魔眼 情動

07


 オレはモーリスを失神させた後、拳闘士を昏倒させ、アデライーデに面通しさせた。

「あっ、この顔! 間違いない、あたしが見たの、この人です!」

 モーリスが彼女の言っていた人物で間違いないことを確認したオレはその足で、洞窟近くの海上に船で待機していた奴らの仲間を強襲し、全員気絶させて船にあった縄で拘束した。こいつらはとりあえず後でまとめて警吏(けいり)へと突き出すことにして、アデライーデを伴い一度フレイア達が待つ救護所へと戻る。

「ドルク! アデライーデも! ずいぶんと遅かったから、何かあったのかと心配していたんだぞ」

 二人はかなり気を揉んでいた様子で、戻ったオレ達を出迎えてくれた。

「すみません、実はこういうことがあって―――」

 オレから事情を聞いたフレイアとクラウスは驚きの表情を見せながらも安堵の息を吐いた。

「そんなことがあったのか……危なかったな」
「肝が冷えたよ……アデラだけで行かせていたら、と思うとゾッとする。今日君らに会えて、本当に良かった。ドルク君が一緒にいてくれた時で……本当に」
「全員意識を失った状態で拘束して船に詰め込んでありますが、あいつらを警吏に突き出したところで証拠不十分で数日のうちに釈放されるでしょうし、捕獲を禁止されている魔物一体の為に警吏が動いてくれることはまずないと思います。同じことが繰り返されるのは避けたいので、とりあえず明日ギルドへ行って『ロッホ商会』の話をしてこようとは思いますが―――」
「うん、僕もそう思う。捕獲が禁じられているとはいっても、種の保存に対する人々の意識は希薄だからね」

 クラウスはそう相槌を打ちながら、オレの傍らに佇むアデライーデに気遣わし気な声をかけた。

「アデラ、怖い目に遭わせてしまったね。大丈夫かい?」
「うん、大丈夫。あたしはカールマーンと一緒に待っていただけだから……ドルクさんが全部、一人でやってくれて……」

 そう答えたアデライーデの足元が揺らいだ。

「アデラ!」

 クラウスが目を瞠る。倒れこみそうになるアデライーデにオレは手を伸ばして彼女を受け止め、抱き上げた。

「多分魔力を使い過ぎたせいだと思います。念の為、それに今後のことを考えて、カールマーンの洞窟への侵入者対策として彼女にいくつか新しい結界を張ってもらったんです。おそらくその影響で……大丈夫か?」

 腕の中のアデライーデに尋ねると、彼女は小さく頷いて、淡く微笑んだ。

「すみません……ありがとうございます。情けないなぁ、あれごときで。もっともっと、力をつけなきゃ。ドルクさんが言っていた通り、やっぱり今は自分を鍛える為に必要な期間なんですね……」
「それが分かっただけでも収穫だったな」

 そう言ってオレは少しだけ瞳を和らげた。本人には言わないでおくが、アデライーデの年齢であのレベルの結界をあれだけ張れれば上等だ。術士(メイジ)としての資質はかなり高いものを持っていると言えるだろう。

「君も今日は頑張った」

 ねぎらいの言葉をかけながらクラウスにアデライーデを引き渡す。すると、想いを寄せる相手に横抱きにされた彼女はほんのり頬を上気させた。

「少しここで横になって休むといい、アデラ。後で家まで送っていくから」
「あ……ありがとう、先生」

 患者用の簡易な寝床に横たえられたアデライーデは、赤くなった顔を隠すように上掛けを目元まで引き上げた。

 彼女の気持ちを知っているからかもしれないが、その様子は分かりやすくて可愛らしい。

 微笑ましく思いながらフレイアに向き直ると、オレは今回の「依頼」の可否について切り出した。

「この依頼を引き受けるかどうかなんですが」
「え? ああ、うん」

 何か考え事でもしていたのか―――ハッとした様子で肩を揺らす彼女に、オレは自分の意見を述べた。

「結果として既に関わっていますし、中途半端に放り出すのは性分じゃないので、オレは引き受けたいと思います。奴らのやり口も気に入りませんし」
「そうだな。対象のカールマーンは子供だったっていうし、ギルドの掲示板を悪用したそのやり口、わたしも気に入らない」

