規制改革会議と労働者の保護規定

平成25年1月から内閣総理大臣の諮問を受けて規制改革のあり方を審議答申する会議として規制改革会議が開催されています。この会議で労働者の解雇規制を緩和すべきであるとする意見が述べられた旨マスコミで伝えられました。「規制改革」自体は本来歓迎すべきことで是非検討し進めて欲しいものです。それは官僚や一部団体や企業の既得権益を守っている規制を撤廃し、新しい産業分野の発展につながるものと考えるからです。しかしながらこの会議の内容を見ると、一部にそのようなものはあるものの、主たる目的が労働者や国民を保護している規制を壊し経営者に都合の良いように変更することであるように見えてしまいます。
労働者を保護している規制について、労働者自身があまり知らないというのも事実です。知らなくてもブラック会社でない限り大筋は守られていて不都合な目に会う機会は少ないからです。しかしながらその規制が撤廃されてしまうと、いつのまにか労働条件、労働環境が悪くなっているという事態に直面しかねません。
本稿では主として雇用、解雇についてどのようなルールになっているかをまとめ、規制改革会議がそのどこを壊そうとしているのか把握したいと考えます。

  1. 規制改革会議について
  2. 現在の雇用、解雇に関するルール
  3. おわりに

補足:その後の動き

補足:解雇ルールの緩和の内容

1.規制改革会議について

規制改革会議の概要

規制改革会議の詳細については内閣府のサイトで、議事録や配布資料を見ることができます。第一回会議資料に内閣総理大臣の諮問文があり、これが会議の公の趣旨を表していることになるのでしょう。引用します。

潜在需要を顕在化させることによる経済活動の支援、日本経済の再生に資する各種規制の見直し等、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方に関する基本的事項について、貴会議の総合的な調査審議を求める。

これだけ読むと結構なことです。第一回会議では委員の方々も立派なことをおっしゃっていて大変頼もしく見えます。岡 素之・住友商事株式会社相談役が議長に選ばれます。

しかしながら、第2回から想像していたものとどうも違うという様相が見えてきます。事務局側が「これまでに提起されている課題の代表例」という資料を出して議論する課題に方向付けをしようとします。ここでは次の4つのカテゴリーに分けられて提示されています。

「健康・医療」は確かに大きな問題と思われます。ドラッグ・ラグの問題、インターネット販売の規制等検討して欲しい問題は1杯ありそうです。ただ別記事を読んで頂けばお分かりの通り医療問題を規制改革のまな板に載せるのは危険を伴うのも事実で国民の監視が必要です。13項目上げられていて、そのなかにさりげなく混合診療が紛れ込んでいます。

5.保険外併用療養の更なる範囲拡大 保険診療と保険外診療の併用制度について、先進的な医療技術の恩恵を患 者が受けられるようにする観点から、先進的な医療技術全般(薬剤を用いな い医療技術、再生医療等)にまでその範囲を拡大すべきではないか。

「エネルギー・環境」はこのような包括的な会議でいまさら取り上げる課題でしょうか。すでにもっと先に進んで具体的な政策レベルになっているべきでしょう。テーマとすることで却って進捗を遅らせる意図があるのではないかと勘ぐりたくなります。この項目で第一に上げられるべきは電力自由化・送配電分離でしょう。しかし11項目の中のたった一項目次のようにあげられています。

5.電気事業制度改革(小売全面自由化、送配電部門の中立化等) 一般電気事業者は、家庭等の小口小売部門について地域独占が法定されて おり、その電気料金は、総括原価を基に算定される料金と燃料費調整額を合 算して算定されている(いわゆる総括原価方式)。 電力需給の安定に万全を期すことを前提としつつ、広域系統運用の拡大、小 売全面自由化、送配電部門の一層の中立化等の抜本的見直しにより、電力市場 の適正な競争環境へのソフトランディングを図るべきではないか。

送配電部門の分離ではなく「中立化」という言葉を使っている点、「一層の」中立化となっている点、わざわざ「電力需給の安定に万全を期すことを前提としつつ」という前提が付されている点など何か意図があるのでしょうか。

