全員眠っていた僕達は列車の軽井沢到着のアナウンスにたたき起こされ、あたふたと身支度して列車を降りた。こういう感覚って鈍くなったのか、それともずぶとくなったのかわかんない。
駅を降りて軽井沢駅前をまっすぐ歩くはずだった僕達。可愛いディスプレイに駆け寄り、美味しそうな物を見つけては立ち寄り、秋の景色に立ち止って歓声を上げたり寄り道ばっかり。
目的のテニス場付のスポーツセンターに付いたのは集合時間ぎりぎり。
大急ぎで車で別途運ばれた荷物を受け取り、そして更衣室へ飛び込んだ僕達だけど、そう、そうだったんだ。今年は先生達以外はOG含めて四十人以上の参加。センターは貸切、そして男子更衣室は女性用に変更。その中に飛び込んだ僕達は、
「わっわあ…」
甘酸っぱい女独特の匂いが立ち込める中、みんな見事な女体に変身した元男性の女の子達が着替えのまっさい中。高校生位の子、大人の女性、共通して言えるのは、みんな胸がわりと大きめで…。
「だ、だめ、僕達あとで…」
そう言ってくるっとUターンし、大急ぎで皆で更衣室を出ようとしたその瞬間!
「新人さん来たよ!」
僕達と面識の有る瞳大先輩の声が、
「え、新入生!」
「え、みたいみたい!」
たちまち僕達は数人の女の子達に囲まれ、更衣室に押し戻されてしまう。
「えー、今年また五人に戻ったの?」
「みんなかわいいじゃん」
「毎年レベル高くなるよねー」
「はーい、みんな奥へ行こうねー」
「今日は大事なあんたたちの女の子デビューの日だからね」
「いいなあ若いって、あたしもあれから五年経つんだなあ…」
「ほらほら、さっさと着替えないと、時間に遅れるよ!」
板張りの綺麗な更衣室のど真ん中に通され、もう恥ずかしさと熱気と、慣れない女子更衣室の独特の雰囲気。みんな元男の子のはずなのに、むせる様な女の匂いに圧倒されながらも、僕達はそそくさと着替えを始めた。
「いいなあ、ピチピチギャルじゃん」
「葵、やめなって、怯えてんじゃん」
とりわけ可愛い美紅の体を触って話すちょっと大人の女性?を連れの女性??が戒める。
僕にとって記念すべき初めての女子更衣室デビューのはずなのに、もう僕はここから出たい一心で大急ぎでスカートを脱ぎ、アンスコとスカートを履いて、ピンクの上着を着込んで…。
「ちょっと待って」
大学生位の女の子?がそう言いながら、自分の手にしたふわふわの可愛いシュシュで僕の髪をまとめはじめ、別の女の子?が僕の顔をちらっと見ながら、多分夏用のファンデだろうか、そっと顔に塗ってくれる。
「ういういしいわね、本当。あたしもこんな時代あったなあ」
別の女の子?が急いで着た僕のウェアを丁寧に直してくれる。だんだん心が落ち着いてきた僕。ふとみると、やはり他の女の子?達に囲まれて恥ずかしそうにしているクラスメート達。
「ねえ、可愛い新人さん。名前は?」
「愛、倉田愛です。よろしくです」
服を直してくれた女の子の問いかけに、トレーニングで習得した女の笑顔で、僕は恥ずかしそうに、だけどしっかり答えた。
午後一時、僕達新入生五人の自己紹介が終わるやいなや、八面のテニスコートで繰り広げられたスコート姿の女の子オンリーのテニス練習。
僕もその一つに入り、テニスワンピの大先輩とラリー。日本支部長の早乙女先生、アメリカ支部長の三宅先生もスコート姿で談笑中。以前スコート姿の堀先生と渡辺先生を冷めた目で見てた皆川先生と如月先生も、今日は白と黒のスコートでラリーの練習中。
当然ながら、こんな華やかな一大テニスショーはなかなか見られるものでは無い。コート周辺には大勢の見物客が来て僕達の練習風景を見物し始める。最初は恥ずかしかった僕のスコート姿も、だんだん気にならなくなる。それどころか、
(見られてる、僕すっごい見られてる)
その気持ちがだんだん心地よくなってくる。
「あっちのピンクのワンピの子、すっげえ可愛いよな」
ふと後ろでそんな声がした。あ、多分美紅だ。
「そこの白のボックスプリーツの子も可愛いじゃん」
別の男の声、誰の事だろ、このコートで白のボックスプリーツスコートって、え、まさか!?
