早乙女美咲研究所潜入記

(11)マジで女の子に…なっていく

 翌日の朝、つもより早く僕は目覚めた。夜中一度も目を覚まさずぐっすり眠ったみたい。なんかいつもの寝起きと違う。なんで?なんだか、すごい爽快感!
 軽くあくびをした後、僕はぽんとベッドから飛び起き、衣装ダンスから真新しいシャツを取り出す僕。どういう訳か無意識に選んだのは今まであまり着ようとしなかった花柄のピンクのパステル模様。そして、
(これにしよっ)
 白に花柄の着心地のいいミニのスカートを履いて、さっさと洗顔所へ。朝まだ六時。いつもは一番遅く来る僕は今日は意一番乗り!すごく気分がいい!
 なんで?どうして?まさか昨日の夜の…?ううん!もうどうでもいい!
 いつもより丁寧に洗顔とスキンケア、そしてブラッシング。いつもより顔の肌艶がいい気もしたけど、そんな事より急に体を動かしたくなった僕は急ぎ足で部屋へ戻り、いつものトレーニング着替りのシャツとホットパンツを着込む僕。でも、でもなんだか今日は…
「んと、いつもこれじゃつまんない」
 独り言みたいに言った僕の足は、小走り気味にレンタル衣装部屋へ。
(たまいはいいっか、これにしよっ)
 手にしたのはピンクの花柄のアンダーパンツ付フィットネス用ショーパンと、白にやはり花柄のノースリーブのタンクトップ。
 大事そうに胸に抱えて部屋に戻り、着替えて姿見の前へ。
「うん、可愛いじゃん」
 日頃の日常動作トレーニングのせいかウインクして舌をちろっと出す、いつの間にかおちゃめなスポーツ少女に変わってしまった僕。
 まだ時間は朝の七時前。
(遅れを取り戻さないと)
 その足で僕は、板張りの研修室、いわばダンスルームへ向かった。
 
「あ、奈々先輩、おはようございまーす」
 部屋の大鏡の隅に、髪ぼさぼさでジーンズのショーパンに派手なビスチェ姿で歯ブラシを口する奈々先輩の姿が映った時、元気良く挨拶する僕。
「…今日あたり地震来るな、こりゃ…」
 一人ダンスのおさらいする僕をちらっと見た後、戸口に消えたと思ったらすぐにまた姿を現す奈々先輩。
「おーい、今日から朝涼しいうちにコートでテニスの練習はじめっから。ちゃんとブルマ姿で来いな…」
 と言いつつ、僕の練習風景を観る奈々先輩。
「…て、まあ、もう大丈夫か…」
 再び奈々先輩は戸口に消えた。

 朝九時、更衣室代わりの研修室で、わいわいくっちゃべりながら次々とブルマ姿に変わっていく元男の子達。
 僕もごく普通に下着姿になり、最近ぴっちりしはじめたブルマを履き、丸首のシャツを着ながら皆とたわいもない話をぺちやぺちゃと話す。トレーニングのせいか、だんだんおしゃべりになっていく僕。
 アニオタだった明日香も美里も僕達と一緒の時は、昔みたいにオタクアニメの話をすることは殆ど無くなった。いつしか話題はトレーニングの事とか、ファッション、芸能、料理の事に変わっていった。
 既に着替えて時間を待つ留美と美紅は、二人でこそこそと男性アイドルの話をしてるらしい。
 二人とも太ももはもう眩しい程の白さと柔らかさになり、小さいながらもブルマで包まれた丸みを帯びはじめたたヒップをキヤッキヤッという笑い声と共に揺らしながら談笑する姿は、もう普通の女の子と変わらない。
 着替え終わって鏡に向かって、シュシュを手に髪をポニーテールに纏める僕。その間僕の頭の中にある光景が浮かぶ。
 小学校からの幼馴染の理紗が中学校でテニス部に入った初日、今の僕と同じ様にブルマ姿で髪をシュシュで纏めている様子をコートの外から見ている僕。
 ショートパンツだった小学校の時と違い、ブルマ姿になった彼女はそれだけで可愛く女らしくなっていた。胸もまだ大きくなかったけど、ブルマから伸びる太ももだけは可愛くて女の子らしくて…。理紗が友達からそれ以上の存在になったのは、その時からだった。
 そして今の僕は、顔こそ違うものの、
(今の僕って、あの時の理紗と同じだよな)


