早乙女美咲研究所潜入記

(2)初日からいきなり

 一週間後、俺宛に入所受け入れ許可の通知が郵便で届いた。
 
 四月の一日。必要最低限の荷物の入ったバッグを持ち、十四時に熱海駅の待ち合わせ場所のベンチに座っている俺。どういうわけか春の装いの女の子達に視線が向いてしまう。卒業式の後、皆それぞれの進路に向かって笑顔で話している中、俺だけは不安だった。式の後、理紗としばしお別れの長いキスも少し物悲しいものだった。
 ここでどういったトレーニングが行われるのか、全く情報が無いからだった。協力者の女性、いや、元は男性だったんだろうけど、トレーニングの内容とか、その場所の情報とかは全く教えてくれなかった。
(当然、施設ではああいう女物を着せられるんだろなあ)
 ついつい憂鬱になってしまう。面接ではマニュアル通りに、
『可愛い服を着て、男の子の気を引きたかった』
『男の子にちやほやされたかった』
 そんな風にマニュアル通り答えたものの、俺の心中はそんな気持ちなんて全く無い。
 ピンクのブラとショーツ姿の理紗が、キスをねだるあの可愛い仕草、それをこの俺がやるなんて、想像しただけでも…
「倉田涼平さんですね」
 駅の列車案内のアナウンスの声と共に俺の耳に聞き覚えの有る声。
「改めて、早乙女百合と申します。この施設の日本の総責任者です。ここまでお疲れ様でした」
「渡辺真琴です。施設で看護婦と生活指導やってます」
 面接の時と違ってにこやかな顔で接してくれる彼女達に、俺も慌てて挨拶をした。
「施設まで車で行きます。こっちへ」
 可愛いおばさん達に連れられ、ほっとした表情で俺は駐車場へ向かった。緑豊かな木々と目の前の青い海とほんのり香る磯の匂い。ここでの一年間の生活って悪くないかも!

「え、これ何ですか?」
 車に乗るやいなや目隠しをされてしまう俺。
「最近変なマスコミというか、ジャーナリストに目付けられてさ、場所は今は秘密だからちょっとごめんね」
(それって、俺の親父の事じゃんか…)
 素直に目隠しをされる俺だった。
「何、真琴、優しいじゃん」
「大丈夫、優しいのは今日一日だけだから」
 運転席から笑いながら話す早乙女先生に答える渡辺先生。まあ、相手は女だし。
「涼平君。こう見えても実は真琴って、前は男だったんだよ」
「えええ!」
 思わず目隠しを取ろうとする俺の手をしっかり妨害する渡辺先生。
「もう、今ここで言わなくてもいじゃん。いつ気づくか楽しみにしてたんだから」
 ナイスボディで声も可愛いこのおばさんが、まさかそんな…
 ちょっとびっくりしている俺を乗せて、シルバーのBMWのエンジン音が聞こえた。

 途中の渋滞で寝てしまった俺が目を覚ますと、そこはなにかの施設の駐車場だった。
「着いたよ」
 その言葉に促され、車外に出る俺。
(へえ、結構いいとこじゃん)
 二階建てと四階建ての棟が二つ。二階建ての棟の裏から聞こえる波音とウミネコの声。しかし、建物の上に張り巡らされた有刺鉄線が気になる。
「あれは脱走防止じゃなくて侵入防止用だから気にしなくていいのよぉ」
「脱走って」
 早乙女先生の言葉にぎくっとして尋ねる俺。
「まあ、帰りたくなったらいつでも言ってくれていいわよぉ」
「そんなに厳しいんですか」
「まあ、どうかしら。最初に言っとくけど、三ヶ月は外出禁止だからねぇ」
「うっそぉ!」
 だんだん怪しい口調でなにやらすごい事を話し始める早乙女先生の顔を俺は思わず凝視する。

