労働者派遣のル−ルはどう変わるのか

労働者派遣法については平成24年に大きな改正がありました。昨年平成25年には規制改革会議で改正が主張され、今年(平成26年)3月には改正案が国会に提出され現在審議中です。その度にマスコミ等で内容がややセンセーショナルに取り上げられたおかげで、現在の制度がどうなっているのか、何が決まっているのか、今何が提案されているのか等について分かりにくくなっている気がします。
現在の労働者派遣のルール、法改正の経過、現在国会に提出されている改正案の内容について整理したいと思います。

  1. 現在の労働者派遣のルール
  2. これから施行されるルール〜労働契約申し込みみなし制度
  3. 労働者派遣法改正への動き
  4. 国会審議中の改正法案の内容
  5. おわりに

本稿では、法律名が無くxx条と記載されている場合は派遣法の条文を指します。
「派遣法」=労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律

補足1:その後の動き1

補足2:その後の動き2(189回通常国会に再々提出)

補足3:その後の動き3(平成27年9月11日可決)

1.現在の労働者派遣のルール

派遣期間について

原則

原則1年です(第40条の2)。
あらかじめ期間を定めることで3年までの派遣が可能になります。この場合過半数労働組合、または労働者の過半数を代表するものに通知しその意見を聴かなければなりません。(第40条の2)

”派遣就業の場所ごとの同一の業務について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。”となっていますので、同じ場所の同じ業務について3年間を超える期間、派遣で対応してはいけないということになります。

政令26業務等

次の場合は派遣期間に制限がありません。

日雇派遣の禁止

次に示す例外を除いて日雇派遣は禁止です。(第35条の3)

日雇派遣とは日々雇用されるもの、及び30日以内の期間を定めて雇用されるものを言います。

派遣労働者の派遣先での雇用

次のように、派遣先での雇用の義務、雇用の努力義務が発生する場合があります。

第40条の3の努力義務、第40条の5の義務は”同一の派遣労働者”がその期間継続したということが要件となります。第40条の4は派遣可能期間を超える直前での派遣労働者が対象です。

なお、第40条の3の努力義務は前節で説明した派遣期間に制限の無い業務は対象とされません。第40条の5の義務は無期雇用の派遣労働者の場合は除かれます。

派遣労働者の派遣元での無期雇用努力義務

派遣元での通算雇用期間が一年を超える有期雇用派遣労働者に対し無期雇用への転換推進措置が努力義務とされています。(第30条、派遣法施行規則第25条)

登録型派遣の場合、派遣される時に派遣元と雇用契約を結びます。すなわち期間を定めた雇用契約を結ぶことになります。このような有期雇用が通算一年以上になった場合、派遣元との無期契約を結べるような措置をするように努力しなさいということです。具体的には派遣労働者、派遣労働者以外の労働者としての無期雇用。紹介予定派遣(第2条6号、派遣先への職業紹介を前提とする6か月以内の派遣)の対象とすること等が上げられています。

解雇、雇止め

派遣労働者であっても労働者には変わりないので、有期雇用労働者あるいは無期雇用労働者として労働基準法、労働契約法の適用を受けます。解雇や有期契約の雇止めについては一般労働者と同様の義務が課されます。

「派遣元事業主が講ずべき処置に対する指針」(労働省告示平成11年第137号)では、契約期間満了前に派遣先との派遣契約が解除された場合は、その派遣先に就業あっせんを受ける、派遣元で他の派遣先を確保する等をはかり、それができない場合は休業にして休業手当を支払う、やむを得ず解雇する場合は労働契約法や、解雇予告、解雇予告手当等の労働基準法の規定を順守することを求めています。

2.これから施行されるルール〜労働契約申し込みみなし制度

平成24年の派遣法改正に含まれていて平成27年10月1日に施行される条文が幾つかありますが、その中で重要なのは労働契約申し込みみなし制度(施行後派遣法第40条の6)です。
派遣先が次のような違法な派遣を違法であることを知りつつ受け入れていた場合、受け入れた時点において派遣先が派遣労働者に対して労働契約の申し込みをしたものとみなすというものです。

3.労働者派遣法改正への動き

厚労省研究会

平成24年3月に派遣法の改正が成立しますが、国会審議において附帯決議がなされます。この附帯決議では、政令26業種に属するかどうかで派遣期間が大きく変わる現行制度の見直しの検討を開始すること、登録型派遣、製造業務派遣、特定労働者派遣事業の在り方について論点を整理し、労働政策審議会で議論を開始すること等が指示されます。

