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萩谷由喜子の著書14冊 + 楽譜の解説書3冊=17冊

著書14冊⇒
楽譜の解説書3冊⇒

2013年9月17日、小学館より 『宮澤賢治の聴いたクラシック』 (2枚組CD・解説本)が刊行されました。
【⇒文庫化】2013年10月1日、ご好評をいただいた 『作曲家おもしろ雑学辞典』 及び 『ピアニストおもしろ雑学辞典』 が、文庫化され、ヤマハミュージックメディア 1冊でわかるポケット教養シリーズ の 『クラシックの作曲家たち』 及び 『クラシックのピアニストたち』 として刊行されました。
 2016年4月10日、ヤマハミュージックメディアより 『クロイツァーの肖像』が刊行されました。


● サントリーホール/チェンバーミュージック・ガーデン
     三重奏の愉しみT ヘーデンボルク・トリオ 日本デビュー・リサイタル

2017年9月22日 サントリーホール ブルーローズ
 ザルツブルク生まれのヘーデンボルク三兄弟、ヴァイオリンの和樹さん、チェロの直樹さん、ピアノの洋さんによる「ヘーデンボルク・トリオ」が日本でお披露目コンサートの運びとなりました。
 和樹さんと直樹さんはウィーン・フィルのメンバーとして、それ以外のシーンでもこれまでに日本で数々のコンサートに登場されていますが、お兄様二人とは10歳ほど年の離れた末っ子、洋さんは、正式にはこれが日本初登場。
 以下の曲目に、一緒に育った三人ならではの、気心の通じ合ったアンサンブルを聴かせてくださいました。
   ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第1番 変ホ長調 作品1-1
   ハイドン:ピアノ三重奏曲第31番 変ホ短調
   ブラームス:ピアノ三重奏曲第1番 ロ長調

 最後のブラームスがあまりに熱く熱く盛り上がり、客席全員、興奮の渦のうちに終わったので、直樹さんから「皆様、お疲れさまでした。この熱さのままお帰りになられると、おやすみになれないと思いますので、ハイドンのジプシー・トリオから、ゆっくりな楽章をアンコールとしてお届けいたします」というご挨拶があり、温和で優美なハイドンを聴いてほどよく熱狂を冷ましてから終演となりました。
 客席には、三人のお父様、お母様はもとより、94歳になられるおばあさまもおみえになって、熱心に耳を傾けていらっしゃいました。


(左)左から、洋さん、和樹さん、直樹さん
(中)ヘーデンボルク直樹さんには、あるテーマのために数年前から長期取材中。
   なかなか実りませんが、今夜の彼らの熱い演奏を聴いて、わたくしも挫けずにこのテーマを追い続けようと、決意を新たにいたしました。いつの日か、皆様に成果をご披露できますよう、努力いたします。
(右)三兄弟のお母様の従姉妹、中野智子さんとともに、「こんな幸せな夜はない」と喜色満面のパパ、シュテファンさんを囲み、3人でVサイン。
   シュテファン・ヘーデンボルク氏は、ザルツブルク・モーツァルテウム・オーケストラの名ヴァイオリニストです。


● 広上淳一と京都市交響楽団 第46回サントリー音楽賞受賞記念コンサート
2017年9月18日 サントリーホール
 1984年、26歳のときに「第1回キリル・コンドラシン国際青年指揮者コンクール」に優勝して国際的キャリアを踏み出した広上淳一マエストロ。その後、フランス国立管、コンセルトヘボウ管、ウィーン響、ロンドン響など、世界のメジャー・オーケストラとの共演を重ねてこられました。
 2008年4月からは京都市交響楽団第12代常任指揮者として、この西の名門オーケストラと密度の濃い音楽を発信され、その活動が評価されて、2014年度第46回サントリー音楽賞を受賞されました。
 その記念コンサートでは、次のプログラムが演奏されました。
   武満徹:フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム
   ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 作品27
 武満先生の『フロム・ミー・フローズ・ホワット・ユー・コール・タイム』を実演で拝聴するのは2回目です。作曲者が一貫して追求してきた特殊配置によるオーケストラ作品で、もちろん、楽器編成にもユニークなアイディアが凝らされています。
 ステージ上は、弦楽器と管楽器、下手の2台のハープを核として、そのまわりに、5群の打楽器が配置され、それぞれを打楽器のソリスト5人が担当します。彼らの衣裳は、曼陀羅の5色、すなわち、青、赤、黄、緑、白。これは、作曲者によると「曼陀羅の中心に座す、5仏が発する色と同じ」だそうで、それぞれ、水、火、大地、風、エーテル(空気、無)を表します。関西を中心に活躍する5人のパーカッショニスト、中山航介さん、宅間斉さん、福山直子さん、大竹秀晃さん、高橋篤史さんが、各色のシルクサテンのドレスシャツに黒のパンツ、というきりりとしたいでたちで客席の通路に姿を現し、クロタルという鐘を鳴らしながらステージにゆっくりと上がられました。もうそれだけで、東洋的な神秘感が漂います。
 パーカッションの種類も多彩で、そのうちの鈴は客席2階の両サイド上部に吊られ、この5色の長いリボンがつけられてステージの奏者がこれを振るわせて鳴らす、という趣向です。オーケストラの音楽も、5つの主要モティーフを用い、5度音程が頻出するなど、「5」に因んで、曼陀羅の世界を表現するものでした。

 ラフマニノフの2番は、彼特有の甘美なリリシズム、ロシア的な憂愁、憧憬とノスタルジーに満ちた大作で、30歳頃から着手され、1906〜07年に滞在したドレスデンで書き上げられました。演奏頻度はけっこう高いので、何度も聴かせていただいていますが、この夜ほど、曲のディティールがよくみえ、各部での作曲者の想いが理解できた晩はなかったように思います。
 それほど、広上マエストロと京響の演奏は、表現の振幅が大きく、ラフマニノフの感情の発露とその発展、激情的な爆発まで、みごとに音にのせて聴き手に伝えるものでした。とりわけ、第3楽章の天にも昇っていくかのような、限度というものを知らない無尽蔵の表現は胸に迫りました。再現部を導き出す時の驀進的にアッチェレランドは、限りなく優しく柔和に奏された終結部と好対照をなしていました。


(左)終演後、バックステージで。ゲスト・コンミスを務めた会田莉凡さん、広上マエストロ、お祝いに駆けつけた高関健マエストロ
(中)小山実稚恵さんの祝福を受けるマエストロ。「涙が出ちゃった」と実稚恵さん。
(右)マエストロを囲んで、同業の片桐卓也さん、寺西基之さんと。


● 読売日本交響楽団 第200回土曜マチネーシリーズ
2017年9月16日 東京芸術劇場コンサートホール
 2017年4月に読響首席客演指揮者に就任したコルネリウス・マイスターさんのお披露目コンサートです。
マイスターさんは、1980年ドイツ・ハノーファー生まれの37歳。
 (左写真の著作権者は読響)
21歳でハンブルク国立劇場にデビュー、24歳でハイデルベルク市立歌劇場音楽監督、30歳になる2010年から、ウィーン放送響の首席指揮者兼芸術監督を務めているという逸材で、日本では2006年新国立劇場『フィデリオ』を振り、14年に読響初登場、『アルプス交響曲』で好評を得たのが今回のポストに繋がりました。
 この日はまず、スッペの喜歌劇『詩人と農夫』序曲。
 序奏では、遠藤真理さんのチェロのソロが映えます。主部はきびきびと進み、再現部のシンコペーションのところなど、確信にみちて前にのめっていき、驀進的なアッチェレランドがかけられて爽快でした。
 次いで、ダニール・トリフォノフさんを迎えて、プロコフィエフのピアノ協奏曲第2番。
 ピアノは彼好みのFAZIOLI。ソロが縦横無尽に駆け巡るこの協奏曲は快男児トリフォノフさんにぴったり。FAZIOLIの深みのある神秘的な音色は第1楽章の冒頭部に冴え、その一方、ショパンのエチュード『大洋』の影響濃厚な大カデンツァもFAZIOLIで聴くと迫力満点です。
 このコンチェルトは作曲時21〜22歳という若きプロコフィエフの自信にあふれた野心作で、第3楽章の間奏曲には、のちのバレエ『ロメオとジュリエット』の『騎士たちの踊り』の萌芽が聴きとれます。爆発的なフィナーレは、胸のすくような快演でした。アンコールに、バレエ『シンデレラ』より『ガヴォット』。
 後半は『田園』交響曲。マイスターさんの構成力と牽引力も見事でしたが、読響が誇る管のソリスト陣がいずれ劣らぬ妙技を聴かせてくれました。

    右写真は、トリフォノフさんのソロショット、同氏とのツーショット。
    2010年のショパン・コンクールでお会いしたときから早7年。
    あの頃はやんちゃな少年風で、第2位のゲニューシャスさんと仲良くふざけておられたのが印象に残っています。
    今ではお髭も伸ばして、とてもお兄さんになられました。


● 新日本フィルハーモニー交響楽団 サントリーホール・シリーズ
2017年9月14日 サントリーホール
 上岡敏之シェフがマーラーの5番をとりあげました。組み合わせたのは、とても贅沢なことに、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番。
 このカップリングだけでも魅力的な上に、ピアノのソリストはハンガリー出身のデジュー・ラーンキさん。
 かつては、ゾルターン・コチシュさん、アンドラーシュ・シフさんとともに「ハンガリーの三羽烏」と呼ばれた、同国を代表する名ピアニストです。このうち、指揮者に転じたコチシュさんは昨年11月6日、来日を目前にして惜しくも亡くなられましたが、シフさんとラーンキさんは円熟を深めています。
 この夜のラーンキさんのソロも気品に満ちたもので、過剰表現は一切なく、作品本来の持つ奥行きと幅の中で各楽想の要素を最大限に生かして、起伏ゆたかな流れがつくられていました。
 ピアノの音色が抜群に美しいので、ソロから語り掛けるように始まるこの曲にぴったりのソリストです。第2楽章など、ベートーヴェンの意図に敵った(と思われる)まことに崇高な演奏でした。
 後半のマーラーの5番はシェフにもオーケストラにも気合が入り、全員、真剣勝負そのものです。
 冒頭のトランペット・ソロ、服部さんもよく決めました。他の管楽器陣も大健闘で、フルートの白尾さん、オーボエの金子さん、クラリネットの重松さん、ファゴットの河村さん、テューバの佐藤さん、みなさん、立派なソロで曲を引き締めました。
 山口さん、宮下さん、奥村さんのトロンボーン・セクションも壮麗な音響を奏出し、ティンパニとパーカッション・チームも曲の各部に精彩を添えていました。
 欲を言えば、……どこのオーケストラにとっても頭の痛いところかもしれませんが、このクラスの曲のホルン・セクションの主力が自前だったら理想的ですね。
 上岡シェフの棒は曲の流れを大切にしたもので、歌う部分はまことに甘美に歌いました。特に第4楽章のアダージェットなど、上岡さん全身から歌が溢れ出るのが視認できるほどでした。崔コンマス、その棒に渾身で応えていらっしゃいました。
 テンポは全体としては速めで演奏時間は70分ほど。でも、前述のように歌を大切にしているので、その中で緩急の振幅が自在でした。

 (写真)
 ラーンキさんを楽屋にお訪ねしました。
 いつも来日リサイタルのときは、プログラム・ノートを書かせていただいています。
 奥様のエディットさんとのデュオや、息子さんのフェロップさんとのトリオも聴かせていただいていると申し上げたら、お顔をほころばせてくださり、11月にエディットさんとまた来日されるというお話でした。


● サントリー芸術財団サマーフェスティバル2017
   日本再発見 “戦中戦後のリアリズム”〜アジア主義・日本主義・機械主義〜

2017年9月10日 サントリーホール
 片山杜秀氏プロデュース日本再発見シリーズ、今回は、戦中戦後のリアリズムに焦点を当て、4人の作曲家による4作品が採り上げられました。
★尾高尚忠(1911〜1951):交響的幻想曲《草原》作品19 1943年
★山田一雄(1912〜1991):おほむたから(大みたから)作品20  1944年
★伊福部昭(1914〜2006):ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲  1941年
★諸井三郎(1903〜1977):交響曲第3番作品25         1944年
 指揮は下野竜也マエストロ。オーケストラは東京フィルハーモニー交響楽団、三浦コンマスです。(同日同時刻、近藤コンマス率いる東フィル別動隊はオーチャードホールでバッティストーニ・マエストロと『オテロ』2公演目)
 尾高尚忠先生は、小中学校の大大先輩にあたりますし、ご長男の惇忠先生ご夫妻と親交を持たせていただいておりますため、親近感ひとしお。
1943年7月に完成、翌年初演、何回か演奏されたあと、演奏機会のなかったという交響的幻想曲《草原》を耳にできて、本当に幸せでした。
 モンゴルの草原をイメージなさって書かれたそうですが、それほど東洋的ではなく、もっと普遍化された、伸びやかでロマンティックな草原の風を感じました。いくつかの楽想がメドレーされる作品で、行進曲風のところは草原の騎馬民族の勇壮な行進を思わせました。
 山田一雄先生の曲『おほむたから』は、「天皇の統べる大和民族の宝」、といった意味でしょうか。
 これは本当にまったく、マーラーの5番を聴いているような気持になりました。というか、堂々と、マーラーの5番を踏まえて、その上に大和の宝の花を咲かせていらっしゃるのですね。オーケストラ法はさすがです。
 伊福部昭先生の協奏風交響曲は、ピアノ協奏曲としての要素と交響曲の要素を具えた野心作で、これでもか、これでもかというほど確信的な日本旋法が用いられている一方、ピアノにはトーン・クラスターによる不協和音や、上下行する幅広いグリサンドなど、メカニカルな技法が多用されていました。
 ソリストは、小山実稚恵さん。あとでお話を伺いましたら、この曲がお好きとのことで、鍵盤を叩くようなクラスター打鍵も、無理ないタッチを心がけておられるため、手に負担などないとのことでした。
 アンコールは伊福部昭『七夕』。オルゴールのような音色を用いた、ひそやかで静謐な小品です。実稚恵さんの選曲センスが光ります。
 最後の諸井三郎先生の交響曲第3番は、もっとも普通に西洋クラシックを感じさせる楽曲です。
 とてもワーグナー風だと思って聴いているうち、スケルツォ楽章ではブルックナーがガンガン出てきました。壮大でした。


(写真左)
楽屋で、小山実稚恵さん、音楽評論家の岡部真一郎氏と。
実稚恵さんのドレスは、演奏作品に合わせて、グリーンの縮緬風生地に松竹梅や小菊などを飛ばしたお着物柄。こまやかなご配慮です。
(写真右)
尾高尚忠先生のご長男、尾高惇忠先生と下野マエストロ。
尾高先生、下野さんを激賞されておられました。

左から、尾高先生の奥様、メゾソプラノの尾高綾子先生、惇忠先生、下野マエストロ。
「僕も親父のこの曲を聴いたのは初めてですよ。何しろ、僕が生まれた年に初演された曲だけれど、そのあとは機会がなかったからね。まさに、草原。とてもロマンティックだね。オリジナルのスコアは、僕のところにありますよ」と、惇忠先生が感慨深げにコメントしてくださいました。


● Bunkamura バッティストーニの『オテロ』
2017年9月8日 オーチャードホール
 演奏会形式ですが、ステージの奥行きを生かして奥に合唱、手前にオーケストラ、東フィルを排し、歌手は客席際をメインに、奥でも歌いました。
 映像が見事な効果を上げ、さらに、2階下手バルコニーには、トランペットのバンダ。
 いろいろ、感じるところはありましたが、バッティストーニの前進的な音楽運びには感動しました。
 終演後、レセプションで西村社長の意気込みと、マエストロの抱負など、うかがいました。


(写真左から)マエストロと  マエストロとスタッフのみなさん  マエストロのご挨拶


● 東京都交響楽団第838回定期演奏会Aシリーズ
2017年9月4日 東京文化会館
 ハオチェン・チャンさんが、大野和士マエストロの棒で、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を独奏しました。
 オーケストラ合わせもぴたり。
 大きい方のカデンツァも起伏豊かな演奏で、終わるのが惜しまれるほどでした。
 後半は、3番つながりで、同じラフマニノフの交響曲第3番。

(写真)ハオチェン・チャンさんと再会


● サントリー芸術財団サマーフェスティバル2017
       戦前日本のモダニズム “忘れられた作曲家” 大澤壽人

2017年9月3日 サントリーホール
 大澤壽人という作曲家の作品を初めて聴きました。
 大澤壽人は明治39年ですから1906年、神戸生まれ。
 土地柄、外国人音楽家に接する機会が多く、フランスのピアニスト、アンリ・ジル=マルシェクスの来日公演を聴いて啓発され、音楽家を志望します。
 昭和5年に渡米し、ボストン大学音楽学部、及びニューイングランド音楽院で作曲を学びました。滞米中には、ナチスに追われたシェーンベルクがアメリカに移住してきたので、その教えも受けたそうです。その後フランスに移り、エコール・ノルマノ音楽院で、デュカスとブーランジェに師事しています。あの時代の最高の教授陣です。
 昭和11(1936)年に帰国。帰朝記念演奏会を開きますが、最先端モダニズムの作風は当時の日本には受け容れられませんでした。戦時中は思うような作品を書くことも叶わず、戦後ようやく、のびのびと自らの心に敵う作品を書き始めますが、昭和28年、1953年に47歳の若さで急逝しました。
 このコンサートでは、そんな大澤の才能の再検証を目的として、黄金期30年代のオーケストラ作品3曲が山田和樹と日フィルによって演奏されました。
 最初の曲は、佐野央子さん独奏のコントラバス協奏曲の世界初演でした。
 この、縁の下の力持ち楽器のための協奏曲を書いたのは、ボストン交響楽団の大立者で、コントラバス奏者出身のクーセヴィツキーに捧げるためでした。ハイポジションの多用された難曲ですが、佐野さんは立派に弾いておられました。ただ、カデンツァ以外ではソロの音がオーケストラに埋もれがちなのが残念でした。
 2曲目は福間洸太朗さんの独奏でピアノ協奏曲第3番変イ長調。
 これは、1938年に、マキシム・シャピロの独奏で初演されていました。サブタイトルに『神風』とあるように、当時話題の朝日新聞社報道用飛行機『神風号』へのオマージュ作です。『神風号』の東京、パリ100時間以内飛行、という世界記録達成の快挙と、当時ベルギーのブリュッセル留学中だった諏訪根自子が同地で『神風号』を出迎え、飯沼飛行士と塚越航空機関士に花束を手渡したエピソードは、拙著『諏訪根自子 美貌のヴァイオリニストその劇的生涯』に詳述しましたので、この曲には格別の親近感を感じました。
 曲は、飛行機のエンジン音の模倣から元気に始まります。第2楽章は静かな夜間飛行の描写で、上野耕平さんのジャズ風サックスが冴えました。福間さんのソロは、曲のよさを十二分に引き出していました。
 後半の交響曲第1番は作曲から約80年後の世界初演。これが1930年代のモダニズムか、と興味深く謹聴しました。
(写真)大澤壽人(1906〜1953)


