魔眼・深 白夜に咲く凛花

07


 ドルクがわたしを啼(な)かせたくなる、と言っていた気持ちがよく分かった。

 好きな人が感じている仕草や表情って、こんなにたまらないものだったんだな―――もっともっとその声を聞きたくなって、その様を見ていたくなって―――自分だけがその瞬間に立ち会える興奮と喜びに、胸がさざめく。自分だけが知る特別な姿を、脳裏に焼きつけたくなる。

 ドルクのあの声も、あの表情も、自分だけが知っているものなのだと思うとひどく贅沢な気分になった。

 その気分に当てられたのか、南国の太陽がまだ高い位置にある昼下がりのベッドの上でドルクに組み敷かれているというのに、恥ずかしいからやめてほしい、という気にはならなかった。

 恥ずかしいけれど、それ以上に抱いてほしい―――そういう気持ちになっている。

 昨日までの自分からは考えられないな。昨夜は枕元のカンテラでさえ消してほしい、と彼に懇願していたのに。

 わたしの身体を丁寧に愛でながら徐々に下へと降りて行った彼の頭は、今はわたしの脚の間にあった。

 改めて認識したその状況に頭が沸騰しそうになっていた時、ふと思い出したようにドルクが顔を上げてこう尋ねてきた。

「そういえば……避妊薬の効果って、どれくらい持つんですか?」

 彼がきちんとそれを気にかけてくれていたことが嬉しくて、心臓がことんと音を立てる。

 わたしは乱れた呼吸を整えながら、避妊薬の使用書にあった文言を思い起こしつつこう答えた。

「……多分、ひと晩? そこまで具体的な説明が書いてなかったから……起きて、お風呂の前にまた飲んだけど」
「飲んですぐ、効くんですか?」
「行為に及ぶ二〜三時間前には飲むように書かれてたけど……」
「アバウトですね……」
「個人差があるってことなのか、な? あぁっ……!」

 答えている最中に体内へ指を挿し入れられて、わたしはびくんと身体を震わせた。

「三時間経っているかと言われると、微妙なところですね……」

 呟きながら、ドルクが指をくゆらせる。

「ん……んんっ……」

 感じる部分を指でかすめられて腰を揺らすわたしの様子を見やりながら、ドルクは瞳を和らげた。

「ここ……ちゃんと指で感じるようになりましたね……」
「や……」

 その通りなんだけど、そう言われると恥ずかしくてどう反応したらいいのか分からない。

 赤くなって瞳を伏せると、脚の付け根に軽くキスされた。

「あっ」
「可愛い」

 そのまま脚の付け根をなぞるように唇でたどられながら中に挿れた指を緩く動かされ、吐息が色を帯びていく。

「はっ……んんっ……」

 ドルクはわたしをすぐにイカせようとは思っていないみたいだった。

 避妊薬が効き始める時間を考慮しているんだろうか? わたしの感じる部分を時折かすめるように触れてくるだけで、強い刺激は与えてこない。

 気持ちいいけれど性急でない微熱にくるまれたようなソフトな愛撫を受けながら、わたしの身体は次第に火照りを増していった。

 脚の付け根をたどっていた煽情的な唇が徐々に内側へと寄ってきて、小さく湿った音を立て、外陰部の縁に口づける。快楽に溺れていない分、冷静な頭でそれを感じてしまい、込み上げてくる羞恥心に苛まれた。

 太陽の光が差し込む室内は明るく、天蓋が影を落とすベッドの上でもドルクからはわたしのそこがよく見えているだろう。自分でもあまり見たことのないそこを間近で彼に見られていると思うと、うっすらと汗が滲んだ。

「こんなに濡れて―――」

 呟いたドルクの吐息がそこをかすめて、腰がびくつく。中を揺蕩っていた指が引き抜かれ、弾みで愛液が滴り落ちていく感覚に息を潜めていると、両手で陰唇を左右に押し開かれて秘めた部分を剥き出しにされ、あまりの恥ずかしさに悲鳴を上げた。

「やっ! やだっ……!」

 腰を引いて逃げる間もなく熱い舌がそこを蹂躙し始めて、媚薬のような甘い痺れが広がっていく。手で押し広げられている分、快感の逃げ場がなくてダイレクトに感じてしまい、わたしは顎をのけ反らせて喘いだ。

「や、ぁっ……! ふっ……あぁっ……!」

 こっ、こんな……恥ずかし過ぎる……! なのに、下肢から力が抜けて……!

