Last Update: 09/21/2012

筆者はこれまでに科学雑誌などに超弦理論の解説記事を書いているのですが(上の「超弦理論の解説記事」をクリックして下さい)、まだまだ敷居が高いという人のためにいくつか入門書などを紹介しておきます。


 

"The Official String Theory Web Site"(英語サイト) 
ブライアン・グリーン著:エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する
 

超ひも理論の入門書として定番中の定番。相対論・量子論の説明から始まって、超ひも理論の現状まで。著者自身が関わった「時空の相転移」発見のエピソードが興味深い。数式なし。その他の入門書はこのページの下の方を見て下さい。

ブライアン・グリーンのキーワードは、タイトルにもあるように「エレガント」です。もちろんもともとの意味は、超弦理論のエレガントさを意味しているものと思われますが、どうもそれだけではないようです。

「マッド・サイエンティスト」とか、ぐしゃぐしゃの髪のアインシュタインなど、科学者のイメージはあまりエレガントではありません。しかし講演では弦楽四重奏をバックにしたりと、あえて対比させたイメージ普及をねらっているようです。最近では講演のポスターにでかでかとポートレートが載ったりしています。とはいえ、理論物理学者がエレガントになったわけではありませんし、超弦理論の研究者が特別エレガントなわけでもありません。彼も、ある会議で一般講演の時はスーツを着て決めていましたが、専門家向けのトークの時はTシャツにジーンズでした。しかしまあ、一般向けに話すときには専門の内容以外で何かを伝えることも重要なのだ、ということを学べて参考になりました。(2001年日本語版出版)

原書:ペーパーバック版ハードカバー版はこちら

 

TV版「エレガントな宇宙」
 

 

日本語版は、NHK BS1で2005/3/15〜3/17に放映されました。(邦題:「美しき大宇宙」)何度か再放送もされているようです。

「エレガントな宇宙」のTV版がアメリカPBS (Public Broadcasting Service) で放映されました(2003)。合計3時間の番組で以下のリンクから視聴可能です。またビデオやDVDも市販されています。内容はおおざっぱに言って、

      • 1時間め:超弦理論前史。一般相対論や量子力学、統一理論など。
      • 2時間め:超弦理論誕生から「第1次超弦理論革命」までの解説。
      • 3時間め:90年代なかば以後、「第2次超弦理論革命」 以降の超弦理論。M理論やブレーン・ユニバースなどの近年のトピック。いささか詰め込みすぎの感あり。
      •  

    • TV版「エレガントな宇宙」のホームページ
    • 番組を見る
      QuickTimeまたはRealOnePlayerが必要です。英語ですが、"Captions"をオンにすると英語字幕が出ます(QuickTimeの場合)。
    • DVD版の情報(Amazon.co.jp) 日本国内向けのリージョン2用

これは番組についての個人的な意見ですが、内容は専門家から見て多少感心しない点もありますが、ビジュアルな点ではなかなか感心させられます。映画のCG技術からすれば大したことないのかもしれませんが、なにしろ超弦理論はこれまでCG化されていなかったので、そういう意味では新鮮です。

専門家のインタビューは、何でこの人が?というのもありますが、おおむね無難な人選でしょう。ただ、インタビューはかなりとぎれとぎれになっており、たくさんの人が出てくるので、インタビューの内容に深みがなく、月並みなコメントに終始しています(専門家はそう思うというだけで、一般の方がごらんになる分にはこれでいいと思いますが)。どうやって「ひも」を考えるに至ったかという、サスキンドのインタビュー(2時間め)など裏話的なところは専門家にも面白いですが。ただ、このサスキンドの話にしても、同時期に同じことを提唱した著名な日本人の貢献が番組で語られていないという問題もあります(他にもそういう例があります)。専門家のインタビューでは女性や黒人も出たりと、politically correctnessにも注意しているようですが、こういう点でももっと努力してもらいたいところです。

 

レナード・サスキンド著:宇宙のランドスケープ
 

 

サスキンド (Susskind) は超ひも理論の大御所中の大御所。主な貢献としては、超ひも理論のきっかけとなった公式の背後に「ひも」があることの発見や(南部陽一郎氏と独立に発見)、超ひも理論による「ブラックホール・エントロピー」の説明など。後者については、超ひも理論による近年一番の成果とされており、「エレガントな宇宙」でも説明されています。この仕事はストロミンジャーとヴァファによるものですが、シナリオの主な部分は実はサスキンドによるものです(彼の貢献については、たとえば私の解説をご覧下さい)。ほかにも「ブラックホール相補性」や「ホログラフィック原理」といったアイディアを提唱しており、超ひも理論研究者のなかでは、オピニオン・リーダー的存在。以前より超ひも理論の啓蒙活動にも力を入れており、サイエンティフィック・アメリカン(日経サイエンス)などに記事を書いています。

この本のキーワードは、おそらく「エレガントな宇宙」とはまっこうから対立して「反エレガント」になるものと思われます。ブライアン・グリーンのメッセージは「超ひも理論が宇宙をエレガントに説明する」といったものですが、この本はそういう立場をとらず「宇宙がエレガントに説明されるというのは幻想だ」という立場から書かれているものと思われます。同じ超ひも理論を扱っておきながら、なぜ全く逆のテーマになるかというと、最新の成果を取り入れているのが理由の一つです。