(僕の事!?)
思わずバックを打ち損ねてそこに転がる僕だった。
(僕って、僕って可愛いの!?)
あまりの突然の事で、僕の心臓はどきどきして、そしてちょっと体痛めたって事で休憩を取り、後ろのベンチへ急ぐ。
「はあーい、なかなか可愛いじゃん、愛ちゃん」
いつのまにかそのベンチには、もういい年なのに前練習で見た白のスコートとピンクのシャツ姿の堀先生がいた。二人仲良くベンチに座ると、
「色おそろいじゃん、あたしと」
そう言いながら、僕のスコートの汚れを手で払ってくれる先生。
「今日、三時でいいのね」
「はい、場所はすぐそこの喫茶店で。多分もう来てると思います」
「え、このギャラリーの中にいるの?」
「今日の事は話しているし、あたしのテニス見に行くって言ってました。僕の女の子名も話してるし、いると思うんですけど…」
そういいつつ僕はかなり遠くのコートの方まで目をやるけど、それらしき人影は無かった。
「まあ、いいわ。繰り返すけど、何も知らないふりで、普通にね」
「は、はい。なんで会いたいのか良くわかんないけど…」
理紗の本心が見えない僕はとりあえずごく普通にという堀先生の言葉に賛成だった。
優勝者に十万円分の旅行券!、これ目当てで毎年参加する人もいるらしいテニスのトーナメント大会が始まる。
早々と二回戦で敗退した僕は、ギャラリーから可愛いと言われた事に有頂天になり、コートのフェンス際でしばし覚えたてのバレエのストレッチをやったり、ラケットを持ってもじもじしたり。
可愛いと言ってくれたギャラリーに軽くVサインを見せる心の余裕さえ出てきてた。
(ああ、僕、本当どうなっちゃうんだろ)
時折ぼーっとしてそんな事を考えたりするうちに、理紗との約束時間が来る。
「じゃ、愛ちゃん」
「う、うん」
僕はラケットを白の可愛いポーチに持ち替え、ギャラリーの視線を浴びながらフェンスの扉をくぐり、大きくなってきたヒップのせいか、スコートを揺らし気味に小走りで喫茶店へと向かう。
昼下がり、指定の喫茶店は三組しか客がいない。親子ずれと、年配のカップル、そして残るは、え!?四人掛けの席で同じ椅子に座ってるカップルらしき二人組、それは明らかに人を待ってる様子。でも、誰?あの子、髪を染めてポニーテールにトンボメガネ、そして横の浅黒いスポーツマンみたいな男は!?
恐る恐る僕はその席に近づく。やっぱりそうだった。すっかり変わっているものの、着てた服は僕の知ってる理紗の服。
「り…、理紗?」
突然現れたテニスウェアの少女に、理紗は驚いて顔を上げる。
「り、りょ…、愛?」
思わず僕の本名を言いかけた理紗。
「な、なんだよおまえら、会うの一か月ぶりじゃなかったのか?」
理紗の横に座ったスポーツマンの大学生風の男が笑う。
「い、いやあまりにも変わって、じゃあのテニスコートの女の子は別人だったの?」
どうやら、別人を僕と勘違いしていたらしい。
「あ、愛、太った?」
「うん、ちょっとね…」
スコートのお尻に手を当て、ポーチを膝の上に乗せ、しおらしく座る僕。あきらかに同様している理紗の目が、トンボメガネごしにわかる。
「あ、愛…ちゃん。紹介するね。あたしの新しい彼氏。竜矢君」
「あ、初めまして。竜矢です。理紗の古い友達なんだって?」
白い歯に純情そうな人なつっこい目。悪い人じゃなさそう。でも、でも!理紗が僕を呼び出した理由って、
(新しい彼氏を見せつける為だったんか!?)
