俺、女の子になれますか?

第九話「女の子になる最終関門1、男の人とキス」

(この作品はR18です。18歳未満の方は読まないでね。)
「せーんせ…」
 女の子がよくやる様にドアの影から顔だけ出して、私の顔を見て微笑む一輝君。無意識にそんな仕草するなんて、結構成功してるかも。それに一晩しかたっていないのに彼の顔や表情は昨日とまるで違っていた。
 青白かった彼の顔は健康そうな肌色に変わり、頬はうっすらとピンクに染まり、睫毛が伸びて目は二重に。目元だけ女の子になった彼の顔は既にボーイッシュな女の子に見えなくもないって感じ。
「せんせー、ほら、こんなになっちゃった…」
 昨日より一オクターブほど上がった声でそう言いながらドアの影からぴょんと出てきた彼は、シャツの胸元をめくってそこを指差す。
「えー?」
 そう言って私が胸元を覘くと、昨日は干しブドウみたいになってたバストトップは綺麗な円筒状になって、微かに膨らんだ胸の上にツンと尖っていた。
「あ、出来てきたじゃん」
 彼の顔を見て微笑みながら言う私。
「あのね、先生、昨日食事とかお風呂の時ね、いっぱいお友達できちゃった。みんな僕みたいになっててさ、夜食堂でみんなでさ、どんな女になりたいとかさ、女になったら何しようかって…」
「どれ?」
 あんのじょう私の背後からそれを覗きに来る和之。その姿を見た一輝君は一瞬驚いた表情で彼の顔を見つめ、そして再びドアの影に隠れる。
「あ、一輝クン、あのね、怪しい人じゃないの。今日のトレーナーの和之さん」
 ドアに向かって作り笑いでそう言う私に、再び一輝君が胸を片手で押さえながらそっとドアの影から顔を覗かせた。
「…男の…人?」
 疑う様な目で和之の顔をちらっと見た後、じっと私の顔を見ながらいぶかしげに言う一輝君。
「う、うん、今日の施術には欠かせない人なの」
「何…するの?」
 ああ、話す雰囲気作る手間はぶけたわ。事前にそれ言うと、本当は女の子にしちゃいけない子がそれの対処を事前にやってくるから…。
「一輝クン。どう、この男の人、いい感じの人?嫌だとかむさくるしいとか思わない?」
「う、うん…」
 そう答えてしばし和之の顔とか全身をちらちらと見る彼だけど、
「あ、うん、別に。かっこいいお兄さんて感じ」
 一輝君の顔にうっすらと笑顔が浮かぶ。心なしか彼の女の子らしくなった目が輝いた気がした。
「そう、よかった」
 私はほっと胸をなでおろし、
「一輝クン、今日の事これから話すけど、心して聞いてちょうだいね」
 そう言って私は、今日これから彼がされる事をおごそかに話始める。そしてその後の事も。
 一通り話し終えた私の前に、椅子に座ってほとんどまばたきもせず、可愛くなった目を大きく開け、口を少し半開きにしてずっと聞いていた一輝君がいる。暫くすると彼はうつむき、足を少しぶらぶらさせ始めた。
「一輝クン。あたしもそうやって女の子になっていったんだ。しかもこの和之さんにさ」
 しばし沈黙の後、まず和之が落ち着かないのか、
「じゃさ、俺先に部屋で待ってるからさ。一輝クン、待ってるぜ。綺麗で可愛い女になって姉さん驚かしてやろうぜ!」
「ちょっと和之!あんまり余計な事言わないの!」
 そう言って奥の部屋に消えていく和之の後ろで注意する私。
「いいのよ一輝クン。もし嫌ならここから出て行っても。まだ男の子には戻れるからさ」
 そう言って一輝君の肩を軽く叩く私。沈黙は尚も続く。その間彼は立ち上がろうともしない。かなり迷ってるんだと思う。と、ようやく彼の口が開く。
「そうですよね…結婚して、赤ちゃん産んでって、それが条件なんですよね…」
 独り言の様にそう呟いた一輝君は目を瞑って天を仰いで両手で顔を覆う。そしてさっと立ち上がる。
「すっごい心臓がバクバク言ってる…。そんな事出来ないかもしれない」
「大丈夫、ほんのちょっとでいいんだから」
「なんだか初めて悪い事する感じ…」
 なんとか一輝君を勇気付けようとする私だけど、一輝君の気持ちもなんとなくわかる。ここに来るまでは普通に男の子だったんだろう。それがいきなり女の子の、しかもエッチな体験をさせられるなんて思ってもみなかっただろう。
 やがて彼は両手を顔から外し、立ったまま私の方に向き直った。
「じゃ、やってみます…」
「がんばってね。恥ずかしがらなくていいから」
「………」
 無言でさっき和之が入っていった部屋の方へゆっくりと歩みよる一輝君。
「全然変な事じゃないよ。何事にも初めてはあるからさ。女の子ならほとんどどの子も必ず通る道だからさ」
 聡美ちゃんも彼に励ましの言葉を贈る。