● サントリーホール リニューアル記念 ダイワハウス スペシャル Reオープニング・コンサート
2017年9月1日
 7か月間にわたる改修工事を経たサントリーホールが、9月1日、リニューアル・オープンしました。
 エントランスでは、この日一日限りという、真紅のアスター菊と純白のカーネーションの生花アレンジメントが迎えてくれました。館内に足を踏み入れると、やはりお祝いカラーの花々が飾り付けられて、まことに華やかです。
 コンサートの前半は、東京佼成ウインドオーケストラの抜粋メンバー「TKWO祝祭アンサンブル」とオルガンによる、ガブリエーリ、バッハ、ヴィドールなどの祝賀の気分に満ちたプログラムです。オルガンのソリストは88年イタリア生まれのダヴィデ・マリアーノさん。
 後半は、晴れのReオープニングのために、ジュゼッペ・サッバティーニ・マエストロが念入りに選び、出演者を鍛え上げてきたロッシーニの『ミサ・ソレムニス』です。37歳でオペラの筆を折ったロッシーニは、後半生、バリに居を構えてイタリア座の支配人などを務めながら、いくつかの宗教曲と小品のみを手掛けました。
 もちろん、お料理にも腕を振るって、「ロッシーニ風……」という創作料理をたくさん創案します。それらのほとんどには、フォアグラがふんだんに使われていたせいか、晩年はなかなかにメタボ体型となり、その弊害にも苦しんだのですが、まあ、一度しかない人生を悔いなく生きた人だったと思います。
 さて、『ミサ・ソレムニス』は亡くなる5年前の1863年に小編成で書かれ、3年後にロッシーニ自身がフル・オーケストラ版に編曲した晩年の傑作です。
 当夜のオーケストラは東京交響楽団。これに、オルガンと金管アンサンブルも加わりました。ソプラノは吉田珠代さん、コントラルトはソニア・プリーナさん。テノールはジョン・健・ヌッツィオさん、バスはルベン・アモレッティさん。合唱は東京混声合唱団とサッバティーニ・マエストロの薫陶を受けたサントリーホール・オペラ・アカデミーの精鋭たち。
 臨機応変な表現力を持つこの合唱陣が当夜の主役と言ってよいほど、卓越した力量を発揮していました。合唱指揮の鬼原良尚さん、稽古ピアノの古藤田みゆきさんの功も讃えたいと思います。

 終演後には、ブルーローズでサントリーホール心尽くしのレセプションが開かれて、記念の一夜に幕が下ろされました。


(左)エントランスの生花アレンジメント
(中)レセプションで。左からJesc音楽文化振興会の堤正浩理事、読響の小林敬和理事長、仲良しのフリーアナウンサー朝岡聡さん、日フィルの平井俊邦理事長
(右)サッバティーニ・マエストロと


● 清水和音 ピアノ・リサイタル
2017年8月30日
 清水和音さんの名曲ラウンジ「芸劇ブランチコンサート」が好評理に進行しています。今回は初のリサイタル。
ラフマニノフの前奏曲『鐘』から始まり、10人の作曲家による小品名曲10曲が演奏されました。
 最後のリストの超絶技巧練習曲より『夕べの調べ』は息を飲む美しさでした。

       詳しい公演批評は『ショパン』10月号のカラーページに。

 (写真) 楽屋で、和音さんと。この日の小品類を収載したCDのライナーノートを書かせていただいています。


● 佐藤彦大さん、恵藤幸子さんの結婚披露宴
2017年8月26日 椿山荘


 ピアニスト同士のお似合いカップル、佐藤彦大さんと恵藤幸子さんの結婚披露宴にお招きいただき、幸せのおすそ分けに与ってきました。
 ともに、モスクワ音楽院で学ばれたお二人、長いロシア生活ではいろいろな困難もあられたそうですが、手を携えて乗り切ってこられ、今後は日本を拠点に活動なさいます。
 可愛らしい幸子さん、どうぞ、お幸せに。


● 出光賞受賞記念コンサート&レセプション
2017年8月23日 東京オペラシティコンサートホール
 意欲、素質、将来性などの観点からクラシックの新進音楽家を顕彰する「出光音楽賞」の第27回受賞者が決まり、8月23日に東京オペラシティコンサートホールで受賞者ガラコンサートが開催されました。
 今回の受賞者はオーボエの荒木奏美さん、ソプラノの小林沙羅さん、ピアノの反田恭平さんの3名。
 コンサートでは、沼尻竜介マエストロ指揮の日フィルと共演して、荒木さんと反田さんは協奏曲、小林さんはオペラ・アリアを披露しました。

 93年茨城県出身の荒木さんは東京藝大4年次在学中から東京交響楽団の首席として活動してきた実力派。コンクール歴も豊富です。モーツァルトのオーボエ協奏曲ハ長調を、時に甘く、時に愁いに満ちて表情豊かに歌いました。
 東京藝大と同大学院修了後、ウィーンとローマに学び、2006年に国内デビュー、2012年にはソフィア国立劇場で欧州デビューも果たした小林沙羅さんは、それぞれキャラクターの異なるグノー『ファウスト』のマルグリート、レハール『ジュディタ』のタイトルロール、グリーク『ペール・ギュント』のソルヴェイグを入魂の名唱で歌い分け、会場を沸かせます。
 唯一の男子、反田さんは高校在学中の2012年に第81回日本音楽コンクール第1位を受賞した期待のホープ。2014年にはモスクワ音楽院に首席入学。2016年、席数2000のサントリーホールでいきなりリサイタル開き、悠々完売しただけではなく、秋には3夜連続異種プログラム・リサイタル、それも追加公演も含め、6夜公演を成功させた、驚異の若手です。  わたくしも、それらの一部を聴いて、テクニックと表現力に舌を巻いてきました。この夜は、思い出のある曲だというラフマニノフの『パガニーニの主題による狂詩曲』を快演なさいました。
(左写真)左から、反田恭平さん、小林沙羅さん、荒木奏美さん


(左)反田恭平さんと
(中) 小林沙羅さん、出光賞選考委員の池辺晋一郎先生と
(右)レセプションでは久々に梯剛之さんとお会いしておしゃべりに花が咲き、バリトンのヴィタリ・ユシュマノフさんをご紹介させていただきました。ヴィタリさんは、9月21日に、東京文化会館11:00開演「上野deクラシック」にご登場、リサイタルをなさいます。


● 『ハンナ』連載『聖女vs悪女オペラの迷宮』9月号のヒロインは「マリー・テレーズ」
2017年8月20日頃発売

 連載第17回として、元帥夫人ことマリー・テレーズを採り上げました。

 先日、鑑賞したばかりの、グラインドボーン歌劇場&二期会提携公演『ばらの騎士』にも言及しています。

 写真は同公演時に。


● 演奏会形式・オペラ《夕鶴》のプレ・レクチャーのお知らせ
2017年8月19日 ティアラこうとう 中会議室
 東京シティ・フィルが、ティアラ定期第50回を記念して、
9月30日(土)14:00より、團伊玖磨先生のオペラ《夕鶴》を高関健マエストロの棒で、演奏会形式上演いたします。
 つうに、腰越満美さん、与ひょうに、小原啓楼さん。

 それに先立ち、《夕鶴》の聴きどころをご紹介するプレ・レクチャーが予定され、講師としてお話させていただくことになりました。
 シティ・フィルの志田団長と対談形式で画像、CD鑑賞も交えて進めます。

 ティアラ友の会の会員様が対象だそうですが、  参加ご希望の方は、萩谷由喜子のメール  yukiko99@io.ocn.ne.jp までお申し込みください。
 左写真は《夕鶴》のイメージ写真。鮫島有美子さんのつうです。


● 下野竜也プレゼンツ! 音楽の魅力発見プロジェクト第4回 《新世界より》徹底大解剖―オーケストラ付レクチャー
2017年8月12日
 アイディアマンのマエストロ下野竜也さんの指揮、お話、企画監修により、かの名曲、ドヴォルザークの交響曲第9番《新世界より》を徹底解剖するというレクチャー・コンサートが開かれました。
 主催はすみだトリフォニーホール、会場はもちろん同ホール。オーケストラは、ここを拠点とする新日本フィルモニー交響楽団。

 会場に入ると、スクリーンいっぱいに、威厳あるお髭の肖像(左写真)が映し出されています。
 ちょっと見たことのないドヴォルザークね? こんな写真もあったのかしら? と思いつつも、その時はそれ以上、考えませんでした。
 やがて登場した下野さん、挨拶抜きにいきなりオーケストラを指揮して、《新世界より》の第2楽章を演奏します。
 有名な《家路》の部分。なんと、オーケストラの楽員が「♪遠き山に、日は落ちてー」と歌いだしたのです。
 演奏が終わると、客席に向き直った下野さん「今日は仕掛け満載ですよ」と語られ、「その手始めが先ほどの肖像です。実はあれはドヴォルザークではなく、ノーベルなんです。似ているでしょ。」とタネあかし。会場がどよめきます。
 下野さんご自身、ノーベルの肖像を初めてご覧になったとき、ドヴォルザーク(下)とそっくりと思われたのだそうです。
 右写真が本物のドヴォルザーク

 続くレクチャーは、《新世界より》がいかにドヴォルザークの非凡な才を表しているかについて語るもので、もしも凡庸な作曲家ならこうなる、というヴァージョンと、実際の《新世界より》の演奏を対比させながら進められました。
 例えば、シンバルの使い方。ご存知の方も多いことでしょうが、この曲では、シンバルがたった1カ所、本当にただのひと打ちだけ、鳴らされます。凡庸な作曲家ヴァージョンでは、派手にガンガン鳴らす、という見本演奏のあと、本当のこの曲の千両役者のごときシンバル演奏部分を示してくださいました。
 それはどこかというと、第4楽章が始まってから1分半ほどのところです。しかも弱奏ですので、気をつけていないと知らずに過ぎてしまいます。
 でも、このシンバルのひと打ちを境に、世界ががらりと変わります。
 そんな楽しいレクチャーでした。

 アンコールは、同じドヴォルザークの《わが母の教えたましい歌》。
 原曲は歌曲ですが、本日のオーケストラ・ヴァージョンでは、歌のパートを古部賢一さんの絶品のオーボエが歌いました。
 すみだトリフォニーホール&下野マエストロのこのユニークな企画は今回で4回目。
 来年もこの時期に予定されています。
 どんな仕掛けが飛び出すか、ご興味のあられる方は、ぜひ、足をお運びください。

 左写真は終演後、楽屋で、下野さんと古部さん。


● 中村紘子先生 一周忌
2017年7月26日 ご自宅
 早いもので、昨年のこの日に亡くなられた、中村紘子先生の一周忌が催されました。
 久々にご自宅にうかがう道すがら、この道を通って、ここのこんなお店を横目にみて、この信号をこう渡って(渡り方にコツがあります)、うかがっていたことが懐かしく思い返され、それだけで胸がいっぱいになりました。
 庄司薫先生に一周忌のお悔やみを申し上げていたら、不覚にも涙がこぼれてしまいましたが、庄司先生のほうがよほどお辛いのに、やさしく「ご飯、食べていってよ」とおっしゃってくださいました。


お部屋の中は、白のカサブランカや胡蝶蘭でいっぱい。
主を喪ったスタインウェイは寂しそうです。


● 小平楽友サークル 第16シリーズの打ち上げランチ会
2017年7月19日 小平『夢庵』
 2009年に発足、年間に、10回講座を2シリーズ継続している、小平楽友サークルの第16シリーズが7月19日に完結。恒例のランチ会が開催されました。
 いつもの大黒屋さんが別団体の貸し切りだったため、近くの『夢庵』の和室で、美味しいランチ(写真撮るのを忘れて残念!)をいただきながら、これからの講座へのご希望や、クラシック音楽への想いなどを皆様に話していただき、ご質問のあった、楽器演奏と右利き、左利きの関係について、わたくしがお答えするなどして、おおいにお話がはずみました。

 お店を出てから気づき、残っておられたメンバーの方たちと写真を撮りました。

 第17シリーズ『世界名曲紀行・その2』は、9月6日開講。10回のうちにはいつもオペラを入れていますが、今回はフランスを含むので、皆さんのご希望から多数決により、マスネの『ウェルテル』を鑑賞することになっています。
また、ライヴ・コンサートも予定。東京芸術大学を卒業して、ただいまドレスデン留学中の新進ピアニスト、佐渡建洋さん(写真)をお迎えいたします。

  佐渡建洋さんは、迫昭嘉先生の愛弟子。

 マスネのオペラ『ウェルテル』全幕鑑賞、佐渡建洋さんのリサイタルを含む、17シリーズは9月6日から、小平中央公民館で始まります。
 原則として毎月、第一、第三水曜日の、午前10時から12時までですが、
 佐渡さんリサイタルについては、12月6日、水曜日の午後2時から4時といたしました。会員以外の方も、ぜひ、聴きにいらしてください。

 お問い合わせは、小平楽友サークル代表・山田洋子さん(電話:042−345−8862)まで。講座の見学や入会お申込みもお待ちしております。


● 読売日本交響楽団 第604回名曲シリーズ
2017年7月7日 東京芸術劇場
 飯守泰次郎先生が読響名曲シリーズに登場。ネルソン・フレイレをソリストに迎え、以下のプログラムが演奏されました。
  ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調 作品83
  ワーグナー:舞台神聖祭典劇『パルジファル』〜 第1幕への前奏曲、聖金曜日の音楽
  楽劇『ワルキューレ』〜 ワルキューレの騎行
  歌劇『タンホイザー』序曲
 ネルソン・フレイレを聴くのは久しぶり。しかも、このような大曲ですので、いったいどんな演奏かと八分の期待、二分の不安。
 結果は、かりそめにも二分の不安を抱いたわが身を恥じました。
 盤石の基本テクニック、非常に大きなスケール感、見通しのよい構成感、随所に燃え上がる情熱と裡に秘めた繊細さ、作品の内奥に迫る洞察力。鍛え上げたピニズムは揺るぎもなく、そこへ73歳の円熟と遊び心も加わって、この名曲の奥の深さにあらためて目を見開かされる名演を堪能させていただきました。
 後半のワーグナー・ハイライトは、もう飯守カラー全開。愛と情熱のワーグナーです。もちろん、すべて暗譜。
 曲順がおもしろくて、最後の『パルジファル』から逆に『タンホイザー』へと遡るものでしたが、こうした辿り方からも、作曲家の軌跡がみえてきて、興味深く拝聴しました。

 写真は、終演後、楽屋でマエストロご夫妻、音楽評論の諸先輩方と。なかなか撮れない顔合わせかと思い、ご許可をいただいて掲載させていただきました。


● 小山実稚恵さんをお祝いする会
2017年6月29日 ホテル・オークラ アスコットホール
 一昨年にデビュー30周年を迎えられ、昨今ますます充実した活動を展開しておられる小山実稚恵さんのお祝いの会が開催されました。
何といっても最大の慶賀は、平成28年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されたことですが、そのほかにも、2006年からスタートした「12年間・24回リサイタル・シリーズ」がこの11月の第24回でいよいよ完結予定であること、デビュー30周年を記念する新譜CD「ゴルドベルク変奏曲」がちょうど30枚目のアルバムとしてリリースされたこと、初の著書「点と魂と〜スイートスポットを探して」が出版されたことなど、いくつものお祝い事が重なりました。
 芸術院会員の堤剛先生、Bunkamuraの西村友伸社長、指揮者の大野和士マエストロ、広上淳一マエストロ、澤和樹芸大学長他の各界の重鎮が発起人として親交のある方々に呼びかけたところ、かなり広いホテル・オークラのアスコットホールが一杯になるほど多くの参加者が集まって、口々に小山さんを祝福しました。
 小山さんの飾り気のないお人柄を反映して、和気藹々としたパーティーとなり、堤先生との二重奏、大野マエストロ、広上マエストロとの『運命』2台6手版の演奏も繰り広げられて、会場は沸きに沸きました。


(左) 堤剛先生との二重奏  (右) 藝大同期の大野和士マエストロと小山さん。


   (左) 広上淳一マエストロと小山さん。
(右)広上さんの手にしているのは鍵盤ハーモニカ。『運命』のオーボエ・カデンツァを鍵盤ハーモニカで見事に演奏されました。


   (左) 小山さんのご挨拶
(右) 左から、寺西基之氏、、小山さん、西村社長、わたくし、NHKラジオ深夜便の村島ディレクター


● 舘野泉 若き名手たちとともに
2017年6月28日 銀座ヤマハホール
 舘野泉先生が、ご長男のヴァイオリニスト、ヤンネ舘野さん、ヴァイオリンと尺八の亀井庸州さん、チェロの多井智紀さん、トロンボーンの新田幹男さんとのコラボレーション・コンサートを繰り広げられました。
 多彩かつ、内容ゆたかなコンサートでした。
 開演前に時間がありましたので、イグジット・メルサ8階にオープンした「駿河湾さんせん」で、駿河湾直送の海の幸を味わいました。
 トルコブルーのお皿に美しく盛られているのはマグロの生ハム、黒の角皿にこぼれんばかりに鎮座するのは、駿河湾のしらすのかき揚げ、お寿司のネタは飛び切り新鮮でした。