 顔を見合わせ互いの意思を確認したオレ達は、依頼を引き受ける旨をクラウス達に伝えた。

「ありがとう、ドルクさん、フレイアさん。嬉しいです……!」

 瞳を輝かせるアデライーデとは対照的に、クラウスはどこかすまなそう顔になった。

「ありがとう。引き受けてもらってすぐにこんなことをお願いするのは気が引けるんだけど……報酬については、その……知己割引でお願い出来るかな? フレイアにはさっきちょっと話したんだけど」

 この言い方は、オレ達のランクと雇う場合の相場をフレイアに聞いたんだな。Sランク二人を個人が雇うのはそうそうあることじゃない。普通は財力的に無理だからだ。

「構いませんよ。フレイアに任せます」

 嘆願書の依頼では報酬などないに等しいこともままあるから、オレ的にはそれで特に問題はなかった。

「先生、あたしも払うよ! 少しだけどコツコツ貯めてきた分があるから!」

 そう申し出たアデライーデにクラウスは困り顔になった。

「ああ、いやー……アデラ、気持ちだけで充分だよ。ごめん、子供の前でする話じゃなかったね」
「子供扱いしないで! あと二年もすれば、あたしだって大人の仲間入りなんだから! それに、元々はあたしが持ち込んじゃったことなんだし……手伝わせてよ、お願いだから」

 頬を膨らませたアデライーデの語気は後半は弱々しく、嘆願する口調になった。クラウスはそんな彼女に歩み寄ってお団子頭に手を乗せると、わずかに頬を緩めた。

「ごめん、子供扱いして失礼だったね。これは僕とアデラ、二人の依頼だものな。じゃあ、払える分だけで構わないから手伝ってくれるかい?」
「―――うん!」

 頷いたアデライーデは満面の笑みだった。

 そして、オレ達はさっそく今後の動きについて話し合った。

 現状で分かっていることは「ロッホ商会」の偽の依頼で雇われた傭兵達によって傷付けられたカールマーンがいるということと、そのカールマーンが自力で海へ還れるようになるまではまだ一週間ほどかかる見込みであるということ、カールマーンの傷が癒えたとして、ロッホ商会の問題を片付けない限りは同じことが繰り返され、根本的な解決にはならないということ―――。

 ロッホ商会の総責任者はシュライダーという人物らしいが、彼にそれを命じている黒幕が別にいるらしいということ―――。

「カールマーンは生息数が激減しているという理由で現在は捕獲を禁じている地方が多い。ここダハタでもそうだ。だが、そんな実情に反して需要は高く、違法な捕獲が横行しているのが現状だと言われている。公には禁じられている行為だから、流れているのは当然闇市場だね」

 そう語るクラウスに同意しながらフレイアが尋ねた。

「カールマーンの角を欲しがるのは主にどういう連中?」
「薬として欲しがるのは医療関係者や医薬品関係の卸売業者、美術品として欲しがるのは富裕層じゃないかな? もちろん一部の真っ当でない人達の間でだよ」
「クラウスがそれを欲しがるとは思ってないよ。でも、カールマーンの角には本当に言われているような解毒作用があるの?」

 苦笑気味に返すフレイアにクラウスはやや難しい顔を見せた。

「それがね……本当に万能薬のような解毒効果があるんだ。カールマーン自体は僕も今回初めて見たんだけど、昔、診療所の助手として働いていた頃、その角を削り出して作られた薬を何度か患者に用いたことがあってね。まるで療法士(ヒーラー)の解毒の呪文のように、どんな毒の成分も分解してくれるんだよ。
そもそも富裕層の間に美術品として広まったのも、元々は何かあった時の為のお守り代わりとして時の有力者達が家に置いていたことが始まりと言われているんだ」
「そうなのか……」