 丸首シャツから透けるブラに包まれた小さく膨らんだ胸、くびれもほとんど無い腰、そしてとうとう何のためらいもなく、あたりまえに履いてしまったブルマのちょっとエッチな線と、小さいながらも丸くなりはじめたヒップ。そして、ブルマから伸びる柔らかな脂肪が付き始めた僕の太もも…。
「愛!なにやってんのよ。早くいこっ」
 もう既に元秋葉系オタク男とは思えない位可愛くなりはじめた明日香と美里に手を捕まれて、僕の回想シーンは終わる。


 テニスは多少真似事はしていたはず。でも、何だよこれ!?
 多少の経験有りということで、最初大塚先生と始めたラリー。ところが…、ラケット重い!早く走れない!ボールについていけない!ボールがネットに届かない!そんな事より問題は、
(胸が!胸が揺れて邪魔!!)
 まだAカップなのに!ぽよぽよぷるぷる、胸全体の脂肪が動く、なにこの変な感覚…
 暫く打ち合って、息を切らして座り込んだ僕と、その様子を見ていたクラスメートに大塚先生が笑いながら言う。
「どうだ愛、疲れただろ」
 呼吸を整え、やっと立ち上がった僕。大塚先生が続けた。
「今、愛には試しに男性時代と同じ条件でテニスやってもらった。ボールもラケットも男性用。当然愛も男性の打ち方でプレイしたはずだ」
 そういいつつ、大塚先生はコートのベンチに用意してある小奇麗なラケットを持ち、僕達の前に。
「いいか、もうお前達は男じゃなくなったんだ。女性用のラケットとボール、練習メニューでいくからな。まあ上級者になれば男女の打ち方なんてなくなるが。それと、あー、それと胸の発育に伴う違和感は、まあ我慢するしかないな。男が女になるなら誰しも通る道だ」
 最後に意地悪そうに言う大塚先生。こうして僕には女の子テニスを教え込まれる事になった。

 美味しい!どうして!?普通のケーキとチェーン店のドーナツのはずなのに!?
 その日の昼食は昼食替りの先輩達の差し入れのケーキとドーナツ。最初そんなの僕の胃が絶対胃受け付けない!後で朝霧先生に何か貰おうって思ってたのに…!
 食堂でテーブルの上一杯に広げられたケーキとドーナツの箱と包み。わいわい騒ぎながら食べる先輩と僕達。いつのまにか朝霧先生まで同席して、女?ばかり十一人のにわかお茶会。でも、全員が元男性ってのを考えると…、ううん気にしない。楽しけりゃそれでいいもん。
 あっという間にチーズケーキ一つとチョコのドーナツを一つ平らげ、オールドファッションに手を出す僕。皆喋っては食べ、食べては喋って、まだ十分と経ってないのに、テーブルの上のお菓子の三分の一は消えていた。
 ここに来る前は、どう考えてもケーキとドーナツ一個ずつが限界だったのに、僕の手にした三個目のドーナツはもう消えかかっていた。
「…おもわなくない?」
「…うっそー…やだー」
「…ちょーかわいい…」
 次第に女子高校生言葉が口に出始める僕。もう以前の二倍位おしゃべりになった僕。そしてみんなといると喋ってないと落ち着かなくなった僕。無意識のうちに言葉と共に手と体が動く様になった僕。そして常に笑顔を意識し始めた僕。
 お昼休みの一時間は朝霧先生の美味しい食べ物のお話とか他愛の無い雑談でたちまち終わってしまう。そして、終わった後は、楽しい時間が終わったという空しさの反面、何故か感じるすごい爽快感!
 午後は図書館で少女文学を読んだり、女の子向けのトーク番組観て、口真似したり、イラストをちょっと描いてみたり…。
 その夜、僕の手ははっきりと女の膨らみの出来始めた胸にあてがわれ、少しの間の秘密の時間。
 別に女になりたいがどうのこうのじゃない。只、これやるとすごく気持ちよくて、翌日頭の中がすごく冴える。
 朝の早起きだって全然苦にならなくなり、そして遅れていたダンスレッスンのおさらいが朝楽しいくらいだった。昼はどういうわけかお菓子三昧。
 そして一週間位こんな日が続く。