つい最近、彼の一般講演を聴く機会がありました。超ひも理論の国際会議が年に一度開催されており、"Strings 2005" はカナダのトロントでおこなわれました。そこで彼がこの本と同じタイトルの一般向け講演をしました。彼の講演を聴くのは初めてではありませんし、このテーマについての講演も何度か聴いているのですが、すごい迫力で正直いって圧倒されました。(2006年日本語版出版)

原書:ペーパーバック版

 

拙著:超ひも理論への招待
 

 

日経BP社より。詳しくはここをクリックして下さい。

 

その他の入門書
 

 

参考までに超ひも理論の他の本もあげておきます。ただしほとんどのものが未読です。

 

2006年以降に出版 

この時期になると、大御所が当たり前のように解説書を書くようになった。

 

重力とは何か/大栗博司著

宇宙を織りなすもの/ブライアン・グリーン著

現:カリフォルニア工科大学、カブリIPMU教授。(2012年出版) 同左。著者による超ひも理論をはじめとした長年にわたるさまざまな記事をまとめたもの。(2012年出版) ブライアン・グリーンの2作目。下巻はこちら。(2009年日本語版出版)

ブラックホール戦争/レナード・サスキンド著

ワープする宇宙/リサ・ランドール著

 
サスキンドの2作目。(2009年日本語版出版)おもに超ひも理論とブラックホールの関わりを扱う。 現:ハーバード大学教授。超ひも理論の入門書ではないものの、超ひも理論の解説もあり。また、著者による考えは超ひも理論のAdS/CFT双対性と密接な関わりがある。(著者は超ひも理論の非専門家、2007年日本語版出版)  

1995〜2005年に出版 

1995年の「第2次超ひも理論革命」以降、多数の解説書が出版された。物理学者によるものもたくさん登場したが、専門家による著作、特に大御所による著作となるとまだ珍しい。

 

ホーキング、未来を語る/スティーヴン・ホーキング著

現:京都大学教授。日本での超ひも理論の大御所の一人。川合氏本人は実際には執筆していない。(2005年出版)

マンガとしての絵の質に多少難があるのが残念。川合氏本人は実際には執筆していない。(2002年出版)

ホーキング自身は超ひも理論の研究者ではなく、あまり超ひも理論のことは好きではないようである。したがって超ひも理論の入門書ではないものの、超ひも理論の解説も多少あり。多数の美しいイラスト。(著者は超ひも理論の非専門家。2004年日本語版出版)

 

[図解]膜宇宙論/桜井邦朋著

 

超ひも理論と宇宙/吉川圭二著

元:神奈川大学学長。高エネルギー宇宙物理学の権威。科学解説者としても著名。(著者は超ひも理論の非専門家。2003年出版)
 

元:大阪大学、神奈川大学教授。超ひも理論創生期の頃から理論構築に関わった。(1998年出版) (1995年日本語版出版)

入門超ひも理論/広瀬立成著

 

超ひも理論とはなにか/竹内薫著

(著者は超ひも理論の非専門家。2004年出版) タイトルとは違い、超ひも理論自体の説明はあまりない。「入門超ひも理論」というよりむしろ「入門素粒子理論」。 (著者は超ひも理論の非専門家。2002年出版)
入門書としては比較的高度。現代物理学についてある程度なじみがないと、読むのは難しい。話題が超ひも理論からはなれることも多いので(関係はあるものの)、この点でも初心者がついていくのはきびしい。(著者は超ひも理論の非専門家。2004年出版)

次元の秘密/ 竹内薫著

   
(著者は超ひも理論の非専門家。2002年出版)
   

〜1994年に出版 

1984年の「第1次超ひも理論革命」を受けて解説書が出版された。多くが現在では品切れである。

 

超ひも理論入門/F.D.ピート著

ファインマン、ワインバーグといった著名な理論家とのインタビュー集。超ひも理論肯定派と否定派の見解が興味深い。(1990年日本語版出版) ブライアン・グリーン登場以前の超ひも理論の解説者として有名。このため入門書としてはよく書かれていると思われる。(1988年日本語版出版、新版1997年) 下巻はこちら。(1990年日本語版出版)

超ひも理論と「影の世界」/広瀬立成著

   
(著者は超ひも理論の非専門家。1989年出版)    

 

教科書
 

 

 

String Theory/Joe Polchinski

Superstring Theory/Green, Schwarz, Witten

定番中の定番。(2巻本。第2巻はこちら。邦訳第1巻はこちら。 邦訳第2巻はこちら。大学院生〜
「第2次超弦理論革命」以前の標準的な教科書。初心者にはPolchinskiより読み進めやすいかも。あまり読む必要のない部分もある。(7章〜11章)(2巻本。第2巻はこちら。)大学院生〜
初心者向けの教科書。多くのアドバンスト・トピックにも触れられている。学部上級生〜。2009年出版の第2版では、近年の進展についての記述が増え、とくに AdS/CFT にまるまる1章が割かれるようになった。2004年出版の第1版はこちら。

String theory and M-theory/Becker, Becker, Schwarz

2006年出版。前半は比較的やさしいPolchinskiといった感じ。後半は多くのアドバンスト・トピック。大学院生〜
2007年出版。大学院生〜
2007年出版。現象論から超弦理論まで幅広くカバーする著者だけあって、教科書もそうである。大学院生〜

 

超弦理論とM理論/ミチオ カク

Dブレーン/橋本幸士著

 
1990年に出版された本の改訂版。初心者向け。内容は多岐にわたるがいささか表層的。大学院生〜
現:理研研究員。2006年出版。式はほとんどなく、比較的高度な一般書ふう。多少物理の知識があって、一般書ではもの足りない人にお勧め。