生活を豊かにするグルメ

第53日 和倉−小木

1997年8月5日(日) 参加者:安藤・奥田・藤原

第53日行程  8時前に起床し、朝風呂を楽しむという外周旅行ではゆっくりとした朝を迎える。和倉温泉泊まりにしたのは正解だったようだ。昨夜は雨で入れなかった露天風呂にも今朝は満喫することができた。和倉温泉バスターミナルも「湯の華湯口旅館」の正面にあるので、バスの発車時刻まで部屋でくつろぐことができる。昨夜は和倉温泉駅まで出迎えてくれたので、今日も送ってもらえるかなと期待したが、さすがに素泊まり客に対してそこまでのサービスはなかった。
 9時34分に和倉温泉バスターミナルを発車する北陸鉄道バスが今日のスタート。同じ七尾市を営業区域にしているにもかかわらず、和倉温泉の路線は北陸鉄道が担当し、昨日の脇からの路線を七尾バスの担当としていることに違和感がある。地域毎に営業を任せた方が車両や運転手のやり繰りも可能となるので合理的ではなかろうか。
 和倉温泉駅からは久しぶりにレンタカー利用となる。駅前の「喫茶はいだるい」がマツダレンタカーの和倉温泉駅前営業所を兼ねていたので、喫茶店のカウンターで手続きをするが、クレジットカードの読み取り機がうまく作動しない。レンタカー代はクレジットカードで支払うつもりだったので、現金の持ち出しは今後の行程に影響するなと思っていたら、喫茶店のマスターはカード番号の凹凸に紙を当てて番号を転写するという一時代昔の方法で精算手続きを済ませた。
 予定通り10時に和倉温泉駅前を出発。最初のハンドルは私が握る。朝から曇り空だったが、レンタカーで出発した途端にポツポツと雨が降り出した。七尾湾に浮かぶ能登島を制覇するために利用したレンタカーであったが、折角なので昨日はバスでカットしてしまった崎山半島の観音崎に立ち寄ってみることにする。和倉温泉から七尾市街地までの国道160号線は渋滞しており、予想以上に時間がかかってしまうが、七尾市街地を抜けると快調。しばらくは昨日の七尾バスの逆ルートをたどり、百海から観音崎を目指す。観音島が陸続きになってできた観音崎らしき海辺の崖っぷちに到着したのは和倉温泉からちょうど1時間後の11時であった。雨が降っているので周辺を見回しただけでそそくさとレンタカーに戻る。
 行きは東海岸の道路を経由したので、帰りは半島の西海岸をたどることにしたのだが、しばらくは片側が崖の細い道が続く。それでも対向車が来るようなところではないので安心して運転をしていたのだが、突如前方に大型ダンプカーが現れた。雨天の日曜日なので土木工事も休みだろうに大型ダンプカーが何をしに来たのだろう。気をきかせて大型ダンプカーが道を譲ってくれればよさそうなものの、どっしりと構えてこちらが道を開けるまで梃でも動かないつもりらしい。悪戦苦闘しながらなんども切り返し、ようやく大型ダンプカーが通過できるスペースを確保した。レンタカーの脇をノロノロと大型ダンプカーがすり抜けていく。
「まったく危なっかしい運転だな。崖に落ちるかと思ったよ。帰ったらヤビツ峠で特訓だからな!」
後部座席の安藤クンからお叱りを受ける。ヤビツ峠は地元の神奈川県道70号秦野清川線にある海抜761メートルの峠であるが、車同士がすれ違うのもままならないほど狭い箇所が多く、対向車が来たら同じように悪戦苦闘しなければならない。
 国道160号線に戻れば何の問題もなく、七尾市街地から和倉温泉方面へは渋滞もない。七尾線と並走しながら和倉温泉まで戻り、いよいよ能登島へ渡る。能登島へは1982年4月3日に全長1,050メートルの能登島大橋が開通し、陸続きとなっている。料金所で通行料を支払おうとすると普通車1,760円との表示。持参した地図には普通車両の通行料が1,340円と表記されていたが、料金所で提示されている金額は1,760円と恐ろしく高い。55億円の建設費を償還するためにはやむを得ないのかもしれないが、これでは能登島の住民の生活が破たんしてしまう。おそらく能登島の住民には通行料の減免措置がとられているのであろうが、能登島の活性化のためには早期の無料開放が望まれよう。料金所では往復であることを確認して1,760円を支払う。領収書には石川県道路公社とあった。
