士業を目指す豆memo

第30日 函館−室蘭

1995年8月10日(木) 参加者:安藤

第30日行程  午前6時半に民宿「すどう」を出発。雲行きはあやしいが、雨の上がった函館の街を歩いて函館駅を目指す。もっとも、今日は亀田半島を迂回するので鉄道には背を向けて、函館駅前6時49分の函館バスで石田温泉を目指す。バスは五稜郭、湯の川温泉と函館市街地を走っている間は立ち客が出るほどの乗車率であったが、国道278号線に入り函館市郊外になると車内は閑散となる。右手に穏やかな海岸線が続く単調な風景が続き、安藤クンともども居眠りを始める。途中、恵山出張所で若干の時間調整停車があったものの、定刻の8時53分に終点の石田温泉に到着。実に2時間以上もバスに乗りつづけたことになり、運賃は1,490円であった。
 石田温泉は海岸と崖に挟まれた寂しい場所。停留所の近くには温泉旅館が1軒だけポツンと建っているが、夏休みだというのに静かである。宿泊客が旅立った後なのであろうか。石田温泉には海岸に面した露天風呂があると民宿のおやじさんに聞いていたので、まずは入浴を志す。道路から階段で少し降りたところにある石田温泉は脱衣場のようなものは一切なく、6畳ぐらいのスペースに小さな湯船があるだけである。湯船に手を入れてみるとぬるくて温水プールのようだ。誰もいないので気兼ねなく入浴できるが、プールのような感じでもあり、安藤クンは抵抗感を示す。
「この温泉、なんか浮いているし、誰かに見られたら恥ずかしいよ」
それでも貴重な入浴体験を逃すのも悔しいので、私ひとりでざぶりと行水を行う。水がぬるい上に8月というのに曇り空で肌寒いので震えがくる。それでもしばらくすると徐々に体が温まり、服を着ると汗が吹き出してきた。
 時刻は9時を過ぎたので、雑貨屋を兼業している渡島御崎簡易郵便局で旅行貯金を試みる。石田を名乗らないのは残念だが、この辺りの集落は御崎というらしい。雑貨屋のおばさんは私たちが車でやって来たと思っていたらしく、バスで来た旨を伝えるとたいそう驚いた。
「ここは渡島管内でもっとも東にある郵便局なので、わざわざ貯金に来る旅行者が多いのですよ」
 御崎から先、恵山岬へ通じる道路は1キロ程が途切れて行き止まりになっている。念のために雑貨屋のおばさんにも確認したのだが、崖に阻まれてとても歩けるようなところではないとのこと。1キロのために恵山岬方面に行くには20キロ近くも迂回せねばならず、なんとも不便なことであるが仕方がない。函館から私たちが乗ってきた折り返し便となる石田温泉9時35分のバスで20分かけて恵山出張所まで戻り、椴法華行きのバスに乗り換え。恵山岬の付け根を横切るが、天気がとうとう崩れだし、大粒の雨が窓ガラスに打ち付ける。
 椴法華から恵山岬までは5キロ以上もあるが、恵山岬に向かうバスはない。数年前までは恵山岬にある国民宿舎「恵山荘」までバス路線があったそうなのだが、廃止されてしまったようである。雨が降っているので5キロも歩く気は毛頭なく、タクシー利用も考えたが、雰囲気は石田温泉の様子と変わらないだろうからと先に進むことにする。
 椴法華10時59分のバスで鹿部出張所を目指す。鹿部出張所までの所要時間は1時間22分とこのバスもロングラン。地図で見ると亀田半島など函館郊外の小さな半島という印象であるが、実際は大きな半島である。バスは緩やかな海岸線をたどり、鹿部出張所に到着。本日の函館バスに対する乗車時間、投資額も相当なものである。
 鹿部出張所は鹿部町の中心部で、民家も多く、役場や学校もこの辺りに集中している。鹿部には函館本線の鹿部駅もあり、ここから鉄道利用とする予定ではあるが、駅は町外れにあり4キロ近く離れている。函館本線の時刻に接続するようにバスの便もあるのだが、次のバスは14時45分で2時間以上も時間を持て余す。地図には鹿部温泉なるものの紹介されており、入浴しても良かったのだが、駅とは反対方向にあるので見合わせる。むしろ、鹿部駅まで歩いてバス代380円の節約に努めるほうが賢明だ。幸いにも天気は回復している。
鹿部駅  まっすぐに続く国道278号線をとぼとぼ歩いているとやがて鹿部駅方面の案内板が現れ、私たちを雑木林の中へと導く。熊でも出るのではないかと危惧したが、やがて周囲は別荘地として分譲販売されていることに気付く。そういえばどことなく軽井沢に似たような雰囲気であるがロケーションが悪い。
 鹿部駅は目前に駒ケ岳がそびえる自然豊かな場所ではあるが、周囲には店や民家の類はなく、駅前で昼食という目論みは崩れる。駅の自動販売機で炭酸ジュースを買い、空腹を紛らわせながら、今宵の宿探しを行う。室蘭市役所に電話をして安い宿泊施設の紹介を乞うと「どんなところでもよいのでしたら・・・」と断ってから「室蘭港湾労働者福祉センター」を紹介してもらうことができた。素泊まりしかできないが1泊2,575円。昨夜の民宿「すどう」より消費税分だけ高いが、これまた格安宿泊施設である。