 渡辺先生に四階建ての棟の三階にある部屋に通された俺は、部屋の中を一目観てため息を付く。ピンクのカーペットにクリームイエローの壁紙。木製の丸みを帯びた本棚と、畳まれた可愛いウサギ柄の布団が載っている木製のベッド。そして優しい木目調の机。
「はーい、今日からここが倉田さんの部屋です。あ、その前に」
 そう言うと渡辺先生は素早く俺のバッグを手に取り、中をチェック。そして、
「これは三ヶ月間預かりまーす」
「あ、それ…」
 渡辺先生が取り上げたのは、親父との連絡用の携帯と小型のカメラだった。
「あ、あの、俺、それが無いと、その…」
「こんなもの暫くいらないって」
「いやその、いらないって、どういう…」
「明日以降になればわかるって…」
 鼻歌を歌いながら、それを持って階下に降りていく渡辺先生を、俺は呆然と目で後を追う。
(どうすんだよ…俺完全に外の世界から)
 そうこうするうちに再び階段から人の気配がして、早乙女先生がオレンジのチェックのミニスカートとブレザーの制服姿の一人の少女を連れてきたのが見える。某アドルグループの誰かに似ているが、えっと誰だっけ…
「あ、倉田さんは三〇一号ね。じゃ村本さんは三〇二で」
「あ、あの、村本美紅です。よろしく」
 ちょっと可愛い少女がハスキーな声で俺に挨拶する。
「あ、あの、俺倉田涼平です」
「涼平さんですね。頑張りましょう」
 頑張りましょうって、ちょっと、まさかこの女…
「びっくりした?この子も男の子なの。仲良くしてあげて」
「え!」
 びっくりしている俺に微笑みかけると二人は隣の部屋に消えていった。
(すげぇ、噂には聞いてたけど、あんな男っているんだ)
 俺は自分の部屋に入り、椅子に座りため息をつく。
(あんなのと一緒に…)
 施設に着いたらまず電話よこせと言われ、理沙にも一日一回電話くれって言われてたのに、携帯も取り上げられ、完全に下界から取り残された俺はすごい孤独感を覚えた。
 気分を変えようと部屋の窓を開けると、春の少し冷たい風と鳥の鳴声が、すぐ目の前の林から飛び込んでくる。しかし、下の方を観ると高い塀と上の鉄条網、そして遠くには監視カメラらしきものが見えた。
(三ヶ月、一体何されるんだろ)
 冷たい風を頬にうけたまま、暫く物思いにふける俺。
と、部屋のどこかのスピーカーからなにやら放送が聞こえてきた。
「新入生の皆様、こんにちは。所長の堀幸子です。午後三時になったらミーティングを始めますので旧棟一階の食堂に集まってください」
 所長って堀って言うのか。可愛い声の人だなあと思いつつも、車で移動した事もあり、俺はどっと疲れが出て、ベッドの布団の横で軽く横になった。

 俺、寝てたらしい。ふと気が付いて、慌てて部屋の時計を見ると午後二時四十分。ほっとした俺はバッグから筆記用具を掴んで急いで部屋を出た。指定された食堂へ行く間、着いた時は閑散としていた様に見えた施設には結構人がいる様子。そしてテニスコートの横からは、
(え、何だあいつら?)
 アイドルグループの○○○四八の衣装みたいな制服を着た女の子が五人、なにやら話しながら、これから向かう食堂の有る旧棟と言われる建物に入っていくのが見えた。
(まさか、あの子達も、でも結構可愛いよな。まさか、まさか…ね…)

 食堂に入ると、多分スタッフの人だろうか、もう何人かが前の席に。早乙女先生と渡辺先生もいる。そしてさっき見た可愛い制服の五人組。あの女の子達もここのスタッフの人なんだろうか。そして新入生席の俺の横にはあの女みたいな男、村本、そして横にはなんか俺と雰囲気が似てるごく普通の男が一人、そしてその更に横には…
(なんだ、こんな奴も女になりたってゆーのかよ)
 あきらかにオタク系みたいな二人。一人はひょろ長くてダテメガネした奴、一人はやはりダテメガネの小太り。二人とも青々した髭の剃り跡が顔にあり、早くも意気投合したのか、なにやらオタクアニメ系の話をしていた。
(それに比べりゃ、俺なんてまだマシか)
 と一瞬思ったが、何故俺がここにいるのかを思い出し、頭をかきむしった。
 そうこうするうちに四時になり、皆が静まり返った所に、栗色のショートヘアの一人のピンクのスーツ姿の若い女性が入ってくる。
「起立」
 渡辺先生の号令の元、皆が立ち上がる。俺も慌てて椅子から立ち上がり、礼をした。
「所長の堀幸子です。今後よろしく」
 そう言うと、堀先生は教壇から一歩脇へ歩み、
「今日、暑いわね」
 なんて独り言を言いながら後ろを向き上着を脱ぎにかかる。
 年は三十歳位?それにしても、すごいプロポーション。スーツの下から現われたノースリーブのシャツにくるまれた大きな胸、細くくびれたウエスト。そしてミニのスーツに包まれた大きくて丸くて可愛いヒップ。
(へえ、綺麗で可愛い先生じゃんか、こういうお姉さんいいなあ)
 そう思いながら俺は堀先生を見つめた。先生は俺達の方へ向き直ると、驚愕すべき言葉を…。
「最初に言いますが、私も元男性です。ここの卒業生です」
 その言葉に俺を含め、新入生全員が声を上げる。
「それと、渡辺先生、そしてそこに座ってる先生達、そして、そこの五人組、全員元男性です」
 五人組で一際目立つ女の子が
「いぇーい」
 と言ったのを皮切りに、他の四人がVサインを俺達に向ける。
 俺達新入生は言葉も出ず、ポカンと口を明け先生達を凝視するだけだった。
「では、早速オリエンテーションに入ります」
 まだ驚きの表情を隠せない俺達を気にも留めず、堀先生の話が始まった。

