コークスって??(その2)
続編upします。
話の視点を戻します。海員閣の開業当時、厨房設備が今ほど高性能ではなかったため、高火力を必要とする中華料理には、コークス窯が最適でした(燃料としてのコスト面でも優れていました)。ですから、厨房設備の進歩が高火力を生み出せるに至るまでコークス窯を備えた中華料理店をそこかしこで見ることができました。
ただ、このコークスの焚付けがことのほか大変で、自前でBBQをする際の火起こしの苦労を思い起こしていただければ伝わると思うのですが、コークスの火起こしから調理可能な火力を得るまで1時間程度要します。(私はセンスがないので、結局、改装前のコークスマイスター達にお墨付きはいただけませんでした。)
なので、コークス窯を要した中華料理店の一日の始まりはコークスの火起こしからなのです。イメージとしては、蒸気機関車で石炭をくべる【機関助士】が煤(すす)だらけな姿を想像してください。朝一から機関助士さながらの容姿へ変身させられます。火起こしが苦痛でやめていく若者も少なからずいたようです。(筆者友人の父親談)
コークスは都市ガスのように元栓を開いておけばいつでも供給してもらえるわけではないので、窯内のコークスが燃え尽きる前に新たなコークスを補充しなければなりません。新たにくべたコークスが十分な火力をまとうまで十数分の時間を要します。ですから、改装前の海員閣ではコークスを補充したタイミングで、”逆モグモグTime”(高火力が得られないので、調理出来ず料理が提供できない空白の時間。)が訪れます。
また、コークスの火を絶やしてしまうと朝一のお仕事”火起こし”から始めなくてはいけないので、店舗の営業が終わるまで誰かが火の番をしていなくてはなりません。
ここからは言い訳じみた内容にシフトしていきますが、代替えで独り身の船出となると、改装前同様コークスを使い続けることが困難であることは、前述の内容からご理解いただけるのではないかと思います。
跡継ぎ(働き手)が現れにくい昨今、「調理場は必ず2名以上の体制で、内どちらか1名が火の番をして、営業終了まで2名体制を維持すること。」という制約ありきでコークスを使い続けることへの限界を感じ、仮に一人でも海員閣の跡を継ぐことができるような仕組みを構築することが、今の私の最大の使命だと考えているからこそのコークス窯廃止なのです。
ネット上ではコークス窯の廃止について色々な意見が飛び交っているようですが、「海員閣の末永い存続」という選択肢に重きを置いてしまった新店主の愚行を笑ってやってください。
注)写真は新店主の愚行が招いた改装後の調理場です。