 蕩けていってしまいそうだ。心の中で盛大に恥じらいながら彼の為(な)すがままに反応してしまう自分がままならなくて、全身を朱に染めながら吐息を震わせる。

 まるで愛液を全てなめとろうとするかのように、ドルクは淫靡(いんび)な音を立ててわたしの秘所を攻め立てる。舌先で溝を丁寧になめられ、花びらを唇で包まれて、溢れる蜜口を淫らに吸われて、わたしのそこは快感に震え、高まっていく性感に切なくわなないたけれど、絶頂に達するには至らなかった。

 そこに至る為の刺激があと一歩、足りないのだ。

 晒されて震える一番敏感な神経の粒には、何故か彼は触れてこなかった。

 恥ずかしい部分を剥き出しにされて、舌先で犯される蜜口はもうとろとろに蕩けて、ひくひくと誘うように蠢いてチラつく絶頂を待ちわびているのに―――。

「んっ……んんっ……!」

 じれて、無意識のうちに快感を得ようと腰が動いてしまう。けれどドルクは巧みに舌を操りながらそんなわたしの動きをかわして、じりじりともどかしさを煽っていく。

 明らかに、わざとだ。わざと、じらされている。

 それを察して、わたしはほぞを噛んだ。

 押し広げられている分、そこを強烈に意識して、期待してしまっているのに。もうそこに触れてほしくて、たまらないのに―――。

「……腰が動いてますよ」

 揶揄するように笑みを含んだ声で指摘されて、カッと頬が熱くなった。

「やだ……! 意地悪、しないで」

 かぶりを振りながら弾む息の下から声を絞り出すけれど、素知らぬ顔で返される。

「優しくしてる、つもりですけど」
「あ……あからさまに避(よ)けているトコ、あるじゃんっ……」
「へぇ? どこですか……?」

 そんなこと、言えるわけがない。

 口をつぐむわたしを弄ぶようにドルクの舌がそよいで、触れてほしくてたまらない辺りまで来た。けれどその舌先はそこにギリギリ到達することなく、切ない感覚だけを残してまた下へとそよいでいく。悪戯にそれを繰り返され、臨界点間際で待ちぼうけを食らう肉体を嫌でも意識させられて、わたしはたまらず身をよじった。

「バ……カ、意地悪っ……!」
「ひどいな。教えて下さいよ」

 素知らぬふりを決め込みながら、ドルクの舌はまたその辺りまでそよいでは間近でするりと逃げていく。

「……! し、舌の動き……エロいっ! やだ!」

 半分癇癪を起こして涙目になると、さも当然といった口調で返された。

「この状況でここをエロく触らない男なんて、いないでしょう?」

 うぐっ! 正論で切り返されて、ぐうの音も出ない。

 押し黙らされたわたしのそこをドルクは優しく淫らに、執拗に追い詰めていく。彼の指で押し開かれたそこは繰り返される悪戯のせいで行き場のない媚熱に侵されて震え、露を結び切なく喘いでいた。開き切った花弁からはとめどなく蜜が溢れてお尻の下まで伝い落ち、わたしの理性を苛んでいく。

 あ、熱い……触られるところ、全部、火照って……。

 浅い呼吸を繰り返しながら、熱で潤んだ視界で天蓋を眺めやる。もう、どこを触られてもイッてしまいそうなくらいに自分の肉体が追い詰められているのが分かるのに、ドルクはそうさせてくれなかった。

 この男はどうして、この短期間でわたし以上にわたしの身体を理解してしまっているんだろう。今にも快楽に弾けてしまいそうな肉体を絶妙なコントロールでギリギリのまたギリギリを保ち続けられて、ずっと気持ち良くて切ない状態が続いている。かつてない極限状態まで追い込まれて、わたしの理性はいつ飛んでもおかしくないところまで追いやられていた。

 触ってほしくてたまらない部分にそっと息を吹きかけられると、それだけで甘い痺れが生まれ、ぶるぶると腰が震える。

「っ、ぅ……!」

 すぐそこに見える頂へ向かって今すぐに駆け出したいのに、そうさせてもらえない。まるで強制的にブレーキを掛けられ、踏みとどまらされているような感覚だ。

  ダ、メ、もっ……変になりそう……!