 先生達の自己紹介、そして今日のスケジュール、そして俺達新入生五人の自己紹介が終わる。分かったのは、ここにいる先生達以外にも多くの人が関わっている事。そして俺達新入生で、髭そりの跡が目立つ細いのが森末、太いのが源、そして俺と雰囲気が似てるのが広末って名前って事だ。
 そして、俺が最初に見た時からまさかと思ってた二人のちゃんとした女の生活指導の先生!
(テレビで良く見た人になんか似てる…)
 二人のうち一人はやはり、俺が小さい頃のミュージシャン『MIKE』こと水無川慧子本人、そしてもう一人はバラドルの如月ますみ本人だった。
「新入生のみなさーん!楽しくトレーニングしましょう」
「一年後には女でしゅよ、覚悟してくだしゃいね」
 なんて笑いながら言ってる横で、笑いを隠せないでいた五人組に変な雰囲気を感じた俺。まあ、それは後になって分かる事になるが。
 そして、五人組の女の子達はなんと今年の卒業生だって事。着ているのはこの施設の制服らしい。卒業生で希望すれば、この施設を寮として使えて、この付近の高校に通わせてもらう替わりに次の新入生の生活指導の補佐をするらしい。

「はーい、静かにして」
 堀先生の言葉は続く。
「去年同様今年も二十人近く入所する予定だったんだけど、今年の許可者は五人しかいませんでした。只、スタートレベルが違いすぎるので…」
 確かに分かる気がする。只、真の意味で捕らえると俺が最悪かも…。
 堀先生が続ける。
「森末さんと源さんは、これからすぐ東京の早乙女先生の所へ行って頂きます。少し容姿を整えてからこちらに戻します。大丈夫、カリキュラムはここも東京も一緒だから」
 その言葉に、小太りのオタク風の源が質問。
「あ、あの、ボク、こんなんですけど、その、本当に女の子に…」
 源の言葉に笑い出したのは、意外にも先輩にあたる五人の女の子達のギャルメイクの一人だった。
「菜摘、あんたの入所時の写真見せてやんなよ!」
「なによ菜々!やなこった!」
「大丈夫、そんな質問来ると思って…」
 菜々と呼ばれるその女の子?はさっと後ろを振り返り、自分のバッグから下敷位の一枚の写真を素早く取り出し、それを俺達の方へ向ける。
「はーい、これが去年の今頃の菜摘ちゃんでーす!」
「こらあああ!!」
 菜々ちゃんと菜摘ちゃんとで写真の取り合いが始まる。源も俺も愕然とした。
 その写真に映ってる菜摘ちゃんはどうみても十六歳には見えない親父顔、しかし今菜々と写真を取り合ってるのは、たれ目で少しぽっちゃりした可愛い女の子。見事な変身ぶり。どうみても同一人物とは思えない。
 とうとう写真を菜摘ちゃんに取られた菜々ちゃんが笑いをこらえながら言う。
「たださ、源さんだっけ?三ヶ月の基礎トレで死んでもらうからね。覚悟してよね」
「はっはい!」
 今の写真に勇気づけられたのか、男丸出しの声で源が返事をした。
「これでオリエンテーションを終わります。新入生の方はこの後所長室にて健診があります。最初に倉田さん来て下さい」
 堀先生の言葉で入所式みたいなオリエンテーションは終わった。

