STEVE KUHN
KUHN、51歳の時と73歳とでは脂ののり具合が違う
湯引きして脂を落とした感じかな
"WISTERIA"
STEVE KUHN(p), STEVE SWALLOW(electric-b), JOEY BARON(ds)
2011年9月 スタジオ録音 (ECM 2257 B0016762-02)
STEVE KUHNは1938年生まれというから今年74歳になった。日本でも人気の高いピアニストだ。KUHNのアルバムの中では、ベースにMIROSLAV
VITOUS、ドラムスにイタリアのベテランALDO ROMANOを加えた1989年録音の"OCEANS IN THE SKY"(JAZZ批評 82.)が印象深い。僕の中では、これがKUHNのベスト・アルバムだ。
今回のベーシスト、STEVE SWALLOWとデュオを組んだ1995年録音の"TWO BY 2"(JAZZ批評 442.)というアルバムもあったが、単色の趣であった。
このSTEVE SWALLOWは好きなベーシストの一人であったが、早くにエレキ・ベースに転向したプレイヤーだ。アコースティック・ベースを弾いていたGARY BURTON(vib)がリーダーの"DUSTER"(JAZZ批評 74.)は今でも愛聴盤だ。もうひとつ、JOHN SCOFIELDとPAT METHENY、それにBILL STEWART(ds)と共演したライヴ盤"SUMMERTIME"(JAZZ批評 7.)ではエレキ・ベースを弾いているが、全身、総毛立つほどの素晴らしいアルバムだった。
一方のJOEY BARONはMARC JOHNSONと共にENRICO PIERANUNZIトリオの不動のメンバー。メンバーにも恵まれ、これは楽しみ。
@"CHALET" 率直に言うと、僕はエレキ・ベースが嫌いだ。弛んだ弦をピックアップで拾い、アンプで増幅しているので、アコースティック・ベースのようなビート感やアタック感に欠けている。ただし、このSTEVE
SWALLOWのエレキ・ベースというのはベース・ラインがメロディアスで良く歌っているのが良い。
A"ADAGIO" KUHNのオリジナル。"OCEANS IN THE SKY"と共通した音世界がある。
B"MORNING DEW" これもKUHNのオリジナル。まさに「朝露」のような爽やかで明るいタッチ。ここではSWALLOWのメロディアスなベース・ラインを堪能できる。
C"ROMANCE" ここではSWALLOWのベースが主役。この人、メロディ・センスがとても良いのだ。BARONの多彩なドラミングにも耳を傾けたい。
D"PARMANENT WAVE" 珍しく、才女・CARLA BLEYの曲。
E"A LIKELY STORY" 軽快なシンバリングに乗って4ビートを刻むハード・ドライヴの演奏KUHNも録音時、73歳とは思えない激しいピアノを披露している。
F"PASTORALE" メルヘンチックなバラード。
G"WISTERIA" ART FARMERの書いたバラード。美しいバラードであっても躍動してほしいところだ。
H"DARK GLASSES" ボサノバ調のSWALLOWのオリジナル。
I"PROMISES KEPT" Fから物静かな曲が続く。何か、枯れてるね。
J"GOOD LOOKIN' ROOKIE" 最後は4ビートを刻んで終わる。
このアルバム、雰囲気的に先に紹介した"OCEAN IN THE SKY"に良く似ている。そこで、その"OCEAN
IN THE SKY"を棚から引っ張り出して聴き比べてみた。悲しいかな、エレキとアコースティックではベースの音の差は歴然で、その生々しさとビート感でMIROSLAV
VITOUSのベースに軍配を上げたい。それとALDO ROMANOの挑発的なドラムが魅力的だ。KUHN、51歳の時と73歳とでは脂ののり具合が違う。どうみても総合力で"OCEAN"の勝ちだ。
この"WISTERIA"も最近のKUHNのアルバムとしては決して悪いわけではないが、湯引きして脂を落とした感じかな。同じ買うなら脂ののった"OCEAN"の方をお勧めしたい。 (2012.05.10)
試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=rhEFlwvxVro
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