  


● サントリー音楽賞・佐治敬三賞 授賞式&レセプション
2017年6月26日 ホテル・ニューオータニ 鳳凰の間
 1969年に制定された「サントリー音楽賞」は、毎年、わが国の洋楽の発展にもっとも顕著な功績のあった個人、または団体に贈られてきました。
 その第48回2016年度の受賞者に、「ベートーヴェン・ソナタ全集」の録音を積極的に継続して完結させ、その記念として各地で質の高いリサイタルを開催したピアニストの小菅優さんが選ばれ、このほどその授賞式とレセプションが開催されました。
 また、2001年から毎年、チャレンジ精神に満ちた企画で、かつ、公演成果の水準の高いすぐれた音楽公演に贈られている「佐治敬三賞」は、「伶楽舎第十三回雅楽演奏会〜武満徹・秋庭歌一具」(音楽監督=芝祐靖)に贈呈されました。


  (左)左から、堤剛 サントリー音楽賞代表理事・サントリーホール館長、小菅優さん、芝祐靖氏、文部科学省の藤原章夫氏
(右)ご挨拶する小菅優さん

  (左) 左から、矢代秋雄先生の若葉夫人、サントリーホールの長谷川さん、わたくし、岩谷産業の岩谷紀子さま
(右) 東響の元団長、金山茂人氏と現団長の大野順二氏と。大野氏は超長身なので画面から少し上が少し入りきりませんでした。申し訳ございません。


● 山田和樹&日フィル マーラー・ツィクルス完結編と打ち上げパーティー
2017年6月25日 オーチャード・ホール
 ボヘミアのユダヤ人家庭に生まれ、オーストリアで活躍した作曲家グスタフ・マーラー(1860〜1911)には、番号を持つ完成作の交響曲が9曲あります。
 山田和樹マエストロと日フィルは一昨年から、これら9曲を番号順に年に3曲ずつ採り上げ、各回に武満徹作品を組み合わせた全曲シリーズ(ツィクルス)を継続してきましたが、この6月25日の第9番で完結を迎えました。
 生への憧れと荒々しく訪れを告げる死の葛藤をスケールの大きな演奏で描き出した第1楽章、田舎風の舞曲のひなびた味わいの中にパロディ的性格を浮き彫りにした第2楽章、激しく吹き荒れながら、決して響きが濁らなかった第3楽章、これまでのすべての煩悶が昇華されて気高く、美しく、静謐に結ばれたフィナーレ。おみごとでした。

 終演後、ホール2階のビュッフェで打ち上げパーティーがあり、スポンサーの東京エレクトロンの東哲郎代表取締役会長、BUNKAMURAの西村社長、日フィルの平井理事長のご挨拶、武満徹先生の浅香夫人と長女の真樹さんのご挨拶、そしてこの偉業を達成された山田和樹マエストロから謝辞と完結のご感想があり、ともに歩んだ日フィルの扇谷泰朋コンマスからも感無量との完結の辞がありました。


   (左から)東京エレクトロン東哲郎代表取締役会長のご挨拶  BUNKAMURAの西村友伸社長のご挨拶  武満真樹さんと武満浅香さん  山田和樹マエストロの完結の弁


(左)西村社長、東会長夫人、山田マエストロ、BUNKAMURAの役員様と  (右)終演直後にステージ裏で、右は音楽評論家の佐野光司先生


● 小山実稚恵の世界 12年間24回シリーズの第23回
2017年6月17日 BUNKAMURAオーチャードホール
 過日、レクチャー・サロンのお相手をさせていただいた小山実稚恵さんの本公演。
 シューマンの『幻想小曲集』、ベートーヴェンの最後から2番目のピアノ・ソナタ作品110、シューベルトの最後のピアノ・ソナタ第21番変ロ長調が、ゆたかな膨らみと限りない心情表現をもって演奏されました。とりわけ、ベートーヴェンの作品110に寄せた愛惜と昇華の想いが、胸に刺さりました。

左写真は終演直後にパック・ステージで。
右写真は、小山さんのサポーターの皆さま、小山さんのご母堂さま(わたくしの向かって左隣)とともにホールの一階フォアイエで。

 今回のコンサートにはNHKの取材が入っていました。
 6月28日、水曜日、午前7時からの『おはよう日本』で放映がありました。


● 東京フィルハーモニー交響楽団 第110回オペラシティ定期シリーズ
2017年6月14日 東京オペラシティ コンサートホール
 渡辺一正指揮の東フィル、オペラシティ・シリーズを拝聴しました。
 いつ聴いても、心惹かれるリストの交響詩『プレリュード』が幕開けを飾り、次いで、リスト国際コンクールに優勝したばかりの阪田知樹さんをソリストに迎えたリストのピアノ協奏曲第1番、後半はブラームスの交響曲第4番というプログラムでした。
 プレリュードというのは前奏曲一般のことですが、リストのこの交響詩はこれを固有名詞としています。
 彼はこの曲を、人生は死への前奏曲である、との位置づけのもとに、永遠なる死の世界へのほんの前奏曲に過ぎない人生とその対極にある死を、オーケストラによる交響詩の形で描き出したのです。わたくしはこの曲を、リストの人生観、死生観が窺われる宇宙的視座を持つオーケストラ曲と認識しているので、聴くたびに身が引き締まります。
 渡辺一正さんの演奏は、大上段に振りかぶったところのない自然体のもので、それゆえに、リストの達観が滲み出ていたように思えました。
 ピアノ協奏曲は3つの楽章が切れ目なしに演奏される、単一楽章スタイル風のわかりやすい協奏曲ですけれども、リストならではのピアニズムが要求されるので、これを弾いてさまになるピアニストというと、限られてしまいます。
 阪田知樹くんの演奏は、曲を隅々まで知り尽くし、リストの表現希求にも鋭い洞察を巡らせた理想的なものでした。
 さらに、知樹さんはソリスト・アンコールとして、リストの『ラ・カンパネッラ』を弾き始められのですが、あら、ちょっと違うわ、とびっくり。
 実は彼の弾いたのは、お馴染みの現行版ではなくて、それ以前に出版した初版だったのです。
 現行版より音符の数も多く、難度の高い、恐るべき版です。
 そういう版にしっかり目配りし、ちゃんと弾きこなしてしまう若きヴィルトオーゾに乾杯!!

写真は、幕間に阪田知樹くんの楽屋で。


● 浜離宮ランチタイム・コンサート 仲道郁代&ミヒャエル・コフラー
2017年6月12日 浜離宮朝日ホール
 このシリーズのプログラム解説を書かせていただいて早くも10数年になります。
 11:30開演、休憩をはさみ、13:00すぎまでという時間帯です。最近はご無沙汰していたのですが、今回はぜひ拝聴したくて出掛けました。
 ピアノの仲道郁代さんはランチタイム・コンサートの常連アーティストのおひとり。
 今回は、留学時代によく共演されていたというフルートのコフラーさんとの久々のお顔合わせです。コフラーさんはかつて弱冠20歳にしてミュンヘン・フィルの首席に抜擢されたという名手で、今回は、フルート・オリジナルのドップラー『ハンガリー田園幻想曲』、ボルヌ『カルメン幻想曲』のほか、ヴァイオリンが原曲のモーツァルトのト長調ソナタ、そしてなんと、フランクのソナタまで、唖然とするほどの名人芸を披露なさいました。
 終演後、仲道さんに、コフラーさんを紹介していただきました。とてもフレンドリーな方でした。


● 新国立劇場 ワーグナー:『ジークフリート』
2017年6月10日 新国立劇場オペラパレス
 飯守泰次郎先生が音楽芸術監督任期中に完結を目指すワーグナーの楽劇4部作、故ゲッツ・フリードリヒ演出の『ニーベルングの指環』もいよいよ佳境に差し掛かりました。
 6月1日に初日を迎えた4部作中の第3作『ジークフリート』は、生まれる前に父を亡くし、誕生と引き換えに母を亡くして、小人族のミーメに育てられた、荒ぶるティーンエイジャーの成長物語です。
 ミーメは、この壮大な指環争奪物語の発端をつくった小人アルベリヒの弟で腕のよい鍛冶屋ですが、兄から奴隷の如く手荒に扱われて、兄がラインの乙女たちから奪ってきた黄金から指環と隠れ頭巾をつくらされ、出来上がると強引にとりあげられました。
 ところが、大神ヴォータンは、神々の城を巨人兄弟に建設させた報酬に、義妹フライアを与えるのが惜しくなり、奸計を用いてアルベリヒから黄金と指環、隠れ頭巾を強奪し、それを巨人兄弟に支払うのです。あまりといえば、あんまりなやり口ですね。無念きわまりないアルベリヒは指環に呪いをかけ、その呪いがすぐに奏功し、巨人兄弟は仲間割れして弟ファーフナーが兄ファーゾルトを殺します。ここまでが第1作『ラインの黄金』です。
 その指輪奪還のためには比類のない英雄が必要と考えたヴォータンは、人間女性との間に男の子ジークムントと女の子ジークリンデの双子を誕生させますが、この兄と妹は幼くして離れ離れとなって、筆舌に尽くしがたい苦労の末に巡り合い、兄妹にして男女の仲となります。本来なら、このジークムントがそのまま英雄として指環奪還をすればよかったのに、ヴォータンの正妻フリッカが、夫の不義の子とその実の妹との相姦などまかりならぬ、と正論を振りかざしてヴォータンをやりこめ、ジークムントを死に至らしめたために、英雄の役割は、ジークリンデの胎内に宿っていた息子に継承されるわけです。
 これが第2作の『ワルキューレ』です。ワルキューレというのは、ジークリンデの逃亡を助けたヴォータンの娘ブリュンヒルデの役職名ですが、このブリュンヒルデの母はヴォータンの正妻のフリッカではなく叡智の神エルダです。だからこそ、フリッカは、ヴォータンに彼女のことも罰させるのです。彼女はジークリンデとジークムントを助けようとしたことで、フリッカにそそのかされた父の怒りを買い、神格をはく奪されて、焔の岩山で長い眠りにつきました。
 さて、第3作『ジークフリート』では、腹に一物あるミーメに育てられたみなし子、ジークフリートが、大蛇に変身して指環を守っているファーフナーを退治して、指環と隠れ頭巾を得ます。それを巻き上げようとしたミーメはジークフリートの刃に倒れ、大蛇の血をなめたジークフリートは途端に小鳥の言葉を解するようになり、その言葉に導かれて焔の岩山に眠る戦場乙女ブリュンヒルデのもとへ到達し、彼女の眠りを覚まして恋人同士となります。
 今回の『指環』4部作では、第1作で火の神ローゲを演じたステファン・グールドが、第2作ではジークムント、第3作、第4作ではジークフリートに扮するのが大きな聴きどころで、他にも、ヴォータンのグリア・グリムスレイも複数作に通演しています。
 この二人も素晴らしいのですが、今回はミーメのアンドレア・コンラッドが狡知にたけた、しかし、どこかユーモラスで憎めないところがあり、かつ悲哀感も感じさせる、卑屈な小人を実に好演していました。
 北欧調のグリーンの映える舞台も印象的でした。歌手だけで4羽、ダンサー1羽、計5羽も登場した森の小鳥については、あまりに原色でセクシャルな衣装に対して初日に批判のお声もあったそうで、5月29日にゲネプロを拝見したときとは少し変わって、歌手4人は穏当なものになっていました。


● 渡辺健二 ピアノ・リサイタル
2017年6月9日 東京文化会館小ホール
 昨年11月6日、来日を目前にして65歳で世を去ったハンガリーのピアニスト、コチシュ・ゾルターンを偲んで、故人と親交の深かったピアニスト、渡辺健二氏がリサイタルを開催されました。
 リスト音楽院に学ばれた渡辺氏は、わが国屈指のハンガリー、ピアノ音楽の大家で、先ごろまで東京芸術大学音楽学部長の大任を果たされながら、定期的なリサイタルを継続されてこられました。
 今回もきりりとした演奏ぶりでした。

       ※詳しい演奏批評は『音楽の友』8月号に。


● ハオチェン・チャン ピアノ・リサイタル
2017年6月8日 紀尾井ホール
 1990年6月3日、上海生まれのハオチェン・チャンは、5歳でデビュー、6歳にしてオーケストラと共演し、
2009年の第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで第一位を獲得した逸材です。
 ヴァン・クライバーン以後に来日したとき、2度ほど聴いてその逸材ぶりを目の当たりにし、少し話もしていました。
 今回の来日リサイタルには、プログラム・ノート書いていたので、終演後、バックステージに飛んでいきましたら、
前にお話したときのことをよく覚えていて下さり、話が弾みました。
 シューマンの《子どもの情景》の抑制のきいた表現から、プロコフィエフの《戦争ソナタの》のエネルギッシュで超テクニカルなピアニズムまで、
らくらくと、表出できる、とてつもないピアニストです。
 音楽性とテクニック、両要素を具えていて、あれほどのピアノをお弾きになるのに、お人柄も温和で誠実。
 秋には、大野マエストロとラフマニノフの3番を予定されています。


● 「スターピープル」2017年summer号「宮澤賢治特集」に執筆

 2017年6月7日発売の季刊誌「スターピープル」は宮澤賢治特集号です。

 同号に、「賢治の宇宙」《音楽編》を執筆しています。

 賢治が、スターピープルのひとりではなかったかという観点でまとめました。


● 小山実稚恵 24回シリーズ、第23回のプレ・レクチャーサロン
2017年5月30日 オーチャードホール
 小山実稚恵さんの12年間24回リサイタル・シリーズいよいよこの秋で完結。
6月17日の第23回に先立つレクチャーサロンが5月30日に、いつになく多数の皆様のご参加を得て和気藹々と開かれ、トークのお相手を務めさせていただきました。今回の演奏曲目は以下の3曲。
    ♪シューマン:『幻想小曲集』全8曲
    ♪ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番作品110
    ♪シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番変ロ長調
 それぞれの聴きどころを解説させていただき、曲に対する小山さんの想いなどをうかがいました。
 小山さんは一部の曲の演奏も聴かせてくださりながら、いつものやさしい語り口で、誠実に丁寧に、質問に答えてくださいました。
 NHK『おはようニッポン』の収録が入っていましたので、たぶん、6月17日過ぎに、一部の映像が放映されるのかもしれません。


写真右:この写真を送ってくださった、後藤愛子さん(右)、そのご友人の「土の器」さんこと、中沢一恵さんと。


● 熊本シティオペラ協会30周年記念公演 佐久間 伸一 バスリサイタル
2017年5月28日 熊本県立芸術劇場
 東京藝術大学卒業後二期会オペラ研究所を経て渡伊、数々の国際コンクールで上位入賞を重ねたバス歌手、佐久間伸一氏は87年帰国後、熊本シティオペラ協会を主宰して熊本のオペラ普及に貢献してこられました。
昨年4月、同協会の『椿姫』公演予定の数日前に震災に直面され、やむなく公演延期となられましたが、メンバー、支援者一丸となった多大なご努力の末に今年1月に無事上演に漕ぎつけられました。
 今回は佐久間氏ご自身の9年ぶりのリサイタルですが、個人のリサイタルというよりも同協会30周年を記念するとともに震災復興祈念を込め、多くの助演者一体となって盛り上げた、たいへん意義深い公演でした。
 若い演奏家の方々による合奏団をバックとする古典歌曲独唱もあれば、奥様の渡辺ゆみこさんのピアノ伴奏によるトスティ歌曲や日本歌曲、神宮章氏指揮、砂泊宇希さんのピアノによる熊本シティオペラ協会ヴェルディ合唱団による『ナブッコ』の合唱曲とマスカーニの合唱曲など、多彩な演目が上演されました。
 なかでも、ソプラノの福島由紀さんと共演した『ドン・パスクワーレ』の平手打ちの歌は、佐久間氏の広い芸域を示しておみごとでした。
    ※詳しい演奏批評は『音楽の友』7月号に執筆いたしました。


写真左:往きの飛行機の窓から撮影した阿蘇の山々


● 第22回 宮崎国際音楽祭取材
2017年5月12日〜15日
 青葉萌え、風薫る5月、今年も南国宮崎にお邪魔してきました。
 2011年から毎年うかがっているので、今回で7回目となりました。あの東日本大震災直後の2011年のときは、宮崎の地に震災被害こそなかったものの、原発事故の影響から音楽祭に出演の決まっていた多くの海外アーティストの来日が取りやめとなり、果たしてこれで開催できるのか危ぶまれる中、徳永二男音楽監督の粉骨砕身の努力と、ピンカス・ズーカーマンの温かな協力で実現の運びとなったことを、今も鮮やかに思い出します。
 今年もズーカーマンが会期後半の柱となり、そのほかウィーン・フィルの元コンマス、キュッヒルさん、広上淳一マエストロらの出演で盛大な音楽祭が繰り広げられました。
 なかでも、最終日のコンサート形式オペラ『 椿姫 』は、このとてつもなく負担の多いタイトル・ロールを初役でみごとに歌い上げた中村恵里さん、いつもながら惚れ惚れするテノールを響かせた福井敬さんらの好演、そして、広上淳一指揮、音楽祭祝祭管弦楽団の音量豊かでニュアンスに富んだオーケストラ・ワークによって、全聴衆の胸に深い感動を呼び起こしました。詳しいレポートは『音楽の友』7月号に……。

(右)今年のテーマカラーの花々で飾り付けられた、宮崎県立芸術劇場の階段アプローチ

(左)音楽祭の立役者、左から、河野知事、徳永音楽監督、広上マエストロ
(中)左から河野知事、『椿姫』アルフレードを熱唱した福井敬さん、ヴィオレッタで聴衆の感涙を誘った中村恵里さん、知事夫人、県立芸術劇場の佐藤館長
(右)カラフルな美女アーティストたちに囲まれてご機嫌の佐藤館長