でも僕の顔は始終笑顔。ポーカーフェイス。それも研究所で習得した女の子トレーニングの一つ。
僕と理紗で不思議な会話が始まる。せっかくの彼氏そっちのけで、理紗からはファッション、化粧、男性タレント、他女の子の流行事の話題がポンポン飛び出す。
以前の僕ならついていけない話題だった。でも今の僕は違う。今時の女子高校生なら知ってそうな話題はもう十分に頭に入ってるし、うんちくも相当頭に入れた。
そして女子高校生化訓練で身に付いた女言葉、可愛い仕草、バレエで身に付いた女の柔らかな手の動き、物腰。
「…愛ってファンデあれ使ってるの?重くない?」
「ううん、そうでもないよ」
「えー、嘘だよ!」
「理紗が使ってるのって、新しいシリーズじゃない?レガシー製品ならそんな事ないよ。新製品は確かに評判いまいちだと思う…」
等々、お互い竜矢君の事なんてもう目に入らず、女同士のマシンガントーク。そして横で見ている竜矢君には、どうやら僕の方が理紗より魅力的に映ったみたいな気がする。
派手な格好で薄っぺらい知識を振り回す理紗に比べて、清楚な感じだけど、男にもわかりやすい話をする僕。さっきから竜矢君の目は、理紗の方を向かず、僕の顔、胸元、そしてスコートに向けられていた事にを十分気が付いてた。
これも女の子トレーニングで身に付いた、二つ以上の事を同時にするトレーニングの成果。
とうとう、大きなため息をついて話に詰まり、撃沈する理紗。
どうやら理紗の心は、女装した僕を呼び出して彼氏を見せびらかせ、そして女しかわからないトークを浴びせて、僕を叩きのめす腹だったらしい。しかしその結果は…
(勝った!)
理紗に優しい笑顔を向けながらも、心の中では密かにそう思ってほくえそむ僕。
「ちょっとトイレ行ってくる」
窓に顔を向け、無言の理紗を後目に、僕は竜矢君に軽く手を振る。
「ごめんね竜矢君。女しかわからない話ばっかで」
「ううん、そんな事ないよ。楽しかった…」
「竜矢!」
竜矢君の僕の言葉を遮る様にぴしゃっと言い放つ理紗。再度僕は竜矢君に軽く手を振り、トイレへ向かった。
トイレの個室を出ると、そこには明らかに怒った理紗がいた。そして持っていたハンドバッグで僕の胸元を二回殴る彼女。
「な、なにすんのよ!」
僕の抗議に理紗は片方の手でトンボメガネを触ると、今度は僕のスコートで包まれたお尻をハンドバックでぶつ。
「いったあーい!」
少々大げさ気味に言う僕に、理紗はふりかざしたハンドバッグを手元に戻す。
「やってくれたわね!勝ったつもりなんでしょ!」
カチンと来た僕もやり返す。
「何よ!何の事かさっぱりわかんないわよ!」
「よくも竜矢の前で恥かかせてくれたわね!」
「理紗が先に仕掛けたんじゃないの!?あたしに恥かかせようとしてさ!」
「うっさい!このオカマ!」
そう言うと、理紗はトンボメガネを外し、真っ赤になった目を鏡を見て触りはじめる。頭にきた僕は無言で理紗を残し、女子トイレを出た。
(なんて奴だよ!だから女って!あ…)
その瞬間僕は自分の履いているスコートに手をやり、自分も女になりかかっている体だって事を認識して、大きくためいき。とたんに僕の頭の中によからぬ思いがめぐってくる。入所間もなく渡辺先生に言われた言葉。
(共通の男の取り合いだけはやめな。女友達はそれが起きたら永遠におしまい…)
でも思い出してふと笑う僕。
僕が男を取るなんて、そんな事ってありっこないけど、このままじゃ悔しいから…
僕はポーチの中から可愛い小さなメモ用紙を取り出し、自分の携帯番号を走り書きして、それを手に席に戻る。
「あれ、理紗は?」
「う、うん、もうじき戻ると思う…」
僕は恥ずかしげにもじもじした後、今度は竜矢君の目をじっと見つめながら、申し訳なさそうにした。
「理紗ちゃん、ちょっと泣かせちゃった、えへ…」
最後のえへはちょっと照れ笑い。
「いや、愛ちゃんのせいじゃないよ。ずっと見てたけど、理紗なぜか愛ちゃんに喧嘩ごしで言ってたよね」
「そ、そかな…」
可愛くみせる女の仕草のトレーニングを思い出しつつ、実践してみる僕。そしておもむろに竜矢君の手を取り、さっき書いた携帯番号の紙を握らせ、そして足早に喫茶店を走り出る僕。竜矢君にサービスのつもりでお尻を少しふりながら。
それは理紗に対する僕の仕返しの最後の攻撃。別に竜矢君に気があったわけでもなかった。それどころか、今の僕には男に対する興味なんて少しもなかったし。
(やったー!理紗に逆襲してやった!)
