『四万十川』['91]
『祭りの準備』['75]
監督 恩地日出夫
監督 黒木和雄

 今回の課題作には、新旧とも言い難い旧古とも言うべき四万十映画の二作が並んだ。現四万十市を舞台にしながらも片や海沿い片や山奥と対照的な居住圏でのほぼ同じ時(1959年)を描いて興味深い、なかなかのセレクションだと思った。

 先に観たのは、三十五年前の作品『四万十川』。『祭りの準備』は僕には珍しく何度か観ているが、こちらは公開時に観て以来だったからだ。明仁上皇の成婚と伊勢湾台風の年だから昭和三十四年、僕が一歳の時分になる。四万十川で鰻採りをする兄弟の兄ぃちゃ~んと呼ぶ声で始まる本作には、僕が懐かしく感じられる風物がたくさん詰まっていたから、いま観るほうが余計に響いてくるところがあるものの、ALWAYS 三丁目の夕日['05]的な昭和ノスタルジーとは対極にある、不条理に苦しみつつ生き延びて行こうとする人々の姿を描いている作品で、あまり愉快な気分にはなれない映画だ。

 宇和島の闘牛を僕は生で観たことはないが、西土佐の火振り漁は観たことがある。今でもまだ残っているのだろうか。C56の蒸気機関車を走らせていた。ケンカは気力やぞ、破れかぶれになったもんが勝ちやぞとしっかり者の兄が、優しく気弱な弟を諭していたが、これは子供時分だからこそのものであって、大人になってもこれだと始末が悪い。ましてや権力者となれば、もはや言語道断と言う他ないのだが、嘆かわしいことに、世の権力者たちがポピュリズムの元、どんどん幼稚になってきている気がする。これに利権が絡んできているものだから、実にタチが悪い。


 翌日観た、籠のなかのメジロの囀りで始まり、楯男(江藤潤)が籠から解き放って旅立つ上京で終える祭りの準備は、九年ぶりの再見だ。劇中登場する映画『錆びたナイフ』僕は泣いちっちが示しているように、また、娼婦(芹明香)が仄めかしていた売春防止法の施行からしても、まさしく『四万十川』と同時代が舞台になっている作品だ。オープニングで幸徳秋水の墓を覗かせたりもしているのだが、楯男が思いを寄せる涼子(竹下景子)をたぶらかすオルグ男に言及させていたりするところが目を惹く。それにしても、最後の場面の利広(原田芳雄)は何度観ても好いと改めて思った。人生に敗れ殺人犯にまで落ちている自分には叶えられなかった大望を託すかのように万感の想いで見送り、手を振る姿が印象深い。


 女性一名を含む五人のメンバーによる支持は、三対二で『祭りの準備』が上回った。県外出身者三名の支持も一対二で割れたのだが、逆方向に割れたところがなかなか興味深い。もっとも『祭りの準備』支持者の三人には、それぞれ+アルファの特殊事情もあって、大のお気に入り映画で十五回以上は観ているという主宰者。オールタイムベストテン第三位の特別な作品で、脚本・原作の中島丈博と同じ京都生まれながら、高知に魅せられた因縁の映画だというメンバー。そして、三十年前に上梓した拙著に黒木監督から帯文を寄せてもらっている僕の三人が、『四万十川』ももちろん悪くないけれども断然こちらを支持するとした。その一方で女性メンバーが、破天荒な土佐人気質を描いている点では共通するようにも思える西原理恵子作品は支持するのだが、至って男性目線の本作は不愉快な映画だと断じていたのが面白かった。

 もう一人は、どちらも似たような主題でそう変わらないけれども、高度成長期に資本の力に抗いながらも圧し潰されていく人々や地方の姿をより鮮明に描いていたという理由で『四万十川』のほうに軍配を挙げていたことに意表を突かれた。人生に対する各人の格闘を両作とも描いていたようには思うけれど、高度成長期における資本の力とかは描かれた時代性のなかに自ずと宿る背景として捉えていて、主題だとは思っていなかったからだ。

 端的な場面として彼が挙げていた“沈下橋でダンプトラックの前に立ちはだかる少年(山田哲平)の姿”には確かにそのように映るところもあるけれど、僕は兄ちゃんの言っていた“気力”と“破れかぶれ”を自分に証立てている心情を汲み取っていたので、いささか驚いた。これだから、いろいろな人の捉え方を伺うのは愉快だ。

 舞台になった昭和三十四年前後に生まれた者ばかりだったこともあろうが、両作から触発された懐古談が次々に湧いてくるところがまた面白かった。同じ年の四万十川の上流(西土佐)と河口部(下田)の人々の、ある意味、対照的な逞しさを描いた秀作のカップリングに改めて感心した。両作とも既見作だっただけに余計にその思いが湧いたような気がする。

 また、先ごろラブレターを再見した際に『祭りの準備』と『ウンタマギルー』['89]と合わせて“お気に入り行水映画三部作”とすることにした。と記していたことに対して、女性メンバーから血と骨を加えなければと言われ、そう言えば、確かに好い行水場面があったような気がしてきたので、俄然確かめておきたくなった。
by ヤマ

'26. 5.11. DVD観賞
'26. 5.12. DVD観賞



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