● 千代田区 かがやき大学講座『クラシック・ジャケットの女性十選』
2017年5月8日、15日&22日
 4月のライヴ・コンサートを含め、4回にわたって、CDの表紙を飾った美女絵とそのCDに収録された楽曲についてお話した、かがやき大学の講座が無事、終了いたしました。
 写真は、最終回5月22日に受講生の方たちと撮ったものです。
 次の講座は秋です。


● 千代田区 かがやき大学 春の特別講座
 萩谷由喜子のレクチャー&コンサート『竹久夢二と大正ロマン』

2017年4月26日 九段 かがやきプラザ1F ひだまりホール

 2月の日経新聞連載『クラシック・ジャケットの女性十選』をかがやき大学で講座化いたしました。

 初回の特別講座はライヴ・コンサートつきで、ソプラノの萩原みかさん、ピアノの二宮万莉さんに、夢二ゆかりの大正名歌のほか、オペラ・アリア数曲もご披露いただきました。

 おかげさまで予定人数を超える応募があり、皇居の北の丸のお堀を借景とするひだまりホールは超満員でした。


(左写真)ステージの背後は皇居のお堀という贅沢なロケーション  豪奢なバラの花柄のドレスの萩原さん、清楚な黒のドレスの二宮さんと。
 わたくしは大正ロマンに因み、えんじ色の矢羽根柄のお召しに紫の塩瀬の帯にいたしましたが、実はこのお召しは、大学の卒業式のときにこれに袴をはいて臨んだもので、それ以来、30年ぶり、二度目の着用です。
(右写真)受講生のみなさまとともに


● 小平楽友サークル 第16シリーズ継続中
2017年4月19日 小平中央公民館
   2009年の上半期に公民館主催講座として10回連続で開催した『音楽史を彩る女性たち』講座を母体に、受講生有志の方々が発足させてくださった『小平楽友サークル』はその後も半期に1シリーズ(10回)を単位に各シリーズ、テーマを決めて、継続してきました。
 この4月からは第16シリーズ『世界音楽紀行』その1が始まっていて、4月19日はその第4回でした。
 第1回から、イタリア、オーストリア、チェコときて、今回はドイツを採り上げ、音楽家縁のドイツ各地の映像とともにバッハ、ウェーバー、メンデルスゾーン、ワーグナー、ブラームス、カール・オルフらの作品を鑑賞いたしました。
 最近は講座のはじめにイントロ・クイズで遊んでおります。

 現在のシリーズの今後の予定は、5月10日、5月17日、6月7日、6月21日、7月5日、7月19日で、5月10日にドイツ・オペラのルーツと系譜をレクチャして、17日にベートーヴェンの『フィデリオ』を鑑賞いたします。

 どの回からの参加可能で、会費は毎月2,000円、原則として毎月第1、第3水曜日の10:00〜12:00 小平中央公民館のホール、または講座室で開催しています。
 参加ご希望の方は、山田洋子代表 電話:042-345-8862 まで。
左写真
ここが公民館ホールのステージです。100名超入るホールですので、DVD鑑賞も映画館並みの迫力があります。年に1乃至2回、ここでライヴ・コンサートも開催しています。
新国立劇場『オテロ』
(右写真)
そのあと、新国立劇場『オテロ』へ
 オテロ、デズデモーナ、イヤーゴまでが外国人歌手、ロドヴィーゴが妻屋秀和さん、カッシオが与儀巧さん、エミーリアが清水華澄さん、ロドリーゴが村上敏明さん、モンターノが伊藤貴之さんと、日本人歌手も多く登場し、外人勢に遜色のない歌唱と演技で舞台を盛り上げました。


● ノックレベルグ教授 レクチャー・コンサート & 懇親パーティー
2017年4月7日 ノルウェー王国大使館

 ノルウェーを代表する名ピアニスト、アイナル・ステーン=ノックレベルグ教授が来日され、ノルウェー大使館ホールで、ノルウェー音楽に関するレクチャーをなさりながら、味わい深い演奏を聴かせてくださいました。

 また、グリーグの子孫である声楽家、ヴォイス・トレーナーのシェル・ヴィーグ氏が北欧の風を感じさせる、すがやかな独唱も聴かせてくださいました。

 この貴重な機会は、日本グリーク協会がつくってくださり、大使館がご協力なさいました。
 詳しい記事は「ムジカ・ノーヴァ」6月号に執筆いたします。


写真 ご先祖グリーグの歌曲を歌う、ウィーグ氏  ノルウェー大使館の方々と共に


● 墓参・お花見、トスカニーニ・コーヒー、『神々の黄昏』
2017年4月4日
 きびきびとした弛緩のない音楽運び、かっちりと折り目の整った造形で今もわたくしたちを魅了してやまないイタリア人指揮者、アルトゥーロ・トスカニーニは1867年3月25日、イタリアのパルマに生まれ、1957年1月16日、ニューヨークに没しました。
巡業オペラ団のチェリストとして南米ドサまわり中の19歳のとき、指揮者が倒れてしまい、楽員の中でただ一人全スコアを頭に入れていた彼が急遽ヴェルディの『アイーダ』を振って突如指揮者に転じたデビュー・エピソードはよく知られていますが、ほかにも、敬愛するプッチーニの遺作となった『トゥーランドット』の初演中、リューの死の場面で「マエストロはここまで書かれて神に召されました」と静かに指揮棒を置いたという感動秘話、ムッソリーニ政権を嫌って「ファシスト独裁の国では指揮はしない」と公言しそれを貫いた武勇伝、かんしゃく持ちで指揮台の上に置いた金時計をしばしば楽員に投げつけるので、オーケストラでは安物の時計を用意するようになった話、などなど多くの逸話が残されています。
 今年はその伝説的巨匠の生誕150年、没後60年にあたります。

(左写真) 門前仲町の『東亜珈琲』にて、トスカニーニ・コーヒーを賞味
 同店のコーヒー豆をブレンドしたイタリアのメーカーの先々代がトスカニーニと友人だったそうで、それに因んで、おそらく?巨匠好みのこのコーヒーがメニューにあるようです。

 4月4日、境内に桜花五分咲きの菩提寺に母の墓参を済ませ、菩提寺の近くの仙台堀川、大横川の桜をめで、深川名物のあさりの蒸籠蒸しご飯をいただいたあと、門前仲町交差点北東角の「東亜珈琲」に立ち寄り、同店のまったく宣伝なさっていない=きわめて目立たない通常メニュー、「トスカニーニ・コーヒー」を味わってまいりました。
 深煎りの豆で濃い目に淹れたブレンド・コーヒーですが、ビター・チョコレートの風味に彩られているのが大きな特色で、いただいた後のカップに、カカオらしきものが残りました。
 そのあと、上野へ急行。15:00からの東京文化会館、演奏会形式『神々の黄昏』に滑り込みました。3年前から始まった『指環』がこれでようやく完結です。感想はいろいろあって書ききれませんが、一番印象に残ったのは、ブリュンヒルデがジークフリートに愛馬グラーネを託するときに言ったこの言葉です。
「可愛がってあげてね。あなたの言葉がわかるから」
 今、ワーグナーがいかに動物好きであったか、あの波瀾万丈、夜逃げ、逃亡日常茶飯事の生涯のほとんどつねに、犬やオウムなどとともに暮らし、彼らにどれほど惜しみない愛を注ぎ続けたかを研究中なので、これまであまり気に留めなかったこの言葉が強く心に残りました。ワーグナーは、動物の言葉がわかる愛の人だったと思うと嬉しくなります。

(右写真) 仙台堀川沿いの桜は5〜6分咲きでした。
 オフ・ホワイト地に薄いグリーンで格子を織り出し、赤と黄色の井絣を飛ばしたこの紬は大学時代におお気に入りして買っていただいたもの。仕立てはもちろん母。今日初めて、母の墓参に着用しました。帯もその当時、帯地で購入して母が芯入れを工夫して仕立ててくれた名古屋帯ですが、ごく最近になって、締め下ろしました。帯留めはやはり泉下の祖母の愛装品だった大粒のマベパール。とても古い明治のものなので、もしかしたら曾祖母の持ち物だったのかも知れません。
(左写真) 旅立ち姿の芭蕉と
 仙台堀川にかかる海辺橋の南詰には、松尾芭蕉が「奥の細道」出立前の1カ月間ほど寄寓した、門人の鯉屋杉風の別屋 「採茶庵」(さいとあん)があったそうで、それを模したちいさなおうちと、旅姿の芭蕉の像がありました。
 元禄2(1689)年、46歳の芭蕉は、旅に死すことを覚悟の上でここから奥の細道に旅立ちました。

東京・春・音楽祭 ワーグナー『神々の黄昏』
 幕間に「クラシック・ジャケットの女性十選」を企画してくださった日経新聞文化部の岩崎記者(長身)、音楽評論家の江藤光紀さんとお会いして仲良くスリー・ショット。

ワーグナー:舞台祝祭劇『神々の黄昏』(全3幕)
マレク・ヤノフスキ指揮 NHK交響楽団 コンマス:ライナー・キュッヒル
グンター:マルクス・アイヒェ、ハーゲン:アイン・アンガー、アルベルヒ:トマス・コニエチュニー、ブリュンヒルデ:クリスティアーネ・リボール、ヴァルトラウテ:エリーザベト・クールマン、ジークフリート(急遽ロバート・ディーン・スミスの代役):アーノルド・ベズイエン


● 東京都交響楽団 都響スペシャル《オーケストラが物語の扉を開く〜シェイクスピア讃》
2017年3月26日 オペラシティコンサートホール
 大野和士マエストロのプロデュースによる、シェイクスピア・プログラムを拝聴してきました。昨年2016年がシェイクスピア(1564-1616)没後400年でしたので、その後夜祭にあたります。
 1年はあっというまですから、今年に入ってもシェイクスピア・プロジェクトが続いてほしいと思っていましたら、都響さんでこのような厳選された、極上のシェイクスピア音楽を聴かせていただけたのは嬉しい限りでした。
 プログラムは下記の通りです。
♪ チャイコフスキー:交響的幻想曲《テンペスト》
♪ トマ:歌劇《ハムレット》よりオフィーリアのアリア〈私も遊びの仲間に入れてください〉
♪ プロコフィエフ:バレエ組曲《ロメオとジュリエット》
 シェイクスピアの戯曲《テンペスト》は、邪悪な弟の奸計にはまってミラノ大公の地位を追われ、娘ミランダとともに絶海の孤島に流れ着いたプロスペローが主人公です。彼はこの島で娘と共に魔法の修練に励み、魔法の力で嵐(テンペスト)を起こして、弟のミラノ王とナポリ大公の乗る船を島へ漂着させます。そして、弟から大公位を奪還し、娘をナポリ王と結婚に至らせるというストーリーです。
 ベートーヴェンのピアノ・ソナタ17番は《テンペスト》という愛称で知られますが、なぜこう呼ばれるのかというと、このソナタの解釈を尋ねた弟子シントラーに対して、ベートーヴェン自身が「それなら、シェイクスピアの《テンペスト》を読みなさい」と言ったのが由来とされます。でも、シントラーの言の信憑性も薄く、戯曲とソナタの関係性も今ひとつはっきりしません。
 それに対して、こちらの交響的幻想曲は嵐の場面を彷彿とさせますし、いろいろと想像力の刺激される音楽です。生で聴く機会は多くないので、都響の名演で聴けたのはありがたいことでした。

 トマのオペラ《ハムレット》からのオフィーリアのアリアは、婚約者ハムレットにつれなくされて絶望し、童女のようになってしまったオフィーリアが野を彷徨い、子どもたちの遊びの輪に入れて欲しいと歌う哀しい独白で、高音で声を転がすソプラノの超絶技巧コロラトゥーラの難曲として知られます。
 ことに、高い「ミ」の音、ハイEが出てくるために、歌いこなせるソプラノは稀と言われますが、この日登場した、アメリカの若いソプラノ、アマンダ・ウッドベリーさんはこれをらくらくと歌い上げ、会場を震撼とさせました。
 すでに、メット・デビューも果たしているそうですが、おそらく、これが日本での初お目見え。あとで、大野マエストロにうかがいましたら、あるコンクールで彼女を聴いてその実力に驚き、今のうちにと、すぐに今回の起用をお決めになったということでした。
 後半のプロコフィエフのバレエ組曲は大野さんのセレクト。ストーリーに沿ったものであることが大きなポイントで、都響の精鋭たちの見事なオーケストラ・ワークとあいまって、バレエの場面が次々に目に浮かんできて、バレエを観るような迫真力がありました。

(写真)アマンダ・ウッドベリーさんを楽屋にお訪ねしましたら、フランス・オペラのみならず、イタリアものにも芸域拡大中とのお話でした。今回はこのアリア1曲のための来日ですが、近い将来、メットのプリマドンナとして日本の土を踏まれることでしょう。大型株です。


★ コンサートの予告
千代田区 かがやき大学 春の特別公開講座
♪ 萩谷由喜子のレクチャー&コンサート『竹久夢二と大正ロマン』
2017年4月26日 午後1時30分〜3時 九段下 かがやきプラザ1階 ひだまりホール(東京メトロ九段下駅5分)

 2月に日経新聞に連載した『クラシック・ジャケットの女性 十選』を5月のかがやき大学連続講座で詳しく採り上げます。
名画の美女と名曲のお話をおききいただき、作品を解説付きで鑑賞いたします。それに先立ち、そのうちの『竹久夢二と大正ロマン』の回をライヴ・コンサート・スタイルで企画いたしました。
 夢二の作詞による『宵待草』、夢二が楽譜の表紙絵を描いた『ゴンドラの歌』などの大正名歌からモーツァルトのオペラ・アリアまで、ザルツブルク・モーツァルテウム出身、フィナーレ・リーグレ・コンクール第3位に輝く二期会の名ソプラノ、萩原みかさんに歌っていただきます。ピアノは東京音大声楽家科の伴奏助手として活躍中の二宮万莉さんです。
 千代田区民の方は、千代田区社会福祉協議会 ?03-3265-1161までお申し込みくださいませ。無料ですが、先着120名で締め切りとなります。
 区民以外の方で、4月26日のコンサート、あるいは5月の連続講座を聴講ご希望の方は、このトップ・ページの一番下部に公開している萩谷由喜子のメール・アドレスまで直接ご連絡くださいませ。5月の講座は、8日、15日、22日のいずれも月曜日、午後1時30分から3時まで。会場はコンサートと同じひだまりホールです。


● 新国立劇場 新制作 ドニゼッティ『ルチア』
2017年3月23日
 タイトルロールがとりわけ見事、バリトンがこれまたよし、テノールもよし、この3名は外国人ですが、日本人歌手の皆さんも彼らに遜色のない歌いぶり、彼らを存分に歌わせ、重唱もぴたりと揃える指揮者の手腕も冴え、演出も斬新さと古典的な一面を併せ持つ見応えのあるもの、何から何まで素晴らしい『ルチア』でした。
 初めて体験したのは、第3幕「狂乱の場」でのヒロインのコロラトゥーラにつける独奏楽器がグラスハーモニカだったことです。これは、多数のガラスのグラスを盤の上に並べ、奏者は濡らした指先でその縁をこすって音を出すという繊細な楽器です。18世紀に流行りましたが、音の密度の濃さが奏者と聴く者の神経に差し障る?のか、奏者の指先の神経を痛めるのか? 定かではありませんが、いつしかほとんど廃れた楽器です。
 新国立劇場では飯守泰次郎先生の肝煎りで、ドイツからこの幻の楽器のスペシャリストを招き、ただでさえ聴きどころ充分の「狂乱の場」にさらに花を添えた上演となりました。

右端の写真:これはグラスハーモニカのイメージ写真。『ルチア』で使われたものは、多数のグラスを普通に並べたタイプで、盤の下にはマリンバのような共鳴管がついていました。

 終演後、友人の音楽評論家、吉田真さんのお引き合わせで、新国立劇場の音楽スタッフ、城谷正博さん、木下志寿子さんとお会いして、グラスハーモニカについてもお話が弾みました。
吉田さんもそうですが、城谷さんはわが国のワーグナー楽劇の第一人者のおひとりで、『パルジファル』『ラインの黄金』『ワルキューレ』と新国立劇場のワーグナー上演にずっと携わってこられました。その一方、お仲間たちと「わ」の会という、手作りワーグナー楽劇上演グループを結成されて、おひとりおひとりの桁外れのワーグナー能力の精華というべき、質の高い、他ではありえない舞台を世に問うておられます。昨夏、その「タンホイザー」+「トリスタン」を拝見して驚愕し、『音楽の友』年間ベストテンのトップに挙げさせていただいたご縁で、この日、上演の立役者で指揮とピアノの城谷さん、ワーグナー・スコアをピアノ1台で表現なさった驚異のピアニスト、木下さんとおめにかかったという次第です。
 現在、城谷さん、木下さんは5月17日のセミ・ステージ形式『ジークフリート』の稽古まっただ中。本番が楽しみです。

写真:左から、木下志寿子さん、城谷正博さん、吉田真さん。


● 都民劇場音楽サークル第645定期公演 ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団
2017年3月17日 東京文化会館大ホール
 1952年「ベルリン交響楽団」の名称のもとに創設され、首席指揮者クルト・ザンデルリンクの時代1960〜77年に世界的なオーケストラのひとつに成長したこの団体は、2006年に現名称に変更後も躍進を続けています。
 今回の日本ツアーの指揮者は、エリアフ・インバル。この日は都民劇場の定期公演としてのコンサートで、インバルは同劇場への初登場。それも大きな話題です。
 前半は、上原彩子さんを迎えた、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466。冒頭のオーケストラによるシンコペーション動機は、じっくりと彫り付けるようなテンポ。重みがあります。上原さんのソロが始まると彼女のペースとなり、マエストロ・インバルとの信頼関係がよく伝わってくる緊密なコラボレーションが築かれました。
 第1楽章のカデンツァはベートーヴェンのもの。いつもこれを聴くと、ベートーヴェンのモーツァルトへの敬愛を感じて胸が熱くなります。そして第3楽章では、初めて耳にする、力のこもった堂々たるカデンツァが奏されました。

