ご挨拶
風雅で閑寂な草庵風茶室は、狭小な囲いの質素な座敷でした。 優雅な人生や麗(ウルワ)しい芸術に就いての会話を拝聴して高貴な魂の真髄に巡り逢いました。この感銘した作者の偉業が心ある人々に伝へられ天空に燦然と光り輝く瑞星(めでたい星)と成る事を信じます。
編者 敬白
竹垣に囲われ茂った樹木に覆(オオ)われた草庵が在りました。入り口の細長い開き戸を開けると、其処は低い天井から吊り下げられた自在鉤(カギ)に平釜が掛けられ、火舎火鉢(円形で獅子脚を持つ銅製の火鉢)が置かれた座敷でした。天井に設けられた小さな障子窓(天窓)から差し込む光で座敷は明るく照らされていました。障子を外すと紅葉の枝や雀が群れ遊ぶ姿がガラスを通して観へました。
夕暮れになると吊り下げた電灯が点(ツ)けられ明るくなりました。夜中には月明りも射し込み、小さな行燈に蝋燭が灯(トモ)される事も有りました。北側の壁には徳利の油絵が掛けられ、右側の奥が水屋で小さな茶臼も置かれ、棚には茶器が仕舞はれていました。東側の天井の下には魚が彫られた懸板、中仕切の棚の上は横に長い障子の格子窓(連子窓)が在り、開けると庭の樹木が手近に観へました。棚には観音菩薩像、下側は下地窓で右側に信楽焼の壺、左側に短冊箱、蘭の描かれた水指が置かれていました。南側の真ん中は細長い障子戸で左側には
地蔵菩薩像の懸仏と杜鵑(ホトトギス)が彫られた懸板、右側は障子窓で棚には花瓶、蹲る猫の彫刻、下側にパステルで描かれた風景画が在りました。西側の壁は竹で仕切られた壁面に
水墨画が掛かり、下には置き床が設けられ焼物の龍が置かれていました。座敷の何処の一角を観ても全てが素晴らしく絵の画面になるように整っていました。此の狭い座敷で火鉢を囲み膝を寄せ合って談笑した昔日を懐旧するものです。
此処を訪れた哲人は「道ハ天ニ通ジ地ハ所外ニ在リ」と即興し、人形を観て「天孫降臨」と評していました。
行燈は編者の室隅に在り。
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