時は進み、ステップⅡのトレーニングも終わりに近づいたある日の朝、研究所の裏門から、軽くスキップする様に出ていく花柄のショーパンとオレンジのブラウス一人の女の子、それはまぎれもない僕。
いつの間にかヘアスタイルは理紗と同じにカットされ、スキップを止めてスタスタと歩く様子は、もう誰が見ても元男の子だなんて思わないと思う。
最近は女の子でちょっと散歩なんて珍しくなくなった。親父からの依頼のスパイ活動なんてもうどうでもよくなっちゃった。
角のコンビニに入ってチョコレートとクッキーを手にして、新しいジュニア少女ファッション雑誌の新刊を探し始めた僕。小さな可愛いポーチを片手に甘いお菓子を手にしてルンルン気分。こんな気持ち男の子時代にはなかった。そして、女性向け雑誌の横の一般雑誌コーナへ目を向けた僕、その僕の目がみるみる点になる。
(ち、ちょっと!)
手に持った菓子を落としそうになった僕は大慌てでレジへ向かい、清算してビニール袋に入れてもらい、片手にそれを通して、もう一度その雑誌コーナーへ向かうと、一冊の雑誌を震える手で持った。
それは一般の三流誌程度のウソ臭いゴシップ記事が良く載ってる雑誌だったけど、その一面には…
「驚愕!男の娘養成学校、伊豆に実在!?」
驚いた僕は雑誌を手に取り、該当ページを開いて読み始めた。しかし読んでいくうちに僕の恐怖心は少し消える。
間違いなく書いたのは僕の親父。僕の証言を更に歪めて面白く、そして場所も僕がデタラメに教えた場所を中心に書いてあった。しかも三流誌にたった四ページ。
脱走防止用の鉄条網、監視カメラ、元オカマの竹刀持った教官、とニューハーフ崩れの教官、監禁、しごき…
読んでいくうちに僕の口から微かな笑い声さえ出た。しかし、
入所した男性の彼女の話、数回会っていくうちにだんだん女っぽく。最後に会った時は完全女装で、胸も有り、体にはビキニ水着の日焼け跡…
(理紗も一枚かんでるのか、これ!?)
あの時、ぽろっと親父に漏らした唯一の真情報、熱海駅から車で三~四十分の海岸線。伊豆半島の地図に該当地区が大きく円が描かれ、そしてデタラメに教えた西側はともかく、東側にも円が描かれ、そしてその円で囲まれた地形には、
(うわ…まずい)
早乙女美咲研究所の位置がぎりぎり入ってた。
(親父の奴!)
大急ぎで雑誌を閉じ、不安と恐怖で張り裂けそうな心臓を感じながら、僕は頭の中真っ白で研究所に向かった。
(せっかく、せっかくの楽しい時間なのに!)
研究所へ戻ると、玄関の近くの研修ルームの一室が異様な雰囲気。恐る恐る入ってみると、そこには堀先生以下、当直の研究所の先生全員と、僕を除く九人の入所中の研修生と先輩方の面々が。僕は恐る恐る部屋の隅に腰を下ろした。
「愛ちゃん来た?大塚先生と智子(河合)には別に話しするから、これで全部ね。じゃ、雅美さん」
「う、うん、あのね、これ今日出たとある雑誌なんだけど…」
そう話す雅美さんという名の女性、見覚えのある顔…。あ、あのコンビニの、
「あ、あのコンビニの店長さん!?」
思わず声を上げる僕。
「あれ、愛ちゃん知らなかった?そうよ、この方もうちの卒業生。コンビニ経営の傍ら、うちの研究所の門番やってくれてんの」
「まあ、あの小道行く人なんて研究所関係か、釣りとか山菜取りに来る地元の人しかいないからね」
堀先生と雅美さんが会話した後、再び記事について話す雅美さん。クラスメートと先輩達も手渡された雑誌を黙って神妙な目つきで肩を寄せ合って読んでいた。僕は、もう何も見えない、何も聞こえない…。只座って俯いて肩震わせて…。
「愛ちゃん、どうしたの?怖いの?」
「どうしんたんだよー愛、心配すんなって、ウソ記事ばっかじゃん…」
異様な雰囲気の僕に堀先生と渡辺先生が声をかけてくれる。
「でもさー、ゆっこ(堀)、この研究生の彼女って子の話って六月位でしょ?基礎トレ中にここまで外出許したのって、今回初めてだよね…これまさか今年の…?」
皆川先生のその声が聞こえた瞬間、僕の頭で何かが爆発し、心のコントロール機能が一瞬で止まる。
そのまま床に倒れ、大声で泣き崩れる僕。
「ちょっと!愛ちゃん!」
「ど、どうしたの!どうしたのよ!」
皆がかわるがわる声をかけてくれる中、
「愛ちゃん、もしかして…」
誰かが言ったその言葉に僕は悲鳴の様に出る泣き声をおさえ、やっと言葉が出た。
「…それ、書いたの………、僕の、……僕の……、親父なんです…」
途端にあがる、皆の
「えーーーーーーーーーー!?」
驚きと悲鳴の声、
「まさか…」
美紅の声が聞こえる中、最後の力を振り絞ってもう一言、
「…、その、中に出てくる女の子…、僕の彼女なんです…」
再度、こんどはもっと大きなみんなの驚きの声、打つ伏して、何も見えない、涙でぐしょぐしょの僕には、全員が僕から引いていく雰囲気がわかった。もう絶対顔上げられない!みんなの顔見れない!