上機嫌な僕!街の人の視線も気にすることなく、途中で軽くスキップしながら何事も無かった様にコートに戻ると、そこには堀先生が待ち構えてた。
「おかえり、何も無かった?」
「う、うん、別に」
本当はすごい事になったのに、逃げる様にそう言うと僕はコートで行われてるトーナメントの決勝戦を観に、ギャラリーの女の子?達の中に消えていく。
その日の夜は集まった研究所の先生達と卒業生で、スポーツセンター広間で立食パーティー。最初はテニストーナメント表彰式で、二年ぶり二度目の優勝した人のトロフィーと賞金の授与式。あ、あの人って、角のコンビニ店長の久保田さん!?
「おーい、来年から過去の優勝者はトーナメント辞退させろぉー」
上座のテーブルで早乙女大先生の横で、ワインの瓶片手にもう出来上がってる三宅先生が叫ぶと、
「あ、じゃあ決勝で手抜けばさー、二位の賞金三万円が毎年手に…」
あつかましくも、いつのまにか支部長横の特等席にずうずうしく座っている奈々先輩が続けると、すかさず三宅先生のヘッドロックが奈々先輩の首に決まる。
「い、痛いですぅ!大先生」
一同が笑う中、今度は今年の新入生の紹介で、初々しい研究所の制服姿の僕達五人がステージに上がって、かわるがわるご挨拶。ステージから見る集まった人は皆綺麗で可愛い人ばかり。
でも、早乙女先生、三宅先生、皆川先生と如月先生と河合さん以外、全員元男の人だったなんて、本当信じられない。自己紹介タイム、質問タイム、そして芸能人で誰に似てる?もしくは誰みたいになりそう?的な評価タイム。誰かの一言ごとに笑いが起きて、ステージ上の新入生は照れて顔を赤らめたり、女の子らしく恥ずかしがったり。
「次、倉田愛ちゃーん。はーい芸能人でたとえると!」
どきどきしながら僕は会場内の返事を待つ。すかさず僕の知ってる女優、ミュージシャン三人の名前が挙がってうれしかったけど、司会の女性は、
「うーん、どうかなー」
を連発。と、
「○○○48の○○ちゃん!」
誰かのその言葉に会場席から、
「あーあ」
「わかるわかる」
数人位の声が上がる。僕も聞いた事が無いし、知ってる人がいないところをみると、まだ有名所じゃないみたい。
「そんなに似てる?」
「あのね、もうちょっとふっくらすると、多分すごく似ると思う」
進行役の女性の問いに、意外にも答えたのは同じステージ上の明日香だった。
「だってさー、愛ってこの二か月で急激に女性化したもんね。誰かに似てきたなあって思ってたけど、ちょっとわかんなかった。まだその子新人みたいな子だし」
そう言って美里も同意した。さすが元秋葉オタク!。
そういえば、アイドルグループの研修生になった瑠璃さんていう先輩にも僕が似てるって前に言われたし、僕の顔ってそれ系なのか…な。
僕達がテーブルへ戻ったその後は、卒業生の近況発表。新しく美容室開いた人、何かの研究で本書いた人とか、地味な内容が続いた後、
「さてこれから大物に行きます!知ってる人もいるでしょうけど、十三期の瑠璃ちゃん。なんと、○○○四八の研修生に合格しました!」
会場からどよめきと拍手が起こる。
「あいつ、来たときから芸能界志望だったからなあ」
近くのテーブルの座っていた瞳先輩が呟く。そして、更に、
「次、ラスト!今年の一大ニュース!デビューしたばかりなのに今声優で人気急上昇中の、SAYAKAちゃん!」
司会のそこまでの言葉に再び会場がどよめく。
「なんと!なんとなんと!つい最近、やはり十三期生の森嶋彩加ちゃんだったことが判明しました!」
もう、すごいどよめきと、あちこちから聞こえる称賛の声!
「あれ、彩加だったんだ!」
「最近見ないと思ったら…」
僕も知ってる。すっごいアニメ声、同じテーブルの明日香と美里なんて興奮状態!