写真左:所属事務所ジャパンアーツの大内社長も、今回のツァーで『皇帝』とK.466を弾き分けた上原さんの功を称えていらっしゃいました。

写真右:楽屋で、上原さんにうかがいましたら、やはり第3楽章カデンツァは自作とのこと。「まだ譜面に起こしていないので、次のときは変わるかも」(笑)


● 神奈川県民ホール オペラ『魔笛』
2017年3月18日 神奈川県民ホール
 国際的なダンサーでもある勅使川原三郎の演出、装置、照明、衣裳、川瀬賢太郎の指揮、大島義彰の合唱指揮、八木清市の舞台監督による『魔笛』を観てきました。
 このモーツァルト最後のオペラは音楽があまりに魅惑的なので、どのような上演形態でもそれなりに面白く拝見できますが、作品に内在する光と影、時間概念、宇宙的なるものの本質に迫るプロダクションにはめったに出会えません。しかも、ストーリーの最大の不可思議な点は、前半と後半とで善悪が逆転してしまうことです。この点をきちんと説明し、観る者を納得させるのは制作者の大きな課題でしょう。
 このプロダクションは、ダンスの要素に原作の演劇的要素を融合させたもので、本来歌手の語る台詞をすべて日本語ナレーションで構成するという画期的な試みでした。
 全2公演は一部を除くダブル・キャスト。わたくしの拝見した18日はザラストロに大塚博章、夜の女王に安井陽子、タミーノに鈴木准、パミーナに嘉目真木子、パパゲーノに宮本益光、パパゲーナに醍醐園佳。みなさん、板についた歌唱と演技でした。

※詳しい公演批評は『ハンナ』5月号に書きました。

写真:会場の神奈川県民ホールは、山下公園の向かいです。
   左 『白鳥の湖』オデット姫のような白の羽毛衣装に身を包んだ宮本益光さんのパパゲーノと。
   右 わが国を代表するタミーノ歌手、鈴木准さんは赤の衣装、白鳥風のパパゲーノと好対照。


● 神田将さん、エレクトーン・リサイタル2017 《響像》U
2017年3月11日 東京文化会館小ホール
 エレクトーンという電子楽器で、クラシック専門に独自の境地を開拓されている神田将(かんだ・ゆき)さんが、すべてご自分で原曲をエレクトーンに移されたプログラムによるクラシックのリサイタルを開催されました。想像を絶する困難を乗り越えて、ここまでこられた孤高のエレクトーン奏者です。神田さんとは、以前に霧島でお会いして、その後2014年に仙台クラシック・フェスティバルで協演させていただいたご縁があり、この日はそのときの《運命》も再び、聴かせていただくことができました。そのほか、ヴェルディ《運命の力》序曲、ラヴェル《鏡》より〈海原の小舟〉、後半は何と、ラフマニノフ《交響的舞曲》。これには圧倒されました。

写真:名前に「ゆき」の音があるもの同士。また協演機会があればいいですね、とおっしゃっていただきました。


● 清水和音さん、協奏曲3曲を一日で弾く!!
2017年3月5日 オーチャード・ホール
 ピアノ界の永遠の貴公子、清水和音さんが、梅田俊明指揮東フィルとの協演で、ベートーヴェンの《皇帝》、チャイコフスキーの1番、ラフマニノフの2番を一挙に演奏されました。ちょうど、《皇帝》は3日前に同じ梅田さんの指揮で、小山実稚恵さんのソロを聴いたばかり。しかも、チャイコフスキーは前日3月4日の日フィル定期で、小林研一郎指揮、金子三勇士さんのソロを聴いたところでした。音楽作品の解釈、表現は、表現者の数だけあることを痛感します。終演後、尾高惇忠先生、奥様の綾子先生と共に、楽屋に駆けつけました。尾高先生「あの3曲を全部暗譜しているなんて、君の頭の中はいったいどうなっているの?」和音さん曰く「3曲とも、どれもこれまでに100回以上弾いてますもん。でなかったら、できませんよ」。
 3月4日の日フィル定期の公演批評は、『音楽の友』5月号に。

写真(左):和音さんの楽屋で、尾高先生ご夫妻とともに。和音さんはチャイコフスキーがもっともお気に入り。「あれはホント、気持ちいいよ」と爽快なお顔でした。
写真(右):その前日3月4日に日フィルとチャイコフスキーを協演した金子三勇士さん、木野雅之コンマス(右)と。


●2017都民藝術フェスティバル
 1月から3月にかけて、日本演奏連盟主催の「2017都民藝術フェスティバル」が開催され、首都圏のプロ・オーケストラ8団体の各公演、及び、室内楽シリーズとして3公演の計11公演が開かれました。わたくしはそのうち、オーケストラ公演としては、1月22日の新日本フィルハーモニー交響楽団、2月1日のNHK交響楽団、2月10日の東京フィルハーモニー交響楽団、2月24日の読売日本交響楽団、3月2日の東京都交響楽団、3月8日の東京交響楽団の6公演、室内楽シリーズとしては、2月14日の「ピアノ三重奏の夕べ」、3月3日の「弦楽四重奏の夕べ」の2公演、計8公演を拝聴いたしました。  オーケストラ公演は、いずれも気鋭の客演指揮者に人気ソリストを迎えた協奏曲入りプログラムで、すべて王道の、前半=小品+協奏曲、後半=メインの著名交響曲かそれに近い作品という、たいへん聴き易い構成でした。全公演とも、会場は池袋の東京芸術劇場。駅からのアクセスもよく、チケットもA席=3,800円、B席=2,800円、C席=1,800円のお値打ちものです。極めて限られた練習時間しかとれない悩みもあるようですが、東京都の助成と公益財団法人演奏連盟のご努力で、こうした催しが開かれるのは嬉しいことです。そのうち、都響公演と東響公演をご紹介します。
♪東京都交響楽団公演
2017年3月2日 東京芸術劇場
 指揮は梅田俊明マエストロ、ソリストは小山実稚恵さん、オル・ベートーヴェン・プログラムです。最初に《エグモント》序曲。主人公の悲劇性が胸に迫ります。小山さんはピアノ協奏曲第5番《皇帝》をお弾きになりました。最初のうちは、ピアノの鳴りをいろいろご研究のようすでしたが、一旦感触を掴まれるや完全に楽器を手中に収められ、展開部では迫真のクライマックスを築かれ、再現部への移行句は息もつかせぬ緊張感で聴き手を惹きつけました。

写真(左):大役を終えられたばかりの小山実稚恵さんと。
写真(右):梅田俊明マエストロは3日後に同じ《皇帝》を清水和音さんと協演予定。「やはり、だいぶ違われますよ」とのこと。そこへ山本友重コンマスが顔を出されたのでご一緒に。

♪ 東京交響楽団公演
2017年3月8日 東京芸術劇場
 指揮は山下一史マエストロ、ソリストは上森祥平さん。メンデルスゾーンの序曲《フィンガルの洞窟》にドイツでもご経験の長い山下マエストロの棒が冴えます。上森さんはドヴォルザークのチェロ協奏曲を熱演されたのち、ブリテンの無伴奏チェロ組曲第1番の終曲という、めずらしいアンコール曲を聴かせてくださいました。レパートリーの広い上森さんならではの選曲です。

写真(左):上森さんと。また8月に恒例のバッハ無伴奏全曲コンサートをなさいますので、聴きに行くお約束をいたしました。
写真(右):前半で汗びっしょりになられた山下マエストロ。休憩時間にTシャツ姿で今後のご予定を熱っぽく語ってくださいました。


● 広島交響楽団 フラグシップ・コンサート Music for Peace & ワークショップ
2017年2月15日〜16日
 被爆地に拠点を置くオーケストラの使命として、「Music for Peace」を指針に掲げる広島交響楽団はこの崇高な理念を広く内外に発信することを目的に「日本・ポーランドプロジェクト2016−2020」を昨年から発足させました。
 きっかけとなったのは、原爆投下70年目の2015年に広島交響楽団と初協演したピアニストのマルタ・アルゲリッチが「Music for Peace」の理念に強い共感を寄せたことでした。
 そのプロジェクトの一環として、この2月、ポーランド、及び広島市の姉妹都市であるカナダのモントリオール市からそれぞれ数名の演奏家が招かれ「フラグシップ・コンサート」で同響と共演を果たす一方、前日のワークショップにも、国内外から招聘された音楽評論家、地元の若者とともに参加しました。
 海外音楽評論家としては、カナダからワーグナー研究家のロバート・マーカウ氏、ポーランド・ラジオ局のロバート・ツェザリー・パガッシュ氏、シンフォニア・ヴァルソヴィアのゼネラル・ディレクター、マリシュ・ヤノフスキ氏、アメリカの音楽評論家ポール・ペルコネン氏、ユニバーサル・エディション国際宣伝部長のヴォルフガング・シャウフラー氏、バーミンガム・ポスト紙のクリストファー・モーリー氏、フィガロ紙のクリスティアン・メルリン氏が来日され、わたくしも日本からの音楽評論家ということでこの貴重な機会に招いていただき、ワークショップとコンサートを体験させていただきました。

ワークショップではアムランさんが被爆ピアノを演奏
 ワークショップは2月15日午後6時から平和記念資料館で開催されました。
 最初に、ポーランド招聘ヴァイオリニスト、スタニスラフ・ポデムスキと広響のドイツ人チェリスト、マーティン・スタンツェライトのデュオで、グリエールの4つの小品が披露され、続いてモントリオール在住、2015年のショパン国際ピアノ・コンクールで第2位を獲得したシャルル=リシャール・アムランによる被爆ピアノの演奏がありました。
 被爆ピアノとは、原爆投下の翌日19歳の蕾を散らせた河本明子さんの愛奏したアップライト型です。アメリカの「ボルドウィン」Baldwinとの説明を受けましたが、わたくしの目には「エリントン」Ellingtonとみえました。現在も、中古ピアノ市場に、ときたまEllingtonピアノは現れるようですが、Baldwinピアノとは別物です。もしかしたら、Baldwin社製造のピアノの一部に、Ellingtonというブランドがあったのかも知れません。どなたか、BaldwinとEllingtonの関係をご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示くださいませ。1920年代のピアノです。それはさておき、このピアノは、戦前、一家でアメリカにお住まいだったとき、河本家のご両親が愛娘のために購入され、日本に持ち帰られた楽器でした。
 皮肉にも、アメリカ生まれのピアノは、アメリカの投下した原子爆弾によって弾き手を喪い、ピアノ自身も無残にガラス片が突き刺さり、傷つきました。
 明子さん亡きあと、ピアノはご遺族に守られてきましたが、だんだんと傷みが激しくなり、ご遺族も世を去られていきます。このピアノを通じて、平和メッセージを発信したいと考えた心ある方々が譲り受けて2005年に丁寧な修復がなされ、「Music for Peace」の発信楽器となりました。
 アムランさんはこの明子さんのピアノで、バッハのアリオーソ、ショパンのノクターン第17番ロ長調作品62-1、バラード第3番変イ長調作品47を静かに奏でてくださいました。
 そのあと、海外演奏家及び海外招聘音楽評論家と、地元の若者との英語による対話コーナーがあり、音楽が平和にどのように貢献できるのかについて、真摯な意見が交換されました。

(写真左)2015年10月17日、ショパン国際ピアノ・コンクール取材中、ワルシャワのショパン・アカデミーでアムランさんとお会いしたときにわたくしが撮影した写真。
この日はショパンの命日なので、コンクールは小休止。まだ、結果は???ですが、すでにセミ・ファイナルでは上位入賞を予感させる名演で聴衆を魅了。
(写真右)2017年2月15日、アムランさんとショパンコンクール以来、広島で再会しました。

2月16日のコンサート会場は2001席の広島文化学園HBGホール。
広島交響楽団音楽監督・常任指揮者の秋山和慶先生の指揮で以下の曲目が演奏されました。
藤倉大    :『imfinite string』(2015年作曲・翌年改訂)
ショパン   :ピアノ協奏曲第2番ヘ短調
ベートーヴェン:交響曲第5番『運命』

※プロジェクト全体の取材記事は、コンサートの批評と共に『モストリー・クラシック』3月発売号の『オーケストラ新聞』に執筆しました。


(写真左から)
(最初の2枚)シンフォニア・ヴァルゾヴィア、モントリオール交響楽団 シャルル=リシャール・アムランが平和記念碑に捧げた花輪
学徒動員の勤労作業中に被爆し、重症の体でなんとか家までたどりつかれたものの、その翌日、19歳で亡くなった河本明子さんのピアノ
被爆ピアノでショパンのノクターン第17番ロ長調を奏でるアムラン

♪ 河本明子さんの被爆ピアノのメーカーに関しましての続報(2017年3月14日)
「ボルドウィン」Baldwinと「エリントン」Ellingtonとの関係をご存知の方がいらっしゃいましたら、ご教示くださいませ、と書きましたところ、熱烈なピアノ愛好家の後藤愛子さんがいろいろ調べてくださり、やはりわたくしの推測通り、「ボルドウィン」Baldwin社が一時期、Ellingtonというブランドのピアノをつくっていたことがわかりました。Ellingtonは一般普及向けのブランドで、お手頃価格で質のよいピアノを世に送っていたそうですが、あの世界大恐慌によって大ダメージを受けて、製造販売が中止されたということですから、その観点からも、このピアノは貴重な音楽遺産といえるでしょう。後藤さん、ありがとうございました。
※たまたま、『モストリー・クラシック』3月発売号に、歴史的ピアノ・メーカーと作曲家との関係、リヒテル、グールドはなぜ(晩年に)ヤマハを弾いたか、アルゲリッチのショパン演奏の魅力と特質、について執筆しております。よろしければ、ご高覧下さいませ。


● 日本経済新聞 文化欄に『クラシック・ジャケットの女性 十選』を執筆
2017年2月9日から28日まで 10回連続

 『クラシック・ジャケットの女性たち』と題し、クラシックのCDジャケットを飾る名画の美女たち10人を採り上げ、絵画について、モデルについて、そしてなぜ、この名画の美女がこの楽曲のCDに登場しているのか、その裏にどのようなドラマが秘められているのかについて、解説させていただきました。

(第1回)
エリザベト=クロード・ジャケ=ド=ラ=ゲール(1665−1729年)
ジャン=フランソワ・ド・トロワ画  Jean-Francois de Troy 1679-1752年
 ロココ萌芽期の画家。祖父も父も画家という美術一家に生まれました。神話に材をとった絵、宗教画などを得意としする一方、肖像画の名手としても知られました。
 なにしろ、このように美しく、女性を描く手腕があるため、貴婦人からの依頼が多かったようです。



(第2回)
『 パオロとフランチェスカ 』のフランチェスカ・ダ・リミニ

アリ・シェーフェル画 (ドルトレヒト、1795年−アルジャントゥイユ、1858年)
『 パオロとフランチェスカ 』1855年
油彩、カンヴァス
縦1.71m、横2.39m
1900年、画家の娘マルジョラン=シェーフェル夫人より、ルーブル美術館に遺贈
ドゥノン翼 2階 モリアン ロマン主義 展示室77に展示。



(第3回)
『 オフィーリア 』(Ophelia) 1851-52年
ジョン・エヴァレット・ミレー(1829-1896年)画
76.2×111.8cm | 油彩・画布 | テート・ギャラリー(ロンドン)

 ミレーはまず、小川のほとりを歩いてイメージに合う場所を入念に選び、ついに気に入った場所をみつけるとそこにイーゼルを立て、あたりの情景をきわめて精緻に描写しました。その場所は、のちにほぼ特定されています。
 そして次に、彼と同じラファエル前派の画家たちのモデルとして人気のあったエリザベス・シダル、愛称リッツィに、お湯をはったバス・タブでこのポーズをとってもらい、絵筆を動かし続けました。彼が長時間にわたって作画に没頭したため、当初はアルコール・ランプでお湯の保温を続けるつもりだったのにそれを忘れてしまい、お湯は冷え切りました。そのせいで、リッツィはひどい風邪から肺炎を起こしかけ、長く床につくことになりました。
 怒ったリッツィの父親はミレーに賠償金を請求しました。ミレーも非を認め、多少の減額をお願いした上で、それを支払ったと伝えられています。
 日経コラムにも書きましたが、リッツィはその後、ミレーの画家仲間、ロセッティの妻となりますが、ロセッティの女性関係に悩まされ、心身を衰弱させて、強い薬を飲みすぎたためか、ある朝、二度と起きてくることはありませんでした。ロセッティは生涯、後悔したようです。
 モデル、リッツィのそんなはかない生涯が、オフィーリアの身の上に重なり、胸が痛みます。それにしても、死に瀕しながら、そんな自分の絶望的状況にも気づかず、小さく唇を動かして一心にシャンソンを口ずさむオフィーリアの表情は神々しいまでに虚心で、美しく、絶品の一語です。





(第4回)
『 アルマ・マーラー 』
『風の花嫁』1914年
オスカー・ココシュカ(1886-1980)画
スイス・バーゼル美術館蔵 3階正面の展示室
 当初は現在より明るい色彩で描かれていましたが、アルマとの関係が絶望的なものになるにつれて、ココシュカが暗い色調の絵具をどんどん塗り重ねていき、現在の色合いとなりました。 その厚塗りの絵具の剥落の恐れがあるため、移動には不向きで、同美術館の門外不出となっています。実物はこの美術館でしか鑑賞できませんので、バーゼルにいらした方は、ぜひ、ご覧になってください。




(第5回)
『 イザベル・デ・ポルセール 』(Isabel de Porcel) 1804-05年
フランシスコ・ホセ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス(Francisco Jose de Goya y Lucientes、1746年3月30日 - 1828年4月16日)画
81×54cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