 皮肉な話だな。種の保存の為に特化してきたであろう角が、それによって種を絶滅の淵へ追いやりかねない、今のこの状況を招いてしまうとは……。

「モーリスという男の話によるとロッホ商会は新興の商会のようですが、クラウス先生は名前を聞いたことがありますか?」

 オレの問いにクラウスは少し考える素振りを見せた後、首を横に振った。

「いや……記憶にないな。初めて聞いたと思う」
「傭兵ギルドでは半年ほど前から、割のいい報酬を出すところだと一部の傭兵達の間でもてはやされ始めたようです。オレが遭遇した連中が使っていた小型船ですが、装備的にかなり充実感がありました。型式も新しそうでしたし、新興の商会が所有している船にしては少々過ぎているように思えました。傭兵達にそんな船を貸し出しているということは、自社にも同等以上の船があると考えられますし……遠方漁業へ出ているなら当然、大型船も所有しているんでしょうね。
名前も聞いたことがないような新興の商会が高価な船をそんなに何隻も持っているなんて、ちょっと不自然じゃありませんか? 傭兵達にも相場よりだいぶ高い報酬を出しているようですし……」
「確かに……」

 フレイアとクラウスが考え込み、アデライーデは簡易寝床からそんな大人達をじっと見守った。

「カールマーンの胴体に穿たれた銛の痕は、形状からしてそこらの漁師が使うような普通の銛で付けられたものとは思えません。もっと巨大で貫通力のある、殺傷力の高い銛です。こんな銛を持つ者はそうはいないでしょう。
それと―――もっともな疑問ですが、ロッホ商会の連中は、捕えたカールマーン達をどこで水揚げしているのか?」
「それは……ダハールの港じゃ無理だろうな。人目があり過ぎるし、夜間にそんな不自然な作業していたら誰かしらに怪しまれるだろうし。どこかの島にある、今は誰も使っていないようなさびれた港か、あるいは隠れ家的なところ……?」

 オレの呈した疑問に答えていたフレイアはある可能性に―――オレの言わんとしていることに思い至ったようだった。

「あ……もしかして、ダハールのプライベートビーチのどこか?」
「充分有り得ると思います。プライベートビーチなら他人の目を気にすることなく堂々と荷の積み下ろしが出来ますからね。プライベートビーチを持っているような富裕層の人間なら荷を売りさばく為の様々な経路(ルート)も持っているでしょうし、隠れ蓑(みの)に別会社を作って高価な船を何隻も持たせることも、そこそこ腕の立つ傭兵を雇うことも出来る上、特殊な銛を造らせて船に設置することも可能―――要件は満たしますね。あくまで可能性の話ですが、現状から考えられる現実的な線だと思います」
「調べてみる価値のある可能性ではあるね」

 クラウスが顎に手を当て興味深そうに頷いた。

「クラウス先生、ここ一年くらいの間にこの辺りで新たなプライベートビーチを設けた人物を知りませんか?」
「うーん……今ちょっと即答は出来ないけど、調べてみるよ。それから、僕なりの人脈にそれとなく当たってみる。収穫があるかどうかは分からないけど」
「お願いします」
「あたし、あたしは何をしたらいいですか? ドルクさん」

 大人達の会話を聞いていたアデライーデがそわそわと身体を起こしてオレに尋ねた。

「君はとりあえずオレ達と行動してもらおうか。カールマーンのいる洞窟には君の結界が張ってあるし、餌やりに行くにも護衛が必要だろう」
「分かりました!」
「元気が戻ってきたね、アデラ。もう少ししたら送っていこうか。夜もすっかり更けてしまって、ご両親に謝らないといけないな」