 明日はいよいよ皆川先生と如月先生が戻ってくる日。そして今日、僕はようやくダンスの振付を通しでマスター出来た。
 最近体が火照ってしかたない僕だけど、その日の夜はすごく涼しくて気持ちのいい時間。そして寝る前、僕はある事を試みようとしていた。
 部屋の姿見に映るショーツとブラ姿の僕は、一週間前とどこか違っている。連日昼間にケーキとか食べたせいか、少し太ったみたい。指で体を触ると、まだ固い体の表面についたとろとろの肉というか脂肪が指に吸い付く様。ショーツの腰の部分はその柔らかな肉にはっきり食い込んでいた。
 姿見を見つめ、口を少し開き体をゆっくりとよじり胸に手を当て、腰をくねらせ始める僕。それは理紗が僕と抱き合う前にする姿だった。
 昼間はともかく、夜の女の子の手本は僕には理紗しかなかった。他の子達はどうかしらないけど。今日はともかく、理紗という手本を思い出して…
(理紗よりかわいくなってやる。理紗をおどろかしてやる)
 もう自分がどうしてここにいるのかなんて思わなかった。そしてどうして自分がこんな事をしようとするのかだって、考えるのがおっくうになってくる。
(だって、きもちいいんだもん。理紗みたいに可愛く…)
 そのままベッドにダイブして、ブラの上から胸を愛撫しはじめる僕。口からは今までの僕とは違った声が漏れる。
「あ、ああん…」
 それは僕と抱き合っている時の理紗の口真似。器用に背中に手をやり、ブラのホックを外すと、胸にほどよい解放感と共に、膨らみは小さいけどもう男の胸とは思えない僕の胸が現れる。
 水着跡の着いた真っ白な肌、それは体の他の部分よりも柔らかく、苺色の豆粒の様に変化した、あきらかに女とわかる僕のバストトップが目に入る。
 日毎にそれを触ると得られる気持ちよさは増えていくみたい。今日は一段と…。
「あっ…ああん…」
 僕の口から出る声は、意識したせいもあるけどだんだん理紗の喘ぎ声に似ていく。片方の手で胸を愛撫し、もう片方の手はこの一週間の一人遊びの中で発見した体のあちこちの感じる部分を触り始る。
 その手つきは柔らかく、しなやかで、女らしく。首筋、お腹、脇の下、太もも、そしてすっかり退化した僕の男性自身の部分。そこに手がいくとき、僕は無意識のうちに中指を立てるまでになっていた。
 喘ぎ声もハスキーだけど、普通に女っぽい声。というか、トレーニングのせいで普段使う声帯の部分は何センチも喉の上の方に上がってしまっていた。
 男の声を出そうとする時、意識して元の部分を使おうとすると数度ためしに声を出さないと出ない位になっている。
(もうだめ、僕、もう…)
 何かふっきれた様な今日の僕、そしてしばらく後、いつもの様に退化した男性自身から何かにじみ出る感覚を覚えた途端、僕の意識は途切れる。
「理紗みたいに、理紗みたいになって…」

 翌日の朝九時。二週間ぶりに皆川先生と如月先生に会う為、僕達はブルマ姿で板張りの研修室に待機。そして今日から正式にレッスンⅡ、いわゆる女子高校生特化トレーニングの夏休みを挟んでの再スタート。ルームの奥で堀先生と渡辺先生も体育座りして見学らしい。
 やがて真っ黒に日焼けした二人の先生が戸口から登場。
「やっぱ日本が一番でしゅよ!懐かしい匂いでしゅねー」
 派手なショーパンに怪獣の絵のタンクトップ姿で如月先生。
「いやあ、暑いなあ日本は。どう?ちゃんと練習した?」
 そう言いながらプレーヤーを持ち、愛用のMIKEのロゴのレオタード姿で登場した皆川先生。
「まあ、約一名不安な子もいる…」
 そう言って僕の方をちらっと見る皆川先生の顔が、ふといぶかしげになる。
「…けど、て、お、おい、お前、ひょっとかして、愛?」
 皆川先生の言葉に横の如月先生も僕を見て
「えーーー!」
 と驚きの表情、いっしゅんびくっとして一歩さがる僕。
「お前って、愛!顔、顔!」
 皆川先生の驚きの言葉に、後ろの堀先生と渡辺先生が顔を見合わせる。
「愛の顔がどうかした?」
 僕達の間から覗き込む様に話す堀先生。
「だから、顔、全然変わってるじゃん!」
「なんかこう、ふっくらして、すごく女度があがってましゅよ!」
 先生二人に見つめられ、思わず一歩引く僕。
「そーぉー?いつも見てるからかなあ」
 そう言って渡辺先生が首をかしげる。
「まあ、そんなのどうでもいいわ。じゃ、二週間の自主トレーニングの成果見せてもらうから」
 そう言って皆川先生はプレーヤーのスイッチを入れた。最初はぶすっと見ていた皆川先生も進むにつれ、だんだん僕達の動きをじっと見つめ、真顔になり、そして時折笑みも。
「は、はいOK。て、すごいじゃん!みんなちゃんと出来てんじゃん!」
「まだ雑なところはありましゅけど、いいんじゃないしゅか?」
「う、うん、あたしの思ってたベストの線だわ…」
 そう言ってプレーヤーのスイッチを切る皆川先生。
「みんな頑張ってたんだよ。愛ちゃんなんてここしばらく早朝練習までしてたもん、ねー」 
 そう言っておどけたしぐさて僕に同意を求める渡辺先生。
「へぇー、愛がねぇ、あたしさー、帰りの飛行機の中でそれだけが憂鬱で寝れなかったのよ。愛だけ更に二週間位特訓しなきゃいけないかもってさー」
 僕の顔をじっとみながらプレーヤーを手に持っていじる皆川先生。
「みけしゃん、これだったらバレエとジヤズダンス、すぐに始めれましゅよ」
 早くも疲れたのか、座り込んで傍らのペットボトルに口を付けながら如月先生。
「うん、わかった。次からバレエとジヤズダンスも並行して。それで…」
 うわ、この上バレエとジャズダンスまで?僕どこまで女を仕込まれるの?