 熱くひそやかなスペインの情熱を象徴するアイテムを随所に忍ばせたゴヤの絵は、この国の伊達男(マホ)の一人であるグラナドスを夢中にさせました。例えば、この『イザベル・デ・ポルセール』の燃えるまなざし、白い顔にかかる褐色の巻き毛、美しい胸を透かし見せる黒の上質なレース生地、などが彼をたまらなく魅了した、と作曲家自身が書簡に書き残しています。この肖像画のモデルのイザベル夫人は当時25歳くらい、夫のポルセール氏は50歳位といわれていますので、地位も名誉も財産もある50男の年若い美人妻だったようです。
 このイザベラ夫人のような、スペイン的な粋な女のことは、同国の伊達男マホに対して、マハといいます。ゴヤの有名な絵画に『着衣のマハ』『裸のマハ』がありますが、あのマハというのは個人名ではなく、小粋なマドリード娘、といったほどの意味なのですね。そのマホとマハの織りなす愛と情熱の世界を、グラナドスは6曲構成のピアノ組曲『ゴイェスカス』に表現しました。
 組曲第1曲の『レキエブロス』は「愛の言葉」の意です。つまり、マホがマハを口説いているわけです。
 第2曲は『格子窓の語らい』。マホの口説きが成功して、二人は格子窓越しに愛を語らっています。格子窓越しなのが、かえってもどかしさを掻き立て、二人の情熱を燃え上がらせます。
 第3曲は『ともし火のファンダンゴ』。ファンダンゴとは、野趣にみちたスペインの民俗舞曲。
 第4曲はこの組曲中でもっとも有名な『嘆き、またはマハと夜鳴きウグイス』。神秘的でえもいわれぬ美しさを秘めた1曲です。夜鳴きウグイス、ナイチンゲールは、男女の性愛を象徴するアイテム。音楽作品の中でこの鳥が鳴いたら、それは男女の愛の成就を暗示していると考えてよさそうです。
 第5曲は『愛と死』。マハをめぐってライバルと決闘し、戦いに敗れて瀕死のマホ、彼に取りすがるマハ。
 そして第6曲は『幽霊のセレナード』。マホは今や、幽霊になったのでしょうか。それでも伊達男らしく、ギターを爪弾いてマハにセレナードを捧げています。最後は、ギターの解放弦、下から「ミラレソシミ」で幕。
 この組曲をもとに、台本作家F.ペリケの構成したオペラは次のようなストーリーです。
陸軍大尉フェルナンドにはロサリオという恋人がいますが、あるとき、闘牛士パキーロの愛人ペパとの仲をパキーロから疑われ、ついに決闘となってしまいます。フェルナンドは敗れて重傷を負い、恋人ロサリオに抱かれながら息を引き取ります。
 オペラはスペインの伝統的な歌芝居、サルスエラの形で、1916年初頭に完成しました。グラナドスは初演劇場を探します。パリのオペラ座で初演の話もあったのですが、あいにく、第一次世界大戦が勃発してヨーロッパの劇場はすべて閉鎖されてしまいます。そんなとき、ニューヨークのメトロポリタン劇場からオファーがありました。船旅が大の苦手のグラナドスでしたが、『ゴイェスカス』初演のためならなんのその、愛妻アンパロと歌手陣を伴い、海路ニューヨークに渡って無事初演を済ませました。
 そのあと、ウィルソン大統領から招かれてホワイトハウスでピアノ・リサイタルを開くという名誉に浴します。でも、そのために帰国予定が遅れ、当初乗船予定のスペイン直行便を乗り逃し、やむなく、当時フランス船であったサセックス号で帰国することになりました。これは直行便ではなくロンドン経由便で、ロンドンに寄港のあと、英仏海峡を渡ります。その航行中、サセックス号はドイツ軍の潜水艇Uボートの攻撃を受けたのです。状況については諸説ありますが、グラナドス自身は海に投げ出されずに済んだか、あるいは救命艇に引き揚げられたともいわれます。ところが彼は、波間に漂う愛妻アンパロの姿を目にするや、あれほど苦手な海の中に飛び込んでいき、アンパロともども海の藻屑と消えた、と伝えられています。





(第6回)
『 ファニー・メンデルスゾーン 』1805-1847年
ヴィルヘルム・ヘンゼル(1794-1861年) 画

 ファニー・メンデルスゾーンの評伝は、2002年に上梓した拙著『 五線譜の薔薇 』に収載いたしました。
 この「クラシック・ジャケットの女性」十選のうち、第4回のアルマ・マーラー、第8回掲載予定のクララ・シューマンの評伝も同著に採り上げております。
 『 五線譜の薔薇 』の初版は完売し、数年後に二版が出ておりますので、アマゾンなどネット書店で入手可能と思われます。今回の日経連載シリーズの原点というべき女性音楽家のオムニバスです。ご興味のあられる方は、ご高覧頂けましたら嬉しく存じます。
 ところで、わたくしは最初にこのファニーの肖像画を目にしたとき、何と美しい女性だろうかと胸がときめきました。そして、この髪形、衣装が、音楽の女神聖チェチーリアに扮したものであることを知り、ファニーも、これを描いた夫のヘンゼルも、芸術の神に深い敬意と憧憬を抱いていたことに感動しました。
 ファニーの容姿容貌は、おそらく、実物より美化されているようですが、わたくしはその美化に、夫ヘンゼルの妻へのわき目もふらない深い愛を感じるのです。名門銀行家メンデルスゾーン一族の婿となったこの画家には、そのことが重い蹉跌となっていたことは疑いもありません。彼の描いた絵には、一族の車輪にひもで繋がれる自分の姿が認められます。でも彼は、そのくびきの中で、妻を理解し続けた、やさしい夫だったと思います。
 ファニーは、父と弟からは、作曲家として世に出ることを認めてもらえなくても、これほど美人に妻を描いてくれ、作品出版にも協力してくれた夫に恵まれたわけですから、配偶者運はよかったといえるでしょう。もちろん、神からの才能の贈り物にも恵まれた女性でした。





(第7回)
『 ゴンドラの唄 』の夢二式美人

 竹久夢二(1884-1934年)は大正の浮世絵師、グラフィックデザイナーの祖、などとも呼ばれる、大正ロマンを代表する画家です。彼の描く、いわゆる夢二式美人は、唯一、正式な結婚をした相手であった妻、たまき を原型に、その後、愛人の彦乃、お葉たちの容貌の要素が採り入れられていったものと思われます。横書き、右から左のタイトルが時代を窺わせる『 ゴンドラの唄 』の出版譜の表紙画を夢二が描いた大正4年は、たまきとの最初の離別の年ですが、この絵のモデルは、身体の線の特質やお顔の特徴から、たまきだったものと想像されます。わざと少しだけくすませることでロマンティックな持ち味を醸した色使いにも、夢二の天才があらわれています。





(第8回)
『 クララ・シューマン 』

 藤紫のシックな色調のジャケットを飾るのは、クララ・シューマン21歳時の肖像画(下の写真左から4枚目)。彼女のドレスも同じ色合いに彩色され、大きな白い襟がアクセントとなっています。でも、これは、このCDジャケットのデザイナー様による加工で、原画は、日経記事にも書いたように鉛筆デッサンでした。ドイツで発行されている『Clara Schumann Chronik in Bildern』にこの原画が収載されていますので、ここに掲げさせていただきます(同左から1枚目)。もちろん、モノクロで、衣装の下書きらしきラインも少し見られますが、下半分はまったくのラフです。もう一枚の絵は、これもドイツで出版されているクララの伝記の表紙画で、彩色されています(同左から2枚目)。
 ところで、このCDはクララだけの作品集ではなく、他にマリア・テレジア・フォン・パラディス、マリア・アガータ・シマノフスカ、ファニー・メンデルスゾーン、テクラ・バダジェフスカ、オーギュスタ・オルメス、ヴィルマ・アンダーソン=ギルマン、リリー・ブーランジェの7名の女性作曲家のピアノ曲を集めたオムニバスです。
 実は、そのもととなったのは、わたくしが2006年に詳細な解説付きで編纂・出版した楽譜集『クララ・シューマン ロマンス〜女性作曲家によるピアノ作品集』(1,500円+税)でした(同左から3枚目)。楽譜集の収載曲目は写真の通りです(同左から5枚目)。
 友人で尊敬するピアニスト、江崎昌子さんが、CD化を思い立たれ、楽譜集の全曲にクララの『ロベルト・シューマンの主題による変奏曲』も加えて録音してくださったものが、この藤紫色の美しいアルバムなのです。僭越ながら、ライナーノートも書かせていただきました。
 8人の女性作曲家のうち、クララ、ファニーの評伝は拙著『五線譜の薔薇』に、パラディス、オルメス、リリー・ブーランジェの評伝はその続編『音楽史を彩る女性たち 五線譜のばら2』にございます。CD、楽譜集と併せてご愛顧いただけましたら嬉しく存じます。
写真(左から)
 1枚目:鉛筆デッサンの原画
 2枚目:ドイツで出版されているクララの伝記の表紙画
 3枚目:楽譜集『クララ・シューマン ロマンス 女性作曲家によるピアノ作品集』2006年 ショパン
 4枚目:萩谷由喜子編の楽譜集とそれを録音した江崎昌子さんのCD
 5枚目:楽譜集の目次





(第9回)
『 ジャンヌ・サマリー 』
ジャンヌ・サマリーの肖像
ピエール・オーギュスト=ルノワール 画 1877年

 ジャンヌが自分で購入したこの肖像画は、裕福な投資家の息子ポール・ラガトの妻となり、三人の娘をもうけて幸せに暮らしていた彼女が1890年に33歳の若さで病没したのち、デュラン=リエル画廊に売却されました。
 そして、同画廊からこれを買い取ったのが、ヨーロッパの美術品収集に余念のなかったロシアの大富豪、イヴァン・モロゾフ(1871-1921)でした。 モロゾフも数奇な運命をたどり、彼のコレクションは1920〜40年代にかけて、ペテルブルクのエルミタージュ美術館とモスクワのプーシキン美術館に二分されます。
 印象派時代のルノワールの肖像画として最高傑作と言われるこの『ジャンヌ・サマリーの肖像』は、現在、プーシキン美術館蔵となっています。
 2013年に日本各地でプーシキン美術館展が開催されたとき、その最大の呼び物絵画として美しきジャンヌは初来日しましたので、彼女と出会われた方も多いのではないでしょうか。

(右は、ジャンヌの写真)


(第10回)
『 ヨハネス・フェルメール 』(Johannes Vermeer 1632-1675)
『 ギターを弾く女 』
推定制作年代:1673〜1674年年頃
技法:カンヴァス、油彩
サイズ:53×46.3cm
所蔵:ロンドン、ケンウッド・ハウス

 フェルメールは、実にしばしば楽器を作品中に忍ばせた画家でした。寡作家で、わずか30数点しか作品が伝わっていないというのに、そのほぼ3分の1にあたる11点に楽器が描かれているのには驚かされます。でも、画面に楽器が登場することによって、そこに描かれている人物、おうおうにして女性ですが、その女性の秘めたる恋愛生活が暗示されるのですから、楽器入りフェルメール作品はまことに含蓄の深い作品群です。中には、健全な恋愛である場合もあるかもしれませんが、大半は世を忍ぶ恋なのでしょう。それを楽器が物語るわけで、秘すれば花の恋愛小説の語り手としてのフェルメールの手腕に感服します。
 わたくしが数えた限り、楽器が描かれているのは『中断された音楽の稽古』『音楽の稽古』『リュートを調弦する女』『合奏』『フルートを持つ女』『絵画芸術』『恋文』『ギターを弾く女』『ヴァージナルの前に立つ女』『ヴァージナルの前に坐る女』『ヴァージナルの前に坐る若い女』の11点でした。CDジャケットになっている『ギターを弾く女』は晩年の作で、構図、色使い、精緻さにやや難があり、フェルメールの絵画作品としての評価はさほど高くはないようですが、楽器に大きな比重が置かれていることが魅力です。
 モデル着用の斑入り白毛皮の縁取りのついた黄色の衣裳は、『リュートを調弦する女』『真珠の首飾りの女』『手紙を書く女』『婦人と召使』『恋文』『ギターを弾く女』の、少なくとも6点に描かれています。
 現在のように、フェイク・ファーなどなかったはずの当時のこと、この衣裳はかなり高価な品だったのではないでしょうか。だからこそ、さまざまな絵に使い回し、でも結局、愛娘の所有に帰したのではないか、と想像しています。
 このCDは、一目で気に入って注文したのですが、船便による海外輸入盤のためなかなか手元に届かずにひやひやしました。 もしも、間に合わない時のために、他候補も用意していたところ、ある日、何事もなかったかのようにひょうひょうと届き、無事に連載の最終回をフェルメールで飾ることができました。
 日本経済新聞コラム、十選、並びにこのホームページの追記、ご愛読、ありがとうございました。





● 齋藤秀雄メモリアル基金賞 授賞式とレセプション
2017年1月17日 青山アクアヴィット
 財団法人ソニー音楽芸術振興会(現・公益財団法人ソニー音楽財団/英文名称:Sony Music Foundation)が2002年(平成14年)に創設した「齋藤秀雄メモリアル基金賞」はチェリスト・指揮者・教育者としてわが国のクラシック音楽界に計り知れない功績を遺された故・齋藤秀雄(1902-1974)氏に因むものです。
 2000年3月17日に同氏の未亡人・齋藤秀子氏(享年90)が逝去されたとき、ご遺志により、遺贈された財産を財源として、毎年、優れた指揮者とチェリスト、各1名に贈られています。
 今年度は、指揮者の該当者なし、ということでしたが、チェリストとしてはフランスを拠点に世界的に活躍される、酒井淳氏が古楽器とモダン楽器両面にわたる幅広い活躍を評価されて、この栄えある賞を授与され、その受賞の式典とレセプションが開催されました。
授賞式では、永久選考委員の堤剛先生から、「私にとってバッハは、齋藤先生から手とり足とり教えられたことに始まり、それから自分なりに研究し続けてきたものです。私自身のバッハは酒井さんが目指している解釈やスタイルとはまた違っているかもしれませんが、“違っている”ということで、酒井さんの存在というものは私にとりまして大変励みになっています。ですので、これからもいわゆる音楽の中のcolleague(仲間)として、一緒にいろんな意味で音楽の幅を広げていきたいと思っています。……」という感動的な講評があり、
 そのあとレセプションに移って、酒井氏を幼い時から見守ってこられたご両親様、少年時代から酒井氏を支援してきた友達の母上、内藤まさこ様、名古屋のスタジオ・ルンデのオーナー、鈴木詢氏らと、たいへん意義深い歓談の時間を持つことができました。
 やはり、大成される方は、早くから人を惹きつけるオーラを発されて、応援してくださる方と出会っておられることを実感いたしました。
 そして、その方々への感謝の言葉を受賞の辞の中に忘れない謙虚なお気持ちが、この方の今日を築いたのだとも痛感いたしました。


写真(上・左から)
上・左:授賞式での酒井氏、左が堤剛先生
上・右:桐朋学園から借りた古楽器のレプリカでバッハを披露してくださった酒井氏
下・左:左から、酒井氏母上、親友のお母さまとして小さい時から酒井氏をかわいがってこられた内藤まさこ様、酒井淳氏、わたくし、選考委員で親しい友人の那須田務氏。
下・右:坐っておられる方がスタジオ・ルンデの鈴木オーナー。一番左が酒井氏のご尊父。


● チョ・ソンジン ピアノ・リサイタル
 2017年1月17日 サントリーホール
 齋藤秀雄メモリアル基金賞授賞式のあと、サントリーホールのチョ・ソンジン・リサイタルに向かいました。
 ショパン・コンクール優勝から1年3カ月。悠揚とした足取り、迷いのないピアニズムに感嘆しました。
 詳しい演奏批評は、月刊『ショパン』3月号に書きました。

  写真: 終わってすぐに、バックステージでソンジン君と。


● 小金井 宮地楽器ホール 日曜カフェ
2017年1月15日
 武蔵小金井南口を出ますと、駅前広場の正面に「小金井宮地楽器ホール」が聳えていました。(右写真)
 初めてうかがうので緊張していましたが、「駅徒歩1分」は看板に偽りなく、まさしく駅の真ん前です。
5年ほど前に、当時の市長さんの「誰にでも開かれた文化芸術の拠点」という考え方のもと、利便性のよい駅前にオープンしたホールで、なんでも2年前に、公募でホール愛称として地元の「宮地楽器」が冠されたそうです。

 そんな沿革も知らないまま伺い、当日初めて、ここが楽器店直営のホールでないことを理解いたしました。
 ところで、ホールからいただいた講演のテーマは「ピアニストはどうして、スタインウェイピアノを選ぶの?」
 なかなかに、微妙なテーマでしたが、ピアノの誕生から発達、現状についてお話し、一口にスタインウェイピアノと言っても、アメリカとハンブルクがあること、日本に入ってきているものの大半はハンブルク・スタインウェイであること、そもそもこのメーカーはドイツ出身の初代が困難を乗り越えてまずドイツで稼働し、1853年にアメリカに創業した歴史をご紹介しました。
  一方、ピアノという楽器は、構造的矛盾を内包していることをお話し、それだからこそ、メーカーはその点に配慮し、対処する構造のピアノをつくらねばならないこと、
スタインウェイの創業者とその息子たちが、創業初期からピアノのあるべき姿を念頭に置いて、その実現のために天才的努力を払ってきたからこそ、今のスタインウェイがあるのではないかという私見を述べさせていただきました。

 この冬のもっとも寒い日の、午前10時30分という、まだ空気の温まらない時刻のスタートでしたが、ご予約くださった方、当日ぶらりと参加してくださった方々30名ほどに囲まれ、温かな気分のうちにお話させていただくことができました。
 というのも、小平楽友サークルのお仲間、秋山さんと松下さんがご参加くださっているのに気づいて嬉しい驚きで一杯となり、緊張の糸がほどけたからです。秋山さん、松下さん、本当にありがとうございました。
 写真は、そのお二人、及び、わが出身校の現代心理学部で教鞭をとっていらっしゃる芳賀繁教授(わたくしの左)、ご質問くださった紳士と共に。


