幾何化予想とポアンカレ予想
サーストンの幾何化予想によれば、素分解(prime decomposition)後に得られる向き付け可能な閉3次元多様体
(oriented prime closed 3-manifold)は、下記の8種類の幾何構造(geometric structure)を有する多様体のいずれかになります。
(*)
- S3等 : 3次元球面(S3)、ポアンカレ球面、レンズ空間、等
(関連ページ) 3次元球面 と S2XS1 多様体
ポアンカレ球面・ザイフェルトウェーバー多様体 etc.
- E3 : 3次元トーラス(S1×S1×S1)、等
(関連ページ) 3次元トーラス , 四元数多様体 , etc.
- H3 : 3次元双曲多様体
(関連ページ) ポアンカレ球面・ザイフェルトウェーバー多様体 etc.
- S2×R : 球面と輪の直積(S2×S1)
(関連ページ) 3次元球面 と S2XS1 多様体
- H2×R : 双曲面と輪の直積(H2×S1)
- SL2(R) : ブリースコーンホモロジー球面
- Nil : 2次元トーラスのデーンツイストの写像トーラス
- Sol : 2次元トーラス上のアノソフ写像の写像トーラス
(*) 参考資料 : Wikipedia 『幾何化予想』
サーストンの幾何化予想は、1982年に米国の数学者サーストンが発表したもので、その後、多くの数学者により
その証明が試みられ、最終的には 2003年発表のペレルマンの論文により証明されました。このように、幾何化予想は、
正しいことが証明されているので、幾何化定理と呼んでも良いものです。
なお、1904年にフランスの数学者ポアンカレが予想した、有名なポアンカレ予想は、サーストンの幾何化予想から
派生的に導かれるので、ペレルマンの論文は、ポアンカレ予想をも証明したことになります。
なぜ、ポアンカレ予想も証明されたことになるかと言うと、素分解後の3次元多様体のうち、S3(= 1 の S3 ) と それ以外
の多様体(= 1 の S3以外 と 2 〜 8 ) では、基本群が異なるからです。S3の基本群は自明な群(群の元は単位元のみ)
ですが、S3以外の3次元多様体の基本群は自明な群ではない(群の元は単位元を含む複数の元からなる)からです。
このことを、簡単な図で説明します。右図のように、S3の内部にある任意のループは、1点に収縮することが
できます。1点に収縮できるループとは、単位元を意味します。しかし、S3以外の3次元多様体では、
1点に収縮できないループ(※)が必ず存在します。このようなループは、単位元ではない元を
表します。
(※) 例えば、S2×S1多様体には、1点に収縮できないループが必ず存在します。
→ 関連ページ
すなわち、S3とそれ以外では、基本群が異なります。
ポアンカレ予想は、『基本群が自明な群である3次元多様体はS3のみ』と言う内容だったので、以上から、
幾何化予想はポアンカレ予想を包含していることがわかります。
ところで、ペレルマンの証明により、全ての次元において成り立つことが証明された「一般化されたポアンカレ予想」とは、「位相同相(Topological 同相)
を前提とした一般化されたポアンカレ予想」のことであり、「PL同相(Piecewise Linear 同相)を前提とした一般化されたポアンカレ予想」や「微分可能同相
(Differentiable 同相)を前提とした一般化されたポアンカレ予想」ではありません。ちなみに、各前提条件での一般化されたポアンカレ予想について現在
わかっている事をまとめると、下表のようになっています(〇:予想の成立が証明済、×:予想の不成立が証明済、?:成立するか否かが不明、※:次元により
成立・不成立・不明のいずれか)。(**)
次元 |
位相同相 |
PL同相 |
微分可能同相 |
1 |
〇 |
〇 |
〇 |
2 |
〇 |
〇 |
〇 |
3 |
〇 |
〇 |
〇 |
4 |
〇 |
? |
? |
5 |
〇 |
〇 |
〇 |
6 |
〇 |
〇 |
〇 |
7 |
〇 |
〇 |
× |
8以上 |
〇 |
〇 |
※ |
(**) 参考書籍: 『宇宙が見える数学』 小笠英志 著 講談社ブルーバックス 2024年
参考資料: Wikipedia 『Generalized Poincare conjecture』
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