独断的JAZZ批評 760.

MANABU OHISHI
一音一音の美しさ、楽曲の美しさと清々しさ、どれをとっても唯一無二の「大石ワールド」なのだ
"GIFT"
大石 学(p), JEAN-PHILIPPE VIRET(b), SIMON GOUBERT(ds)
2012年2月 スタジオ録音 (ATELIER SAWANO : AS 122)

ピアニスト・大石学の前々作"WISH"(JAZZ批評 643.)は澤野工房の丁度100作目にあたるアルバムだった。今から2年前の録音だ。これは素晴らしいトリオ・アルバムで、暖かさと優しさの中に緊密感と緊迫感が溢れていた。
今回のアルバムもメンバーは前回と同じで、フランスのミュージシャンとの共演となっている。ライナーノーツによれば、前回は一発録りであったのにあったのに対し、今回は趣向を凝らしたようだ。ピアノの椅子のセッティングを変えたり、ベースの立ち位置を変えたり、あるいは、メンバーのアイディアを出しあってテイクを重ねたとある。
DH以外はすべて大石のオリジナル。全て美しい曲だ。大石のメロディ・センスは、その人となりを表しているね。

@"AMBITION" どこかで聞いたことがあるような美しいメロディ。大石の書く曲はどれも根底に美しさと清々しさが流れている。その美しさに見事なアンサンブルが華を添えている。
A"HISYO" 
ここではVIRETのアルコがフィーチャーされた後に、多ビートのグルーヴィな展開へとシフトする。
B"RIVERSIDE" 
これもグルーヴィな演奏で始まる。VIERTが太い4ビートを刻んでいく一方で、ドラムスのGOUBERTは多彩なドラミングを展開する。
C"GIFT" 
タイトル曲。なんて美しい曲を書くんだろう!最近、友人を亡くした僕の心境としてはこういう美しいメロディーは涙腺を刺激していけない。美しいだけで終わらず、テンションがどんどん高くなっていくそのさまがいいね。
D
"SOFTLY, AS IN A MORNING SUNRISE" デュオ。ベース・ソロで始まるスタンダード・ナンバー。ベースとピアノの二人がフリー・ハンドでキャンバスに絵を描くような・・・。その後、イン・テンポになってミディアム・テンポの心地よい4ビートを刻む。
E"RECOVERY" 
しっとりとした曲想。VIRETのベース・ワークがいいね。
F"MEMORIES OF PARIS" 
デュオと書いてあるけど、多重録音か?ピアノとベースに乗ってピアニカを奏でている。この音色がいかにもパリの雰囲気を醸し出している。お洒落なのだ。
G"ALL BECAUSE OF YOU" 
H"HONESTY"
 BILLY JOELが書いた名曲。最近ではERIC REEDが"SOMETHING BEAUTIFUL"(JAZZ批評 725.)の中で素晴らしい演奏をしているので、機会があれば聴き比べてみるのも面白いと思う。

このアルバムは"WISH"に比べると、より力強さ、グルーヴィさが加わっている。
ライナーノーツによれば、前回の成功事例を踏襲せずに、ピアノの音作りから始めたという。確かに、今度のアルバムの方が音に厚みというか、芯がある。
いずれにしても、ここにあるのは「大石ワールド」である。大石にしかできない音宇宙という気がする。一音一音の美しさ、楽曲の美しさと清々しさ、どれをとっても唯一無二の「大石ワールド」なのだ。この唯一無二の世界を感じてほしいということで「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2012.07.07)

試聴サイト : http://www.jazz-sawano.com/products_311-2-1.html



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