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  紫花人形  本題の章=かたばみ)


KISEI  YUKARIHANA    MUSEUM  OF  ART 


表紙
設立の趣旨 全作品目録 精選作品目録 紫花人形作品目録 編者  













 



















          

              



             

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「かたばみ」は何処にでも生えている地味な野草です。女性は喜び、輝く様に強く逞しく娘から分別ある大人になって行きます。人形は静かに座って想っている優しい姿です。誰かに呼ばれたのか今にも立ち上がろうとするように左足の裏が立っています、顔を伏せて俯(ウツム)いた表情には運命に立ち向かう女性の強い意志があります。着物も地味で落ち着いた藍色で帯も赤橙(アカダイダイ)色で調和しています。
着物の柄や着こなし、頭髪の櫛や飾り物にも女性特有の拘(コダワ)りを細密に表現しています。島田髷(未婚)から丸髪(既婚)へと変わる心情も伺えます。 相手の身形(ミナリ)を観れば人柄や思惑が解るものです。言葉遣いを聴くと尚更です。作者は穏やかで優しい声音で、身繕いをして身綺麗な着物で人に対していました。
嘗て日本人の日常生活は和服に下駄や草履でした。男性も仕事に出かける際は洋服でも、帰宅して寛((クツロ)ぐ為に着物(和服)に着替えたものでした。洋服に靴を履いては歩行する時は上半身を少し後ろに傾け足の踵(カカト)から左右に両手も振って着地します。しかし和服の下駄や草履では上半身を少し前に傾けて足の爪先から着地して歩きます。この行動から観える仕草や姿勢の違いを認識したいものです。人形の少し前に傾いている綺麗な姿は行動的な意識の表現でもあるのです。






人形は、哀れな女性の運命を表現しています。私は華やかなものより、静かなものが好きです。瞬間、瞬間を美しい考えをし、柔軟なものの押さえ方をする事が大切です。 貧しさに耐えながら日本の美しさを守りたいと、生涯を懸けています。 日本の女性は可愛らしかったのです。嘘偽りの無い無垢に、そのままの姿がこうでした。女性は、盡(ツ)くしきって、仕合わせを感じていました。愛する事です、愛されるのではありません。愛されている事を知ると必ず報われます。人に盡くす事は、人にくされる事でもあるのです。

展覧会では、多くの人々の心を受けました。それに対しても今後も精進しなければならいと、決意をしています。名も知らない人からも随分と心を戴きました。人形には清らかな魂を捧げて参りました。夜中人々が寝静まった、一時を、身も心も清めて作品を創って参りました。日本女性の魂を喚び起こす使命を帯びて生きています。この深い願いを理解してほしいのです。私の生涯は多くの人々に護られて参りました。その一つに戦時中に特攻隊の兵隊さんに一万個の人形を送りました。一つ一つの人形に私の願いを精魂込めました。人形も若者の飛行機と共に敵陣に向かったと聞いています。死んで逝った沢山の兵隊さんの魂も、きっと今の私を守ってくれているものと信じています。 人間塩と僅かの米が有れば生きていけると思います。私には何一つ欲望が無いのです。だから周りの人も、私の心に添ってほしいのです。この一瞬が生命ですから、無駄には出来ないのです。そして、私は此処に生かされているのだと思います。


女性は男性に求めてはなりません。知性でもって男性を立派に先導(あらしめる)するのです。