この附帯決議を受け、厚労省に「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が設置されます。この研究会は平成24年10月から平成25年8月まで16回開催され、平成25年8月20日に報告書を出します。この報告書では、26業務の廃止を含めて労働政策審議会で議論することが適当であること、常用代替防止については有期雇用を対象として個人単位での制限を設けかつ派遣先労使によるチェックの仕組みを考えることなどが提案されています。

規制改革会議の意見書

時期的にはこれと並行して、内閣府の元で平成25年1月から開催されていた規制改革会議は平成25年6月5日に規制改革に関する答申を出します。この会議の雇用分野に関する姿勢や答申の内容は別稿「規制改革会議と労働者の保護規定」「雇用の規制改革は結局どうなるのか〜日本衰退への道、規制改革会議の答申〜」に書きました。

労働者派遣制度について答申の要点は、「常用代替防止の観点からなされている派遣労働の規制体系を根本から見直せ」「政令26業種に属するかどうかで異なる派遣期間の在り方を見直せ」ということです。本音は前者については派遣労働をあるべき労働の姿の一つとしてきちんと位置付け活用をはかること、後者は派遣期間を業種によらず拡張することであることは議論の過程からあきらかです。

この規制改革会議の答申が前述厚労省の研究会の議論に影響を与えたかどうかは分かりません。少なくとも公表されている研究会の議事録や資料では、この答申の内容を考慮したり、参考にしたりした様子は見えないようです。

一方、規制改革会議の方では厚労省研究会の報告に対し、おそらく労働政策審議会へ注文を付けようという目的のために、10月4日の会議において「労働者派遣制度に関する規制改革会議の意見」を公表します。

この意見書では、どういう根拠によるものか、研究会の報告書は、先の規制改革会議の答申やそれに基づく閣議決定(規制改革実施計画)も踏まえていると言明しています。そのうえで報告書に対し次のように批判をし、さらに研究会では検討されなかった現行派遣法(特に平成24年改正部分)の規定も批判しています。

また現行制度の説明では省きましたが、グループ企業派遣の8割規制(23条の2、派遣会社が親会社等の関連会社に派遣を行う割合を80%以下に制限)。離職した労働者を一年以内に派遣労働者として受け入れてはならないという規制(40条の6)、 派遣の料金の中で労働者の賃金の占める割合の公開の派遣事業者への義務化(23条)、等も批判しています。露骨に経営者目線であり、もともとそういう会議であることは分かっているにしても、あまりにもの節操のなさにあきれます。

労働政策審議会

厚労省研究会の報告を受け、平成25年8月30日から労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において「今後の労働者派遣制度の在り方について」についての議論が開始され、平成26年1月29日に労働政策審議会の厚生労働大臣に対する建議が行われました(建議及び報告書については厚労省のホームページ「労働者派遣法の見直しについて」を参照ください)。

研究会の報告を受けというのは時期的なタイミングとしてはそうということであり、報告書内容を踏まえてという事ではない。報告書内容をたたき台や前提にしないということは労働側委員が主張している。内容を参考にするにしても、前提にしないことは労政審の在り方として当然であろう。

労働政策審議会(以下、労政審)は厚生労働省設置法において設置が定められている組織です。”厚生労働大臣の諮問に応じて労働政策に関する重要事項を調査審議する”(厚労省設置法第9条)とされている他、労働関係の各法律でも役割が明記されています。例えば派遣法では関連する政令の立案について労政審の意見を聴かなければばらない(4条2項、35条の3第2項、等)とされているほか、派遣事業の許可にあたっても意見を具申する(5条5項)ことになっています。審議会の詳細については労働政策審議会令で定められています。厚労大臣から任命された労働者を代表する委員、使用者を代表する委員、公益を代表する委員がそれぞれ10名づつで構成されます。その下におかれる分科会、部会においても労働者側委員と使用者側委員が同数とすることになっています。すなわち、労働者、使用者、第三者が等しい発言力を持って公平な協議を行う、いわば我が国の労働政策の要となる組織です。

国際労働機関(ILO)は政府、労働者、使用者の3者の代表で組織されています。また、その条約144号(日本批准済)では加盟国における国際労働条約の批准、実施等について労働者と使用者が平等の立場で協議することが、また150号(日本未批准)では労働行政への使用者及び労働者の代表の関与の確保が述べられています。労働政策審議会の仕組みは国際標準に合致しているということができるのだと思います

規制改革会議は全く使用者側に偏った組織であり、その提案も偏向したものです。その圧力を受けず労政審が公正な審議を貫けるかどうかが我が国の労働政策の健全性を示すといって良いでしょう。

