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「国民・国家」のリミットを越えて−新川思想の今日的意味 |
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仲里 効 |
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1.わが不良、わがオキナワ(体験的新川明論的に) 沖縄戦後世代(沖縄団塊世代)の軌跡……桃太郎と桃太郎になれなかった鬼子たち 1)それは、コロニアルな光景だった……沖縄の団塊世代は、青年期に1960年代後半から70年代初めの「世替り」期を潜った経験を持つ。その前は、「沖縄の子ら」として復帰運動の中核的存在であった沖縄教職員会の国民教育・日本人(語)化改造プロジェクトの対象になった。 2)パスポートを持って海を渡った……移動の経験/国境〈境界〉の意識/二つの戦後体験 3)復帰運動・思想を〈内破する知〉の三重奏を聴いてしまった……新川明「『非国民』の思想と論理」、川満信一「沖縄における天皇制思想」、岡本恵徳「水平軸の発想」(叢書『わが沖縄』第6巻「沖縄の思想」所収、1970年、木耳社) 4)在日沖縄人という〈主体〉と実践……アンチオイディプスとしての「反復帰」/アンチシュタートとしての沖縄(友利雅人「あまりに沖縄的な〈死〉」) |
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2.〈内破する知〉としての「反復帰・反国家」論とその波動 「私が「反復帰」という時の「復帰」とは、分断されている日本と沖縄が領土的、制度的に再統合するという外的な現象を指しているのではなく、それはいわば、沖縄人がみずからすすんで〈国家〉の方へと身をのめり込ませてゆく、内発的な思想の営為をさす。その意味で「反復帰」とは、すなわち個の位相で〈国家〉への合一化を、あくまでも拒否しつづける精神志向と言いかえて差しつかえない。さらに言葉をかえていえば、反復帰すなわち反国家であり、反国民志向である。非国民として自己を位置づけてやまないみずからの内に向けたマニフェストである」(「〈反国家の兇区〉としての沖縄」) |
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1) | 反復帰・反国家が生まれる原光景→(「『非国民』の思想と論理」と「自分史の中の『反復帰』論」から)「心の遍歴」→新川明における血と地/母親が日本人/60年安保をはさんだ4年間の大阪体験(「祖国幻想」の崩壊・(1)国場幸太郎の人民党除名の衝撃、(2)島尾敏雄との出会い、(3)沖縄を不在にした60年安保闘争)→詩「日本が見える」のなかに込められた相克する心情/大阪から列島最南端の八重山群島に配属され島々を歩き回る→「新南島風土記」の世界への下降「自らの生存を、八重山(石垣)─沖縄(那覇)─日本(東京)と連なる上昇する視線(あるいは思考)ではなく、石垣からさらなる離島へと下降する視線(あるいは思考)によって確認する作業になると思えた」(「自分史の中の『反復帰』」) |
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2) | 噴流し横溢する「反復帰=反国家」の思念……転形期の沖縄の状況への批判的・論争的な介人と沖縄近代(思想)史の根源的書き換え/射花昇と伊波普猷像の批判的転倒 「『非国民』の思想と論理」「情念の叛乱」「〈憲法幻想〉の破砕」「〈復帰〉思想の虚妄」「〈復帰〉思想の葬送」「〈狂気〉もて撃たしめよ」『差別告発』から『反逆』の持続へ」「〈反国家 〉の兇区としての沖縄」「『亡国』のすすめ」というときの、<非国民><叛乱><破砕><虚妄><葬送><狂気><反逆><兇区>などの言葉に込められた情念と思念。 |
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3) | 「反復帰・反国家」論の波動(衝撃、疑問、批難、批判)・論争の諸相 |
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(a) | 「沖縄独立論者」「反共主義者」「トロッキスト」……人民党・日本共産党系の紙誌、その歴史学者 | ||
(b) | 「借り物」論……大城立裕「吉本隆明の異族論」の借用、「土着の志」が低いなど | ||
(c) | 「仕切り」論……谷川健一「琉球弧の解放とは何か」(『現代の眼』1971年8月号) | ||
(d) | 「沖縄本島知職人の内なる差別」と「異民族支配」との〈相似形論〉……新城兵一「辺境論−沖縄の内なる差別」(『中央公論』「現地編集/特集・沖縄の思想と文化」1972年6月号) | ||
(e) | 「沖縄共同体」の上層の聖化と差意識に潜在する同質指向性……上原生男『空道の思想』とは何か」(『中央公論』「現地編集/特集・沖縄の思想と文化」1972年6月号) | ||
(f) | 「知職人の自己完結的な営為」、あるいは〈復帰裏表論〉……新崎盛暉「沖縄闘争の敗北をめぐって」(新川明と往復書簡。『市民』1972年5月、第9号)→のちの居酒屋独立「論争」へ発展する原景がある | ||
