俺、女の子になれますか?

第八話「トレーナーはイケメンの女たらし」

(この作品はR18です。18歳未満の方は読まないでね。)
  翌朝の七時半、今日の事が気にかかり、昨夜あまり眠れなかった私は部屋に入ると大きなあくびをしながら準備に入る。装置の自動テストのスイッチを入れ、コーヒーを沸かし、資料を手に椅子に座ってため息をつきながら今日の段取りを想像した。
 ここに来る男の子達の条件は、女の子になり将来結婚して子供を生み、良き家庭を育む事。それは良しとして、頭が固いのか単に変態なのか、上層部の決めた女性化の最終条件と言うのが本当毎回思うけどバカらしい!
(男性トレーナーに体を愛撫される事に違和感を持たぬ事)
(男性トレーナーと嫌悪感を持たずに接吻を行える事)
 そしてこれがすごい
(男性トレーナーの男性器を嫌悪感なしに口に含める事)
 バカらしいと思うけど、ここまで徹底して本人の本気度を確かめるあたり役人共の本気というかバカさ加減が伺える。
 今日中に上記三項目が達成されないと、一輝君はここを去らなきゃいけないし、二度とここには来れなくなる。
 昨日の一輝君の事を思うと、辞退か失敗かの可能性は大いに有りそう。
「はぁー…」
 椅子に座ったまま大きくため息をつき、コーヒーを口にする私。と、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「はーい、聡美ちゃん?早かったわね」
 てっきりアシスタントの彼女が来たと思った私。ところがドアの影からひょいと顔を出したのは、
「よぉ、姫、久しぶり」
 ウェーブのかかった短髪に今時流行らないボーダーのTシャツに白のスラックス。日焼した顔に白い歯を見せてにやっと笑う、多くのトレンディーや恋愛物のドラマに出てくる人気若手俳優そっくりなそいつ。
「かずゆき!」
 思わず声を上げ、コーヒーを噴出しそうになる私。
「な、なにしにきたの!?」
 私の言葉にそいつはちょっと口を尖らせる。
「ひでー、つめてーよなー。折角来てやったのにさ…」
 そう言いながら和之と呼ばれた彼は、肩越しに背負ったずだ袋から市販のサンドイッチらしき物を取り出し、すっと私の横に来て空のコーヒーカップに勝手にポットのコーヒーを注ぎ始める。
「まさか…、だって今日の一輝クンの担当松本君でしょ?」
 ペラペラと資料をめくる私だけど、
「え、ああ、あいつじゃあの子は無理だよ。大丈夫、奴とは昨日ナシつけてっからさ」
「ていうか、あんた今お休み中でしょ?」
「ああ、でも先月帰ってきたよ。復帰第一回目の仕事が今日」
 そう言いつつどかっと私の隣の椅子に腰掛け、口でサンドイッチのビニールを開封して豪快に食べ始める彼。
「高かったんだぜこれ、一個四百円。まだあるけど食べる?」
「いらないわよ」
「あっそ…」
 ずだ袋に入れかけた手を出しながら、その手でコーヒーカップに手をやる和之。
 こいつは伝説的トレーナーだった。彼の手にかかった男の子達は百発百中でメス堕ちして、女子高校生になっていった。しかしその後、欝になって入院した子の数はダントツで一位。それで暫く休暇と反省って事でここを離れてたんだけど…。
「え?ああその話?あれは俺が悪いんじゃねーよ。サポートの連中に問題が有ったんじゃねーの?」
 それはそうなんだけどさ。でも、なんで今日なのよ?
「え、いやそろそろ復帰してもいい頃だろと思ってたら、あいつから連絡有ってさ」
 そう言って彼はサンドイッチをほおばった口でドアの方を指し示す。とそこには、
「えへへー、連れてきちゃった」
 いつのまにかそこには聡美ちゃんが意地悪そうな顔をして立っている。そう、彼女も和之の手にかかってメス堕ちした一人だった。
「聡美ちゃん!なんでこんな勝手な事!」
「だって、先生にペナルティ課されるのやなんだもん」
 確かに以前は途中辞退者出したら罰として何枚も書類書かされたけど。
「今は違うの。ある程度女の子増えてきたから、無理に女の子にしなくてもいいって事になってるのよ」
「えーそうなの?知らなかった」
「知らなかったって、ちょっと聡美ちゃん…」
 と私が彼女に詰め寄ろうとした時、
「ピンポーン」
 とドアのチャイムが鳴る。多分一輝君だろう。今日はもしかして来ないと思ったけど、来ちゃったんだ。
「ああ、もう!あんた相手じゃ一輝クンがかわいそうでしょ!無理矢理女の子にして、こんなはずじゃなかったなんて思われて欝になって入院…」
「ははは、まあ任せとけって。前は力ずくで女にしたけどさ、今の俺は昔の俺と違うぜ」
 私はそんな彼を無視する様に乱暴に席を立ち、呼吸を整えて笑顔を取り戻し、ドアを開けた。
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