しかしながら、平成25年10月10日の会議において事務局(厚労省)から前述の「労働者派遣制度に関する規制改革会議の意見」が配布されます。これはまったく不明朗な行為と思えます。労働者側委員と厚労省とのやりとりを議事録から抜粋します。

○新谷委員 事務局に確認です。先ほどの説明では、資料5の扱いがよく分かりませんでした。規制改革会議の意見というものが出されているわけですが、これは労政審としてはどういう扱いにすればよろしいのですか。これは何なのでしょうか。
○富田課長 資料5は10月4日に取りまとめられたもので、資料5の「基本的な考え方」の真ん中の所に書いていますとおり、「以下の点について、労働政策審議会で議論されることを強く望みたい」とありますので、規制改革会議としては、労政審で議論していただきたいということが示されたということです。したがいまして、事務局としましては、これについてどう扱うかについては、労政審で御議論いただきたいと考えております。
○新谷委員 それであれば分かります。ただし、この規制改革会議の意見には今後の私ども労政審の論議は何ら影響を受けないという理解でよろしいでしょうか。
○富田課長 委員の皆様の御議論に委ねられていると考えております。

続く使用者側オブザーバーの意見と厚労省のやりとりです。

○青木オブザーバー 教えていただきたいのですが、派遣制度が規制として行われる以上、政府全体としての規制の在り方の問題として議論されることはやむを得ないし、それが政府の方針であれば、考えを考慮して検討すべきではないかと思っているのですが、今回のこの意見に関して何ら影響を受けないということで本当によろしいのでしょうか。私としては重要な意見であると考えていたのですが、これは違うのでしょうか。
○鎌田部会長 誰に対する御質問でしょうか。
○青木オブザーバー 誰に対して言えばいいのか分かりませんが。
○富田課長 先ほど申し上げましたとおり、影響を受けないと申し上げているつもりはありませんで、この会議の場に提出しております。その扱いについては審議会で御議論いただきたいと申し上げております。

政府に対し独立性を保ち労働者と使用者に公平な立場から審議を行うべきなのが労政審でしょう。そのために使用者側と労働者側の委員が同数と定められています。政府の意向、しかも明らかに使用者側にたった規制改革会議の意見が何らかの形でも力関係を崩してはなりません。影響を受けるべきという発言が労政審で平然となされること、そして厚労省がそれを否定していないことに対し慄然とします。この国はどうなってしまったのでしょうか。

結果として規制改革会議の意向がどの程度影響があったかは分かりません。しかし、「意見書」でやり玉に上げられた平成24年改正法の内容は、議論の対象とされました。報告書には"見直しについて引き続き当審議会において検討を行うことが適当である。"という一文が入れられたものの、報告書の結論には反映されなかったことは何とか独立性を保ったと言えるのでしょうか。

報告書では常用代替防止、派遣の固定化の防止の考え方は確認されたものの、実際には業務単位では派遣の固定化につながりかねない制度が提案されました。これは改正法案のところで説明することとして、労働者代表委員の反対意見も添記されたことを記しておきます。

改正法案国会提出

労政審の建議を受けて派遣法改正案要綱が作成され、労政審への諮問、答申をへて、平成26年3月11日に改正案(「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」)が国会提出されました。当初6月中の国会会期中に成立させる予定であったようですが、案文の不手際等のせいで今会期中での成立は困難と見られています。

4.国会審議中の改正法案の内容

現在国会で審議されている派遣法改正案について主要な点を説明します。派遣労働者、派遣事業者双方に影響のある非常に大きな改正となっています。

特定労働者派遣事業を廃止し派遣事業をすべて許可制とする

現在派遣事業は特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業に分かれています。前者は派遣労働者が常用雇用の者ばかりの場合。後者は登録型派遣も含む場合です。特定労働者派遣事業は届出で行うことができますが、一般労働者派遣事業は厚生労働大臣の許可制であり、5年(初回3年)ごとの許可の更新も必要です。この区別を廃止して、すべて許可制にするという改正です。
特定労働者派遣事業は中小の事業者が多く、この区分が廃止されると負担が大きくなり撤退せざるを得ない業者が出てきて、IT業界では大きな影響があるという指摘もあります(「特定労働者派遣廃止の衝撃」ITpro2014年3月3日 、読むには登録が必要)。

期間制限のルールを変更

期間制限についてのルールを大きく変えようとしています(40条の2の改正、40条の3新設。)。主な内容のみまとめます。

40条の3の新設に伴い、一年以上継続した派遣労働者への努力義務は40条の4に移ります。派遣可能期間を超えた場合の義務40条の4は削除となります。これは雇用契約の申し込みよりも強い”労働契約申し込みみなし制度”があるからという厚労省の説明です。3年を超えた場合の40条の5は無くなります。