 小口瀬戸を挟んで対岸に観音崎を望む小泉崎に到着すると正午になったところ。ここで安藤クンにハンドルを取り上げられ、助手席に移動してナビゲーターに徹することになる。相変わらずの雨模様なので、途中で景色がよさそうなところがあってもレンタカーから降りてまで立ち寄る気になれない。
のとじま水族館  能登島北東端の多崎鼻を経て、のとじま臨海公園には13時前に到着。雨は降り続くが、のとじま臨海公園のメインは水族館なので支障はない。1,320円という中途半端な入館料を支払って館内で雨宿りだ。ちょうど13時からのイルカ・クジラショーが始まるところだったので、すぐにイルカプールへ移動。雨宿りのつもりだったがイルカプールは屋外に設置されている。観客席には屋根があるので問題はないが、トレーナーは雨ざらしで気の毒だ。水中に棲むイルカやクジラは天候によい演技が左右されるのだろうか。フォーメーションジャンプ、ハイジャンプなど典型的な内容であったが、夏休み中の子供たちは大喜びであった。
 続いてレクチャーホールへ移動し、のとじま水族館オリジナルという「マダイの音と光の世界」を見学。音響馴致による訓練を行った2,000尾のマダイがピアノ曲に合わせて左右に群れ泳ぐ様子を光の演出と合せて鑑賞するというものだが、お世辞にもマダイの統制が十分ではなさそう。音よりも光に反応しているのではないかと思ってしまう。
 館内で印象に残ったのはトンネル水槽で、天井までもがガラス張りで魚たちの泳ぐ姿が見られるのは爽快だ。なんだか海底に潜り込んだような気分で楽しい。横浜・八景島シーパラダイスにも同じような施設があるらしいので、いずれ訪問してみたい。
 1時間少々で水族館を後にするが、依然として雨は降り続けている。藤原クンはサイクルモノレールなどのアトラクションが気になっているようだが、雨なので主だったアトラクションは中止されている。私ものとじま臨海公園が一望できるというオートモノレールには乗ってみたかったのだが、次の機会に譲ることにしよう。
 のとじま臨海公園からは藤原クンがハンドルを握る。安藤クンからダメ出しされた私よりも覚束ない運転で、聞けば免許を取得してからほとんど運転をする機会がなかったという。40分近く不安と恐怖の時間を過ごし、通という集落で「今度は俺が運転する」と奥田クンにドライバーが交代する。通はすぐ目の前が中島町長浦地区で、能登島でもっとも能登半島に近い。この区間には能登島へ渡る第二ルートとして中能登農道橋が現在建設中で、完成すれば通行料の高い能登島大橋の利用者は皆無になるのではなかろうか。
 帰りは無人の料金所のゲートを通過して能登島大橋を渡る。料金所のゲートが残っているということは、かつては能登島から和倉温泉に戻るためにも通行料を徴収されていた証拠であるが、フェリーが廃止された現在では、島へ渡るときに往復の通行料を徴収しておけば取りこぼしはなく合理的だ。能登島の住民であっても、出て行くときは無料でも、戻って来るときに往復の通行料を徴収されてしまうのだから。もっとも、中能登農道橋が開通してしまうとその都度通行料を徴収しなければならず、料金所のゲートはその日のために残しているのかもしれない。
