ギーゼキング多様体 と レンズ空間
ギーゼキング多様体(Gieseking Manifold)は、正四面体の各面を右図のように貼り合わせることで得られる開3次元多様体です。
この多様体は、向き付け不可能な双曲3次元多様体です。
まず、右図(上)のように、正四面体の頂点A、B、C、D(図の青丸)を取り除いた立体を考えます。
つぎに、面ABCと面DBA、面ACDと面DCBをそれぞれ貼り合せますが、このとき、各頂点は記号順の通りに貼り合わせます。
すなわち、面ABCと面DBAの貼り合わせでは、AとD、BとB、CとAが重なるようにし、面ACDと面DCBの貼り合わせでは、AとD、CとC、
DとBが重なるようにします。なお、右図(中央)は、面ABCと面DBAを貼り合わせた状態と、面ACDと面DCBを貼り合せた状態を別々に
描いたもので、貼り合わせの途中を表すイメージ図です。
結果として、貼り合わせが完了すると、取り除かれた頂点1個(A=B=C=D)を境界にもつ3次元開多様体となり、ギーゼキング多様体
が完成します。そのイメージ図を、右図(下)に示します。
参考資料: ・Wikipedia 『ギーゼキング多様体』
前述のように、ギーゼキング多様体は向き付け不可能な多様体ですが、この向き付け不可能であることは、以下のようにして
確かめられます。
まず、下図(左)のように、ギーゼキング多様体の中に、ある正四面体abcdを配置します。なお、わかり易くするため、ここでは、
ギーゼキング多様体は正四面体ABCDの形で表しています。
下図(左)では、面dbaを面DBAに平行になるように正四面体abcdを配置し、その平行状態を維持しながら、正四面体abcdを、
面DBAから→方向へ押し出します。このとき、面dbaは、面DBAに対して平行のまま、面DBAを通過します。また、頂点cは最後に
面DBAを通過します。
すると、前述のように、ギーゼキング多様体では面DBAと面ABCが貼りあわされているので、下図(中央)のように、正四面体abcdは、
面ABCに→方向から入って来ます。このとき、面dbaは、面ABCに対して平行の状態を維持しながら、面ABCを通過します。また、
頂点cは最後に面ABCを通過します。
次に、下図(右)のように、面dbaが面DBAと平行になるように正四面体abcdを回転します。すると、この正四面体abcdは、
下図(左)にあった元の正四面体abcdの鏡像対称体となっていることがわかります。
すなわち、ギーゼキング多様体の中では、元の立体とその鏡像対称体は区別できないのです。したがって、ギーゼキング多様体は
向き付け不可能な多様体であることがわかります。
ところで、前述の正四面体の貼り合わせにおいて、ギーゼキング多様体の場合とは異なる貼り合わせ方をすると、
3次元球面が得られます。具体的に言うと、冒頭の図に示した正四面体ABCDにおいて、各頂点は
取り除かず、面ABCと面DBC、面CADと面BADをそれぞれ貼り合せる(各頂点は記号順の通りに貼り合わる)と、3次元球面となります。
なお、3次元球面は向き付け可能な3次元閉多様体ですが、この向き付け可能であることは、ギーゼキング多様体の場合における
上図と同様の図を用いて、正四面体abcdを移動させることにより確かめることができます。
また、冒頭の図に示した正四面体ABCDにおいて、各頂点は取り除かず、面ABCと面BCD、面CDAと面DABをそれぞれ貼り合せる(各頂点は
記号順の通りに貼り合わる)と、レンズ空間の一種で、L(4,1) と言う記号で表される多様体と
なります。なお、L(4,1) の基本群は位数4の巡回群となります。なぜなら、一般に、L(p,q) (※ p、q は整数)の基本群は、p≠0 のとき、
位数 p の巡回群となるからです。
正四面体のこの様な貼り合わせにより L(4,1) が得られることは、次のようにして確かめられます。まず、右図のように、正四面体を
変形して球体にします。ただし、このとき、正四面体の各面は、4つの頂点 A、B、C、D が球の赤道(球の中心を通る平面と球面の
交線)上に来るようにします。すると、前述の貼り合わせは、赤道より上の半球上の面ABC、面CDAをそれぞれ π/2 回転して、赤道
より下の半球上の面BCD、面DABにそれぞれ貼り合わせることに相当します。すなわち、p=4、q=1 のとき、2qπ/p=π/2 となるから、
この貼り合わせにより生じた3次元閉多様体はレンズ空間 L(4,1) であるとわかります(→ レンズ