ところで規制改革という言葉でまず第一に思い浮かぶ「農業」はどうしたのでしょうか。これはさすがに一部委員が強く指摘しています。それに対し「創業・産業の新陳代謝等」に含まれるというのが事務局の回答です。なるほど22項目あるうちのたった一項目に「産業としての農業の競争力強化」というのがありました。これに対し一委員が「例えば投資法人の株式取得割合制限の撤廃とかと農業の産業競争力強化だと、これは象とネズミぐらい大きさが違うものが一緒に並んでいるという感じがある」と述べているのは全くその通りです。
また岡議長の発言によるとそもそも総理が重点的にやって欲しいと規制改革担当大臣に要請したのは最初の3つのテーマで、最後の「創業・産業の新陳代謝」は入っていないようです。

第3回の会議で、上記4カテゴリーに対応し「健康・医療」「エネルギー・環境」「雇用」「創業等」の4つのワーキンググループが設置され、それぞれの下で議論をすることになります。各項目での検討項目案も示されます。大筋は第2回会議で事務局が提出した「これまでに提起されている課題の代表例」と同じですが、農業分野は次のようにさらに矮小化された表現になっています。

11.産業としての農業の競争力の強化 中小企業信用保険制度の対象業種の範囲等の諸規制を含め、産業としての農業の競争 力強化の観点から、その在り方の見直しを図るべきではないか。

またエネルギー・環境の分野で農地に太陽光パネルを設置する場合の農地法の規制を緩和する項目が消えてしまっているのも目を引きます。

雇用の分野についての内容

そもそも規制改革の会議で「雇用」が一分野として取り上げられるのは違和感があり何かきな臭いものを感じてしまいます。雇用に関する規制は特定団体や官僚の既得権益を守っているものではありません。労働者という一個人、国民一人一人を守っているものです。それに対する規制改革というのは労働者の保護を軽んじて、規制を経営者の都合の良いように緩和しようということ以外には考えられないからです。実際に前記のワーキンググループの検討項目案8項目すべて、「多様で柔軟な働き方」など美辞麗句に飾られていても実態は全てそのための項目と言っていいものです。これについては後ほど解説します。

第2回会議の議事録を見ると佐久間新日鐵住金株式会社常務取締役と鶴慶応義塾大学大学院教授の二人が積極的なようです。
佐久間委員

「・・・同じ出口で言うと雇用の問題がありまして、やはり雇用を増やすためには出口がフレキシブルでないと流動化が起きないという点で、この解雇規制はある意味では非常に重要な 問題だと思います。これについては11ページの13番に書いてあるように、非常に今のルー ルというのは硬直的で、これは決して経営側にとってどうかということではなくて、働い ている労働者、我々もそうですけれども、にとっても決していいことになっていない。こ ういう観点でありますので、是非ここについては検討を進めるべきではないかと思います。」


鶴委員

「・・・労働分野も先ほど翁委員からあったように、ここに書かれていることは全部結びついて います。だからそれをうまく全部連関して、これを全部やっていくことによって、どうい う明るい未来が、それが企業にとっても労働者にとってもこういうふうになると、短期的 にはいろいろ痛みはあるかもしれないけれども、そこに向かって頑張りましょうというこ とを、どうやって説得的に言っていくかということが非常にポイントになると思います。」

雇用ワーキンググループでは鶴委員が座長に就任し、佐久間委員がメンバーになります。佐久間という人は経営側の人であり、PCBの処理基準を緩和せよなどの発言もあり、まあそんな人なのかと思います。鶴光太郎教授とはどのようなバックグラウンドの人なのでしょうか。調べてみて唖然としました。1984年から1995年までは経済企画庁勤務、その後OECDの事務局(事務総局)、日本銀行金融研究所を経て、2001年から2012年までは経済産業省所管の独法経済産業研究所の研究員をやっています。限りなく官僚に近い 人であり、経済産業省官僚の意見を代弁していると思われてもしょうがないのではないでしょうか。どうしてこのような人を委員に選び、それどころか座長にするのでしょう。
この人は第一回の雇用ワーキングで早速”雇用改革の「3本の矢」―人が動くためにー”なる座長資料を提出します。世のため人のためであるような前置きから始まっていますが、その後の展開が良く分からないもので、よぽど良く分析しなければ理解できないものです。例えば非正規雇用の増加が問題だといって、それから「人が動く」ことが必要だと良く理解できない展開のあと、正社員改革と称して正社員の保護規定の撤廃を主張しています。結果非正規雇用が増加してしまうのは明らかで最初の問題提起と矛盾しませんか?他も一々解釈する気も起こりませんので止めます。