一年以上の場合でも労働組合の意見を聴取する義務がなくなります。また業務に依らずすべて上限3年となります。専門26業務は根拠が曖昧なうえ、期間制限の抜け道として使われているふしがあります(厚労省報道発表資料)。専門業務に派遣された人がそれ以外の業務も併せて行うという”付随的業務”の不明朗さの問題もあります。廃止は止むをえないのかも分かりません。このルールを利用して一つの業務に3年を超えて派遣されているという人は、それが出来なくなりますので注意が必要です。

禁止されるのは”派遣就業の場所における組織単位ごとの業務について”、”同一の派遣労働者に係る労働者派遣”(新設40条の3)です。組織単位とは何かというと”配置された労働者の業務の遂行を指揮命令する職務上の地位にある者が当該労働者の業務の配分に関して直接の権限を有するものとして厚生労働省令で定めるもの”(26条)となっています。平たく言うと、係り、班、グループ、課等(労働省告示平成11年第138号)であって、リーダーや長が同じ組織でしょう。つまり同じ人が3年を超えて同じ事業所に派遣されることは、課を変えれば可能になるということです。では派遣労働者を変える場合はどうなるのでしょう。

今回の改正案の最大の問題点はそこでしょう。過半数労働組合等の意見を聴取すれば(同意は不要)、派遣可能期間を3年づつ永久に延長し続けられるということです。つまりある業務について3年ごとに人を変えさえすれば永久に派遣労働者を充てることが可能になります。このような明らかに”派遣の固定化”につながる改正が何故出てきたのでしょうか。議事録を斜め読みした程度では判然としません。労働側、使用者側が対立する中、何故か事務局が2者択一のような案を出してきて、結局公益委員がそれを参考にたたき台を作ってそのまま成立したという印象です。12月12日の会議における公益委員の説明を見ても、制度の合理性に対する説明は全く見当たりません。

無期雇用労働者を期間制限からはずす点も、悪用も考えられ、実際にどのような影響が出てくるか不安もあります。

その他

その他、主要な変更点です。

このうち派遣元の無期転換努力義務は平成24年改正で入ったばかりなのに廃止というのは違和感があります

5.おわりに

改正案はまだ審議中であり、国会決議に当たって、修正や付帯決議がある可能性があります。実際上派遣固定化につながる今回の改正に修正が入るかもわかりませんし、反対に、アベノミクスのいけいけムードの中、まだ規制緩和がなまぬるいとの突っ込みがあるかもわかりません。派遣労働者だけの問題ではなく、この国の、事業優先・国民の幸福犠牲、事業者優先・労働者無視の方向がどこまで行っているのかを見る目安となると思われます。

補足1:その後の動き1

結局通常国会では時間切れ廃案となりました。その後9月29日からの臨時国会で再提出されましたが、公明党から修正案が出たり、塩崎厚労大臣が法案と矛盾した答弁をしたりで紛糾のまま衆議院解散となり、また廃案になりました。若干修正を加えて今通常国会(第189回)に再々提出予定であることをマスコミが伝えています。

補足2:その後の動き2(189回通常国会に再々提出)

平成27年3月13日に第189回通常国会に3度目の法案提出がなされました。全文を熟読しておりませんが、期間制限の実質的撤廃(第40条の2、40条の3)等の主な内容はそのままのようです。違いとして目につくのは運用上の配慮を定める第25条に「(厚生労働大臣は)派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮する」との一文が追加されたこと、及び改正法の附則に3年後を目途に施行の状況を勘案して新法の規定について検討する等の条項(附則第2条第1項、第2項)が加えられたことでしょう。公明党に対する配慮でしょうか。どの程度の実効を持つのか不明です。

補足3:その後の動き3(平成27年9月11日可決)

189回通常国会に提出された法案は、参議院で若干の修正を受けたものが、平成27年9月11日に衆議院で同意されました。公布は9月18日です。
法案の内容は本質的には変わっておりませんが、参議院厚生労働委員会で40項目近い異常に巨大な付帯決議がなされました。この付帯決議や同時に成立した「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」については別稿で検討をしたいと思います。

「成立した労働者派遣法の改正法〜参院委員会の付帯決議について」を公開しました。

初稿2014/6/11
説明追加2014/6/14
●「派遣労働者の派遣先での雇用」の項
説明追加2014/8/19
●「派遣労働者の派遣先での雇用」の項
補足1追加2015/2/2
補足2追加2015/4/16
補足3追加2015/9/30
補足3追記2015/11/2