 その日の昼下がり、結構機嫌が良い皆川先生と如月先生から、
「久しぶりに体を動かしたい」
 という話が有り、僕達は再びブルマ姿でテニスコートへ。
 二人の先生は、
「さすがにこの年でスコートはないっしょ」
 という事で二人とも黒のショートパンツとTシャツ姿で、ラケットの素振りをしながらコートへ、と
「ほらほら、来たでしゅよ。何考えてるのかわからん二人が…」
 如月先生がオーバー気味に僕達に話して指さす先には、
「あたしもやるー」
 と、建物から出てきた堀先生と渡辺先生。堀先生はピンクのウェアに白のスコート、渡辺先生はずっと愛用しているという、目の覚める様なセルリアンブルーのゲームワンピース。
「あの二人ってあたしと同い年だぜ、三十路超えてんだぜ」
「なーんか言ったぁ?みけ(皆川)ちゃーん」
 皆川先生が僕達に向かって話す言葉に反応する堀先生。
「あたしは太っちゃったし、テニスも長年やってないから審判やるわ」
 僕達が笑ってる横でそそくさと審判席に入る朝霧先生。
「あ、あたしボールガールやりまーす」
 ブルマに包まれ、目立ってきたヒップを揺らし、ネットの横で座る明日香と美里。
「みんないい時期にここに来たわよねー、あたしたちの時代は先生が三宅(美咲)先生だったからさ、こんな和やかな雰囲気なんて全然なかったわよ。毎日しごかれてさー」
 懐かしむ様に喋る朝霧先生。
「いいなあ、可愛いなあ、テニスウェア…」
 思わず僕の口からそんな言葉が出る。
「あんた達も今年の十月は可愛いウェア着て女の子デビューだよ。それまでに一生懸命練習しな」
 朝霧先生の言葉に、僕は自分が学校の女子テニス部に入部した様な気分になっていた。そう、理紗も経験した様な。

 翌日、アイドルユニットの衣装みたいなここの制服に包まれ、午前中は勉学、午後は女子高校生化トレーニングが再開。午前中机に座って勉強する僕達の姿は、もう普通の女子高校生みたくなっていた。スカートから伸びる曲線美を帯びはじめて白くなった足、艶が出て綺麗になってきた髪。いつのまにか無意識に出る様になってきた女の子らしい手の仕草、足癖。
 僕も、そしてみんなも意識的に女の仕草をしてるわけじゃない。長い髪になり、スカートを履いた僕達は、それをさばく為に自然と女の子っぽい仕草が増えてくる。
 疲れるんじゃなくって、すぐだるくなってくるぽちゃぽちゃし始めた体を支える為に頬杖とかする事が多くなる。
 もの思いにふける事が多くなりぼーっとする事も増えてくる。
 遊び心が増え、少しの事で喜んだり悲しくなったりしはじめた僕達の心の変化。
 女の子の仕草って、こういう事が原因で必然的にそうなるんだって事がわかってきた。 他の子より先に何かを完成させるっていう闘争心みたいなものもだんだん薄れていく気がする。要は、自分が満足だったらそれでいいっていう、不思議な感情も芽生えてきた。 そして、とうとう恐怖のバレエレッスンの時間が来る。

