超弦理論の応用---物理諸分野でのAdS/CFT双対性の使い方


Last Update: 07/04/2018

 

サイエンス社 SGCライブラリ93(2012/9出版)。大学院生や他分野の研究者向け。

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サンプル(目次と最初の2章)
正誤表(2018/7/4現在)
補章:ページ数の都合から割愛したものをまとめたもの



書評

ご紹介いただきありがとうございました。

 

本書があつかうこと

本書は、超弦理論の AdS/CFT 双対性の「応用」についての教科書です。AdS/CFT は、ある意味、素粒子物理でもっとも活発に議論された考えだと言って差しつかえないでしょう。素粒子物理学を中心とした論文のデータベース SPIRES/INSPIRE のデータによると、歴代論文のなかでもAdS/CFT を提唱した論文がもっとも引用件数が多いからです。この論文は、

AdS/CFT は大きく以下の2種類に分けられますが、それぞれ以下のような同等性を主張します。

(1)温度ゼロの場合:

(4次元時空の)強結合ゲージ理論 =(5次元の)AdS(反ド・ジッター)時空上の重力理論

AdS/CFT は4次元の物理と5次元の物理が対応すると主張しています。このような事情から、AdS/CFT はしばしばホログラフィック理論とも呼ばれます。通常のホログラムが2次元面に3次元の映像を記録しているように、4次元の理論で5次元の理論があらわされるからです。

(2)有限温度の場合:

有限温度の強結合ゲージ理論 = AdS 時空中のブラックホール

ブラックホールが出てくる基本的な理由は、ブラックホールも有限温度系だからです。ホーキング放射という現象により、ブラックホールも温度という概念をもちます。本書は基本的にこの有限温度の場合をあつかい、AdS/CFT による非平衡現象の解析を目的としています。

 もともと AdS/CFT は超弦理論の考えなので、超弦理論の分野で盛んに議論されてきました。しかし、近年は様相が変わってきており、AdS/CFT は素粒子論の枠を超えて議論されてきています。と言うのも、AdS/CFT は、(通常解析が困難な)強結合のゲージ理論が曲がった時空を使って解析できると主張するからです。応用分野としては、

などが挙げられます。プレプリント・サーバーで検索してみると、アーカイブの物理分野すべてで AdS/CFT の論文が引用されてされています(astro-ph, cond-mat, gr-qc, hep-ex, hep-lat, hep-ph, hep-th, math-ph, nucl-ex, nucl-th, physics, quant-ph の計12分野)。

 この応用については、2006年以来「超弦理論の解説記事」「レクチャーノート」などで多数書いてきました。しかし、さまざまな記事があってどれをどう読めばいいのか読者にわかりにくくなってしまい、また枚数の都合で十分に書けなかったことも多数ありました。そこで、今回サイエンス社からお話をいただき教科書としてまとめることになりました。幅広い読者層を考え、基礎知識(ブラックホール、超弦理論、非平衡統計力学など)からていねいにまとめました。

 

目次

1章:はじめに
2章:一般相対論とブラックホール
3章:ブラックホールと熱力学
4章:強い相互作用とQCD
5章:AdS/CFTへと至る道のり
6章:AdS時空
7章:AdS/CFT - 平衡系の場合
8章:AdS/CFT - プローブを加えた場合
9章:非平衡系への導入
10章:AdS/CFT - 非平衡系の場合
11章:クォーク・グルーオン・プラズマへの応用
12章:相転移の初歩
13章:AdS/CFT - 相転移
 


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