 唇をきつく結んで耐えるわたしの姿を顔を上げて見やったドルクが、羞恥心を煽るような声をかけた。

「今のあなたの顔も、相当エロいですよ」
「……!」
「それに……“ここ”も」

 再び顔を伏せた彼に火照りきったそこを攻められて、腰が反り返る。

「―――っ、ぁ……!」
「びしょびしょで、卑猥だ……」

 意地悪な舌がしつこくしつこく、わたしの理性を突き崩さんと淫猥な動きを繰り返す。

「っ、ふ、ぁあ……!」

 ダメ。ダメ。舌で攻められて、言葉で追い詰められて、頭の中が、変になる。

「教えて下さい、フレイア。どこを触ってほしいんですか?」
「……!」

 息を詰めるわたしに、ドルクがことさら優しい声音で追い打ちをかける。

「教えて。オレに、どこを触ってほしいんですか……?」

 甘えるような口調で促されて脳が茹(ゆだ)る。もどかしい刺激を散々与えられ続けて張り詰めていた精神はその瞬間、彼に屈し―――わたしの中にあった羞恥心と理性が、ぐすぐす音を立てて消え去っていった。

「―――こ、こ……」

 ぎゅっと目をつぶって触ってほしくてたまらない部分を指で差し示すと、ドルクがごくりと喉を上下させるのが分かった。そのまま彼に指を取られて、刺激を待ちわびたその場所にぐっと押し当てられる。するとそこから泣きたくなるような快感が溢れて、わたしはきつく身体を強張らせた。

「ひ、ぁっ……!」
「ここ?」
「ん、んんっ……!」

 ぐっ、ぐっ、と自分の指をそこに押し当てられて、びくびくっと身体が跳ねる。自分の指が当たっただけでも感じてしまうのに、その指の隙間から熱い舌で中途半端にねぶられて、気が狂いそうになった。

「ああっ、いやぁっ……!」

 眦(まなじり)から涙を散らして、わたしは首を振り身悶えた。

 ダメ。おかしくなる……!

 もう、解放してほしい。ちゃんと触ってほしい……!

「エロい顔……たまらないな」

 身体を起こしたドルクが息も荒くわたしに口づけてきた。そうしながらわたしの指を局部からどかして、触れられたくてたまらなかった場所に自身の親指をあてがう。

「―――!」

 それだけで達してしまうくらいに感じた。ドルクにようやく触れてもらえた―――その悦びに心震わせた瞬間、人差し指と中指を膣内に深々と挿入されて、突き抜けるような快感に大きく身体が反り返った。

「んぅ―――ッ!」

 そんなふうにされるとは思っていなかったわたしは合わせた唇の下でくぐもった声を上げ、ガクガクと小刻みに身体を打ち震わせる。そのままいい部分を狙い撃ちにした指の抽挿が始まると、そのリズムで陰核を押し潰すようにして刺激され、お預けを食らっていた反動で鳥肌が立つような快感が押し寄せた。その奔流に、支配される。

 やっと触ってもらえたそこも、深々と指を挿しこまれたあそこも、たまらなく気持ち良くて―――わたしは嬌声を上げながらよがり狂った。

「あ……ッ! あ、あぁああ―――ッ!!」

 待ちわびた刺激以上の刺激を受け、散々じらされていた身体はたちまち高みに押し上げられて熱く弾ける。内部を激しく収縮させながら絶頂を迎えたわたしは、いつまでもその波が引いて行かない初めての感覚に戸惑いを覚えて瞼を開いた。

 ―――な、に……!?

 これまでとは違う。浮遊感を伴ったような深い快感に包まれて、いつまで経っても身体が気持ちいいところから下りていかない。

 その不思議な感覚にわたしは見開いた瞳を戸惑いに震わせた。

 ―――ドルクの指が、まだ中に入っているから?

 彼の指が、中のいいところを刺激し続けているから?

 ああ―――わたし、わたし―――イキ続けている、のか―――?