どれくらい時間たったかわかんない、みんながどんな顔してるのかわかんない。僕ここへ来たのが間違いだったんだ!もっと早くここ出ればよかったんだ!こんなに良くしてくれたみんなにすご迷惑かけちゃったんだ!今すぐにでもここ出よう!でも出て、どうしたらいいの僕!?こんな体じゃ家にも帰れない!
僕が嗚咽しながらようやく顔を上げようとしたその時、
「何も、今ばらさなくてもいいのに…」
堀先生のそんな声が聞こえた様が気がした。
「ちょっと、ゆっこ!何よそれ!?」
皆川先生の驚いた声!
「まさか、ゆっこしゃん!知ってたんれすか!?」
如月先生の声が聞こえる。
「あーあ、もうほんとに…うん、知ってたよ。少なくともあたしと真琴(渡辺)と優(朝霧)ちゃんはね。あと河合さんと(河合)智子もね。大塚先生には早くもボディーガートお願いしてるし」
再び上がる皆の驚愕の声。その言葉に驚きながらも、いくぶんほっとした僕、やっぱり僕の予感は当たってたんだ。堀先生は僕の事知ってたんだ。
「ごめんなさい!」
一声叫んだ僕は涙でぐしょぐしょになった顔を皆に向けそして、今までのいきさつを声を詰まらせながらも皆に話し始める。
頭の中が真っ白のままだけど、何とか僕の話は終わる。終わってもしばしの間誰も話さない。
(じゃ、今日で終わりね)
(さようなら)
多分、そういう言葉が僕に降ってくる。最後のお別れの言葉どうしようか…。でも別れるのとってもつらい。それに、この体どうすれば…
そう思ってた僕に最初に声をかけてくれたのは堀先生だった。
「それで、どうしたいの?愛ちゃんは?」
その言葉の意味がすぐに理解出来ない僕。
「ねえ、愛、どうすんの?このまま続ける?それとも帰る?」
渡辺先生の言葉も僕にはすぐに理解出来ない…って、それって僕、ここに残る事って許されるの!?
あまりの事に僕はすぐに言葉が出ない、そしてやっと言葉が出る。
「僕、いや、あたし…、あたし…」
皆の目線が僕にすごく突き刺さるのがわかる。でも、これ今の僕の正直な気持ちなんだ!
