俺、女の子になれますか?

第二十七話「まゆみちゃんのお姉さん、まゆみちゃんをよろしく」

(この作品はR18です。18歳未満の方は読まないでね。)
 運ばれてきたモーニングセットのアイスティーのストローに口を付けた途端私の目が、ある一点を見つめて止まる。プールサイドの入り口付近からロングヘアの日傘を持った白のブラウスにカラフルな花柄のスカート、手にハンドバッグを持った女性が近づいて来る。
 ここの施設の人は皆顔は知ってるし、外部からそう簡単に一般人はここには入れない。
(誰だろう?)
 目を凝らして階下のプールサイドに近づいて来たその女性の顔を見るなり、人目もはばからず派手に笑ってしまう私。ロングヘアでキャリアウーマン風だけど、
「本当!まゆみちゃんにそっくり!」
 多分昨日彼女が女の子になった直後に電話かけてきてびっくりしてた、間違いない、まゆみちゃんのお姉さんだ。ほどなく彼女もプールサイドの奥に、一昨日まで自分の弟だった女の子を見つけたみたいだった。
「一輝!」
 大声でそう言うと今まさにプールに入ろうとしていたあの四人組の所に小走りに走っていく彼女。ほどなくまゆみちゃんの前に到着した彼女は、背中を反らし、口に手を当て大声で笑い出す。
「おねえちゃん!恥ずかしいからやめてよ!それにあたしはまゆみになったんだから」
 笑いが収まらないまゆみちゃんのお姉さんは、ひっくひっくしながら今度はまゆみちゃんのビキニに手をやり、そっと指を中に入れ、もう片方の手でまゆみちゃんの股間をぎゅっと触って、またもや大笑いする。
「お姉ちゃん!恥ずかしいからやめて!」
「あっははははっ、か、一輝!胸本物じゃん!あれも無いし!本当に女の子になったんだ!」
 さっきより笑い声がひどくなり、とうとう彼女はその場に座り込んで、まるで窒息死するかの様に笑い続けている。
「あの、この人あたしのお姉ちゃん…、もうやめてよ!一輝じゃない!あたしはまゆみ!ひらがなでまゆみって書くの!」
 ようやく笑うのを止めて立ち上がり、まゆみちゃんに向き会うお姉さん。
「一輝…まゆみ!何よその水着、あたしでさえ人前でそんな派手なビキニなんか着た事ないのにさ」
「いいの、あたしお姉ちゃんより可愛いくなったから」
「いったいどの口がそんな事言ってんのよ。それにその声どっから出してんの!ったく、あたしそっくりになってむかつくー」
 そう言って笑いながらもまゆみちゃんの口を軽くつねるお姉さん。
(思ったとおりだわ。あのお姉さんなら大丈夫。でも当分の間まゆみちゃん、お姉さんの着せ替え人形ね)


 その後わいわいと自己紹介みたいな事をしてたらしい。
「えー!みんな二日前まで男の子だったの?信じらんない!」
 まゆみちゃんのお姉さんの驚いた声と笑い声が、プールの喧騒の中でも良く聞こえる。
 まゆみちゃんのお姉さんが急に真顔になる。
「あなた達、女の上辺の華やかさだけ見て女になったんじゃないわよね?女の裏の辛さ、悲しさ、痛さ、苦しさとか全部わかって女になったんだよね?」
 その言葉に四人全員が彼女の目を見て、はいって答えているみたい。
と、突然、
「よーし!うちの長男の次女降格記念に、お姉ちゃんまとめて面倒みちゃおう!みんなに好きな服と下着とか買ってあげるから、今すぐ駐車場前に集合!」
 彼女の言葉を聞いた私はもう笑いが止まらなかった。とまゆみちゃんが困った様に言う。
「だめだよ今すぐになんてさ。昨日みんな女になったばかりだから、外に着ていく服なんてないんだもん、水着借りたレンタルスペースで服とか借りなおさなきゃ…」
「ふーんそうなんだ、じゃ一時間後に駐車場前に集合!」
 その言葉と共に歓声上げながら一斉にホテルへ通じる階段に笑顔で走り出す四人。私はこのお姉さんに何かお礼が言いたくて、レストランの階下に彼女が戻ってくるのを待って声をかけた。
「あの、まゆみちゃんのお姉さんですか?」
 不意に上で声がした事にびっくりして彼女が上を見上げた。
「あの、昨日まゆみちゃんを担当した「姫」という者です。あ、あの、ごめんなさい。お姉さまに似せてしまって。でもあれは似せようと思ってたんじゃなくて…」
「いいんですのよ。こちらこそ、一輝をあんな可愛い女の子にしてもらって、あたし可愛い妹欲しいなってずっと前から思ってたんです。良かったです」
 先程とは全く違う礼儀正しい姿に私は再度お辞儀をして、階下に行こうとした時、
「まゆみとお友達の着替え手伝ってきます。また近いうちに是非」
「あ、そうですね。近いうちに…」
 私の言葉に深くお辞儀をして、四人の消えていった方向へ歩みだす彼女。
(本当にいいお姉さんでよかったわ)
 時折、なんで息子を娘にしたって怒鳴り込んでくる人もいる。暑い中つめたいジュースを飲んだ気分だった。その時、
「姫先生」
 また私を呼ぶ声がする。
振り向くと、秘書の印の白のスカーフを巻いたここの制服姿の女の子が一人。多分交代制の休日勤務の子だろう。
「あの、明日の担当の方の資料をお持ちしました」
 そう言ってその子が封筒を私に手渡す。
「えー、もう来たの?午後にして欲しかったなあ」
「すみません、ちょっと訳ありで…」
 まだモーニングが残っているテーブルの前に座り中から資料を出して読む私。その顔がどんどん曇ってくる。
「な、なんなのこの子…登校拒否…引きこもり…なんでこういう子ばっかり私に押し付けてくるのよ!」
「すいません、本部からご指名で是非姫先生にと…」
「もう…いいかげんにしてよね、本当…」
 更に詳細に資料に目を通す私に、資料持ってきた女の子が言う。
「あ、あの、トレーナー、誰がいいですか?」
「トレーナー…か…」
 少し考えた後、私は彼女に告げる。
「和之がいいわ、和之用意しておいて」
「あ、あの、和之さんだめなんです」
「どうして?」
 ちょっと口ごもった後彼女が答える。
「あの、和之さん、昨日お二人担当したんで、疲れたから三日間休ませろって…」
「何言ってるの、あのバカは!」
 私の声にびっくりして一歩下がる彼女。
「あいつ、さっきもここに女漁りに来て、自分の彼女とキスまでしてたのよ!」
 私は傍らのバッグからアイフォンを取り出すと、和之のアイフォンにすぐに連絡を取った。
「もしもーし!和之?三日休ませろって何ふざけてんのよ!え?バカ言うんじゃないの!明日の担当の子が決まったから、今すぐ施設のホテル二階のレストランまで来なさい!…嘘言わないで!ついさっきプールサイドで聡美ちゃんといちゃいちゃしてたでしょ?見てるのよ私は!とにかく早く来なさい!」


=Fin=
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