 函館本線の大沼−森間は駒ケ岳を挟んで2つのルートが存在する。ひとつは優等列車が走る山線で、幹線的な役割を果たすルート。もうひとつが鹿部駅のある海線で、渡島砂原を経由することから砂原線とも呼ばれるローカル線ルートだ。私たちが乗る長万部行きの2843Dは鹿部15時18分であるが、その前の列車は9時40分の森行き5881Dであるから実に5時間30分ぶりの列車であるからすごいダイヤだ。
 夏休みのため旅行者の姿が多い2843Dは4両編成であるにもかかわらず、立ち客がでるほどの込みよう。車両切り離しのため6分停車の森では夏休み中のためかホームに「いかめし」の売子の姿も見え、無事に目的の「いかめし」(450円)を購入することができた。私はかつてデパートの駅弁大会で「いかめし」を食べた経験があるが、実際に森駅で手にするのは初めて。いかに詰められた御飯にもよく味がしみていて美味しいが、少々ボリュームにかけるので、食事にするのであれば2箱は必要であろう。
 昨日土砂崩れがあったという山越−八雲間も昨夜のうちに復旧作業が完了したとのことで、何事もなく2843Dは走り抜ける。この区間が不通になると、北海道の鉄道運送の大動脈である函館−札幌間の列車を運休しなければならないので、JR北海道としても必死になって復旧に努めたのであろう。1987年3月16日に廃止された瀬棚線の廃線跡が未だにはっきりと残る国縫を経て、2843Dは内浦湾岸を軽快に走って夕暮れどきの17時20分、長万部に到着した。
 長万部からは17時34分の491D東室蘭行きに乗ることになる。森駅の「いかめし」が物足りなかったので、14分間の待ち合わせ時間を利用して、長万部でも駅弁購入を考えていたのであるが、あいにく売店は店じまいをしており涙を飲む。
 鹿部から乗ってきた2843Dの前1両が東室蘭行き491Dとなったので、実体は函館発東室蘭行きの長距離列車。ちなみに後1両は長万部17時54分の函館行き822Dとなるので、乗り間違えると大変なことになる。
8月とはいえ、北海道の夕暮れは本州よりも早く、内浦湾が夕陽で赤く染まる。洞爺湖温泉の玄関駅である洞爺に停車するも優等列車の発着とは対照的にホームに人影は少ない。進行方向右側に有珠山を眺め、19時05分に東室蘭到着。周囲はすっかり暗くなってしまっている。
 東室蘭は旭川からの特急列車が頻繁に発着する駅だけあってこの時間でも売店は開いていた。北海道の名物らしき「みそぱん」(150円)を購入してみる。なんとも不思議な味で、味噌の風味が香ばしいような、しつこいような感じ。
 19時36分の1438Mで室蘭へ向かう。1438Mは東室蘭まで「すずらん8号」として運行されているので普通列車扱いではあるが特急車両だ。室蘭本線の東室蘭−室蘭間はすべての特急列車が普通列車として運転することにより、地元住民の便宜を図っている。室蘭に到着すると、しばらく持ちこたえていた天気が崩れ、再び傘を開くことになる。「室蘭港湾労働者福祉センター」が駅から徒歩5分のところにあるのは幸いであった。
 「室蘭港湾労働者福祉センター」は小さな部屋に簡易ベッドが2つ並んだだけのものであったが、私たちには充分な設備である。入浴時間は21時までとのことなのでひとまず今日1日の汗と雨を流し、室蘭の街へ繰り出す。
 雨の影響か10分近く遅れてきた室蘭駅前20時26分の絵鞆岬経由地球岬団地行きの道南バスに乗る。車内には勤め帰りのサラリーマンが多く、都市部の生活路線の雰囲気だ。団地の多い絵鞆岬をぐるりと循環し、私たちが乗車した室蘭駅前を通過して地球岬団地に向かう。このバスは室蘭市内をお玉杓子状に循環運転しているため、運賃が一度270円を示したにもかかわらず、室蘭駅前に近づくに連れて運賃が安くなり、室蘭駅前を通過すると再び運賃が上がる。地球岬団地前までは270円也。
母恋駅  地球岬団地は停留所付近に小さな団地がいくつか建ち並ぶだけで、静かな住宅街の装い。ここから徒歩10分のところに地球岬があるので足を向けてみる。地球岬という地名は何度か耳にしたことはあり、「地球」とは随分スケールの大きな命名をしたものであると思ったのであるが、地名の由来はアイヌ語の「チキウ」(断崖絶壁)であるとのこと。お目当ての地球岬は展望台と駐車場のスペースがあるだけのところで、当たり前だが肝心な断崖絶壁は闇の中だ。
 地球岬団地までとぼとぼと戻ったが、終バスは既に発車後なので、最寄りの母恋駅まで歩く。母の日に記念切符が売れるという駅だが、室蘭市内であるにもかかわらず無人駅と化している。記念切符は室蘭駅で発売しているとの掲示があった。無人駅ながら待合室にはギャラリーコーナーがあり、地球岬の写真パネルの展示もあったため、暗闇の展望台から見えていただろう景色を写真で脳裏に焼き付けておく。
 母恋22時12分の1440Mは、これまた「すずらん14号」として東室蘭まで運転された列車だったので特急車両。わずか1駅4分の室蘭に到着すると、ようやく本日の行程終了である。実に11時間も活動したのは外周始まって以来である。

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