● 東京文化会館《響の森》vol.39 ニューイヤーコンサート2017
2017年1月3日 東京文化会館
 新春恒例、東京文化会館のニューイヤーコンサートです。
 オーケストラはここを拠点とする東京都交響楽団。
指揮台には、ブザンソンの覇者、垣内悠希マエストロを迎えました。
 前半はまず、チャイコフスキーの若き日の野心作、幻想序曲『ロメオとジュリエット』。14世紀ヴェローナの敵対するふたつの名家の確執と、その犠牲となった若き男女の悲劇的恋を濃密な音楽で描き出します。
 次いで、同じロシアの作曲家、ボロディンの遺作オペラ『イーゴリ公』よりエキゾチックな魅力に満ちた『韃靼人の踊り』。

 後半は、小山実稚恵さんをソリストとするラフマニノフのピアノ協奏曲第3番。
 小山さんの十八番だけあって、曲のテクスチュアが明確に映し出される名演でした。
 今月はほかにもチャイコフスキー、グリーグなど5種か6種のコンチェルトをお弾きになられるとか。つねにこれだけのレパートリーを蓄えていらっしゃり、瞬時にどれでも引き出すことのできる鍛錬はいったいどれほどのものでしょうか。あらためて、頭が下がりました。

 写真:終演後、同業の寺西基之氏と共に楽屋をお訪ねしました。


● あけましておめでとうございます。
2017年 元旦

 今年も、自分に書けるもの、身の丈にあったものを、誠心誠意書いていこうと思います。

 1月11日から小平の講座が始まり、1月15日には武蔵小金井の宮地楽器ホールで「日曜カフェ」に出演いたします。
 そのほか、4月末には千代田区のかがやき大学で、レクチャー・ライヴ・コンサートを予定し、5月には同大学で3回の連続講座を開きます。
 受講ご希望の方は、千代田区の広報などにご注意していただき、ぜひ、お申し込みくださいませ。

 コンサートやオペラにも、可能な限りまいりますので、どこかでお会いできますことを楽しみにいたしております。

 その節には、どうぞ、お声をおかけくださいませ。
 


● バッハ・コレギウム・ジャパン  サントリーホールのクリスマス公演2つ
2016年12月23日 ヘンデル『メサイア』
2016年12月24日 クリスマス・ガラ・コンサート
 この直前に、東京文化会館で、和波孝よし先生の深い弾き込みの賜物、珠玉の『クリスマス・バッハ』を聴き、そのままサントリーホールへ。 和波先生の公演評は『音楽の友』2月号に。
 さて、サントリーホールは、この人翌日の2日連続で、バッハ・コレギウム・ジャパンのクリスマス特別プログラム。
 初日は、敬虔というよりは喜ばしい、ヘンデルのオラトリオ『メサイア』です。
 休憩時間に、BCJのオルガニスト、鈴木優人さんがロビーがカジュアルなお洒落ジャケット姿でロビーに。そういえば、オルガン席には、大塚直哉さんがお坐りでした。
 しかも、いつも宮崎国際音楽祭でお世話になる、河野知事ご夫妻にばったりお会いして、お互いに「あー?」と感動しあいました。そこで、優人さんをご紹介して4人で記念写真。
 優人さんは、連日本番、この日だけ客席に坐って英気を養ったのち、翌日のとスペシャルプログラムで、オルガン、チェンバロ、ピアノはもとよりトランペットに台本に演出、俳優と大活躍なさいました。


● 小平楽友サークル クリスマス会
2016年12月21日 小平中央公民館
 毎年恒例のクリスマス会、今年は市民学習奨励学級としても活動したおかげで会員数も増え、楽しく賑やかにクリスマスを祝いました。
 メンバーの鈴木さんのお妹様手作りのシフォンケーキ、代表の山田さんお得意のサーモン・パテ、バナナケーキ、新井さんのお心づくしの信州の蜜リンゴなどなど、もちろん、ワインも味わいながら、和気藹々とした歓談のひと時を持つことができました。
 写真のような雰囲気です。ご馳走を写すのを忘れて、残念無念!!


 毎月、第一、第三水曜日の10:00〜12:00、小平中央公民館で開催しています。
 参加ご希望の方は、山田洋子代表 042−345−8862までお気軽に!


● 新進演奏家育成プロジェクト 新進芸術家海外研修員コンサート
2016年12月21日 東京オペラシティ リサイタルホール
 今年の仙台国際音楽コンクールのファイナリストとなったピアノの坂本彩さん、
 2007年チャイコフスキー国際コンクールで優秀な成績を収めたヴァイオリンの鈴木舞さん
お二人の海外研修成果披露コンサートです。
 鈴木舞さんの伴奏は、先ごろのフランツ・リスト国際コンクールに堂々優勝を飾った、阪田知樹くん。
 阪田君のことは前々から応援しています。

 若い3人の晴れやかな演奏に接して、清々しい気分になりました。

 写真は、坂本彩さん、阪田知樹くんとのそれぞれツーショット。


● ヤマハ銀座店3階の宮沢賢治特集コーナー
2016年12月5日
 あいにく、まだ出掛けてはおりませんが、写真を送っていただきましたので、ご紹介させていただきます。
 『賢治と上野の物語』は無料です。数に限りがございますので、ご興味のあられる方はどうぞお早めに!

左の奥『賢治と上野の物語』     萩谷由喜子著
パンフレットですが、13,000字程のボリュームがあり、単行本にしたいと考えています。昨年の生誕120年プレイヤーに執筆し、記念コンサートでお配りしたもの。少し残部がありましたので、ご希望の方に差し上げております。

真ん中『賢治の聴いたクラシック』  萩谷由喜子著 CD2枚つき 税抜き3,000円
右端 『クロイツァーの肖像』    萩谷由喜子著 税抜き2,200円


● 新国立劇場 ロッシーニ『セビリアの理髪師』
2016年12月4日 新国立劇場
 同劇場7回目となる、イタリアのオペラ・ブッファの最高峰の安定上演。
 同劇場制作のプロダクションとしても、粟國淳演出に続くヨーゼフ・E・ケッブリンガー演出の4回目。
 さすがに堂に入っていて、揺るぎのない見事な舞台でした。

 詳しい批評は『ハンナ』2017年1月号に。


● 東京交響楽団 第647回定期演奏会 ジョナサン・ノット指揮
2016年12月3日 サントリーホール
 ノット&東響と、チェロのヨハネス・モーザーが協演。
 幕開けは、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』の第1幕への前奏曲。
 それなのに、ステージにはチェロの演奏台がセットされていて、?と思っていたら、ノットとモーザー登場。
モーザーを完全にソリストとして扱って、この名曲をぐっと聴かせたあと、そのまま、次のディティーユのチェロ協奏曲『遥かなる遠い国へ』と繋げました。
 なんと心憎いプログラミング。
 トリスタンとイゾルデの魂は遥かなる遠い国へと旅立ち、そこで永遠の愛を謳歌しているようです。
 後半はシューマンのハ長調交響曲。これまた、クララへの永遠の愛の結晶。緊密な糸を張り巡らせた3曲。
 モーザーの名演、ノットとオーケストラの絶好調な関係を熱く聴かせていただきました。
 休憩時間に、飯守泰次郎先生にお会いしましたら、先生もこの『トリスタンとイゾルデ』から『遥かなる遠い国へ』へと移るアイディアを絶賛されておられました。
 写真は2階のクリスマスツリーの前で飯守先生と。


● 南紫音ヴァイオリン・リサイタル
2016年12月2日 紀尾井ホール
 プログラム解説を執筆した、南紫音さんのリサイタルに出掛けました。
 しばらくぶりに聴く紫音さん、たいへんなご成長ぶりで、創意ゆたかな「クロイツェル・ソナタ」他を聴かせてくださいました。
 ピンクのドレスがお似合いの紫音さん。

 クリスマスツリーの脇の写真は、友人の二見敬子さんと。
 二見さんのお召しになっているのは、万寿菊を絞り出した、総絞りの訪問着です。わたくしは、十日町あたりのよくある紬に塩瀬の帯。
 紀尾井ホールのクリスマスツリーは、昨年とは趣向を変え、白と金銀だけのとてもシックなもの。


● 日展 鑑賞
2016年12月1日 新国立美術館
 間接的知人の大作が出品されているというので、拝見しにまいりました。
 新国立美術館は初めてです。千代田線の乃木坂駅直結なので、千代田線のアクセスのよい方には便利です。
 きれいに整備された広大な敷地に、近代的な建物が立っています。お庭は、秋から初冬のよい雰囲気で、落ち葉が舞っていました。
 この美術館は、自前のコレクションを一切所蔵せず、すべてそのときどきの展示品をその都度運び入れる方式。つまり、貸館に徹した「国立の」美術館だそうです。
 音楽ホールの世界でいえば、自主公演の企画開催は一切実施せず、ただただ、貸しホールだけ運営するホールということになるのでしょうか。
 美術館と音楽ホールは違うかもしれませんが、ホールの場合、そこに専門スタッフがいらして、そのノウハウの粋としての主催公演を開いてくださることに大きな価値がありますから、もし、主催公演なし、貸館だけのホールというのがあったとしたら、公立、私立を問わず、とても寂しく、残念なことだと思いました。
 展示室に足を踏み入れて驚いたのは、すべて、巨大な作品ばかりであること。人物なども、人間の等身大より大きく描かれたものが大半です。まずは大きくないと、日展に通らないのかもしれません。
 たいへん立派で圧倒されますが、いったいどこに飾るのかしら? ホテルや公共施設でさえも、このサイズの絵を飾る壁面をみいだすのは難しそうです。
 それはともかく、久々の絵画鑑賞に、心身がリフレッシュされました。
 


● 広島オペラ取材と街中探訪
2016年11月27日、28日
 オペラ取材のあと、アステール・プラザから徒歩で平和記念公園へ。
黄昏時でしたが、まだ薄明るく、およそ10年ぶりにみる原爆ドームのいつに変わらぬ佇まいに、厳粛な気持ちを誘われました。
 現在の街の整然とした美しさをみるにつけても、ここで71年前にあのような人間の生命と尊厳を踏みにじる出来事があったことを、わたくしたちは忘れてはならないとの観を強くしました。
 犠牲者の声にならない声に応え、尊い御霊に報いるためにも、核兵器の根絶はいうに及ばず、原子力発電所の全廃を目指していかねばならない、との思いを新たにいたしました。


慰霊アーチから臨む原爆ドーム  アーチの前の碑文  黄昏時の原爆ドーム 元安川にあかりが映ります。


ドームに詣でたあと、もとやす橋をわたってすぐの右側に『えこ贔屓』という牡蠣料理の専門店をみつけたので、焼き牡蠣、牡蠣フライをシャルドネの白ワインとともにいただきました。
一粒がまことに巨大。柔らかくジューシーで、味わいゆたか。
広島ならではの海からの贈り物に大感謝。白ワインもすっきりとした飲み口でした。


翌日は、広島城と縮景園をたずねました。
風格のある広島城。毛利元就のお孫さん、輝元公が築城。現在のお城は、もちろん戦後の建築です。
縮景園は初めてですが、子どもの頃から親しんだ大好きな六義園にちょっと似ていたので、懐かしい気持ちになりました。
縮景園は紅葉が見ごろ。もとは藩主の別邸だったそうです。
自然石をそのまま用いたつくばいにも、紅葉が浮かんでいました。


● 外来オーケストラ・ラッシュ
2016年11月16日〜30日
 海外の名門オーケストラやアーティストの来日公演が相次ぎ、そこにオペラも重なりました。 11月下旬、そのいくつかを聴きました。
 11月16日 国際音楽祭ヤング・プラハ25周年記念 浜離宮朝日ホール
 11月17日 ファジル・サイ ピアノ・リサイタル  紀尾井ホール
 11月18日 シュターツカペレ・ドレスデン ティーレマン指揮 サントリーホール 演奏会形式というよりセミ・オペラ ワーグナー『ラインの黄金』 オーケストラ圧巻!
 11月19日 女優イザベル・カラヤン一人芝居 サントリー小ホール お顔がカラヤンにそっくりなカラヤン令嬢、ショスタコーヴィチへのオマージュを体当たり演技
 11月20日 カメラータ・ザルツブルク シェレンベルガ―指揮 岡山バッハカンタータ協会が見事なモーツァルト『レクイエム』を歌い上げました。ソリスト陣ではソプラノの秦茂子さんが出色。 すみだトリフォニーホール
 11月21日 サンフランシスコ交響楽団 マイケル・ティルソン・トーマス指揮 ソリストはユジャ・ワン ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲1番を快演。この作品はピアノとトランペットと弦楽のためのコンチェルト・グロッソですが、同響のトランペット首席マーク・イノウエの楽器の扱いのうまさ、ソリストとしての力量に感心しました。 サントリーホール
 11月22日 シュターツカペレ・ドレスデン ティーレマン指揮 ソリストとして予定されていたブロンフマン、体調が悪く来日不可となり、代わって24歳のキット・アームストロングがベートーヴェンの2番を若々しい響きで聴かせてくれました。後半はシュトラウスの『アルペン・シンフォニー』客席にバンダを配さないで、ステージと舞台裏からの音響でアルプス登山の一日を音が描き切りました。 サントリーホール
 11月23日 シュターツカペレ・ドレスデン ティーレマン指揮 ドレスデンの2日目もブロンフマンの代理はアームストロング。この日の『皇帝』はやはり手強い曲と見えて、若き才人もなかなかに苦戦。でも、急な代演ですからまずは天晴れ。後半はチャイコフスキーの幻想序曲『ロメオとジュリエット』にリストの交響詩『前奏曲』。リストがこの日の白眉。 サントリーホール
 11月24日 東京二期会オペラ公演 日生劇場 『ナクソス島のアリアドネ』 シモーネ・ヤング指揮 ツェルビネッタと並んでアリアドネもヒロイン扱いの演出。
 11月24日 パリ管弦楽団 ハーディング指揮 ブリテン『4つの海の間奏曲』、ジョシュア・ベルのソロでブラームスの協奏曲。若い頃より骨太な演奏です。後半はベルリオーズ『幻想交響曲』 東京芸術劇場
 11月25日 パリ管弦楽団 ハーディング指揮 昨夜に続いてジョシュア・ベル登場。この日はメンデルスゾーンでしたが、驚くべきことに!なんと、作り付けカデンツァが定石のこの曲を、自作カデンツァで弾きました。びっくりです。後半はマーラーの5番。 東京芸術劇場
その合間に宇都宮へ
 11月26日 第11回栃木県ピアノ・コンクール審査
翌日は広島へ
 11月27日 ひろしまオペラルネッサンス公演 プッチーニ『修道女アンジェリカ』『ジャンニ・スキッキ』 広島アステール・プラザ大ホール 同プラザ内のホテルに宿泊⇒佐藤正浩指揮、粟國淳演出です。『アンジェリカ』も女声アンサンブルに聴き応えがありましたが、歌手陣、演出など総合点で『ジャンニ・スキッキ』に軍配。
 11月28日 バイエルン放送交響楽団 ヤンソンス指揮 ギル・シャハムの弱音を徹底的に効かせたベートーヴェンの協奏曲とストラヴィンスキーの『火の鳥』組曲 1945年版 サントリーホール
 11月29日 ドイツ・カンマ―・フィル パーヴォ・ヤルヴィ指揮 やや珍しいシューマンの『ゲノフェーファ』序曲、樫本大進によるベートーヴェンの協奏曲、シューマン『ライン』交響曲。大進さん、よく歌いました。 東京文化会館
 11月30日 新国立劇場オペラパレス プッチーニ『ラ・ボエーム』千秋楽
 そのあと、浜離宮朝日ホールへまわり、黒岩悠ピアノ・リサイタル


左から2枚は、新国立劇場の『ラ・ボエーム』にて、右の2枚は広島アステール・プラザ大ホールの『修道女アンジェリカ』

♪上の着物を差し上げます。♪
 クリスマスカラーを言い訳として、派手を承知で、思いきって着てみたこの小紋は、20歳頃、全盛期のよい品ぞろえに定評のあった銀座「ますいわ屋」の展示会で一目惚れし、波に落梅柄のローズピンクの色留袖と共に両親に購入していただいたものです。
色留袖は仕立てをお願いしましたが、こちらは着尺でしたので持ち帰り、母が仕立ててくれました。雲どりの柄合わせを苦心して配置してくれましたので、前身ごろとおくみで柄がきれいにあっています。
 でも、親不孝なわたくしは、若い頃にたった1回着たきりでした。
 その後、バブル期に本業以外の海外ホテル経営や投機に手を広げた「ますいわ屋」は倒産。ブランド名を惜しんだ「さが美」グループが買収して、現在は「東京ますいわ屋」として再生していますが、中身はまったく別の呉服屋さんとなりました。今では、昔の「ますいわ屋」の品は幻となったようです。
 というわけで、この小紋は、かつてのよき時代の「ますいわ屋」を伝えるよすがであり、亡き母の丹精込めた一針、一針の生きる形見でもあります。
 新国立劇場への道すがらと、劇場内で、さすがにお目の高いご婦人からお声をかけていただきました。とはいえ、いかんせん、華やかすぎて、もうこれで着用するのも最後でしょう。
 つきましては、わたくしと背格好が同じくらいで、お着物好き、自装がおできになり、大切にお召しになってくださる方に差し上げます。
mailでご連絡くださいませ。mailアドレスはこのページの一番下にあります。


● 千代田区「かがやき大学」講座:没後400年『シェイクスピアと音楽』
2016年11月7日、14日、21日
    おかげさまで今期も70名の定員を早々と満たしていただき、熱心な受講生の皆様と共に楽しく講座を終えることができました。


レクチャー中のショット  担当の永松誠氏と、受講生の方と。
講座ではドミンゴの『オテロ』、フェリの『ロメオとジュリエット』を鑑賞しました。


● ヤマハ銀座店3階で、宮澤賢治生誕120年特集
2016年11月13日〜12月22日〜30日まで延長されました。
 賢治生誕120年の今年もあと1か月余。
 賢治特集ということで、拙著『宮澤賢治の聴いたクラシック』も展示販売されています。
 銀座にいらしたら、ぜひ、お立ち寄りください。