 ぶるり、と腰が大きく震えたような錯覚を覚えたけれど、下半身がとろとろに蕩けて甘く痺れたようになっていて、まるでわたし自身の意思から切り離されてしまったかのように、力が入らない。

 そこから勢いよくドルクの指が引き抜かれると、制御の利かない下半身がガクガクと震えて、愛液がすごい勢いでびゅびゅっ、と噴き出してきた。

 まるで男の人の射精みたいに、何度も何度も噴き出して、換えてもらったばかりのシーツをみるみる濡らしていく。

「やあぁぁっ……!?」

 何が起こったのか分からなくて、一瞬まさか漏らしてしまったのかと思って身が竦んだ。

 ―――何、これ……!?

 覚めやらぬ快楽の余韻に肩で大きく息をつきながら、衝撃的な光景に頬を紅潮させたまま言葉を失っていると、その様子を見ていたドルクがわたしを安心させるようにこめかみに口づけてきた。

「こ、これっ……!?」

 今し方の出来事に唇をわななかせながら説明を求めるように彼を見やると、悪戯っぽく笑みを湛えた表情でこう伝えられた。

「潮、噴いちゃいましたね。じらされるの、そんなに良かったですか?」
「潮!? 噴!?」

 猥談は大人になる過程でどうしても耳に入ってくるので、潮噴きという現象があることは知っていたけれど―――こ、これがそうなのか……。

 呆然と目を瞠ったまま、これ以上ないほどに顔が赤らんでしまったわたしの頬にドルクが短いキスを繰り返す。彼の吐息は熱を帯びて、その瞳は抑えきれない情欲に濡れていた。

「もう限界です。挿れて、いいですか?」

 囁かれた声の熱さとその言葉を裏付ける余裕のない彼の様子が艶(なまめ)かしくて、思わず息を飲んでしまう。

 初めての現象に見舞われたばかりのわたしの身体はまだ熱く火照っていて、彼を受け入れる場所は甘い泥濘が滞留したような強烈な余韻でひくひくと蠢いていた。

「ちょ、ちょっと待って、まだ……」

 困惑しながら答えているうちにドルクに覆い被さられ、熱い唇を重ねられる。そのまま身体をふたつに折り畳まれるようにしてひくつく入口に熱塊が押し当てられ、猛々しい彼のモノが溢れる蜜を纏わせながら入ってくると、あまりに強すぎる快感に内部が打ち震えた。

「はっ、あああッ……!」
「熱い……とろとろに、食い締めてきますね……」

 はっ……とドルクが色づいた息を吐き出す。

「ぁっ……ま、待っ―――」

 言い終えぬうちに腰をぐっと押し進められ、蠢き絡みつく粘膜を押し広げて最奥に到達されると、息も出来ないほどの強すぎる感覚に囚われて、わたしは彼の首にしがみついた。

「ぁ……ぁあ……っ! 待っ……て、ドルクッ……!」

 ダメ。敏感になり過ぎてて、キツい。

 そう伝える前に、彼に別の解釈をされてしまった。

「あ……時間ですか? すみません、あなたがあまりにも色っぽくて我慢が利かなかった。もう大丈夫かと思ったんですが……一回、抜きましょうか」

 思わぬその言葉に潤んだ瞳を瞬かせる。そのことはわたしの頭の中からはとっくに消え失せていた。

 それに実際のところ、とっくに三時間は過ぎていると思う。

 ゆっくりと楔を引き抜かれていく感覚に、はしたなく腰が揺れる。わたしは切なく眉を寄せながら、自分の中から出ていこうとする彼を思わず引き止めていた。

「ふ、ぁっ……! そ、じゃなくて……!」

 完全に引き抜かれる直前でドルクの腰が止まる。

「……そうじゃなくて?」

 熱を孕んだ声で聞き返されて、わたしは潤んだ瞳をひとつ瞬かせた。

 どうして、とっさにそう口走ってしまったんだろう。誤解でもとりあえず抜いてもらえばよかったのに。

 そんな自問をしながら、口では今の自分の状態を正直に彼に伝えていた。

「時間は―――大丈夫だと、思う。そうじゃなくて……さっきので、身体、スゴく過敏になってて……今、挿れられると、息、出来ない。だから」

 少し、このまま待って。

 そう伝え終わらないうちにドルクが動いた。蠕動する隘路を再び最奥まで貫かれて、わたしの口から短い悲鳴が上がる。

「―――っ、ぁ……!」

 きゅうきゅうと膣内が収縮して熱い楔を締めつけ、ドルクが低い呻きを漏らすのが聞こえた。気持ちいいのか辛いのか分からない強すぎる感覚に瞼の裏がチカチカと瞬いて、上手く息が出来ず空気を求めるように唇をわななかせるわたしを、ドルクは艶めいた眼差しで見下ろしながら興奮でぶれる声でこう尋ねてきた。