「すっげー、十三期レベルたっけぇー!」
思わず声を張り上げる特等席に座ってる奈々先輩。
「だって十三期の子って、皆芸能志向高かったよね。思えばあの二人が中心で」
もう酔っ払い状態でおとなしくなった三宅大先生の横で思い出す様に話す早乙女大先生。
「えー、だってさ二人ともまだあそこ未完成じゃね?アイドルになったんなら、水着とか大丈夫…」
奈々先輩の言葉に、さっきから微動だにしなかった横の三宅先生ががばっと動き出すと、再び奈々ちゃんの首に腕をかける。
「おめーは!ほんとに!ほんとに!毎回毎回!一言多いんだっ!よ!」
その様子を見て笑う司会者さん、でも気を取り直して続けた。
「それと、SAYAKAさん。本当は今日テニスに来られるはずだったんですが、仕事の関係で、たった今到着されましたー!」
その途端、前のドアから手を振り
「みなさーん、お久しぶりでーす」
と言いながら入って来たのは、僕も写真で顔を見た事がある、本物の声優のSAYAKAさん。
みんなの拍手の中、まずSAYAKAさんは、早乙女大先生と三宅大先生と両手で固く握手してハグ、その直後手を出した奈々先輩に対しては、その手を払いのけ、ぐりぐり首を絞めにかかった。
「だーって!だって!森嶋先輩来るなんて聞いてなかったんですー!」
奈々先輩のその言葉に首を絞めるのを止め、その手で奈々先輩の頭を軽くポンとはたき、
「ねーねー、全然昔と変わってないよねーこいつ!」
テーブル席の会場の方を向いて、自分の担当する元気で破天荒なアニメキャラの口真似で言うSAYAKAさん。皆の笑い声と拍手。
と、もうたまらなくなったのか、僕のテーブル席から飛び出す様に出ていく、明日香と里美。そしてまだステージに上がってもいないSAYAKAさんと二人揃って嬉しそうに握手。
「え?え?今年の新人さん?わー、可愛い!新人だ新人だー、うーれしーいなーっ」
SAYAKAさんの相変わらずのキャラの女の子の口真似で、手を取り合って輪になって踊る様にする三人だった。
「彩加ちゃん、ボイトレでは一番成功した方だよね」
水を差す様に質問する早乙女先生。
「はい、とっても辛かったですぅ」
泣きまねをしながら答えるSAYAKAさん。
「だってさー、ここに入って来た時はさー、まるで俳優の…」
「先生!やめてください!それは…」
笑いながらいきなり本来の彼女の声で早乙女大先生の口を手で塞ぐSAYAKAさん。
「あ、そうそう、彩加ちゃんの努力と経験を買って、来年の十六期生からここのボイストレーニングやってもらうからね」
「はい!そうでーす。またお世話になりまーす!」
皆の拍手にぺこっとお辞儀する、もうすっかりアイドルが身についたSAYAKAさんだった。
パーティーの後の自由時間、貸切の温泉に先輩達と入る僕。改めて見るとみんな胸がおっきい。巨乳声優とも言われているSAYAKAさんの胸もはしっかり見せてもらった僕。そして湯船の中でおっぱい談義。膨らんでいく様子とか、形の変化とか、大きくする方法とか。もう絶対ここでしか出来ない話ばっかりだった。
僕の周りに集まったOGの女の子?達も、まだ発達中の僕の小さな胸を触り、大きくするマッサージの方法とかを丁寧に教えてくれる。
(僕の胸も、いずれこんなになっちゃうのか)
そんなOGの人達の胸を眺めつつ、つんと尖ったまだAカップの胸を手で触りながら、複雑な思いの僕。と、
「あ、そうそう、今年から変えるんだって?性転換の方法?」
「愛ちゃん、何か聞いてる?」
すっかり打ち解けた先輩達の口から、以前から気になっている話題が出た。
「いえ、何も…」
先輩達の綺麗で可愛くなった女体を見ながら僕。
「あのさ、今までは精巣から細胞取り出して卵巣にしてから埋め込んだじゃん?今年からは精巣を直接卵巣にして、体内に埋めるんだって」
「へえー」
「いろいろ研究してんだね」
ついに核心に触れたその言葉を聞き、少し動揺する僕。僕もサンプルを取り出して卵巣にしちゃうんだって思ったけど、そういえば、そんなサンプル採取なんて、僕まだされてない!
「だから、女になるのかなり早まるらしいよ」
その言葉を聞いた僕はがばっと湯船から立ち上がる。
「え、どうしたの愛ちゃん?」
OGの人が不思議そうに見守る中、僕はちょっと頭が痛いと言い残して、大急ぎで脱衣所へ向かった。