    こちらからぜひご覧ください。


● 藝大図書館蔵 野澤コレクションより レオニード・クロイツァ−SPレコード・コンサート
2016年10月17日
 2013年8月に亡くなられた世界的なSPレコード研究家・コレクターのクリストファ・N・野澤先生の膨大なレコード・コレクション、及び逸品の蓄音器類は、一括して東京藝術大学図書館にお嫁入りしました。
 その一部を一般公開するSPレコード・コンサートが開催され、名器ビクトローラのクレデンザによる素晴らしい再生音で、レオニード・クロイツァーのピアニズムに触れることができました。
 『24の前奏曲』が圧巻でした。
 司会進行は、藝大の大角欣也先生、解説は植田克己先生。
 最後にわたくしも、拙著『クロイツァーの肖像』を書くに至った経緯とクロイツァーが日本のピアノ界に果たした多大な貢献等について、ひとことお話させていただきました。


写真 左から
(1枚目)クロイツァーのピアノの復元に尽力された音楽学者、瀧井敬子先生、
     藝大図書館館長(当時)として野澤コレクションの受け容れに力を尽くされた大角欣也先生、
     わたくしの右は、クロイツァーの愛弟子で現在クロイツァー記念会の副会長、大堀敦子先生。
(2枚目)クロイツァー記念会事務局の徳増さん、クロイツァー記念会会長の植田克己先生と。
(3、4枚目) 藝大から徒歩10分、根津の海鮮茶屋「でんすけ」で打ち上げ


● 尾高綾子 メゾ・ソプラノ・リサイタル
2016年11月15日 王子ホール
 敬愛する尾高先生ご夫妻の至福のコンサートに行ってきました。
 尾高惇忠先生は先頃、大作、ピアノ協奏曲を完成され見事な初演も済まされましたが、そのあと今度は歌曲へと意欲が向かわれ、美しい花々のような多種多様な歌曲が生まれました。
 それらに、奥様の綾子先生が瑞々しい命を吹き込まれました。
 高田敏子、三好達治、立原道造、井上震太郎、長岡輝子(御夫妻の伯母さま)、品川はる、蔵原伸二郎、中原中也、そして葉山のご近所仲間の堀口すみれ子さんという、それぞれ、思い入れやゆかりのある詩人の方々の詩が、惇忠先生のアイディアゆたかな作曲技法によって、生き生きと飛翔しました。
 (写真)終わってから、ご夫妻を写させていただきましたら、綾子先生がお隣に坐らせてくださいました。


● 静岡音楽館 講演会
2016年11月12日
 静岡音楽館からのご依頼により、『弦楽四重奏の楽しみ方』と題した講演をさせていただいてきました。
 実は、同館にお邪魔するのは初めてでしたが、JR静岡駅北口を出れば、もうすぐ西側にあり、たいへん便利なロケーションなのに驚きました。
 独立館ではなく、郵便施設なども入った大きな建物の上層部ですが、たいへんゆったりとしたゴージャスな造りで、パイプオルガンも備わっています。
 音響的にも、響きすぎるくらいよく響くホールでした。
 愛称はAOIホール。徳川さま膝下の駿府のホールということで、葵の紋所にちなんだとか。

(右写真) AOI HALL というロゴを探したのですがなかったので、磯部正己館長にロゴ代わりになっていただき、野平一郎音楽監督夫人で音楽評論家の野平多美さんと3人で写真を撮りました。
 その右の写真は、エントランス反対側のロビー。昼ならば、背後の窓に富士山が大写しになるそうです。夜で残念!!


● 舘野泉 傘寿記念コンサートとレセプション
2016年11月10日 東京オペラシティ コンサートホール
 左手のピアニストに特化されてすでに10数年キャリアを持つ舘野先生が、傘寿を記念して、何とピアノ協奏曲4曲を一公演で弾くという、驚異的なコンサートを開かれました。
 もちろん、どれも左手だけで奏される『左手のためのピアノ協奏曲』です。
 会場には毎年恒例の假屋崎省吾さん製作のクリスマス・オブジェが……。


写真(左)は会場のクリスマスツリー。中休みに。
(中)は、終演後のレセプションでの舘野先生ご夫妻。
(右)は、舘野先生のご子息でヴァイオリニストのヤンネ舘野さんと久々にお会いしました。


● ウィーン国立歌劇場 日本公演 ワーグナー『ワルキューレ』
2016年11月6日 東京文化会館
 つい先ごろ、10月18日に新国立劇場で拝見したのはゲッツ・フリードレヒの遺作プロダクション、飯守泰次郎オペラ芸術監督による『ワルキューレ』でしたが、重なるときは不思議と重なるもので、ウィーン国立歌劇場が携えてきた三演目の一つが『ワルキューレ』でした。
 新国立劇場の『ワルキューレ』評は『ハンナ』1月号にすでに寄せました。
 ウィーン国立歌劇場公演についてもこれから振り返って、同誌に公演評を執筆いたします。

 どちらも考え抜かれた、芸の細かいプロダクションで、意外にアイディアに共通性があった半面、ブリュンヒルデのキャラクターが対極といってよいほど異なったことが印象的でした。
 新国立のブリュンヒルデは北欧神話に出てきそうな、巨人タイプの戦場の女神。
 対するウィーン国立のブリュンヒルデは華奢で愛らしい戦場乙女。どちらも立派な歌唱でした。


● ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 バンベルク交響楽団
2016年11月4日 オペラシティ コンサートホール
    モーツァルト:交響曲第34番 ハ長調
    ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調
 ブロムシュテットさんは前夜も当夜もすべて暗譜。
 たくさんのミュージック・アイディアを次々と繰り出され、雑音のまったくない純な音だけで幅広いダイナミクスと驚異的な表現の幅をもつて、聴きどころ満載のモーツァルトとブルックナーを聴かせてくださいました。

 (写真左) 89歳の若々しいマエストロとサントリーホールの楽屋で。
 (写真右) チェロの帯留めをつけていたところ、目ざとく気づいてくださいました。


● ヘルベルト・ブロムシュテット指揮 バンベルク交響楽団
2016年11月3日 サントリーホール
    シューベルト:交響曲第7番 ロ短調『未完成』
    ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調『田園』
 これほどまでに、柔らかく繊細な響きがオーケストラから奏出されるとは信じがたいほど、身も心も溶けてしまいそうな柔和なサウンドでした。
 『未完成』は涙が出ました。『田園』の2楽章、オーボエの日本人女性、なんと情感豊かな音色でしょう。
 アシスタント・コンミスの桑原亜紀さんのご活躍も嬉しく拝聴しました。


● 東京ニューシティ管弦楽団 熊本地震復興祈念 特別演奏会
2016年10月31日 オペラシティコンサートホール
 ニューシティ管弦楽団が、今春に勃発した熊本地震の被災地復興を祈念し、被災者を支援するための特別演奏会を開催しました。
この演奏会には、ポーランドの代表的指揮者グジェゴシュ・ノヴァックさんと、その同朋で現代屈指の名ピアニスト、クリスティアン・ツィメルマンさんが出演。
 お二人は出演料を受け取ることなく、その全額を被災地支援のために寄付なさいました。
 2011年3月11日の東日本大震災発生時に東京にいたというツィメルマンさんは、地震およびそれに続く原発事故発生を重く受け止め、世界のエネルギー政策の今後についても以来思考を巡らし続けてきたそうです。
 今春におきた熊本地震に関しても、多くの人命が失われたこと、日本の歴史的文化遺産が損なわれたことに強い衝撃を受けて、今回の支援コンサートに出演されました。
 ベルリオーズの『ローマの謝肉祭』を経て。ベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番に磨き抜かれたピアニズムを発揮。後半はメンデルスゾーンの交響曲第4番『イタリア』でした。
(写)マエストロ、ノヴァックご夫妻と共に楽屋で


● 東京フィルハーモニー交響楽団 マスカーニ『イリス(あやめ)』演奏会形式
2016年10月16日 オーチャードホール
2016年10月20日 サントリーホール
 今シーズンから首席指揮者に就任した、1987年ヴェローナ生まれの新鋭アンドレア・バッティストーニの肝いりで、マスカーニのオペラ『イリス』が演奏会形式により東京で2公演、上演されました。
 『イリス』とは、わたくしたち日本人にも馴染の深い初夏の湿地に咲く美しい花「あやめ」の意。
 1898年11月22日にローマで初演されたこのオペラは、その8年前の『カヴァレリア・ルスティカーナ』で一躍寵児となったピエトロ・マスカーニのジャポニズム・オペラです。プッチーニの『蝶々夫人』が1904年ですから、それに6年も先駆けているわけです。
 この当時は、1889年、及び90年のパリ万国博覧会の影響もあってヨーロッパにジャポニズム志向が巻き起こっていた中、マスカーニがどのような音楽表現に至ったか、それを現代屈指の若手、バッティストーニがどのように受け止め、いかに表現したか興味津々で、2公演とも拝聴しました。
 物語は、美しい花々の咲き乱れる庭で盲目の父と共に平和に暮らす若い娘イリスが、女衒の悪巧みによって誘拐されて吉原に売り飛ばされ、執拗に口説く男の性愛欲求に応えることができずに呆れられ、その一方、娘を堕落した女と決めつける父親の激しい糾弾に耐え切れず命を絶ち、あの世であやめの花として再生する、といったストーリー。
 『蝶々夫人』と比べるとかなり観念的、象徴的な印象を受けましたが、バッティストーニ、東フィルの快調なテンポのきびきびとした音楽、背景に映し出されるバッティストーニ自身が選んだ浮世絵の効果が絶大で、ジャポニズムというよりは、洋の東西を超えた普遍的なエロスに刺激を受けました。
(写真) Bunkamuraオーチャードホール公演時のもの。文化村西村社長、マエストロ・バッティストーニ、右端は、中野専務。
     本来でしたら、あやめの花柄のこの訪問着は5月に着用するつもりでつくったのですが、今回はオペラに因み、季節外れの10月に思いきって身につけました。


● 東京交響楽団 定期演奏会
2016年10月15日 サントリーホール
 東京文化会館の『オネーギン』のあと、サントリーホールへ。
 楽団創設70周年記念ヨーロッパ・ツアーを目前に控えた東京交響楽団の演奏会です。
   ジョナサン・ノット音楽監督と、ますます琴瑟相和する東響。
 前半は、ドイツの実力派、イザベル・ファウストさんを迎えたベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲。繊細にして緻密な音楽づくりに息を飲みました。カデンツァは、ベートーヴェン自身がこの曲をピアノ協奏曲に編曲したときに自身で入念に書いたものを、逆にヴァイオリンに移した版です。第1楽章のカデンツァではティンバニとのやりとりに、ベートーヴェンのアイディアがきらりと光ります。第2楽章にも短いながらカデンツァがあり、第3楽章は、第1クプレのあとにカデンツァが挿入されていましたが、何と、そこに『歓喜の歌』の断片がすでに顔を出していました。この版は1807年編曲ですから、1824年初演の第九に17年も先行しているのに、この時点ですでに「フロイデシェーネルゲッテルフンケン」の旋律は成立していたのですね。
 愛称として『ピアノ協奏曲第6番』と呼ばれることもあるこのピアノ版は、ボン時代に第二の家庭のように親しんだブロイニング家の次男シュテファン・フォン・ブロイニングの新婚の妻ユリーのために編曲されたものでした。4歳年下のシュテファンは生涯の友となり、ベートーヴェン没後、遺品の中から、有名な『ハイリゲンシュタットの遺書』及び『不滅の恋人への手紙』も発見していますが、その年のうちに没したため、もうひとりの発見者アントン・シントラーがこれら貴重な遺品の考証伝播に関わることになり、自己に都合のよい歪曲などもあったために多くの混乱を招きました。シュテファンさえもう少し長く存命していたら、2世紀近くにも及ぶ『不滅の恋人』問題も早くに解明されていたでしょう。
 少し、横道にそれましたが、ベートーヴェン唯一の『ヴァイオリン協奏曲』ニ長調はそのシュテファンに献呈され、それをピアノに移した『ピアノ協奏曲』ニ長調は、シュテファンの新妻ユリーに献呈されたのです。ユリーはピアノがたいへん上手で、おそらく美しい女性だったと想像されますが、このピアノ版の献呈からまもなく、20歳の若さで神に召されています。それを思うと、このカデンツァをヴァイオリンで拝聴できたことに胸がキュンとなりました。ファウストさん、ありがとうございます。
(写真)岩谷紀子さまとご一緒にファウストさんをお訪ねし、カデンツァの出典をうかがいました。


● 小菅優さん、ベートーヴェン・ソナタ全曲演奏会 完結記念コンサート
2016年10月14日 紀尾井ホール
 ベートーヴェンの32曲のソナタはピアニストのバイブル。
 ピアノに最適の音響を持つ紀尾井ホールを会場に全曲演奏会シリーズをみごと達成された小菅優さんが、完結記念としてそのハイライト演奏会を開催されました。
 第1番ヘ短調で幕を開け、第24番嬰ヘ長調『テレーゼ』、第17番ニ短調『テンペスト』を前半に、後半には第20番ハ長調『ワルトシュタイン』、そしてソナタ創作人生を締めくくる第32番ハ短調という珠玉のプログラム。前人未到のピアノ・ソナタの高い峰々は、「ド」で始まり「ド」で結ばれるという、一夜の星座の循環のごとき宇宙をなします。それを、決して濁らない美しい音で、わたくしたちに照らし出してくださった小菅優さん。得難いピアニストでいらっしゃいます。


(写真左から)
小菅優さんと楽屋で。
ベートーヴェンの余韻を耳に残しつつ、四ツ谷駅至近のジャズの老舗『いーぐる』で白ワインをいただきました。
『いーぐる』のオーナーで、ジャズ評論界の大御所、後藤さんと。
急激に秋らしくなりましたので、オータムカラーの紬を着ました。帯は秋の花、撫子を織り出した名古屋帯。帯留めは母の箪笥から発見したハート型の翡翠です。


● マリインスキー歌劇場日本公演 
東京文化会館大ホール
2016年10月12日 『ドン・カルロ』
2016年10月15日 『エフゲニー・オネーギン』
 シラーの劇詩によるヴェルディの重量級オペラ『ドン・カルロ』と、プーシキンの原作をもととするチャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』を携えて、ゲルギエフとマリインスキー歌劇場が日本公演を繰り広げました。
 『ドン・カルロ』は映像を駆使して登場人物の心理を映し出すというなかなかに凝ったプロダクション。『オネーギン』もそうなのかと思って拝見しましたら、こちらはグレーミン公爵家の舞踏会の窓外に、ネヴァ河の流れをゆるやかに映す場面にきわめて印象的に使われていました。調度品から衣裳の色合いがこれまた絵のような美しさ。
 『ドン・カルロ』のロドリーゴと『オネーギン』のタイトルロールが同じアレクセイ・マルコフさん。逞しさの際立つ立派なバリトンなので、前者のキャラクターのほうが似合っています。『ドン・カルロ』の宗教裁判長と『オネーギン』のグレーミン公爵が同じミハイル・ぺトレンコさん。両役とも、過不足なく演じ、歌われました。
 やはりお家芸の『オネーギン』は圧巻で、しかも舞台美術とこまかな演出に配慮が行き届き、歌い手勢も母語の人が多いためか歌唱も演技も総じて伸びやかでした。タチアーナのマリア・バヤンキナさん、第1幕の純情娘も第3幕の高貴な公爵夫人もどちらもよく雰囲気を出しておられました。レンスキーを演じた若手のアフメドフさん、かなりの抜擢だったと思いますが、あの名アリアで今一つ声が伸びなかったのがお気の毒でした。次回はもっとよいに違いありません。
(写真左) 12日の『ドン・カルロ』
(写真右) 15日の『エフゲニー・オネーギン』


● 横浜みなとみらいホール 試聴ラウンジ〈第2回〉
  第35回 横浜市招待国際ピアノ演奏会をより楽しむために

  2016年10月9日(日)午後1時30分から3時
 11月5日と6日に開催される「第35回 横浜市招待国際ピアノ演奏会」のプレ・レクチャーをいたしました。
 この演奏会は、メジャー国際コンクールに入賞歴のある35歳以下のピアニストの中から選りすぐりの逸材を招いて、ソロとコンチェルトの両ステージを披露してもらうという企画です。
 今回の招待ピアニストは次の4名です。
      エフゲニ・ボジャノフ    1984年ブルガリア生まれ   32歳
      バラージュ・デメニー    1989年ハンガリー生まれ   27歳
      小林海都          1995年横浜市生まれ     21歳
      ゲオルギー・チャイゼ    1988年ロシア生まれ     28歳
 わたくし自身が、これまでにその生演奏に接したことのあるのは、エフゲニ・ボジャノフ、小林海都の二人でしたので、この二人についてお話したあと、彼らの演奏曲目の中から、ラヴェルのト長調協奏曲と、チャイコフスキーの協奏曲第1番を予習し、
 シューベルトの即興曲op.142-3『ロザムンデの変奏曲』の名盤聴き比べをいたしました。
 ラヴェルの協奏曲は、この曲の被献呈者で初演者である、フランス楽壇の女王、マルグリット・ロンの1952年録音で聴き、チャイコフスキーはマルタ・アルゲリッチの1970年録音で聴きました。

 シューベルトの即興曲については、次の二種録音を聴き比べいたしました。
● 内田光子盤   1996年9月 ウィーンのムジークフェラインザールで収録
● 小山実稚恵盤  2015年1月 軽井沢の大賀ホールで収録
小山実稚恵盤のライナーノートは拙文です。
どちらも名演ですが、同じ曲でも、ピアニストによってこれほど表現が異なることに、みなさま驚かれたごようすでした。

(写真左)担当の、鍛さん、小野寺さんとともに。
(写真右)港をバックに受講者の方々と写した写真は、ちょっと逆光が残念です。


2016の上記以前の話題は、話題2016年に移転しました。

2015の話題は、話題2015年に移転しました。
 
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