俺、女の子になれますか?

第七話「胸とか変わっちゃったけど、まだ男の子だからね」

(この作品はR18です。18歳未満の方は読まないでね。)
 彼の姿は手術台に乗せられた時とはかなり変わっていた。眉を細くされ、顔のシミとかを綺麗にされ美顔処理された彼の顔は子供の時に戻ったみたいに輪郭が丸くなり、ボーイッシュな女の子という雰囲気さえ出始めている。
 青みがかった白になった彼の体の筋肉は殆ど消え、二の腕は一回り細くなり、胸板と腹筋が消え、のっぺりした体になり、太股から足にかけても筋肉はほぼ消え、まるで子供がそのまま大きくなった様。
 でも一番大きく変わったのは胸。さっき真赤になってた彼の乳輪は五百円玉程の大きさになり、赤黒く色着き、その先には同色の大きな干しブドウみたいになったバストトップがくっついていた。それを中心に彼の胸には真赤な細い血管が蜘蛛の巣の様に広範囲に浮き出ていて。
「一輝クン、どう起きれそう?」
 相変わらず息を切らせていた彼は私の言葉にふらふらしながらもゆっくり起き上がる。しかしすぐ胸の違和感に気が付いたのか、上半身を起こすと同時に自分の胸に目をやり、声にならない声を上げた。
「大丈夫、うまくいってるわよ」
 私の言葉が聞こえたのか聞こえないのか、彼は口を半開きにして怯えた様な息使いで無意識といった感じでベッドの上に足を崩した感じで座り、自分の胸から目線を外さず、両手で胸をすくい上げる様な仕草で胸を触り、そして両手の人差し指ですっかり大きく赤黒く変わってしまった自分のバストトップを震えながら触る。
「女の子のパストトップ、見た事あるでしょ?」
 聡美ちゃんの言葉に一瞬目をつぶった彼は私と聡美ちゃんの目線に気づき、恥ずかしそうにさっと両腕をクロスして自分の胸を隠す。
「大丈夫だって」
 そう言って笑顔で聡美ちゃんが話しかけるが、聞こえてない様子。
「か…鏡…あるの…?」
 その言葉に聡美ちゃんが彼の手を引いてベッドから降ろそうとするが、両足が床に付いて歩き出そうとした瞬間、彼は大きくよろめいて倒れそうになった。
「だ、大丈夫?」
 思わず声をかける私に、
「なんだか、力が入らない…」
 か細い声で彼が答える。まあ当然だろう、足の筋肉なんて殆ど消えちゃったし。慣れないうちはふらつくかもよ。
 よろめきながら聡美ちゃんに支えられて、部屋の大きな姿見の所へ連れて行かれた一輝君は、驚いた様子で鏡を見つめ、無意識だろうか両手を口に当て、大きく息を吸い込み再び声にならない声を上げた。
 しばし変わり果てた自分を見つめ微動だにしない彼。そして、
「何…この胸…」
 真っ白でのっぺりした体に黒く大きくなってしまった乳輪とバストトップ。胸に走る無数の赤くて細い血管を見つめ、両腕でその上を調べる様に触りながら、相変わらず怯えた様子でぼそっと喋る彼だった。
 私は彼の後ろにそっと立ち、女性化し始めた一輝君のバストトップを後ろからそっと触る。指にころころした感触が伝わるのと、
「やん!」
 と初めて女の子みたいな悲鳴を上げたのはほぼ同時だった。
「ほら、一輝クン。女の子になってきたよ。大丈夫、胸の赤いのは明日には消えるし」
 相変わらず、驚きと信じられないって感じで呆然とすっかりなよっとした自分の体を見つめる彼に、聡美ちゃんが彼の着ていた服を両手に抱えて、はいって感じで手渡す。
「さあ一輝クン。今日はこれで終わり。服を着て自分の部屋に戻って、係りの人の指示に従って夕食とお風呂済ませてね」
 時計を見るともう夜の七時。予定より一時間オーバーしてしまった。
「あの、俺、今どうなってるの?」
 まだ自分の体の変化が信じられないのか、震える手でシャツを着始めた一輝君がやっと私の目を見つめながら小声で話す。
「大丈夫。胸とか変わっちゃったけど、まだ男の子よ。もしさ、女の子になるのやっぱりやめるーって言うならさ。
係りの人にそう言ってね。すぐに別の所に連れて行ってくれて、男の子に戻る処置するからさ」
 私の言葉が耳に入っているのかどうかわからない様子でシャツのボタンを留め、ジーパンをはき始める彼。
「もし、このまま女の子になりたければ、明日朝の九時までに朝ごはん済ませてここに来てね」
「う、うん…」
 ジーパンをはき終えた彼は、気乗りのしない返事をした後そそくさと部屋のドアへ向かい、そして足早に出て行った。
 その後ろ姿を見送って、ほぼ同時に大きなため息を付く私と聡美ちゃん。
「どうだろ、久々に途中辞退者でるかもね」
 うつむいてぼそっと喋る私だけど、
「そうかなあ」
 あっけらかんとして両手を頭の後ろに当てて喋る聡美ちゃん。
「あたしは、明日絶対来ると思うな」
「どうして?」
「さあ、なんとなく。あたしの勘だけどさ。それにそんなに嫌がってなかったでしょ」
 そう言いつつ彼女は部屋のテーブルに行って、カップにコーヒーを注ぎ始める。
「だってさあ、男の人に抱かれたりするの、あんなに嫌がってたじゃない?明日どうなるか…」
「あたしだってそうだったじゃん。大丈夫だって。今日一晩寝たらどうなるかわかんないって。じゃあ明日八時だよね。今日はもうあがるわ」
 コーヒーを一息で飲み干して部屋から出て行く聡美ちゃんを私は不安げに見送った。
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