 レッスン開始の九時までもうあと十五分しかないのに、僕達はまだレッスンルームで以前手渡されたレオタードを前にもじもじしていた。
「だってさー、恥ずかしいじゃん、これって…」
 もう殆ど女の子の容姿になった美紅までもが、水色のレオタードを手にして神妙な顔つきをしている。
「スク水とかブルマは着れたのに…」
「だってさー、スク水は半分水の中だし、ブルマは可愛いからでしょ…」
「これってさ、やっぱエロいよね…」
「体の線はっきり出るしね…」
 僕も同感だった。そして更に僕には、これを着るともう絶対男には戻れないんじゃないかって不安も有った。こんな体になった今も心の底ではまだ女性化に対する抵抗勢力が残っているらしい。
 とうとう美紅が皆に先んじて覚悟を決めたらしい。のそのそっと立ち上がると壁に向いて専用のショーツとブラをそそくさと付け、そしてレオタードに足を通し始める。
 ウエストのくびれも殆ど無く、まだ小さいけど丸く可愛く、そしてショーツからどっとはみ出たヒップの白く柔らかそうな肉を、水色のそれはくるんと包み始めた。
 他の三人も美紅の様子を観てようやく着替えにかかる。僕も覚悟を決めた。
 以前は向かいあっていろいろ話しながら着替えた仲間なのに、胸も膨らみ、柔らかな脂肪で覆われて丸みを帯びた体になり始めた今、お互い恥ずかしいのだろうか、皆着替えの時は黙って壁を向いて着替える様になっていた。
 とうとう覚悟を決め、そそくさとレオタード用のブラとショーツを付ける僕。退化して小さく柔らかくなった男性自身がショーツで押しつぶされていく。
 手に持った半袖のパステルパープルのレオタードに足を通し、体に密着させ、いつの間にか感じ始めたヒップを衣服で持ち上げられる感覚を覚え、体に付き始めた柔らかな脂肪がつるんとした生地で包まれ、艶を帯びていく。
 同色のオーバースカートを履き、慣れない手つきでトゥーシューズの紐と格闘する僕。
 髪をばさっとかきあげ、用意したシュシュで髪をポニーテールにして、大鏡の前に立ちヘアピンでしっかりと両サイドの髪を留めながら、
(僕、いったい何やってんだろ)
 と今更ながらに思う僕は、鏡に映った自分の姿に一瞬どっきり。
 ふっくらした頬、ぱっちりとした目、殆どシミとかニキビ跡が消えた白い肌、そして生え際に生え始めた柔らかな産毛。はっきりと膨らみがわかる胸、レオタードで矯正されたなめらかな体の線。その姿はもうジャニ系の美少年じゃなかった。もう、一人のバレエ練習中の…、
「愛、可愛くなったじゃん!」
 鏡に映る僕の横に、やはり僕と同じく、もはや女にしか見えなくなった留美が駆け寄り、僕の肩に手を置くと、美紅も、明日香も、美里も…
 五人体をくっけ、互いの肩や体に手を当て、くっつきあいながら、お互いの少女に変わりつつある体を見つめあい、手で軽くポーズを取っていた。
「いつのまにか、こんなになっちゃったね…」
「うん…」
 留美と僕の言葉の横で、
「本当信じられない…」
 努力のせいか、つのまにか標準クラスの女の子の容姿に変わった明日香が、感慨深げに鏡に映る自分を見つめていた。その時、
「撮るよ!」
 いきなりの皆川先生の声。一瞬どきっとしたものの、僕達五人はカメラを持った皆川先生の前に駆け寄り、トレーニングの一つの(数人集まってカメラの映り方)の教え通り、体を少し半身にして、手でおもいおもいのVサイン。
 この写真は僕の女の子としてのアルバムの最初に貼られる事になった。
「マスターするのは基本だけでいいから。本格的にやりたくなったら十月からのステップⅢの上級教養で選択しなさい」
 皆川先生の言葉で始まったバレエの基礎トレーニングは、僕の体から男の子を消し去っていくには十分効果的だった。
 手の動作と手のひらを組み合わせた仕草はすっかり丸みを帯び、歩く時の足と足首の動作は優雅になり、終わりごろになると男の動作は意識しないと出ないまでになってた。
 その他の女子高校生化のトレーニングも順調に進み、いつしか夏の暑さも終わりを迎える。

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