 旧棟の二階の所長室へ行くと、堀先生と渡辺先生が待ち構えてた。最初に血液を取られ、そして全身の採寸をされてる間、俺はちょっと質問する。
「あの、就寝十時って早くないですか」
「全然?その前に寝ちゃう子もいるし」
「テレビって部屋に無いですよね?」
「食堂に有るよぉ」
 十時からのテレビドラマ、俺すっごく楽しみにしてるんだけど…
「パンツ降ろして」
「え、何を…」
「採寸するに決まってるじゃん。いいじゃん、あたしだって元男なんだから」
 ためらう俺にかまわず、いきなり俺のトランクスを降ろす堀先生。思わず抵抗しようする俺の手は傍の渡辺先生にパチンと叩かれてしまう。小さなノギスの様な物で手早く採寸し、傍らのパソコンに入力する堀先生。もう俺の顔は恥ずかしさで真っ赤だった。いくら元男とはいえ、こんな可愛い人にそんな所を…
「じゃあ、そのままベッドにうつぶせで寝てくださーい」
 俺にとって大事な所を美人女性?二人に見られた俺は恥ずかしさを隠そうと、そそくさと傍らのベッドの上に寝転がってうつぶせに。
「はーいチクっとしますよ」
 え、何かの注射…そう思った瞬間、かなり痛い刺激が俺の尻に感じた。
「え、これ何の注射ですか?」
 液体が俺の尻に溜まっていくのを感じた俺は思わずうつぶせでくぐもった声で尋ねた。
「女性ホルモンでーす」
 女性…ちょっと待て!おい!そう思って抵抗しようとした直前に針は抜かれてしまった。
「これから毎週土曜日に注射をかるからね。あと、お薬は毎食後に。今の注射は違うけど、次からの注射は、今日採血した血液の内容に照らし合わせて、女性化に最適な物にしますからね」
 ちょっと待って、俺、その心の準備が…。
「それと、毎食後のお薬はもし飲まないと、暫くたってから頭痛とか嘔吐とかが起こりますから飲み忘れない様にしてくださーい」
 俺のトランクスを元通り引っ張り上げながら、まるで子供に言い聞かせる様に言う渡辺先生。
 俺は何かの話で、悪い組織が裏切り防止の為に数時間おきに飲ませていた薬の事を思い出す。最も飲まなければ死ぬ危ない薬だったが、まさにそれじゃん。それに、
「あ、あの、俺ってどういうトレーニングを今後?」
 その言葉に堀先生の顔をちらっと見る渡辺先生。
「トレーニングの内容?」
 堀先生がふと上を向いた後俺に向き直る。
「うーん、毎年改良してるから、今年は去年とはまた違うからねぇ」
 そそくさとベッドから起き上がって、横の会議机の前の椅子にどっかと座り、今の注射の所の痛みをほぐす様に手でさすっていると、渡辺先生は今度は何かの包みをどかっと俺の前に置く。
「えっと、三ヶ月間はここでの服装はトレーナーになります。ここからどれか選んでね」
 ちょっと萎え始めた俺がそこで見たのは、トレーナーとはいえ、パステル調のカラフルな、そして花とかハートとか可愛い動物のイラストとかが入った、明らかに女の子用のデザインのものばかり。
 俺はその中からまだ一番地味な黒地に白とピンクのロゴの入った物を選んだ。しかし、
「えー、地味だよこれ…。倉田さん、これにしなよ」
 渡辺先生が選んだのは、ピンク地に赤や白や黄色のハートマークが散りばめられた、まさしく可愛い系の…
「は、はい。これにします」
 恥ずかしそうに受け取る二着入ったそのビニール袋の上に、どかどかっと何かが乗せられる。
(あー、遂に来たよ…)
 カラフルな女の子用のショーツとキャミって言うんだっけ、肩が紐になってるこの下着。理紗も着てた…。
「今日はいいから、明日からこれ着てトレーニングに出てくださーい」
 俺はそれを手にして重い足取りで所長室の出口に向かう。
「待って、もう一つ…、あれ、気分でも悪いの?注射痛かった?」
 堀先生の声に、俺ははっとしてやせ我慢で元気なふりをする。
「あ、あのなんでもないです」
 曇った顔の堀先生の顔が笑顔に戻る。
「女の子ネーム、もう決まってるの?」
「え、女の子ネームって」
「明日から涼平じゃおかしいでしょ。なんて名前がいい?」
 そんなの俺全く考えてねーよ。えっと、えっと、今思いつくのは…
「あ、あの、理紗…」
「ふーん、理紗ちゃんね。どんな字?」
 興味津々で俺に聞く堀先生だけど、流石に恋人の名前はやばくねーか?俺は再度考え直して堀先生に告げる。
「あ、あの、理紗はやっぱり辞めて、あの、あの、愛…愛にします」
 それを聞いた堀先生の顔に嬉しそうな表情が浮かぶ。
「愛、そう、いい名前ね。ここ早乙女美咲研究所の心得のトップが『愛』なんだよ。じゃ、倉田愛ちゃん、暫く部屋で休んでてね。夕食は七時に食堂だから」
 倉田愛ちゃんて呼ばれた時、俺の背中にぞわっと悪寒が走る。それに愛ってのは俺の理紗の前の元カノの名前だ。訂正したかったけど、なんか所長さんも気に入ったみたいだし、いいか。てゆうか、俺、もう明日にでも帰った方がいいんじゃないか??このままだと…

