独断的JAZZ批評 787.

VIJAY IYER
「不整合の整合」とでも呼びたくなる独特のリズム(ポリリズム)を叩きだしている
"ACCELERANDO"
VIJAY IYER(p), STEPHAN CRUMP(b), MARCUS GILMORE(ds)
2011年8月 スタジオ録音 (THE ACT COMPANY : 9524-2)


以前から話題になっていたピアニストだ。なかなか縁がなくてやっと購入した。既に2週間くらい聴いているのだが、これが結構、曲者なのだ。
ピアニストのVIJAY IYERは1971年、ニューヨーク生まれであるが、インドの移民の子であるという。物理学の博士号を追求するためにバークリー大学でも学んだという。フランスにはJEAN- MICHEL PILCという国立特別研究所のロケット科学者だったという強者がいるが、このIYERもそれに劣らぬ変り種と言えるかもしれない。共通しているのは一癖も二癖もある頑固一徹な姿勢と幾何学模様の演奏スタイルなのかもしれない。
ドラムスのMARCUS GILMOREは往年の名ドラマー、ROY HAYNESの孫にあたる。DANNY GRISSETTEのアルバム"STRIDE"(JAZZZ批評 700.)に参加していたのは記憶に新しい。手数が多くて粗削りな印象を拭えなかった。

@"BODE" 最初の出だしから一癖ありそう。イントロ的なトラック。
A"OPTIMISM" 複雑怪奇なリズム。決して、数えてはいけない。まさに「不整合の整合」 帳尻は合っている。確かに、「楽観主義」でなくてはやっていけないかも。
B"THE STAR OF A STORY" 後半の「不整合の整合」(ポリリズム)は聴きもの。
C"HUMAN NATURE (TRIO EXTENSION)" 牧歌的な匂いのする比較的聴き易いテーマ。ここでも、ご多分に漏れず「不整合の整合」が展開される。
D"WILDFLOWER" 3人がバラバラのようで、次第に一つに収斂されていく。
E"MMMHMM" ベースはアルコ。実に、ユニーク、実に、面白い。
F"LITTLE POCKET SIZE DEMONS" 幾何学模様、アヴァンギャルド風。
G"LUDE" 
H"ACCELERANDO" いきなり複雑なリズムだが、フリー・テンポのようでもある。
I"ACTIONS SPEAK" メロディアスなテーマはどこにもない。
J"THE VILLAGE OF THE VIRGINS" 最後に聴き易いワルツが挿入されていると思いきや、これも変拍子か、はたまた、ポリリズムか。

テーマに沿ってアドリブをとるというスタイルではなくて、アドリブにおける即興性がより重視されているようだ。メロディアスな印象は皆無で、まるで打楽器の共演だ。ドラムスは勿論のこと、ピアノもベースも打楽器と化している。ベースのCRUMPとドラムスのGILMOREの息もピタリと合っている。IYERの幾何学模様のピアノプレイには、GILMOREのプレイが欠かせないという印象を持った。このトリオ、敢えて言えば、PHRONESIS(JAZZ批評 765.)のスタイルと似ているかもしれない。完成度から言えば、PHRONESISの方が上でしょうが・・・。
このアルバムでは「不整合の整合」とでも呼びたくなる独特のリズム(ポリリズム)を叩きだしている。実にユニークで面白いけど、これを何回も繰り返し聴いていると聴き疲れする。従って、誰にでもお勧めするわけにはいかない。
超激辛料理みたいなもので、時に、刺激的な味を楽しむには良いかも知れない。但し、万人に受け入れられるかというと決してそうではないので注意が必要だ。   (2013.01.21)

試聴サイト : http://www.allmusic.com/album/accelerando-mw0002299025
         https://www.youtube.com/watch?v=ZAYiJx6-Eng



.