ここで提案されたうち解雇ルールの緩和(「解雇補償金制度」の創設)は安倍総理の一言で否定されたようです(毎日新聞オンラインの3月29日の記事)。マスコミで大きく取り上げられてしまったことから参院選をにらんだ結果かも分かりませんが、官僚に対する政治主導を発揮したことは素直に評価したいと思います。

結局規制改革会議とは

規制改革というと、私も含めて一部団体や官僚の既得権益の撤廃をイメージするのではないでしょうか。しかし今までの経過を見ると、それに相当するものは既に問題になっていてどうせ対応しなければならないものばかり、かつそれこそ一丁目一番地である、電力改革や農業改革は他の瑣末なたくさんの項目の中に紛れ込ませやる気が感じられない。健康・医療、エネルギー・環境分野は既得権益の打破よりは、国民の安全や環境を守っている規制を撤廃しようとする項目ばかりが目立ちます。雇用分野にいたっては、経営者に都合の悪い労働者、国民を保護している規制を槍玉にあげることが目的のように見えてしまいます。それが総理の言う経済社会の構造改革であり、それにより経済を発展させようとしているのだとしたら、何と情け無いことでしょう。
安倍総理の支持率は相変わらず高いですが、その国家主義的傾向に注意しなければならないのではないでしょうか。総理の言う日本経済の再生は、必ずしも国民生活の再生とはイコールでない恐れがあります。国全体が発展することが優先であり、それが一部の企業や富裕層によるもので、その陰で貧富の差が拡大し一般庶民の生活が苦しくなる問題はニの次という恐れです。良く使われるレトリック「まず国が発展しないことには国民生活の発展は無い」に否を突きつけなければなりません。国が発展しても生活が苦しくなる人にとっては意味がないのです。かえって全体が苦しい状態の方が不公平感が無いだけ精神的に楽です。

簡単に規制改革会議を紹介するつもりが長くなってしまいました。これからが本論です。

2.現在の雇用、解雇に関するルール

労働基準法を始めとする労働諸法令は、おおむね労働者を強く保護するものとなっています。何故経営者に対し労働者の方を強く保護するのかというと、自由に任せてしまうと明らかに労働者の方が弱い立場だからです。労働者と使用者が対等な立場に立つことを目指すものとなっています。また、労働基準法は強行法規です。つまり たとえ使用者と労働者の合意があっても法に反することは許されません。弱い立場の労働者が「合意」を強制される恐れを除いています。

2−1.解雇に関する規定

規制改革会議が槍玉にあげた「解雇規制」とはなんでしょうか。これは現在、労働契約法にある次の規定です。

(解雇)
第十六条  解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

これは解雇権濫用の法理と言います。もともとは労働基準法にありましたが、平成20年に労働契約法に移りました。このとき一部に強い反対があったと聞きます。何故なら労働基準法(以下労基法)は刑法を上書きする法律としての性質があり、罰則規定があり(第117条〜121条)、司法警察官の権限を持つ労働基準監督官により守られています(第102条)。労基法違反があるときは労働基準監督署に訴え出れば良いのです。これに対して労働契約法は民法としての性格しかありませんから違反を労働基準監督署に訴えても取り上げてくれません。裁判を起こして始めて有効になります。実際には裁判というのはハードルが高過ぎるので個別労働関係紛争解決促進法により都道府県労働局で斡旋の面倒までは見てくれることになっています。窓口として各都道府県労働局に総合労働相談コーナーが設けられています。

解雇に関する規定ではないですが、労働契約法には、やはり規制改革会議が槍玉に上げた重要な規定がもう一つあります。ここで説明しておきます。

(就業規則による労働契約の内容の変更)
第九条  使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条  使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

ちょっと分かりにくいですが、次のようなことです。

最近身近な例としては経営不振による賃金の切り下げがあります。合意無しに切り下げしてはいけないのです。 まともな会社の場合一応労働組合と合意するという形をとっているはずです。

しかしながら労働組合がそのような賃金引下げの交渉を受ける権限があるかは疑義のあることのようです。(労働政策研究・研修機構の記事)

なお管理職であっても例外ではありませんから、本来労働組合とは別に合意のプロセスがなければなりません。もっと労働条件の変更を容易にすべき(簡単に賃下げ可能にすべき)というのが規制改革会議の取り上げ方です。