「俺、昔テレビで良く観たっす。MIKEと如月ますみ。今ここでその本人とお話出来るなんて最高っす!」
 夕食はちょっとした歓迎会ムード。俺はここがどういうところかも忘れ、男丸出しの言葉で二人の元芸能人といろいろ芸能関係の話題で盛り上がっていた。
 女の子にしか見えない村本美紅、ミクと、今日から広末留美、ルミになった大輔も一緒に。そして、食堂のお姉さんの朝霧ゆう先生。この人も元男でここの卒業生とはびっくりしたけど、和気藹々の雰囲気でいろいろお話。その傍らでは明日香になった源吾郎と、美里になった森末竜馬。どっかで聞いた名前になった二人がアニメとか特撮の話しをしている。
 双方盛り上がっている中、夕食の後暫くどこかに行ってた五人組の女の子?が食堂に帰ってきた。
「じゃあ、菜摘達は明日香ちゃんと美里ちゃんと一緒に早乙女に行って。あたし達三人はここに残るから。あ、菜摘もアニメとか特撮好きだからいい話し相手になるかもよ!明日香ちゃん、美里ちゃん」
「車用意出来てるから早く来て!」
 菜摘先輩の声と共に食堂の席を立つ明日香と美里。
「愛さん、美紅さん、留美さん。暫く失礼します」
「一緒にがんばりましょう」
 ここに残る俺達に挨拶して食堂から出て行く二人。おいおい、俺より先にやめないでくれよ。俺がやめにくくなるからさ、ははは。しかし、元芸能人と元男とはいえ、可愛い女達に囲まれた生活ってのも悪くないな。まあ暫くはここに、
「ちょっとみんな、薬飲んだんでしゅか!?」
 思い出した様に如月先生が言う。
「やべ、忘れてた」
 美紅と留美も忘れてたらしい。俺はポケットに入れた二錠の薬を口に放り込んだ。
「それと、今日はちゃんと十時に寝てくださいね」
「明日から厳しいトレーニング始まりましゅからね」
 二人の言葉に、
「はーい、先生がんばりまーす」
 と俺。他の二人も俺に続いて部屋に戻った。
 俺達が見えなくなった頃…
「あんのガキ共…タメ口使いやがって」
「これはもう明日初っ端からあれでしゅね」
「奈々達にも言っといて。初っ端からしごくって」
「了解っしゅ!」
 水無川先生と如月先生の間でそんな会話が有った事を俺は知る由も無かった。

「起きろーぉ!!」
 ベッドでシャツとトランクスで寝ていた俺の耳にとんでもない騒音が飛び込んでくる。次第にそれは水無川、如月先生の声とわかった。どっちだか知らないけどバケツを棒で叩く音まで聞こえる。
 がちゃっと隣のドアが開く音が聞こえる。美紅はもう起きて廊下に出たらしい。
「はい、ミクOK!他の二人は?」
 水無川先生の声と共に俺の部屋が開く音がする。
「こらあ!六時過ぎてんぞ!」
「さっさと起きて着替えるっしゅ!!」
 俺の耳元でバケツを叩く音がガンガン響く。
「す、すいません」
 眠い目をこすり、俺は傍らのジーパンを履こうとする。とその手が竹刀で軽くはたかれた。
「何やってんの!昨日渡された服は?」
 昨日渡されたって、あ、あの少女趣味のウェア…
「とっとと着替える!」
 水無川先生がそう言う中、如月先生は二つ隣の留美を起こしに行った。如月先生の怒鳴り声からして、留美も多分寝ていたらしい。
「愛、おはよ」
 開いている俺の部屋のドアから、そう言って美紅がにこっとして手を振る。お前って本当女の子だよな…。
「ほーらぁ、女の朝は早いんだよ!さっさとしろって」
「あ、あの水無川先生、あっち向いててください。俺恥ずかしいから」
「なんだって?今なんて言った?俺!?おめー今日から『あたし』だろ!」
 昨日の夜と打って変わった水無川先生の豹変ぶりに驚くも、俺は恥ずかしさで顔を真っ赤にして、その、トランクスを脱ぎ、包みの一番上にあったセットになっているピンクに白の花柄にフリンジ付きの、その、理紗とかが履きそうなショーツに足を通し、慣れない手で同じ柄のキャミを被った。そしてピンクの上下のウェアを着込んだ時、
「あ、あたしと同じだ」
 ドアの向こうで美紅が声を上げる。小柄な美紅にはそのウェアはすごく可愛く似合っていた。
「はい、さっさと食堂へ行く!」
 丁度白地にピンクとブルーの花柄のウェアを選んだ留美も合流し、俺達は食堂へ急いだ。
「おはよう」
 食堂担当兼料理・栄養・食生活担当の朝霧先生の声と共に手渡されたのは、トーストとサラダだけの朝食。それにスープと薬が付いていた。
「基礎訓練中の最初はカロリー制限有るからね。夜はそうでもないけど」
 遅れて入って、俺達を監視する様に横の席に座った水無川先生と如月先生に手渡されたのは、なんか普通の朝食って感じだったのがなんかずるく感じる。
 俺達三人はただ黙ってもくもくとそれを口にして、薬を口に入れる。
「おーい、メシ終わったら洗顔と基礎化粧教えるから、三十分後洗面所に集合な!」
 この人、本当に元アイドルのMIKEさんなのかよ…
 昨日と違った今日の厳しい表情に戸惑う俺。