 彼が部屋のドアの奥へ消えていくのを見届けた私は場所を移動。
(ふう、なんとかあの子を部屋に入れたよ。あとは和之に任せるか。久しぶりに奴の無敗のメス堕としテクニックみせてもらおうか)
 もう今はなんとしてでも一輝君を女の子にしてやる。そんなずるい事思いながら私はその部屋のモニター画面のある机に移動してスイッチを入れた。
「よう、絶対来ると思ったよ。シャワー浴びて来いよ。 気持ちいいぜ。俺も今さっき浴びたとこだ」
 一面マホガニー調の落ち着いた感じのその部屋で、黄色のサーフパンツ一枚の姿でタオルで体を拭きつつ和之が一輝君に言う。
「え、そんなのがあるんですか?それに、この大きなベッド…」
「いいから浴びてこいよ」
「なんか、その、ラブホみたい…」
「そうだよ、ラブホの部屋さ。何か気になる事でも?」
「あの…え、いえ…なんでもないです」
 二人の様子と会話をモニターで見ていた私と聡美ちゃんが同時にぷっと吹き出す。
 のろのろと部屋の隅のシャワールームへ歩み寄り、服を脱いで白っぽくなった体を見せつつそこに消えていく
のを見届けた和之は、いきなり煙草を取り出して口に咥えて火を付け、一輝君の着ていた服を手早くまとめて、部屋のドアから顔を出した。
「姫、これ預かっといて」
「和之!なにやってるの!禁煙でしょ!」
「冷たい事言うなよ、灰皿ある?」
「あるわけないでしょ!」
「ちぇ…用意がなってねーなあ…」
 そう言いつつ、部屋に置いてある自分のずだ袋からバドワイザーの缶を取り出し、おもむろに一気飲みする彼。
「ちょっと何やってんの!?」
「いいじゃねーか、これ灰皿にすっから」
 あまりの態度に私はあっけにとられて彼を睨みつける。
「そう怒るなよ。まずはかっこいい兄貴と妹って関係作ってからさ」
「へーぇ、一輝クンが妹?」
 和之に何か言い返そうとした私を横の聡美ちゃんが遮る。
「それにさ、奴はためらってるんじゃないぜ。女になるのが恥ずかしいだけ。自分から言うのが恥ずかしいから誰かに背中押されるの待ってるだけさ」
「なんでわかんのよ…」
「わかれよーそれくらいさー。役にたたない個人情報書いた書類ばっかみてないでさ」
「あ、あたしもそう思った」
 私の抗議を鼻で笑った和之に、横の聡美ちゃんも同調する。
「じゃあ、一仕事してくらぁ」
 そう言って再び部屋のドアに向かって行く和之を、あきれたって感じで腰に両手を当てて見送った。
「あの、僕の服…」
「そこに白のバスタオル有るだろ?それ巻いてこいよ」
 シャワーから上がった一輝君に答える和之。
「あ、あの…」
 困った様子で答える一輝君。
「どしたよ?」
「あ、あの、僕この場合…これでいいのかな」
 そう言いながら、白くなよっとし始めた体に赤黒く大きくなり始めたバストトップを気にせず、男がするみたいに大きなバスタオルを腰に巻いた一輝君が和之の前に現れる。
「お前女になるんだろ?なんだよそれ」
 すっと彼の背後に歩み寄り、腰のバスタオルをほどき、女の子がそうする様に胸に手早く器用に巻き直す和之。その最中、
「可愛い体してるじゃん」
 と言いながら一輝君の首筋とか背中を軽く触る彼に、
「初めて女扱いされて、どこまで耐えられるか」
 そう言って私の顔を見た聡美ちゃんが苦笑いする。
 ちょっと照れたのか、その場でうつむいて立ち尽くす一輝君を尻目に、
「あーあ、疲れた。まだアメリカから帰って間もないからなあ、まだ時差ぼけが残ってる」
 そう言いつつ大きなダブルベッドにごろんと横になる和之。
「あの、アメリカ行ってたんですか?」
 一輝君がここに来た時のやぼったい口調はもうすっかり消えて、おとなしい口調に変わっていた。
「ああ、アメリカはいいぜ。全てがワイルドでミラクルだ。あの大味の食い物だってさ、ロスのオレンジカウンティでサーフィンやった後食うホットドックは格別の味だぜ」
「えー、サーフィンもやるんですか?」
「公式の大会にだって出た事ある。なんなら女になったら連絡しろよ。教えてやるからさ」
「え、あの…」
「ビキニの可愛い女の子がサーフィンやったらさ、たとえ日本人だってアメリカじゃ拍手と口笛の嵐だぜ」
「あ、あの、うん、ありがとうございます」
 先程から立ち尽くしたままだった一輝君は、和之の寝ているベッドの片隅にゆっくりと腰を降ろした。心なしか可愛くなった目がきらっと輝いた様に見える。
「あと海ならオーストラリアだな。グレートバリアリーフでスキューバダイビングなんて最高だぜ。人生変わるよ」
「あ、あの、僕スキューバダイビング、その、すごく興味が有って…」