話が逸れましたが、他の解雇に関する規定を以下にまとめます。これらについては今のところ槍玉には上がっていないようです。

2−2.有期契約に関する雇用・雇い止めの制限

今のところ有期契約に関する制限に関しては直接には問題にされていないようですので、 列記するに留めます。

2−3.派遣労働に関する規定

派遣労働に関しては、もともとは正規労働者の代替となることを避けるべく派遣可能な業務が限定されていましたが、1999年の労働者派遣法の改正で原則自由化されました。現在次の4つのみが適用除外となっています(派遣法第4条)。

派遣可能期間については、正規就労を圧迫しないよう制限が設けられています。原則1年です。ただし、あらかじめ期間を定めることで3年以内の期間が可能になります。この場合過半数労働組合に対し通知しその意見を聴くものとされています(以上派遣法第40条の2)。但しこれには例外があり、所定労働日数が少ない場合等のほか専門的業務の場合は派遣期間の制限がありません。対象となる専門的業務として情報処理システムの設計・保守、秘書等26が定められています(派遣法施行令第4条第5条)。

実際には24年8月の改正で一業務追加され、また2つに分けられたものもあり、現在の政令では28業務となっています

専らにこの政令26業務をやるのではなく、対象外の業務も合わせて行うという場合複合業務と言います。複合業務の場合どう扱うかについてはどうも法令による定めがないようであり、「業務取扱要領」という厚生労働省の運用レベルで対象外業務が1割未満の場合「付随的業務」として派遣期間の制限を受けないものとされています。

派遣可能期間については、最終的な前述ワーキンググループの検討項目案では”「付随的業務の範囲等の見直し」等一般的な表現になりましたが、はじめの事務局の「これまでに提起されている課題の代表例」を見るとなにを意図するかは明白です。1年または3年の制限を5年程度にすべきではないか、付随的業務の1割以下という制限を緩和すべきではないか、派遣元で無期雇用の労働者は派遣期間制限をなくすべきではないか、等あり、派遣労働者を使いやすくし、派遣適用の範囲を拡大するという方向です。「多様な人材に対して雇用機会を提供する」というお題目の下に非正規雇用を増やそうとしている(正規雇用を非正規雇用に置き換えようとしている)としか思えません。

最後にまだ槍玉に上がっていない派遣労働者の雇用に関する規定を上げておきます。

その他、規制改革委員会が壊そうとしている労働者保護規定

その他取り上げられている項目は労働時間あるいは割増賃金に関連したものがあります。労働時間に対する規定は大変たくさんあり、全貌を説明するわけには行かないので、取り上げられている項目に関連したことのみ書きます。

労働時間は原則一日8時間、週40時間(例外あり)に制限されています(労基法第32条)。労使協定を結び労基署に届け出ることで残業、休日勤務が可能になります(労基法第36条)。ただし、延長した労働時間や休日勤務に対しては法定以上の割増賃金を払わなければなりません(労基法第37条)。
これには例外があり、一つは変形労働時間制(労基法第32条の2〜32条の5)です。これはある条件を満たしたときは、ある期間を平均して法定内であれば良いというもので、フレックスタイム制はこれに当たります。
もう一つは見なし労働時間制あるいは裁量労働制といわれるもの(労基法第38条の2〜38条の4)です。これは実際の労働時間に係らず一定額を払うものです。認められる場合は3つあり、一つは営業等事業場外労働が多く労働時間の算定が難しいものです。あとの2つは働き方が労働者の裁量にまかされている業務で、専門型裁量労働と企画業務型裁量労働があります。専門型裁量労働は研究開発・業務や編集、デザイナー、公認会計士等専門的な業務、企画業務型裁量労働は事業の運営に関し企画・立案、調査、分析の業務に対して認められ得るものです。
専門型は一般には専門家が対象となります。企画業務型はとくに専門家が特定できないため拡大解釈がされるおそれがあるということなのか、専門型に比べ厳しい要件が課されています。専門型が労使協定で一定事項を定めて届け出れば良いのに対し、企画業務型は労使委員会を設置し5分の4以上の多数決が必要な他、対象労働者の同意が必要であり、また6ヶ月以内ごとに労基署に状況報告をしなければなりません。