「愛ちゃんだっけ?喜べ、この奈々様が担当になったからにはみっちりしごいて美少女にしてやるからな。あ、あたし今はこう見えても昔は渋谷でチーマー数人まとめてたから、抵抗は無意味な!」
 その声に洗面所に集まった皆が笑う。竹刀を持った元MIKEの水無川先生も薄ら笑いを浮かべてた。
「明日から自分でやるんだぜ」
 そう言いつつマッサージを含めた女性の洗顔を俺に施し、その傍ら使う洗顔料とか化粧水とか乳液の説明を俺にする奈々先輩。この人も去年は俺と同じ立場だったなんて信じられない。前がどんなだったか知らないけが、今は少しメクとかけばいけど、ちょっとかっこいい系のトレーナーを着た普通のお姉さんだった。俺の背中に当たるブラ越しの胸の膨らみが、早くも俺の男をくすぐり始める。ていうか、俺、1年経つとこんな姿になるのか??
「おーい、ぐずぐずすんなー、終わったらお楽しみの時間でしゅからねー」
 ハリセンを手に横の如月先生が楽しげに言う。
「お楽しみの時間、よねー」
「あたし達も去年、ねー」
 留美と美紅に手入れを施していた二人の先輩もそう言って笑う。

「ここの体育と生活指導、あと皆の用心棒を勤める大塚だ」
 あれからすぐ板敷きの研修室に集まった俺達を前に自己紹介始める、グラサンスポーツ刈の恐そうな親父。女ばかりと思ったらこういう先生もいるんだ。
「あと、早乙女先生と新婚二年目でーす」
 後ろにいる奈々先輩がこう叫び、他の先輩二人が笑う。
「こら!奈々!初日だぞ!冗談無し」
「はーい…」
 大塚先生の一括に、大げさでわざとらしいしおらしさを見せる奈々先輩。こんな親父があの綺麗な早乙女先生の旦那!?わけわかんねーし…。大塚先生が続ける。
「今日以降、君達の体力は減少一直線だ。ここでの施設の初期の体育は、今後のトレーニングに耐える為の体力の温存と柔軟な体の育成だ…」
 なんかその後五分程なにやら聞かされた後、いきなり美紅の傍らへ行き、彼女?の又をぐっと開脚させる。
「い、いたたっ」
 彼女?の地声なんだろうか、昨日から聞いた事のない低い声が聞こえる。
「相撲取りも入門時からやらされるしごきだ。全員、又割り開始!」
 大塚先生の号令の元、そこにいる全員が俺達三人に襲い掛かる。
「痛っ痛ぇっ!」
「痛い!」
 俺達三人の声に眉一つ動かさず、足を無理やり開かせる先輩達と先生達。流石に既に女の子みたいな美紅もこれには参ったのか、顔の表情は険しい。
 声を出す度に体を叩かれ、足を突っ張ると竹刀が足を直撃する。
「ほら、頑張るの。あたしなんてこうだよ。ほら」
 猫の絵の描かれた真っ白の上下トレーナーの一人の先輩が、俺達の前に進み出て、足を見事に開脚し、その間に体を倒し、床にペタンと体を付けた。
「今日でここまでやれとは言わないから、これから毎日頑張ってね」
 待て、そんな地獄みたいな事続けるのか!くそ、これも留学の為っ!レポートの始めに今日のこの拷問の事書いてやる!
 一時間の拷問の後休憩。しかし…
「又割りは終わり。次、ペタン座り!」
 再び大塚先生の号令の元、俺に奈々先輩と如月先生が襲いかり、正座した俺の肩を押し始める。俺は再び悲鳴を上げた。

 終わったのは昼前、もう足が痛くて立てない俺達三人の前に、またも何やら配られる。それは袋に入ったなにやら女の下着みたいなのと、何かの矯正用のギプス?
「今後、体育の時間以外はそれをトレーナーの下に着こむ事。ギプスは足の男癖矯正用だから、膝上に装着。そして小さいのは猫背矯正用。じゃあ、はじめっ」
 よろよろと立ち上がる俺達、そして袋から出して見たものは…
(これ、うちの母親が見てる通販カタログに載ってた…)
 いわゆる、体系補正用のガードルが二着、ヒップ用と太腿用の…
「早く着替える!」
 それを手に持って呆然としている俺を如月先生がハリセンでぽんと叩く。
「それ、あんたの体に付く脂肪をちゃんとした位置にもっていく為のものだからね」
 水無川先生の言葉に、俺は改めてそれを凝視する。早い、早すぎる。早くも女性化の現実が…
「…、変ねぇ、愛ちゃん、あんた女になりたくないわけ?}
「あ、いえ…」
 ふと横を見ると、他の二人はもうそれを着用して、再びトレーナーを着込んでいた。
(躊躇ったら変に思われる!ええい、こうなったらもうヤケ!)
 俺は目を瞑ってトレーナーを脱ぎ、可愛いパンツの上から太腿用を履いて、ヒップ用を重ね履き。
(うわっ、なんだこの感覚…)
 お尻を持ち上げられる感覚と太腿に吸い付くその感覚に、俺の体に悪寒が走る。
「窮屈になったらすぐに言えよ。別のに換えるから」
(それって、太るって意味なのか?)
 水無川先生の言葉に黙って下を向く俺だった。