「あたし!ここに残りたい!!」
やっとそう言った後、頭の中は再び真っ白になり、再び大声でわんわん泣き始める僕。とその時、
「なーんだ、そうゆうことか。かえって良かったじゃん。今まで通りあんたの親父にガセネタ流しとけば?」
最初に話したのは奈々先輩。
「秘密にしとくとさ、変なとこからかんぐられるからさ、ここは囮作ってさ」
「伊豆の西の方に適当な所無いっけ?」
「おばけ屋敷みたいなとことかさー」
お互い笑いながら話す先輩達。
「そーだったのかよ、なーんかおかしいなーってずっと思ってたんだけどさぁ、愛の事さー。わかったよ」
「でもさ、あちきらが帰ってくるまでにダンスきっちりおぼえたでしゅしねぇ」
大あくびしながら話す皆川先生と如月先生。
「もうさぁ、優ちゃん(朝霧)とまきちゃん(河合)が、早く愛を女にしてしまおうってあれこれ提案してきてうるさくってさぁ」
「いやね、早く既成事実作っちゃった方がいいかなって思ってさ」
「へーぇ」
笑いながら話す堀先生と朝霧先生と渡辺先生。そして、
「愛、大丈夫?」
「もう大丈夫だよ」
かわるがわる声をかけて労わってくれる僕のクラスメート達。
「それでさー、ゆっこ(堀)、どうする今後?」
「そうねー、まあ、しばらくは様子見でいいんじゃない?相手が次何やってくるか見てから考えるか」
「…えらく余裕じゃん…」
「…まあねー…あ、愛ちゃん。ぜーんぜん心配しないでいいから、今まで通りトレーニング続けてね。十月からはステップⅢの女性上級教養トレとテニスで女の子デビューだからね…」
「あ、ちょっと、愛ちゃん!」
限界に達していた緊張感と恐怖が一瞬にして消えた僕はそのまま意識を失ったらしい。
十月になり、一通り女子高校生として生活してく技術を身に着けた僕達は全員無事ステップⅢに進める事に。
今度はそれ以上の事を教え込まれる事になる。簡単に言うと女として興味の有る内容を必須のメイク、ヘアメイク、ファッション、ピアノとギター等の他、何種類か選んで個別で専門的に教えられるらしい。
「現実に女で高校生活送るには、今が最低ラインと思っててね。実際はもっと複雑で新しい事ばかりだし、そしてもっとドロドロしてるからさ」
そう言いながら、堀先生の配る資料を見る五人の女の子?達。顔、表情、仕草、そして声も。その姿は研究所の可愛い制服に包まれたどこからみても普通に女。
たくさんの科目の中から、明日香と美里はやっぱりというか、デザイン、イラスト、創作文芸系の項目を選ぶ。留美は演劇、バレエ、日舞、ピアノⅡ、歌。美紅は裁縫、デザイン、他ファッション系。そして僕は…、
「特にこれといってないんだけど…」
最終的に女度が上がりそうな、料理、歌、イラスト、メイクⅡ、そして英語を選んだ。
「愛ってさ、絶対お嫁さん向きだよね」
留美と美紅が書類を見て体をぶつけながら僕に言う。でも僕の心はまだひっかかっていた。
(男の娘になるまではいいけど、でも、男の人とのつきあいなんて、ちょっとまだ信じられない)
「そーれーとっ、あと二つ」
堀先生が続ける。
「十月の連休に、皆さんの女の子デビューを行います。例年と同じ軽井沢でテニス旅行。そしてもう一つ」
僕も思わず声を上げた皆の歓声の後、少し間を置いて堀先生が続ける。
「百項目の卒業試験も例年通りおこないます。あなた方の手術の前に全て合格してください。これに合格しないと手術は行えず、最悪の場合は、男の子に戻されます」
ああ、とうとう…僕に聞かされた手術という言葉。
不安そうなクラスメート達の表情に、横の渡辺先生が補足。
「大丈夫だよ。今まで落ちた人いないからさ。毎年今年は出るんじゃないかって思うんだけどねー」
いよいよ現実味を帯びてきた僕の女性化の話。もうスケジュールまで発表されちゃった。まだ心の奥底にある女への抵抗感。
と、僕の持つ携帯から特定人物のメール着信音。
「こら、愛ちゃん!講義中は携帯禁止でしょ」
「あ、ごめんなさい…」
そう言いながらも僕は着信画面を見る。そこには意外な人物からのメールが届いていた。
(理紗!?なんで!?)
そして本文には、
「よう、バカ、元気してる?十月の連休軽井沢行くんだけどさ、会う勇気有るんだったらこいよ。なんなら女で来てみたら」
その日のトレーニング終了後の夜、緊急事態という事で僕が堀先生にこの事を話すと、先生と一緒にみんなが僕の部屋に集まってくる。奈々先輩達までも。
「うわー、なにこの女!むっかつくー」
「愛、もう男って見られてないよねー、相手の女を見下した女のメールだよねー」
奈々先輩達が理紗のメールに毒づく
「堀先生、どうしたら…」
渡辺先生とちらっと向き合い、ちょっと考えるそぶりをする堀先生。
「…いいんじゃない?会っといでよ」
「えー!」
堀先生の言葉に皆驚く。
「だって、ゆっこ(堀)さー、これ絶対愛の親父の指図だよ。あの雑誌の記事好評だったんじゃない?だから続きを書く為にこの女使ってさ」
「いいじゃん、好きにやらしとけば?」
「で、でもさー…」
堀先生の意外な言葉に渡辺先生が食いつく様に抗議。
「あ、それじゃさー、愛の為にその女の想定質問集と回答集作ってやろうよ!」
「あ、おもしろそう!」
「へへへ、面白くなってきたさー、その女へこましてやろーぜ!愛、その日は絶対可愛いかっこしてさー」
「会ってる様子みちゃおか」
先輩達が盛り上がり始めた時、
「やめて!」
堀先生の一言で皆がシーンとなる。
「あまり変な事しないで。愛ちゃん、普通に会ってきなさい。何事もなかった様に。会う日にちと時間決まったら教えてちょうだい」
じっと僕の目を見つめて話す堀先生だった。
その週の日曜日、河合さんが僕達五人があらかじめカタログとかで選んだ第三候補までのテニスウェアを持って研究所に到着。
僕の場合、スコート姿の自分がワンピがいいのかセパレーツがいいのかすら分からなかったので、河合さんにお任せする事に。だって、他と違ってまさかここまで自分が女になるなんて思わなかったし…、女の子のテニスウェアなんて、そうカタログで見たことなんて…。ましてやテニススコート履く事になるなんて!
