私の仕事は終わり、今回のまゆみちゃんの件でレポートを書く準備中。傍らのシャワールームでは聡美ちゃんとまゆみちゃんがキャッキャッ言いながら、お互いの体を触りっこしたりシャワーをかけあったりしている様子が、シャワー室にも備えたカメラからモニター越しにみえている。
シャワー室のモニターって、だってどうせ元は男でも女しか見ないから大丈夫でしょ。
まゆみちゃんがシャワー室の鏡に大きく指で「女」という文字を書いているのを微笑ましく見ながらレポートを書き始めた私。と、いきなり部屋の中に大きな音でラップ音楽が鳴り響く。どきっとして私がその方向を見ると、それはもうまゆみちゃんの遺品とも言える、椅子の上に畳まれたジーンズとTシャツの中から聞こえていた。
(そっか、一輝クン、ラップ好きだったんだ)
私はそのジーンズのポケットからアイフォンを取り出すと、そこには「姉貴」
と表示されている。どうしたものかと思ったけど、私はそれを手に取り受信モードにした。
「はい、えっと…」
一瞬躊躇したけど、
「はい、篠原一輝クンのアイフォンです」
途端にけたたましい声がする。
「あ、あの、篠原一輝の姉ですけど、一輝いますか?」
「あ…」
ちらっとシャワールームの方を見た私は、微笑みながらアイフォンに話しかける。
「ええ、いますわよ。ちょっとお待ちください」
私は更に意地悪そうな表情を顔に浮かべ、アイフォンを映像通話モードにする。
「まゆみちゃん、お姉さんからよ」
と。
「え、まゆみって誰ですか?一輝呼んで欲しいんですけど」
映像モードでアイフォンから聞こえる彼女の声に、裸で出てきたまゆみちゃん。
「え、おねえちゃん?やだ、いないって…」
そんな彼女に私は無言でアイフォンを渡す。
「だめだって、いないって…て、映像モードになってんじゃん!」
可愛い声で男言葉になってしまった彼が顔をアイフォンの画面からそむけようとする。しかし、
「誰?今の誰?あのね、一輝出してよ!一輝!一輝!そこにいるの?」
私がそっと画面を覗き込むと、まあロングヘアだけど、まゆみちゃんによく似た女の子が半分怒った表情で映っている。私はまゆみちゃんの大きく丸く可愛いくなったヒップを突いて、
(出てあげなさい)
の合図。とうとうまゆみちゃんが覚悟を決めたみたいで恥ずかしげにアイフォンに向かい合った。
「おねえちゃん、あの、…僕です…一輝です…」
しかし、
「一輝?嘘でしょ?全然違うじゃん!」
全然信用していない様子。
「ほんとだよ、みゆきおねえちゃん。僕、じゃなくて、あたしまゆみになりました」
自分の名前を言われてどうやら半信半疑ながらも、弟が妹になった事を理解したらしい。
「ね、ねえちょっと何その顔?」
「あ、今女になったばかりでシャワー浴びてたとこ」
「違うわよ!その顔あたしとかぶってない?」
「え、だって、妹になったんだもん。自分でもびっくりしてたの。お姉ちゃんとそっくりになっちゃって」
「まじ?、なんかむかつく」
「もういいじゃん、立て込んでるからもう切るね」
「ちょっと一輝!その声どうしたのよ!待て!待ちなさ…」
お姉ちゃんの声を無視してアイフォンの通話スイッチを切るまゆみちゃん。
「すごいお姉ちゃんね」
シャワールームからバスタオルを巻いて出てきた聡美ちゃんがまゆみちゃんに言う。
「うん、いい人なんだけどよくいじめられた」
「着信音、女の子らしい可愛いのに変えなきゃ」
「う、うん」
そんなまゆみちゃんの頭をなでながら微笑む私。
「大丈夫よ、ああいうお姉さんなら絶対まゆみちゃんの事可愛がって大切にしてくれるわ」
「本当?」
「ええ、本当よ」
と横から聡美ちゃんがチャチャを入れてくる。
「但し、彼氏の取り合いだけはNG」
「え、そうなの?」
「そうだよ。姉妹で彼氏の取り合いなんて時々聞くけど絶対にやっちゃいけない事」
きょとんとしたまゆみちゃんが意地悪そうな顔をする。
「今までいじめられてきたから、そういうのもお返しでいいかなって」
「絶対だめ!女同士は一旦仲悪くなったらさ、たとえ姉妹同士でも一生犬猿の仲になっちゃうからさ」
「ふーん、そうなんだ」
可愛いあひる口を尖らせてまゆみちゃんがうなずく。
聡美ちゃんの手で濡れた髪をブローされて簡単にカットされ、ボブヘアの可愛い美少女になったまゆみちゃん。その姿は私の目からみてもお姉ちゃんよりも可愛く映った。
新しいピンクのショーツに足を通し、柔らかくなった手で簡単にショーツと同じ柄のブラを付け、変身中に着ていた制服より小さな九号のワンピに身を包んで、椅子にちょこんと座った彼女に今後の事を説明する私。
「それじゃ、今後の事話すね。明日は体を休める為の自由時間だけど、明後日から女の子トレーニングでここの寮に入ってもらいます。期間は短い子で三ヶ月、遅い子でも半年後位にはここを卒業してお家に戻っていきます。まあ普通は女子高校生として今までとは違う高校に編入するケースが殆どだけどね。心配しないで。ここでは女の子文字や言葉使いや仕草から、男の子とのエッチの事まで、ティーンの女の子に必要な事なら何でも教えてくれるから安心して真面目にトレーニングに励んでね。それから…」
そう説明しかけた私に部屋を荒々しくノックする音が聞こえた。
「はい、どなた?」
私より先に、先程ベッドルームから開放されて部屋で缶ビール飲んでくつろいでいた和之がすっとドアを開けると、あわただしく二人の可愛い女の子が飛び込んできた。制服のスカーフの色からみてまゆみちゃんと同じくたった今女の子にされた男の子らしい。多分今朝まだ一輝クンだったまゆみちゃんが、昨日食堂でお友達になった子らしい。