 肉類が一切無い昼食の後、薬を飲んだ俺達三人は言葉を交わすこともなく、食堂のテーブルに顔を伏せてうとうとしていた。猫背矯正用のベルトは早くも俺の方に肩こりを生じさせ、足にギプスを装着された足は女の子みたいにハの字になっている。そこへ、又別の先生が俺達の所へ。ボブヘアに細身の眼鏡と黒のミニのスーツ、可愛らしいお姉さんみたいな人。
「文化担当の美咲まいです」
 慌てて俺達三人は椅子から立って挨拶。
「初日の午前は大変だったでしょう。午後はちょっと楽しい授業ですよ。時間になったら新棟の視聴覚室に来てください。あ、あたしも元男性なので。堀先生と同期よ。ふふっ」 そう言ってお尻をゆらしながら食堂から出て行く彼女を俺は唖然とした目で見つめた。本当、この施設ってすごい…というか、どうかしてるよ…。でも俺、もうあんたたちの言う楽しいトレーニングってもう信じねーからな。

 予想に反して、午後最初のトレーニングは少し興味深いものだった。テーブルの上のタブレットに映し出される女の子の丸文字を電子ペンでなぞっていくというもの。まるで小学校の時にノートでやった文字の練習みたいだった。
 理紗からたまにもらう手紙の字と同じような字体を面白がって次々となぞっていく俺。でも時間がかかる上、下の手本を消すと妙にぎこちない俺の書いた丸文字にため息をつく。
 流石に美紅はこれは慣れたものだったらしい。既に書き文字が女になってた彼女?には丸文字の漢字とか風船文字は免除され、女の子イラストのトレーニングを始める。
「いいなあ、美紅…」
 突然俺の横に座っていた留美がそう言う。
「いぇーい」
 美紅のその表情に口を尖らせた留美が俺の方を向く。
「愛、がんばろうね」
 片目をウインクして初めて留美が俺に話しかけた。愛って呼ばれて俺はまた背筋がぞっとする。世に言う目鼻立ちが整ったイケメンでウェーブかかった短い髪にその喋り方と表情は、女でもないんだけど男離れしてる感じ。テレビで見た新宿二丁目にいる人みたいだ。
「あたし、家では練習してたけど親とか人前でやったことないもん。ここじゃ堂々と出来るから嬉しい」
 そう言って、生き生きした表情になってくる留美に美咲まい先生が笑って話しかける。
「女の子の話し方、仕草、表情を覚えるプログラムもここで用意しているから、お楽しみに」
「わあ、先生!あたしがんばりまーす」
 留美の言葉に俺は一人ため息をつく。

 二時間女文字を練習した俺を待っていたのは、外から来た別の先生による女声のボイスレッスン。これも二人はここに来る前から多少はやっていたせいか、なんとか課題についていったみたいだけど、俺は先生のピアノの音に早くも合わす事が出来ず、とうとう声がしわがれてしまう。
「大丈夫、練習続ければ可愛い声になりますよ」
 そう言ってくれるけど、俺本当はそんな声になったら困るんだけど…。只、俺は既に三人の中では一番成績はビリだ。まあ、東京へ今行ってる二人には、どうなんだろう…。
 そしてようやく迎えたトレーニング終了の時間。俺にはすごく長く感じた。夕食は結構ボリュームが有り、俺には満足だった。その後は風呂に入り、九時には就寝。でも俺、このままでは十時を待たずに絶対寝る。もう疲れて疲れて、足が痛くて…。