3.新川「反復帰・反国家・非国民」思想の今日的意味 −〈内破する知〉から〈越境する知〉へ |
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1) | 「復帰併合」によって反復帰・反国家の思想は失効したのか?→2−4)の検証 →差延化された「同化主義」……「真の復帰」「あるべき日本への復帰」/「沖縄振興計画」=格差是正論による統合のエコノミー →「伏流」、「潜流」という言葉に込めた精神の系譜……「差意識」「異質感」はどこへいった? →「新同化主義」批判として展開されたプロブマティーク(「沖縄サミット」、「沖縄イニシャチブ」批判など) コロニアル/ポストコロニアル的視点からの再読→「『非国民』の思想と論理」と「自分史の中の『反復帰』論」の中で語られている幻想と葛藤、転位と不動を刻んだ「心の遍歴」は被植民地型知の軌跡である。 ポストコロニアルとは、植民地主義が終わったということではなく、植民地主義的な遺産がその後の社会や関係に、より深く、より持続的に食い込んでいることを意味している。したがって、その後には「終わらない植民地主義」ということが含意されている。 |
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2) | 「反復帰・反国家」論は、ポスト復帰の時空間をどのように潜ったのか? | ||
(a) | 「反復帰・反国家」論の沖縄自立思想への架橋→「琉球共和社会憲法C私(試)案」(川満信一)、「琉球共和国憲法F私(試)案」(仲宗根勇)。いずれも『新沖縄文学』(48号、1981年)→「独立」論との違いを明らかにしつつ、「独立」論との重なりと共振……「「反復帰論」は、文化の固有性と自然との共生を求めつつ、国家に囲い込まれない生存域として世界と結ばれる社会空間を想定するが、「独立」論は、そのような境域を目指す長い道程のなかの一つの階梯として重要な位置を占めるからである」 |
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(b) | 居酒屋独立「論争」(新川明−新崎盛暉)で問われたものは? 「実践」にたいする認識の違い/沖縄の抵抗にとって「日本国憲法」の意味/1972年の〈新崎−新川往復書簡のブローバック |
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(c) | 「永遠回帰の自己決定」(比屋根薫)……生成し回帰する〈否〉の永久革命/「複数の新川明」を可能にするたったひとりの新川明 |
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3) | 沖縄−日本−東アジアをめぐる問題群と「反復帰・反国家・非国民」の思想 加熱するナショナリズム/新たな国民と国家の内面化・再編成への批判的な応答として |
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(a) | 「改憲」「創憲」「護憲」への反復帰・反国家の位置とは?→「戦後民主主義」・「反戦復帰」とネオナショナリズムの円環の切断/「憲法幻想の破砕」・「沖縄『独立』論のこと−新崎盛暉氏の論難に寄せて」→日本国家・憲法体制のリミットと外部に書き込まれる「反国家・非国民・琉球共和社会」 →「内的境界」の発動 |
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(b) | 米軍再編と自衛隊の軍化→「新防衛大綱」沖縄駐留自衛隊の混成団から旅団への昇挌、「南方重視」と「島嶼防衛」論→伊良部町議会の自衛隊誘致決議はどのような問題を孕んでいるのか。 |
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(c) | 「帝国」的な空間編制→領土・主権への欲望と国境の要塞化……〈尖閣列島・釣魚諸島〉問題/尖閣列島の灯台の国家管理、大浜革新石垣市長の尖閣列島視察、「尖閣の日」制定の動き/中国全人代の「反国家分裂法」の制定と台湾の「反併呑法」・「憲法制定」の動向 |
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(d) | 抵抗の声に内懐される「国民化」「国家主権」への欲望→8・13沖国大への米軍ヘリ墜落「事件」とその後湧き出た「沖縄の声」→「沖縄は日本(人)か?」→「内的境界」の「避難所」化 |
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「反復帰・反国家・非国民」の思想は、空間の領土化・民衆の国民化をカッコに括り、国家としての日本から、沖縄・琉球弧が離脱する自由と権利を敷設する? 「反復帰・反国家・非国民」の思想は、「国民人間主義」(national humanism)のリミットを不断に暴き、植民地主義とその遺産を解きほどく? 「新川明」とは、生成し回帰する〈否〉の強度であり、抵抗の思想である? |
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※2005年3月26日に西原町立図書館で開催された「新川 明文庫開館記念シンポジウム」のレジュメです。 |