「薬の問題がないなら……意地悪して、いいですか? あなたが可愛すぎて……あなたの中が、良過ぎて……意地悪したい」
「……は、どんな、意地悪っ……」

 眦に涙を滲ませ、息も絶え絶えに問い返すわたしのおでこにドルクはそっと口づけると、口角を上げ、魔狼の表情で微笑んだ。

「狂うくらい、喘がせたい」

 どうしてだろう。危険な響きを伴ったその言葉とは裏腹に、男の色気に溢れた彼の表情はわたしには蜜のように甘やかで、かつ抗いがたい魅惑的なものに感じられた。

 だから、意地悪する、と言われているにもかかわらず、それを見て何故か淡く微笑んでしまった自分がそこにいた。

 さっきので、おかしくなっちゃったのかな。わたし。

 わたしの了承を得たと解釈したドルクが動き始めた。しとどに濡れた音と共に腰を引かれ、肉を打つ音を立てて腰を突き入れられる度、強すぎて気が狂いそうな感覚に襲われる。ふたつに折り畳まれるような姿勢になっているから、腰を押し付けられる度、陰核にもその衝撃が来て、爪先から脳天まで射抜かれるような痺れが走り抜け、わたしは引き攣れるような声を上げながらドルクに縋りついた。

「こ―――、壊れ、ちゃ……!」
「壊さない。とろとろに溶かしてあげる」

 耳朶に熱い息を纏わせた低い声が触れ、ぞくぞくとした予感が背筋を這いあがる。開発されたいい部分を攻められて、悲鳴を上げながら彼の首にしがみつくと、硬い胸板に押しつけられた胸の先がこすれて、そちらにも切なくなるような感覚がもたらされて、半泣きになった。

 熱すぎて、強すぎて、きついのに―――わたしはどうして、ドルクを制止しないんだろう。

 霞みがかった頭の片隅で、そんなことをぼんやりと考える。

 鼻先をかすめる、彼の肌の匂い。

 研ぎ澄まされた鋼のように硬くて、しっとりと熱を帯びた、彼の質感。

 滾る激情を宿してわたしを見下ろす、大きなこげ茶色の双眸―――彼の興奮を物語る、荒い吐息。

 ああ、止めないのは好きだからだ―――。

 自然と、そんな答えが導き出された。

 熱すぎて、強すぎて、きつくても、彼と繋がっていることが幸せで、心地いい。だからあの時もとっさに、自分の中から出ていこうとする彼を止めた。

 好き―――好き。あなたの全てが、どうしようもないほど好きなんだ―――。

 改めてその感情を噛みしめた瞬間、新たな何かが芽吹いていくような予兆を覚えた。

 揺さぶられる度、強すぎると感じていた感覚が徐々に変化していって、甘い、甘い、劇薬のような、狂いそうな疼きへと変わっていく。

「ああっ……!」

 わたしは頬を紅潮させながら喉を震わせた。

 ダメ。ヤバい。

 どうしたらいいの。

 強烈な快楽で、潤んだ視界がぼやけていく。

 弱いところ、三ヶ所も同時に攻められて、その全部がとろとろに蕩けそうなほど、熱い。

 こすれる胸も、ドルクと繋がっているあそこも、律動と共に押し潰される陰核も、全部が気持ち良過ぎて―――おかしくなる―――全部蕩けて、なくなっちゃう。

 こんな……こんなのっ―――どう受け止めた、らっ―――!

 極限まで凝縮された快楽が膨張し、噴出する。甘く危険なうねりを帯びた奔流となってわたしを飲み込み、意識を官能で染め上げて、悦楽の海に溺れさせていく。

「っあ……あ―――ッ……!」

 絶叫しながら反り返り、わたしは上気した喉を晒した。

「あぁあッ―――ぁ、ああぁあ―――ッ!!」

 のけ反って晒されたそこを、わたしを狂わせる魔狼に柔らかく食まれて、享楽で潤んだ視界が白んでいく。

 自分を抱く力強い腕の中で蕩けるような恍惚を味わいながら、わたしは深い深い悦楽の底へと沈んでいった。
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