 ガソリンスタンドが見当たらずに七尾駅の近くまで給油をするために遠征してしまうというトラブルがあったものの、無事に「喫茶はいだるい」でレンタカーを返却。レンタカー代が5,512円、ガソリン代が1,258円、能登島大橋通行料が1,760円と合計で8,530円。1人あたり2,132.5円の出費となったが、能登島は思っていたよりも大きな島だったし、レンタカーの利用は正解だったといえよう。
 和倉温泉からはのと鉄道の利用となる。かつては和倉温泉−輪島間もJR七尾線の一部であったが、七尾線が和倉温泉までの電化されたことに伴い、非電化区間の和倉温泉−輪島間の営業を1991年(平成3年)9月1日よりJR西日本からのと鉄道が引き継いだ。もっとも、和倉温泉−輪島間の線路はなおJR西日本が保有したままであり、のと鉄道は、JR西日本の線路を使用する第2種鉄道事業者として七尾−輪島間の営業を行っている。かつての北陸ワイド周遊券にはG券という能登半島旅行用のオプションを付けることができたのだが、七尾線の電化と共にG券も廃止。北陸ワイド周遊券を名乗りながら能登半島では利用できないので、別途持ち出しとなってしまうのだが、幸いにものと鉄道では7月20日から8月31日の夏休み期間中に「のと鉄道スタンプラリー」を実施。スタンプラリー参加者向けに連続する2日間有効の「スタンプラリーフリーきっぷ」を2,000円で販売しており、今回の外周旅行にぴったりだ。窓口で「スタンプラリーフリーきっぷ」を購入すると、普通の紙に簡易印刷された貧弱な切符で、容易に偽造できそうな代物だが、切符の製造コストを徹底的に節約したのであろう。肝心のスタンプラリーは指定された14駅中7駅以上のスタンプを集めると抽選券がもらえ、沿線のプレゼントが当たるらしい。
 和倉温泉を15時24分に発車する141Dはのと鉄道のコーポレートカラーであるホワイトとオレンジのツートンカラーの車両で、垢抜けたイメージがある。西岸の手前から進行方向右手には七尾北湾が広がり、レンタカーで訪問したばかりの能登島も手近に横たわっている。レンタカーやバスを駆使して外周をたどるのも趣はあるが、やはり列車での旅が落ち着く。
穴水駅  穴水で16時24分の蛸島行き339Dに乗り換え。かつては七尾線の穴水と区別するためにのと鉄道ではのと穴水を名乗っていたが、七尾線がのと鉄道に転換されるのを機に再び穴水という駅名に戻した。まずはスタンプラリーの手始めに穴水駅のスタンプを押す。由比ケ丘、総持寺、ボラ待ち櫓などの近隣の観光スポットがデザインされている。
「能登空港なんて利用者もそんなにいるわけじゃないし、税金の無駄遣いだな」
奥田クンが待合室に貼ってあった能登空港の開港を求める石川県のポスターを眺めながらつぶやく。輪島市、穴水町、能都町にまたがる木原岳周辺に空港を整備し、奥能登の活性化を図ることができると空港の存在意義をPRしている。確かに空港ができれば奥能登へのアクセスは便利になるかもしれないが、空港ができれば当然のことであり、肝心な空港の需要についてはあまり触れられていない。地方空港が赤字問題を抱えている今日において、無駄な空港建設は見送るのが賢明であろう。
 穴水で26分の待ち合わせで乗り継いだ339Dであったが、わずか1駅6分の中居で下車。穴水町の見どころ は概ねこの中居周辺に集まっている。中居は中井とも書かれ、かつてこの地には3つの井戸があり、中の井戸だけはどんなに日照りが続いても水が枯れることがなかったことから中井と呼ばれるようになったそうだ。
まずは開館時間が17時までの能登中居鋳物館へ急ぐ。早足で日詰川の河口近くにある鋳物館へ向かうと、案の定、館内は閉館の準備を始めていたが、「5時までに出ますから!」と断って、300円の入館料を支払う。館内には、鋳造された釜や鬼面、釣灯籠、梵鐘などのほか、古文書、鋳造作業の模型などが展示されている。能登では大陸から鋳物師が多く往来していたことから、古くから鋳造技術が伝えられ、平安時代には鋳物が作られていたという。その後、大正末期まで約800年間も鋳物で栄えたそうだ。中居の集落に寺院が数多く集まっているにもこの集落の反映ぶりを示している。