フレックスタイム制、企画業務型裁量労働制の見直しが規制改革委員会の検討項目として上げられています。どういう方向で見直すのかは「これまでに提起されている課題の代表例」で明らかです。フレックスタイム制については枠の計算方法の見直し、これはなんか怪しげですが今のところ私には意図が分かりません。企画業務型裁量労働の方は、対象業務・対象労働者を拡大せよ、労使委員会や定期報告等の手続きを簡素化せよというもので、適用を容易に拡大できるものにして割増賃金を払わずに幾らでも働かせることができる労働者を増やそうという以外の意図は想像できません。「代表例」にあった、事務系、研究開発系の労働者には労働時間法制の適用を緩和しようとするかのような項目は、検討項目案では、さすがに無くなったようです。

3.おわりに

規制改革委員会というものに予断を持っていたわけではありません。規制改革は大いにやって欲しいと思っておりました。そこへ解雇制限緩和のマスコミ報道があり、調べてみた結果唖然としました。官僚は硬直しているものの無茶だけはしないという安心感がありました。労働政策についても任せておいても今まではそれほど問題は無かったかも分かりません。しかしながらアベノミクスの掛け声のもと、厚労省ではなく経産省主導で労働者保護の諸規定が短期的な経済発展に都合が良い、すなわち経営者に都合の良いようになし崩しに破壊されかねません。労働者自身が権利を自覚し、それを守っていく意識を持たなければならない局面になっているのではないかと思う次第です。

補足:その後の動き

【その後1】安倍首相は舌のねの乾かないうちに、解雇規制の緩和の否定を撤回したようです(毎日新聞オンラインの4月3日の記事「安倍首相:解雇の規制緩和 無効判決後のルール化、「事後的」金銭解決は容認」)。以前の答弁は事前型の金銭解雇についてだったと説明したとの事ですが、もともと規制改革会議はそのようなことを提案していないので、明らかに前言撤回です。少なくとも明確な意志の下リーダーシップを発揮しているように見える首相ですが、その言を変えさせるどのような圧力があったのでしょうか。一つ考えられるのは、学者の意見を尊重される方のようですので、竹中のような解雇規制撤廃派から何か言われたか。もう一つ思いついたのですが、TPPに関係しているということはないでしょうか。合理的でない解雇を無効とする日本の法律はアメリカ企業の日本進出にあたって障害になりかねず、すでに陰で問題化されているか、あるいはISD条項で将来訴えられる恐れがあると考えているか。その当りをTPP推進派から指摘されたということはないのでしょうか。これは思いつきで根拠はありません。

【その後2】6月5日に答申がでて、それに対し6月14日に「規制改革実施計画」が閣議決定されました。これらは内閣府のページで公表されていますので参照ください。内容について別稿「雇用規制改革は結局どうなったのか」で検討しました。

補足:解雇ルールの緩和の内容

引用していた毎日新聞オンライン版の記事が読めなくなってしまったので、規制改革会議で取り上げられた解雇ルールの緩和の内容について説明することにします。過去にも同じような提案がされ消えた事があるらしいですが、今回の場合最初に問題になったのは3月15日の産業競争力会議における長谷川閑史議員(経済同友会代表幹事、武田薬品工業代表取締役)の提案のようです。資料から引用します。

解雇ルールの合理化・明確化(再就職支援金の支払いとセットでの解雇などを 含め、合理的な解雇ルールを明文で規定)

規制改革会議ではワーキンググループ検討テーマの一つの「労使双方が納得する解雇規制の在り方」として”解雇が無効であった場合の救済の多様化”等とあります。3月28日の雇用ワーキンググループ第一回では鶴座長から解雇補償金制度の議論が提案されました。これは解雇が不当で無効となったとき、解雇取消しだけではなく金銭解決も認めようというものです。すなわち金を払えば不当な解雇も可能ということです。これに対し3月28日の衆院予算委員会で安倍首相は「金銭によって解決をしていく、解雇を自由化していく考えはない」と述べたと報道されました。その後4月2日の衆院予算委員会において、28日の答弁で否定したのは事前型の金銭解決であり、事後型については検討対象として残っていると説明したそうです。

初稿2013/4/2
補足を追加2013/4/4
労契法19条説明追加2013/5/13
追加、修正2013/8/16
●毎日新聞へのリンク削除
●補足修正追加