「愛ちゃんも大変な状況に置かれてたんだよねぇ。まあ、テニスの時は思いっきり遊びなさい。どういう訳か知らないけど、例の彼女とも会うんでしょ?」
僕の事が皆に知れた事により、よりいっそう目をかけてくれる河合さん。
「愛ちゃん、これどう?」
河合さんが手に取ったのは、パステルピンクの胸元に小花が散りばめられたレディースのポロシャツに白のプリーツ状のスカートと白のアンスコのセット。
「うわぁ、僕とうとうこれを着て…」
「何言ってるのよ、水着だってレオタードだって経験済みでしょ」
「だってあれ着てる時って、普通の人には見られない時だし、その…」
「愛ちゃん、ふっくらしていい女になってきたわねぇ」
僕の抵抗の言葉を河合さんがすらっと流し、ウェアを両手に持って続ける。
「本当は白一色がいいかなって思ったんだけどさ、あまりに清潔すぎるから…」
一息いれて続ける河合さん。
「薄いピンクは女になってきたあなたの体、小花はあなたの心に芽生え始めた女の優しさ、そしてプリーツは、あなたの彼女だった女の子に、まだまだ自分は女としては子供だから、いろいろ教えてねっていうアピール」
そう言って、はいっと渡される少女っぽい可愛いウェア。いい女って言葉が魔法の様に僕に…
「あの、着てみていい?」
「ええ、どうぞ」
恥ずかしそうに話す僕に河合さんが快く。僕は恥ずかしげにそれを持って隣の部屋へ行こうとするけど、
「愛ちゃん、いいのよ、ここで着替えたら?」
「い、いや、あたしの胸、もう男じゃないし、恥ずかしいし…」
「何よもう、あたしはあなたみたいな時の子の体なんてもう十年以上見てるのよ」
そう言われてしぶしぶ着替え始める僕。ブラとショーツだけになった時はさすがに河合さんに背を向けた。フリル付きのショートパンツみたいなアンスコを履き、ボックスプリーツのスコートをまとい、可愛いウェアを被って、鏡を見ながらスカートの上でウェアの裾の位置を決める僕。
「河合さん、こんな感じでどう?」
鏡に映る僕は、このウェアのせいで、まるでけがれを知らない女の子の様に変わってしまった。
「何もないわ。ごく普通よ。もっと自信持って」
部屋の奥では、そろそろ美少女へ変わり始めた僕に、ピンクのワンピース姿の美紅がVサインを送ってくれた。
河合さんありがとう。僕だけじゃなく、僕の、そう、こんな体になった今、もう元カノとしか言えなくなった理紗にまで気を使ってくれて。
その理紗が、まさかあんな事を仕掛けてくるなんて思いもよらない、僕にとって幸せな時だった。
いよいよ当日!大荷物は車で運んでもらって僕達は化粧道具とかの身近な物だけを小さなバッグに入れて持たされ、早朝渡辺先生と如月先生に追い出される様に研究所を出た。 駅へ向かう、僕達しか乗客のいないバスに恐る恐る乗り込み、駅で人がまばらな東京行の電車に乗り込んだ僕達だけど、それまでみんな恥ずかしくて終始無言。そして電車のロングシートに乗り込んで暫くたった時、
「なんでミニスカとかショーパンしか用意されてないのよ、あそこは!」
「なんか、すごく人の視線感じるよね。それに寒いし」
お互いフレアのショーパンにニーソックス姿の明日香と美里がぶーぶー不満を言い始める。
「愛とか美紅とか、よくミニスカ普通に履けるよね」
グレーのかぼちゃパンツ姿にストッキング姿の留美が僕に向かって言う。
「だってさー」
僕は左右を見渡して人が見てないのを確かめると、ジーンズのミニスカをめくって紺のアンスコをちらちらさせる。
「ちゃんと対策済だよ」
「いや、そうじゃなくってさ」
「すっごい自信有るって感じ」
明日香と美里が僕に向かって、早くも女同士の牽制を始める。
「えー、だってさー」