 仲良くなりつつある他の二人と申し合わせ、三人で風呂場へ行く俺達。脱衣所でガードルと猫背矯正サポータを脱ぎ、ほっとする間もなく三人で風呂へ直行。大きめの浴槽と丁度湯加減が気持ちいい…と思った瞬間、
「ピーーーー!」
 と笛の音が鳴る。何かと思って風呂場の入り口を見ると、笛を口にして意地悪そうに笑う如月先生。あんた、俺達で遊んでるのかよ!そしてもっと驚いたのは、シャンプーとかが入った籠を持った三人の先輩達、しかも、
(この人たち、恥ずかしくないのかよ!?)
 あろうことか、トレーナーを着た如月先生以外は全員ビキニのショーツ一枚だけの姿。そして、胸をあらわにして…
 ウエストは皆あまりくびれは無いものの、一年前まで男だったとは思えない先輩達の膨らんだ胸と綺麗な真っ白の丸みを帯びた体。そして純女のはずの如月先生に裸を見られた恥ずかしさに、とっさに俺達三人は目を伏せたり、別の方向いたり。
「何恥ずかしがってんのよ、あんたたちも今日から女の仲間入りでしょ。これからも一緒に入る事有るからね」
「ああ、懐かしい男の裸、あたしもああいう時あったんだよね」
 そういいつつ、浴槽に駆け寄り、俺達を引っ張り出す先輩達。
「ほら、愛、早く出て!今から洗髪、ボディケアとスキンケアのトレやるから!」
 理紗と同じ位のバストトップと胸を揺らしながら、奈々先輩も俺を強引に浴槽から引きずり出した。
「はずかしがんないの!むしろ見て心の準備しときなよ。来年の今頃はあんただってこんな体になるんだから」
 冗談じゃねーよ!俺は来年の今頃はここの施設を告発して海外留学の準備を…
 そんな俺の頭に湯とシャンプーがいきなり降ってくる。まだ男の俺にとってかなり刺激のある花の匂いに包まれ、奈々先輩のスキンケア、ボディケア、そして脱毛のアドバイス。そしてそれが終わると、女性用のシェーバーとクリームを渡される俺。
「脇とあそこの毛をそれで綺麗にしといて。さっすがにあたしはそこまでは面倒見切れんから!」
 そう言って奈々先輩は他の二人と浴槽にドボン!と、
「ますみっち!大胆じゃないっすか!」
 なんと、今までの騒ぎの間に如月先生が既に裸になって浴槽に入っていたらしい。
 元バラドルとはいえ、有名な芸能人と一緒にお風呂に…と、
「るっせーな、お前ら…」
 聞き覚えが有る声が入り口からしたと思えば、そこには元アイドルのMIKEさんが、タオルを胸に当てただけの…
 俺は思わず再び目を伏せた。

 もうだめ、俺初日からもうだめ、それにまだ一六歳の俺にはここの雰囲気はついていけない。刺激あり過ぎ!早々親父に連絡取って、明日出て行こう。
 風呂から出た俺はその足で所長の堀先生の部屋へ急ぐ。
「ん?愛ちゃん?いいよ入って」
 ドアを開けるとベッドの傍らの机で何やら仕事をしていた堀先生が手を止めてこちらに来てくれる。
「どうだった、初日のトレーニングは?」
「…」
 何も言わない俺に、堀先生は何やら感づいたのかもしれない。
「あの、家に連絡取らせてもらえませんか」
 恐る恐る俺は先生に小声で申し入れる。
「うーん、基礎トレの間はねぇ…」
 そう言って堀先生は、傍らの書類棚を開け、何やら探し始める。
「あ、あの、俺ここに来たら親父に一報入れる事に…」
「だめでしょう、俺なんて言ったら…」
「あ、すいません…」
 堀先生は一組の書類を手に取って椅子に座り、俺を手招きする。その数枚の書類には俺の親父のサインが書かれていた。
「大丈夫。あなたの親御さんにはちゃんと了解得てるから。開始三ヶ月間は生徒が最もメンタルになる時期だから、私たちを信じて外部との接触は一切絶たせてくださいってね。それとさ」
 そう言って堀先生は書類のページの一部を俺に見せる。
「万一、基礎トレーニングの最中生徒がトレーニングを辞めたいと言ったらどうしますかの選択項目にはね…」
 俺はそこに目を向け、そして愕然とする。
『退所させないで頑張る様に諭してください』
 の項目に丸印がついていた。
「図星の様ね」
 堀先生は俺の顔をじっと見て微笑んだ。
「何があっても頑張れって言ってくれって言ってたよ。終わったらご褒美に海外留学するんだって?」
 親父、そんな事言ったのかよ…、あの偽善者め!
「それなら、うちの三宅先生が協力してくれるよ。アメリカで女性を男性に変える研究やってるし」
「え、そんな事もやってるんですか」
 よかった。それなら一年経った後元に戻れるっていうのは嘘じゃないらしい。俺の顔に安堵の表情が戻る。
「それと、留学したいなら奈々ちゃんに英語教えてもらったら?」
「奈々ちゃんて、あの奈々先輩!?」
 可愛いけどギャルメイクのあの顔を思い出す俺。
「ああ見えてもあの子、熱海の○○学院に通ってるのよ。当然女の子で」
 ○○学院て、ミッション系女子の超難関高…
「二年前まで女装して女チーマーのヘッドだったとは思えないわねぇ」
 笑いながらそういいつつ、何かを思い出す様にあさっての方を向く堀先生。
「あの、でも、いきなり風呂で一緒だったり、裸見せられたり…」
「歓迎セレモニーみたいなものよ。ちゃんとトレーニング受けたら、一年後にはこんな体になるんだよって、あの子達とか先生達流のアピール」
 そう言って先生は数歩下がると、体をくるっと一回転させる。
「どう?あたし?どっから見ても女でしょ?ここの二期生よ。双子の赤ちゃんまで産んだの」
 完全に出鼻をくじかれた形になった俺は、今日はこれで退散する事にした。
「いつでもいいよ。何か有ったら相談に来て」
 その言葉に何も答えず、俺は部屋の戸を閉める。どうやら親父の言うカルト的な施設では無いみたいだ。

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