 ベッドの端に座って和之に背中向けていた一輝君が目を輝かせて和之の方を向く。
「へー、そうなんだ。珊瑚に難破船、洞窟とかさ」
「うんうん、僕写真でしか観た事なくて…」
「最近ウェットスーツも女の子用の可愛いの一杯あるぜ」
「うわーっ着てみたい…」
 一輝君が思わずだと思うけど、そう言ったあと顔を真赤にして和之から顔を背けた。その様子が可愛く感じる。
 そんな彼を気にする様子も無く、再びスキューバとかオーストラリアの海の話を続ける和之。
「相変わらず話だけは上手いわねえ。あたしも行きたくなってきちゃった」
 ぼそっと呟く私の横で、じっとモニターを観ていた聡美ちゃん。
「一輝クンがスキューバに興味有るってのはさ、あたしが教えてあげたんだよ」
「え、そうなの?」
 モニターを見つめながら彼女は続ける。
「さりげなく二番目に話持ってくるんだよね…」
 しばしモニターからは和之の話に相槌うちながらじっと耳を傾ける一輝君の姿が映っていた。
 顔はまだ幼い男の子みたいだけど、オクターブが上がっていた彼の声は次第に声変わりしていない男の子みたいな声になり、いつしか寝そべって話をしている和之の横に頬杖をつき、足を時折女の子みたいにばたつかせつつ、二重になり薄くなった眉毛と長くなった睫毛のせいで可愛くなった目でじっと和之の顔を見つめている。
「いいなあ、行ってみたーい」
 無意識のうちに女口調になった一輝君が和之の横で枕に顔をうずめて足をばたばたさせ始めた。
「おい、腕枕してやろうか?」
「えー、なにそれ?」
 いきなりの展開に面食らった様な顔をする一輝君。
「おい、俺みたいなイケメンに腕枕されるなんて女として光栄な事だぞ」
「へー自分の事イケメンて言うんだ。それに僕まだ男だし」
「俺はお前を男だなんて見てねーよ、そんな可愛い目してさ」
 そう言いつつ一輝君の頭を可愛いって感じで撫でて左腕を出す和之と、嫌がらずに撫でられるままになってる一輝君。
「んじゃあ…はーい…」
 とうとう和之の腕枕に頭を乗せる一輝君。すっかり打ち解けた様子の二人。どうやら一輝君は彼の術にはまってしまったらしい。
「お前って言われるの本当は嫌なんだけどさ、和之さんなら別に嫌な気がしない」
「そうか?まあ俺は兄貴で、お前は妹みたいなもんだからな」
「だからさ、僕まだ男だって」
「女になったらさ、連絡してこいよ。記念にオーストラリア連れてってやるぜ」
「本当?ね、絶対?」
「嘘は言わねーよ!」
 子供みたいにはしゃぐ一輝君。と、彼は他には誰もいないのに部屋を素早く見渡し、そして…
「あ、やった!」
「本当だ!」
 モニターで私と聡美ちゃんが見ている事なんて知らないんだろう。一輝君は和之の半身にのしかかるようにして、彼の頬に素早く
「チュッ」
 そして和之に背を向け素早くベッドの端に寝転がる。顔を真赤にした顔に大きく見開いた目。笑みを浮かべた唇は微かに震えて相当恥ずかしそう。
「おい、なんだよ今の」
「えー、わかんないの?」
「いや、お前よくそんな気になったなあ」
「え、いや、なんとなく…気が付いたら、やっちゃってた…」
 相変わらず和之に背を向けながら恥ずかしそうに言う一輝君。
「そうじゃなくて、キスっていうのはさ」
 そう言いながら上半身を起こした和之は、ベッドの端にいる一輝君を抱き寄せにかかった。
「ちょっと待って!僕さ、女の子ともキスした事ないのに!」
 和之に体をがっしり掴まれて抵抗する一輝君だけど、昨日の治療で筋肉がすっかり衰えたのか、和之から逃れられる事は出来なかった。
「だから、僕、そんな、男の人と…」
「俺の妹にしてやるさ」
「妹って…」
 今度は和之に左右の頬を手のひらでそっと包まれる一輝君。その目は恐怖なのか驚きなのか大きく見開いている。
「かわいいよ…」
 和之のその言葉と同時に二人の唇はしっかりくっつく。言葉も出ず目をしっかり見開いたまま一瞬抵抗する素振りを見せた一輝君。しかし、すぐにそれは収まり、だらんとした彼の両手の掌は、ベッドの上のシーツをぎゅっと握り締め始めた。
「やった!」
 私の横で聡美ちゃんが手を叩いて小躍り。だが私はその横で冷静に秒数をカウントしていた。
「あー、でも一輝クン目瞑ってない…」
「…八…七…、いいのよキスはキスなんだから…、二、一、ゼロ。はいステップワン合格…」
 私は手元の書類のチェック欄にレ点をいれ、腕時計を見て時間を書き記す。
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