スカートまくれ防止付きの花柄のシフォンのミニスカの裾をいじりながら僕の口真似をする美紅。
「だって、これだけ太ももが可愛くなったらさー」
すかさず僕も美紅の援護。
「だよねー、なんか、スカートでみせびらかしたくなるよねー」
僕と美紅はそこでお互い体をよじって太もものみせくらべっこ。美紅の柔らかさにはまだ劣るけど、ミニスカから覗くふっくらした太ももと、丸みを帯び始めた僕のふくらはぎ。もうどこから見ても女の足。
「ねえ、最近すごく変化のスピード早くない?」
ふと皆の顔見ながら話す留美。
「飲み薬ってさ、最初と変わってないよね?」
「注射の薬変えたの?」
「ううん、それ無い。アンプルの瓶前と変わってないよ」
「え、じゃ、ひょっとして夜の一人エッチ…」
「え、美紅もやってんの?」
「やってんのって、もう!美里だってやってんじゃん!」
「なんで、知ってんの!?」
「声漏れてたじゃん!今度からやるなら窓しめてやんな!」
「そういえば愛も可愛い声出すよね?」
「こら!留美!」
まわりに人がいないと笑いながらこんな過激な話をする僕達。
都心に近ずくにつれ、祝日とはいえだんだん混み始める僕達の乗った車両。その中で僕達女の子?のロングシートの五人掛けはすごく目立つらしい。僕達は恥ずかしくて話も出来なくなっている。
男達の目線が僕の胸に、太ももに刺さる刺さる!
前のシートに座り、あきらかに僕と横の美紅のスカートをのぞこうとしている親父。僕達の前に立ち、立って寝たふりして僕の膝に足をぶつけようとした親父。端の美里の横に座り、寝たふりして顔を彼女?の肩にかけようとしするオタクっぽい男!
男だけでなく、女の子達の目も。通りすがりの女の子達にじろじろチェックされっぱなし。席を探して移動する別の女の子達の目線はあきらかに僕達を挑発してる様。
その子達はジーンズだったり、ショーパンにレギンスだったり、ロングスカートだったり…。
(何この季節生足見せてんだよ)
(かわいぶりやがって)
声には聞こえない、何かテレパシーみたいなもので、目線とともに声が聞こえるみたい。美紅はそんな女の子達が前を通り過ぎた後、軽くアッカンベをしてた。
早くも女としての洗礼を受けた僕達はもうしょっぱなから辟易し始めた。
やっと長野行の新幹線の自由席に乗り込んだ僕達は、明日香、美里とその他の二組に分かれて座り、ほっと一息。
でも災難は続く。二人がけのボックスシートを倒して座った僕と美紅と留美。あいている留美の横に、他に席が空いているのにわざわざ座った酒臭い親父。その親父が寄って寝たふりして留美の肩へ頭をかける。
留美が嫌がってどけても親父は執拗に。僕達が何も言えなさそうな女の子達に見えるからだろうか?まわりのサラリーマン風の人も見て見ぬふり。
まだ頭の中に男が残っている僕がその様子を携帯動画で撮りはじめると、酔っ払い親父が豹変。
「なんだよてめぇー」
その途端僕の残っていた男部分が爆発。
「ふざけんなよてめー!さっきから何やってんだよ!」
声こそもう普通の女の子の声だったけど、
「なんだよてめー!文句あんのか!」
向かってきた親父の顔に目もくれず、僕は大声で叫ぶ。
「駅員さーん!この人変な事ばかりするの!動画もとってありまーす!」
その途端、その男はわけもわからない大声を上げ、席からどいた。
「すごい、愛勇気ある」
他の四人が口々に僕を称賛してくれたけど、僕はもうそれ以上の事はしなかった。以前の僕なら警察に突き出す事くらいしたかもしれないけど、
(もういいの。邪魔さえいなくなりゃそれでいい。でも、いずれ女の体と心になっていく僕、もうこんなこと、今後多分出来ないかもしれない)
そう思いつつ、今朝からと今のストレスでついうとうと眠ってしまう僕。