 約束どおり17時前に能登中居鋳物館を後にし、今度はボラ待ち櫓を見物に行く。ボラ待ち櫓とは、海上に4本の丸太を四角錐に組んだもので、漁師はその櫓の上に座って海中に仕掛けた網にボラの群れが入るのを待ち構える。ボラ待ち漁は、日本最古ともいわれる原始的な漁法は、穴水湾で盛んに行われていた伝統漁法とのことであるが、山田耕作が作曲、北原白秋が作詞した「待ちぼうけ」のフレーズが頭をよぎる。あちらはうさぎが木の根っこにぶつかるのをひたすら待っていた由。数年前までは春から夏にかけて実際に櫓に乗って待つ人の姿が見られたらしいが、最盛期に20基あった櫓も現在はこの1基しか見られない。
 中居駅に戻るとちょうど17時30分発の341Dがやって来た。天気の影響もあるのだろうが、8月だといのに周囲は既に薄暗くなっている。次の比良を出発すると車窓から海が消え七尾湾ともお別れ。やがてトンネルに入り込み、しばらく341Dは内陸部を走ったが、甲で再び海に対面できた。今度はのと鉄道の本社がある宇出津で下車。宇出津は能都町の中心であるため、乗客のほとんどがここで下車する。宇出津駅の営業時間は17時40分までとなっていたが、まだ事務室に人の気配があったので、スタンプを押させてもらえないかと声を掛ける。時間外だったが運良く遠島山公園がデザインされた宇出津駅のスタンプを押せただけではなく、隣の縄文真脇駅のスタンプまで押すことができた。縄文真脇は、無人駅なのでスタンプは宇出津駅で管理しているとのことで、宇出津駅は1駅で2駅のスタンプをGETできるラッキー駅だった。縄文真脇駅のスタンプにには縄文土器がデザインされており、駅の近くには、発掘調査によって縄文時代の前期(約6000年前)から晩期(約2300年前)まで、約4000年間も繁栄を続けたと推測される真脇遺跡があるそうだ。時間があれば立ち寄ってみたかったのだが、既に日は暮れてしまったので、今回は見送らざるを得ない。
 宇出津で下車した本来の目的はスタンプを押すためではなく、今夜の宿を手配するためである。明日は九十九湾の遊覧船に乗りたいので、宿泊をするなら宇出津か、遊覧船の発着場がある小木がベストだ。ただし、小木は九十九湾観光の拠点なので、料金が高めの宿が多いうえ、満室で泊まりはぐれる可能性が高い。小木まで行ってから宇出津へ戻るのは効率が悪いので、手前の宇出津に下車したのだ。昨夜の和倉温泉に引き続き、ラッキーボーイの藤原クンが公衆電話に向かう。しばらくすると小木の「旅館一水」を素泊まり4,000円で予約できたと戻ってきた。日本観光連盟に加盟する本格的な宿のようで、私なら「日観連」の文字を見るだけで高そうだと敬遠してしまうのだが、そんな偏見のない藤原クンの方が素直に良い宿を探してくる。
 宿泊地が小木に決定したので、後続の宇出津19時発の343Dで九十九湾小木へ移動。19時13分の九十九湾小木で下車したのは我々4名だけだった。九十九湾は能登半島を代表する観光地であるため、それなりに開けたところと想像していたのだが、駅は無人で意外に静かな場所だ。目指す「旅館一水」は、九十九湾小木駅前で、観光旅館というよりも民宿という雰囲気だったので少し安心する。旅館のすぐ裏手には九十九湾が広がり、ロケーション的には抜群だ。小木港で水揚げされたカニやサザエを使った料理が旅館の売りだったので、素泊まりでは申し訳ないようで、機会があれば今度は食事付きで宿泊してみたいと思う。

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