超ひも理論への招待


Last Update: 01/05/2010

 

夏梅誠「超ひも理論への招待」日経BP社

 

著者による超ひも理論関係のページ

 


2008/10/7:
南部陽一郎先生、小林誠先生、益川敏英先生、ノーベル賞受賞おめでとうございます!
なお宣伝になりますが、南部先生のことは本書でもくわしく扱われています(10章)。

南部陽一郎先生(2007年6月15日KEKにて撮影)


紹介記事など

ご紹介いただきありがとうございました。

目次

第一部:ストリングの奏でる偏光

1章:ストリングのあらまし
2章: 偏光―素粒子が持つ偏りの性質
3章:ループ状のストリングが運ぶ重力
4章:高次元に住むストリング
5章:「超」の意味

第二部:ストリングと量子力学

6章:宇宙の音を奏でるストリング
7章:身近な疑問からはじめる量子力学
8章:最小の長さ?―プランク長さの物語
9章:高次元に住むストリング2

第三部:ストリングの歴史

10章:超ひも理論誕生を支えた日本人たち
11章:統一の胎動
12章:第二次超ひも理論革命
13章:超ひも理論をつなぐ双対性
14章:宇宙のホログラム
15章:つぎの革命は来るのか?

 

「はじめに」より

 この本は、超ひも理論と呼ばれる理論についての本である。超ひも理論は、物質の究極的な構造やブラックホールの運命、宇宙の開闢といった問題に答えてくれると考えられている。一方、この理論には一見信じがたい考えも数多く登場する。たとえば

  「物質の究極的な構造は極小のひもである」

  「時空の次元は4次元ではなく、実は10次元である」

  「無数の種類の素粒子が存在する」

  「最小の長さがある」

しかし、我々超ひも理論の研究者は、けっして奇をてらっているわけではない。研究者は大まじめなのだ。なぜ、物理学者がこのような突拍子もない考えを真剣にとらえることになったのか、その顛末を紹介したい。

 このような考えは、これまでにも多くの一般書で紹介されてきた。しかし、そういった本をひもといてみると、「超ひも理論によれば、こうなる」、「こういう結果が出てくる」といった話ばかりが続く。「なぜそうなるのか」という説明がほとんどない。これでは、超ひも理論をわかった気になるとはとても思えない。まるで見せ物小屋のようで、変わった考えばかり出てくる変な理論だという印象しか残らないだろう。

 しかし、科学理論の一つとして、超ひも理論もこれまでに積みあげられてきた科学の上に成りたっている。このため、これまでの科学の延長線上に置くことで、超ひも理論も自然に理解できるというのが私の考えである。そのプロセスを省いてしまっては、変な理論という印象しか残らないのも無理はない。そこで、この本では超ひも理論をなるべく「きちんと」説明することを心がけた。そもそも、簡単な議論を追うことで意外な結論が出てくることこそ、科学の醍醐味だと考える。それが少しでも伝わればと思っている。

 その手助けとして、図も多く入れ、逸話や裏話もたくさん載せた。逸話を読んでも超ひも理論の理解に役立つわけではないが、この理論になじむ助けにはなるかもしれない。

 この本は三つの部分に分かれている。超ひも理論では、私たちの身のまわりの物質を作り上げている素粒子が実は粒子ではなく、極小のひも、ストリングだと考える。しかし、ストリングもふつうの「ひも」とそう変わりはなく、一番の特徴は振動するということである。そこでまず第1部では、ストリングが振動するありさまからさまざまな素粒子をどう理解するかを説明する。同時に、アインシュタインの一般相対論といった「古典論的」な基礎知識も紹介する。(物理でいう「古典」とは、量子力学でないという意味である)第2部では、まず量子力学について簡単に紹介する。ストリングのようなミクロな物体を理解するには、量子力学が欠かせない。量子力学を使うことで、超ひも理論についてより多くのことがわかる。

 ここまでが、超ひも理論の基礎である。しかし、量子力学は初心者には概念的に難しいので、第2部はついて行くのがやや大変かもしれない。そんなときは、とりあえず読むだけ読んで第3部まで進んでもらえればと思う。第3部は独立して読めるかもしれない。

 第3部では、歴史を遡り超ひも理論がどう誕生したかを振りかえる。と同時に、それまでに説明しなかった部分、とくに近年の発展を説明する。第3部まで歴史的な経緯にふれないのは、ひも理論の歴史が二転三転してきたからである。歴史からはじめても初心者にはわかりにくいだろう。

 にもかかわらず、わざわざ超ひも理論の創生期にも触れるのは、いろいろな意味で興味深いからである。もっとも、私は公平な科学史の立場から超ひも理論の歴史を書いたのではない。一般書として題材は取捨選択せざるを得ないし、さまざまな研究者は私にとって単に科学史の対象ではないからである。また欧米の研究者の貢献については、これまでいろいろな翻訳書で語られているので、この本ではなるべく日本人の貢献について多くのページを割いた。

 執筆にあたり、インタビューに快く応じていただいたジョー・ポルチンスキー氏、ジョン・シュワルツ氏、米谷民明氏、南部陽一郎氏に感謝する。また、以下の方々には草稿を読んでいただき有益なコメントをいただいた。私の書く原稿をいつも読んでもらっている岡村隆氏(関西学院大学)、村上公一氏(元:高エネルギー加速器研究機構)、そして文系の読者代表として妻の江成幸(三重大学)である。そして、ここには書ききれない多くの方々から貴重な情報をいただいた。さらに、本書はこれまでに書かれた物理の名著にも多くを負っている。最後に、時にはうまくおだてたり、穏やかにプレッシャーをかけることで、滞りがちだった執筆を進めてもらった日経BP社の加古川群司氏に感謝する。この本が完成できたのは、以上の方々のご厚意のおかげである。

 

本書の読み方(補足説明)

 科学書の常として、この本も読んでいるうちによくわからない部分が出てくることもあるでしょう。第1部で言えば3章の「重力波の偏光」、第2部では8〜9章あたりが難しさのヤマなのではないかと思っています。

 読んでもよくわからない部分、ひっかかった部分があれば、完全に理解することにこだわらず、とりあえず読み進めてください。すべての議論を理解しなくても、読み進めるのではないかと思っていますし、いざとなったらエピソードだけでもつまみ食いしてください。いずれにせよ、なるべく多くの部分を読んでもらいたい、というのが筆者の希望ですので。

 どうしてもよくわからない部分があれば、それは読者のせいというより、むしろ筆者の非力のせい、あるいは誰も超ひも理論を理解していないせいかもしれません。そもそも、超ひも理論は現在発展中の理論です。理論が完全にできあがっていないため、専門家ですらうまく説明できないところが多々あります。「計算したらそうなる」としか言えない点もたくさんあります。読者にとってわかりにくい部分があれば、こういう事情かもしれません。「完全に理解する」ことにこだわっていては、専門家も研究一つできません。一か所にずっと立ち止まらず、とりあえず先に進めばあとで理解が深まることもあるでしょう。読者もそれにならっていただければと思います。

 なお、第3部は多少スタイルがかわり、歴史を軸として超ひも理論の説明が補足的に入っています。このため、第3部は独立して読めるかもしれません。ちなみに、草稿の査読を二人の専門家にお願いしましたが、そろいもそろってまず第3部から読んだと告白しています。

 

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