「かたばみ」は何処にでも生えている地味な野草です。女性は喜び、輝く様に強く逞しく娘から分別ある大人になって行きます。人形は静かに座っている優しい姿です。誰かに呼ばれたのか今にも立ち上がろうとするように左足の裏が立っています。顔を伏せて俯(ウツム)いた表情には運命に立ち向かう女性の強い意志があります。着物も地味で落ち着いた藍色で帯も赤橙(アカダイダイ)色の小袖で調和しています。
作者が十三歳の時(大正十五年)父が病で倒れました。亡き後に子煩悩であった父の霊魂が家の天井や屋根の棟に居るのではないかと、じっと眺めて探しましが何処にも居なかったそうです。
この時を境に生活環境は一変しました。家族を慕っていた人の心は一変しました。兄の周りからも多くの友人が去って行きました。つい先日まで父 同然に可愛いがってくれた父の知人に、父の面影を求めて後ろから声をかけたら、振り返った時の恐ろしい顔を観て驚きました。以前の優しい知人ではなかったのです。この出来事を熟慮して父の魂は心の中に有り、何時でも心の中で作者と話会う事が出来ると知覚したそうです。横田煕生先生は父親の魂を自分の中に見つけた事は素晴らしい悟りだと話していました。
それからは毎日が楽しくて仕方がなかったそうです。作者は幼少の時に魂が宿る心境を悟っています。人や物の本質、天性を洞察する能力が優れていました。
作者は晩年に父親の五十回忌法要をしています。祭壇に飾る昔からの仏具を縁側で磨いていたら,懐かしい往事を想い出して嬉しいと言われました。最期となる墓参りにも同行しましたが何故か寂しい気持ちでした。
展覧会では、多くの人々の心を受けました。それに対しても今後も精進しなければならないと、決意をしています。名も知らない人からも随分と心を戴きました。人形には清らかな魂を捧げて参りました。夜中人々が寝静まった、一時を、身も心も清めて作品を創って参りました。日本女性の魂を喚び起こす使命を帯びて生きています。この深い願いを理解してほしいのです。私の生涯は多くの人々に護られて参りました。その一つに戦時中に特攻隊の兵隊さんに一万個の人形を送りました。一つ一つの人形に私の願いを精魂込めました。人形も若者の飛行機と共に敵陣に向かったと聞いています。死んで逝った沢山の兵隊さんの魂も、きっと今の私を守ってくれているものと信じています。
人間塩と僅かの米が有れば生きていけると思います。私には何一つ欲望が無いのです。だから周りの人も、私の心に添ってほしいのです。この一瞬が生命ですから、無駄には出来ないのです。そして、私は此処に生かされているのだと思います。
人形は、哀れな女性の運命を表現しています。私は華やかなものより、静かなものが好きです。瞬間、瞬間を美しい考えをし、柔軟なものの押さえ方をする事が大切です。
貧しさに耐えながら日本の美しさを守りたいと、生涯を懸けています。 日本の女性は可愛らしかったのです。嘘偽りの無い無垢に、そのままの姿がこうでした。女性は、盡(ツ)くしきって、仕合わせを感じていました。愛する事です、愛されるのではありません。愛されている事を知ると必ず報われます。人に盡くす事は、人に盡くされる事でもあるのです。
女性は男性に求めてはなりません。知性でもって男性を立派に先導(あらしめる)するのです。
昔の女性は本当に貧しかったのです。唯、主人に従うだけでしたが、運命というものに皆が耐えていました。茶碗一つ、着物一枚の赤貧の生活でした。誰もが愚痴一つ云わずに暮らしていました。
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