 申し訳なさそうなクラウスにアデライーデは「そんなことない」とかぶりを振った。

「あたしが先生を巻き込んじゃっているんだし、お母さん達は朝が早いからもうとっくに寝てるよ。女友達のところに行くって言ってあるし、あたしが何時に帰ってきたのかなんて分かんないから、大丈夫。あたしの方こそ、ごめんなさい。先生はお仕事もあって忙しいのに……」

 うつむく彼女を見やり、クラウスは穏やかな声をかけた。

「あのカールマーンは僕の患者だ。患者の命を救うのは、医者の役目だよ」
「先生……」
「フレイア、ドルク君、どうかアデラを宜しく頼みます。僕は仕事をしながら情報収集に努めるようにする。進捗状況と今後の方針は毎晩僕の診療所に集まって確認し合う方向でどうだろう? 診療所の地図はさっきフレイアに渡しておいたから」
「うん、それでいいよ」
「分かりました」

 とりあえずの概要と方向性が決まり、この日は解散となった。



 
*



 翌日、足の怪我がすっかり癒えたわたしはアデライーデを伴ってカールマーンのいる洞窟へ、ドルクは一人ダハールのギルドへと足を向けていた。

 例の傭兵達は昨夜のうちにドルクの通報によって全員御用となっていたけれど、ロッホ商会から別の連中が差し向けられる危険性があったから、今日からは護衛対象のカールマーンの近くで張り込みだ。捕まった傭兵達は悪事に荷担したことは間違いなかったけど、半分騙されて犯罪の片棒を担がされたようなものだったから、ドルクはこれ以上同じことが繰り返されないよう、それを報告する為にギルドへと向かったんだ。

 ダハタ地方は太陽の日差しが強く鎧を着込むには辛い環境だ。いつもなら仕事の時はフル装備するところだけど、今回はわたしもドルクも私服に剣帯を巻いただけの軽装に留めた。

 もうね、半端なく暑いもん! わたし達のような重装備者向けに冷気を纏わせる魔法のアイテムもあったりはするけれど、護衛対象者が海中生物で現場も海となると、泳ぐような事態に直面する可能性も有り得るわけで、そうなるとどう考えても鎧を着込むのは得策じゃない。

 今回に限ってはいっそ水着で帯剣、という格好の方が合理的でいいのかもしれないな。

 偶然だけど、ドルクに泳ぎを習った後で良かった……。

 わたし達はカールマーンの洞窟にほど近い場所にある、小高い丘に建てられたカフェのテラス席に腰を落ち着けることにした。ここからはカールマーンのいる洞窟を眼下に見下ろすことが出来る。

 軽食と飲み物を注文して、わたしはアデライーデととりとめのない会話を交わした。パラソルの影の下、時折吹き抜けていく海風が優しい涼を運んでくれる。

 アデライーデがいてくれれば現場にいなくても彼女の結界で侵入者に気付けるし、ここからならすぐに駆け付けることが出来る。カールマーンの餌やりは人目を忍ぶ意味もあって日が暮れてから行くことになっているから、わたし達はここでドルクと待ち合わせ、彼と合流してからカールマーンのいる洞窟へ向かうことにしていた。

 日中は変事がないように、ただただ洞窟周辺で目を光らせる。さり気なくね。

 アデライーデの足元には昨日と同じ大きな背負いカゴが置かれていて、そこからひんやりと心地良い冷気が漂っていた。

「これがキューちゃんのご飯?」

 カールマーン、と連呼するわけにもいかないので、わたしとアデライーデは示し合わせてその呼び名を使うことにしていた。名付け親はアデライーデで、なんでも「キュイイー」と鳴くらしいカールマーンの鳴き声からその名を取ったんだとか。

「そうです。市場で先生にまとめて買ってもらって、中に薬を仕込んだものをあたしが冷凍して保管してて、あげる時に解凍するようにしているんです」
「へぇー。結構な量っぽいよね。一日にどのくらい食べるの?」
「えっと……最近は元気になってきて、食欲も増してきているから……どのくらいだろう? 五キロくらいですかね?」
「食べるねぇ。餌やりはアデライーデが担当なんでしょ? 毎日運ぶの大変だったんじゃない?」

