の事をとても良く言っていた。)

「ニコニコさんかな。良いも何も、我儘ばっかり言うて困らせてんねん。」

(我々にとってお前達の我儘はとても必要だ。薫にもそう伝えてやってくれ)

「わかった。お疲れさん。」

こうやって俺ら人間は、目に見えへん何かに見守られて生きてる。
それを知ってるんは、ごくわずか。
それでも、目に見えへん何かは大切に俺らを見守ってる。


怖がりな人に告ぐ。
怖がらんでもええよ。味方はすぐそこにいるから。




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