空間についての記述と図 参照)。
なお、右図から容易にわかるように、回転角を変えることにより、別のレンズ空間も得られます。すなわち、赤道より上の半球上の
面ABC、面CDAをそれぞれ 3π/2 回転して、赤道より下の半球上の面DAB、面BCDにそれぞれ貼り合わせると、
p=4、q=3 → 2qπ/p=3π/2 であるから、レンズ空間 L(4,3) となります。
ただし、上記の L(4,1) と L(4,3) は、p=4 、q=1 、q'=3 、k=1 → qq'=3=4−1=kp−1 であるから、位相同形となります
(→ レンズ空間についての記述と図 参照)。
また、このレンズ空間 L(4,1)(=L(4,3))は向き付け可能な3次元閉多様体ですが、向き付け可能であることは、前述の様に
小さい正四面体を移動させて確かめることができます。さらに、一般に、レンズ空間 L(p,q) (※ p、q は整数)は、向き付け可能な
多様体となります。
ところで、レンズ空間は、立方体(正六面体)の各面を次のようにして貼り合わせることでも得られます。
はじめに、右図のような立方体ABCDEFGHを考えます。
すると、面ABCDと面HCDE、面ADEFと面HEFG、面AFGBと面HGBCをそれぞれ貼り合せる
(各頂点は記号順の通りに貼り合わる)と、レンズ空間 L(6,1) が得られます。
立方体のこの様な貼り合わせにより L(6,1) が得られることは、正四面体のときと同様の方法で確認できます。まず、右図のように、
立方体を変形して球体にします。ただし、このとき、立方体の各面は、6つの頂点 B、C、D、E、F、G が球の赤道(球の中心を通る
平面と球面の交線)上の等間隔の点、2つの頂点 A、H が北極点と南極点(球の中心を通り赤道面に垂直な直線と球面の交点)に
来るようにします。すると、前述の貼り合わせは、赤道より上の半球上の面ABCD、面ADEF、面AFGBをそれぞれ π/3 回転して、赤道
より下の半球上の面HCDE、面HEFG、面HGBCにそれぞれ貼り合わせることに相当します。すなわち、p=6、q=1 のとき、2qπ/p=π/3 と
なるから、この貼り合わせにより生じた3次元閉多様体はレンズ空間 L(6,1) であるとわかります。
なお、右図から容易にわかるように、回転角を変えることにより、別のレンズ空間も得られます。すなわち、赤道より上の半球上の
面ABCD、面ADEF、面AFGBをそれぞれ π回転して、赤道より下の半球上の面HEFG、面HGBC、面HCDEにそれぞれ貼り合わせると、p=2、
q=1 → 2qπ/p=π であるから、レンズ空間 L(2,1) (=3次元実射影空間)となります。また、赤道より上の半球上の
面ABCD、面ADEF、面AFGBをそれぞれ 5π/3 回転して、赤道より下の半球上の面HGBC、面HCDE、面HEFGにそれぞれ貼り合わせると、
p=6、q=5 → 2qπ/p=5π/3 であるから、レンズ空間 L(6,5) となります。
ただし、上記の L(6,1) 、L(2,1) 、L(6,5) のうち、L(6,1) と L(6,5) は、p=6 、q=1 、q'=5 、k=1 → qq'=5=6−1=kp−1 で
あるから、位相同形となります。
一方、右上図の立方体ABCDEFGHにおいて、面ABCDと面AFED、面BGHCと面FGHE、面AFGBと面DEHCをそれぞれ貼り合せる(各頂点は
記号順の通りに貼り合わる)と、レンズ空間 L(0,1) (=S2XS1 多様体)が得られます。なお、L(0,1) の
基本群は、Z={ 0, ±1, ±2, ±3, ・・・ } : 整数全体の加法群 となります。
また、以上の正四面体や立方体と同様に、正八面体、正十二面体、正二十面体のそれぞれについて、各面を適宜に貼り合わせることでも、
レンズ空間は実現できます。具体的には、正八面体からは L(1,0) (=3次元球面)、L(4,1)(=L(4,3))、L(2,1) (=3次元実射影
空間)、正十二面体や正二十面体からは L(10,1)(=L(10,9))、L(10,3)(=L(10,7))、L(2,1) (=3次元実射影空間)と言った
レンズ空間がそれぞれ得られます。
なお、正十二面体において、各面の貼り合わせ方を変えると、レンズ空間とは異なる3次元多様体である
ポアンカレ球面やザイフェルトウェーバー多様体が
得られます。