 14歳の女の子が背負って歩くにはなかなかの重さだ。歩く距離もあるだろうし、洞窟の中は足場も悪いみたいだし、毎日となると体力的に結構キツかったんじゃないかな。

「はい、先生はお仕事があるので……。大変は大変ですけど、でも、日に日に元気になってくれて嬉しいです! キューちゃん、黒くてつぶらな瞳がとっても可愛いんですよ!」
「そうか、会うのが楽しみだな」

 笑顔のアデライーデにつられてわたしも笑顔になった。

 実際、カールマーンに会うのは楽しみでもあるんだ。基本的に生き物は好きだし、まるっとしてぽてっとしたつぶらな瞳の子にこれから会えると思うと、期待で胸が高鳴った。

「昨日はドルクさんがカゴを持ってくれたから助かりました。ドルクさん、優しいですよね。それにとても強くて、素敵な人ですね」
「えっ……そう?」

 思いがけない方向へ話が滑って、わたしは少し言葉に詰まった。アデライーデの言い回しに、心臓が微妙な音を奏でる。

「まあ、強いのは間違いないけど……優しいかな?」
「はい、何ていうか……お話ししていて、きちんとものを言ってくれる人だなぁって思いました。受け答えが誠実というか……うわべだけでない感じがして、いい人だなぁって。侵入者が来た時も、あたしを怖がらせないように気を遣ってくれてるのが分かりましたし」

 紫色の瞳をキラキラと輝かせて晴れやかな表情でドルクのことを語るアデライーデに、わたしは小さなあせりを抱いた。

 もしかして―――何か、フラグ立っちゃってる?

 ドルクは見た目的にはアデライーデより少し年上、といった容姿だし、昨日の彼の彼女に対する態度は確かに珍しいくらい柔らかくて、わたしも少し驚いたんだ。

 あんなふうに接せられたら、好意を持たれてしまったとしても不思議はない。

「フレイアさん」

 そんな思いに沈んでいたわたしの顔を不意にアデライーデが覗き込んだ。その瞳に何だか妙な気合が見えて、わたしはそれに少し気圧されるようにしながら声を返した。

「な―――、何?」

 らしくもなくどもるわたしの目をじっと見つめて、アデライーデが心なしか低めの声で確認する。

「ドルクさんが来るまで―――時間、たっぷりとありますよね?」
「え? まあ……」

 それは―――あるけど? あるけど、何だか雰囲気が怖いぞ、アデライーデ?

 本能的に構えるわたしに、彼女はごくりと息を飲んでから、意外な言葉を口にした。

「じゃあ、その間、先生のお話、聞かせて下さい」
「え?」

 妙な緊張感を覚えていたわたしは、その瞬間一気に脱力した。

 ク、クラウス? ドルクじゃなくて、クラウスの話?

「フレイアさんと先生は昔からの知り合いなんですよね? 先生、普段あたしのこと子供扱いばっかりしているから、反撃ネタを握っておきたくて。何か面白い話、知りません? あったらぜひ、教えて下さい!」

 ええ? そんな真剣な顔をして何を聞くのかと思ったら、そんなこと?

「うーん、そんなに面白い話は思いつかないけど……」
「じゃあ面白くなくてもいいです! 昔の先生の話、聞かせて下さい!」

 勢い込んで詰め寄るアデライーデの表情は真剣そのもので、わたしは何だか毒気を抜かれた。

 こんな剣幕で食いついてくるほど、普段アデライーデをいじっているのか? クラウスのやつ。

「うーん、そうだなー……」

 彼女のそんな様子にひとつ苦笑をこぼして、わたしは差し障りのない範囲での若かりし頃のクラウスについて、少しだけ語って聞かせることにしたのだった。
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